州と連邦直轄地

 インドには28の州(State)と8の連邦直轄地(Union Territory/UT)がある。州と連邦直轄地の違いは、規模と自治の度合いにある。州は一般に面積が広く、選挙で州議会議員(Member of the Legislative Assembly/MLA)が選出され、州議会議員の中から州首相(Chief Minister)が選出される。それに対し連邦直轄地は一般に面積が小さく、大統領が任命した行政官が首長(Lieutenant Governor/Administrator)を務める。

 ヒンディー語映画を鑑賞する際、インドの地理が頭に入っているとより楽しめることがある。ここでは、州と連邦直轄地を北から順番に、簡潔に紹介すると同時に、ヒンディー語映画での位置づけについても説明する。ただし、州や連邦直轄地は時々変更されるので、ここでは2022年2月現在の状況を示している。また、便宜的に連邦直轄地は「準州」と呼んでいる。

Ladakh

 ラダック準州。主都はレー(Leh)。元々はジャンムー&カシュミール州の一部だったが、2019年に分離し、連邦直轄地となった。ラダック人はチベット仏教を信仰するチベット系民族であり、チベット語族のラダッキー語を話す。ただし公用語はヒンディー語と英語である。意外にイスラーム教徒も多い。

 ラダック準州は標高3,000m以上の高山性砂漠気候の土地に広がっている。乾燥し荒涼とした大地には所々にオアシスがあり、ポプラの木々が並んでいる。山の要所にはチベット仏教寺院ゴンパがそびえ立っている。「インドの中の小チベット」として、その独特の景観が唯一無二の魅力を放つ地域である。ラダック準州を愛する外国人旅行者も多い。

 インドにおいて、パーキスターンの辺境地域やアフガーニスターンなどを舞台にした映画が撮られるときは、風景が似ているラダック地方で代わりにロケが行われることが多い。東部のアクサイ・チン地域は1962年の中印戦争の結果、中国に占領されており、現在まで国境紛争がくすぶっている。

 近年、ラダック準州はヒンディー語映画のロケ地として人気であるが、そのトレンドを生み出したのは「3 Idiots」(2009年/邦題:きっと、うまくいく)のラストシーンだったといえる。標高4,225mにある高山湖パンゴン・ツォ(Pangong Tso)で撮影された。

Ladakh
ラダック準州 ©Bernard Gagnon

Jammu & Kashmir

 ジャンムー&カシュミール準州。主都はシュリーナガル(Srinagar)。山の麓のジャンムー(Jammu)地方と、山の上のカシュミール地方の2つの地域から構成されている。ジャンムーにはヒンドゥー教徒が多く、シュリーナガルにはイスラーム教徒が多い。ジャンムー地方ではドーグリー語、カシュミール地方ではカシュミーリー語が土着の言語で、それ以外にヒンディー語やウルドゥー語が話されている。さらに、英語が公用語に指定されている。

 元々は州だったが、2019年に準州に格下げされた。「地上の楽園」と歌われた風光明媚なシュリーナガルを中心に、カシュミール地方はインドの映画メーカーたちからロケ地として愛されてきた美しい土地だったが、印パ分離独立以来、印パ間で領有争いの火種となり、治安悪化が繰り返されてきた。印パ戦争の原因のみならず、カシュミーリー・パンディトと呼ばれるヒンドゥー教徒が追放されたり、パーキスターンからの越境テロリストによるテロが頻発したり、治安維持のために駐屯するインド陸軍と地元民の間で衝突が絶えなかったりと、複雑な問題を抱えている。1999年のカールギル紛争もこの地で起きている。

 問題があれば映画になりやすいのは怪我の功名といえるのだろうか、カシュミール地方の問題を取り上げたヒンディー語映画は多い。「Haider」(2014年)が代表である。

Srinagar
シュリーナガル ©Chiyaruchi

Himachal Pradesh

 ヒマーチャル・プラデーシュ州。州都はシムラー(Shimla)。州公用語はヒンディー語。ヒマーラヤ山脈の山岳地帯に広がる州で、シムラー、マナーリー(Manali)ダルハウジー(Dalhousie)など、インド人に人気の避暑地も多い。ダラムシャーラー(Dharamshala)にはチベット亡命政府がある他、北部のラーハウル(Lahaul)地方やスピティ(Spiti)地方ではチベット仏教とヒンドゥー教が混淆している。一部の土地は大麻の一大産地でもある。ヒンディー語映画でよく舞台になるのはシムラーであり、「Black」(2005年)が代表である。明示はないものの、ヒマーチャル・プラデーシュ州の大麻を扱ったと思われる映画が「Charas」(2004年)だ。

Shimla
シムラー ©UnpetitproleX

Chandigarh

 チャンディーガル準州。パンジャーブ州とハリヤーナー州の共通の州都でもある。フランス人建築家ル・コルビュジエが設計した計画都市として知られ、碁盤目状の整然とした区画やモダニズム建築の庁舎などが特徴的である。公用語は英語である。

 ヒンディー語映画では、パンジャーブ地方の保守的な農村文化とモダニズム建築に象徴される現代的価値観の衝突を描くために意図的に舞台として設定されることがある。チャンディーガルが舞台のヒンディー語映画としては、「Hum Do Hamare Do」(2021年)や「Chandigarh Kare Aashiqui」(2021年)などが挙げられる。

Chandigarh
チャンディーガル ©Raakesh Blokhra

Punjab

 パンジャーブ州。州都は上述のチャンディーガル準州。州公用語はパンジャービー語。パンジャーブ地方はパーキスターンにまで広がっているが、1947年の印パ分離独立により、東側だけがインド領となった。伝統的にパンジャーブ地方の主要都市はラホール(Lahore)であったが、パーキスターン領となった。パーキスターン側から逃げてきた移民の中にはラホールに対する郷愁を抱く人が多い。

 「緑の革命」による農業生産量の上昇により、豪農が多い。農業を支える産業も発達している。スィク教が篤く信仰されている。スィク教徒についてはサルダールジーを参照のこと。

 実はヒンディー語映画界にはパンジャーブ人が多く、ヒンディー語映画でも特別な位置づけをされている州だ。たとえば、ヒンディー語映画に登場する海外在住インド人(NRI)が故郷として思い浮かべるインドはパンジャーブ州であることが多い。「Dilwale Dulhania Le Jayenge」(1995年/邦題:シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦)が典型である。

 パンジャーブ州内の中心的な都市といえばアムリトサル(Amritsar)だ。スィク教の総本山ゴールデンテンプルが鎮座している。ゴールデンテンプルの無料食堂「グル・ダ・ランガル」を取り上げたドキュメンタリー映画「Himself He Cooks」(2014年/邦題:聖者たちの食卓)は一見の価値がある。

 アムリトサル以外にもパンジャーブ州には、ルディヤーナー(Ludhiana)ジャランダル(Jalandhar)パティヤーラー(Patiala)など、個性的な中規模都市があり、ヒンディー語映画に登場することがある。また、一般人が往き来できる印パ国境がワーガー(Wagah)にあり、印パ関係を描いた映画ではよく出て来る。「Bharat」(2019年)や「Sardar Ka Grandson」(2021年)が代表例だ。

 パンジャーブ州は裕福な州ではあるが、多くの問題も抱えている。パーキスターンと国境を接していることから、同国から密輸されてくる麻薬が州内に蔓延しており、麻薬中毒者が多くなっている。この問題を扱ったのが「Udta Punjab」(2016年)だ。また、工場排水などによる環境汚染で癌患者が多いことでも知られており、「Irada」(2017年)がこの問題を取り上げている。

Punjab
パンジャーブ州 ©Harvinder Chandigarh

Haryana

 ハリヤーナー州。州都は上述のチャンディーガル準州。州公用語はヒンディー語。パンジャーブ州と同じく農業が盛んな州である。また、首都デリーに近接しており、デリーの衛星都市として発展したグルグラーム(Gurugram)ファリーダーバード(Faridabad)などを擁している。

 スポーツの振興にもっとも力を入れている州でもあり、インドを代表するスポーツ選手を多数輩出している。その関係で、スポーツ関連の映画はハリヤーナー州が舞台という設定になることが多い。「Sultan」(2016年/邦題:スルタン)、「Dangal」(2016年/邦題:ダンガル きっと、つよくなる)、「Tennis Buddies」(2019年)、「Chhalaang」(2020年)などである。

 世紀の変わり目から劇的な発展を遂げ、「ミレニアムシティー」の異名を持つグルグラームは、旧名をグルガーオン(Gurgaon)という。元々は肥沃な農地が広がるのどかな農村だったが、短期間で国際企業のビルやショッピングモールが立ち並ぶ未来的な都市となった。この地域に土地を持っていた農民は土地を売って一夜の内に大金持ちとなったが、必ずしもそれが幸運をもたらしたわけではない。「Aurangzeb」(2013年)や「Gurgaon」(2017年)に、この地域の人々が直面してきた変化の一端を垣間見ることができる。

Haryana
ハリヤーナー州 ©V Malik from New Delhi & Pune, India

Delhi

 デリー。インドの首都であり、連邦直轄地の中でも特別な地位にある。連邦直轄地の首長は基本的に大統領からの任命だが、デリーには州首相がおり、州議会議員から選出される。つまり、デリーは州と連邦直轄地の間にある。

 デリー自体はデリー首都区(National Capital Territory/NCT)、デリー周辺部のグルグラーム、ファリーダーバード、ガーズィヤーバード(Ghaziabad)ノイダ(Noida)を合わせた地域はデリー首都圏(National Capital Region/NCR)と呼ばれる。

 21世紀以降、デリー出身の映画メーカーが増えたこともあって、デリーが舞台の映画が増えた。南に位置するムンバイーとは光線の種類や建物の表情が異なり、ムンバイー・ロケの映画とはひと味違った雰囲気の映画になる。ムガル朝時代からの旧市街オールドデリーは圧倒的に人気のロケ地であるし、新市街の住宅地も庶民が主人公の映画ではよく舞台となる。大統領官邸やインド門は政治の中心地であり、デリーの象徴としてよく映し出されるし、クトゥブ・ミーナールやフマーユーン廟などの世界遺産も人気だ。

 デリーを舞台にし、デリーの魅力を前面に押し出した映画としては、全編オールドデリーにて進行する物語「Delhi-6」(2009年)が代表であるが、他にも数え切れないほどのデリー映画が存在し、ヒンディー語映画の第二の故郷に浮上している。

Old Delhi
オールドデリー ©Vyacheslav Argenberg

Uttarakhand

 ウッタラーカンド州。元々はウッタラーンチャル(Uttaranchal)州と呼ばれていた。州都はデヘラードゥーン(Dehradun)。州公用語はヒンディー語。ヒマーラヤ山脈の山間部にある州で、ガンジス河の源流や支流を祀ったヒンドゥー教の聖地が点在する。ガンジス河沿いには、「ヨーガの故郷」として世界的に有名なリシケーシュ(Rishikesh)や、ヒンドゥー教の重要な聖地ハリドワール(Haridwar)もある。また、マスーリー(Mussoorie)ナイニータール(Nainital)などの人気避暑地も擁する。

 ヒンドゥー教の聖地であるハリドワールやケーダールナート(Kedarnath)を舞台とした「Dum Laga Ke Haisha」(2015年)や「Kedarnath」(2018年)などのヒンディー語映画が作られている。

Haridwar
ハリドワール ©Ssriram mt

Uttar Pradesh

 ウッタル・プラデーシュ州。州都はラクナウー(Lucknow)。州公用語はヒンディー語。インド最大の人口を誇る州であり、ヒンディー語映画にとって重要な市場である。ヒンディー語映画の舞台となることも多い。

 州都のラクナウーは19世紀に栄えたアワド藩王国のお膝元であり、宮廷文化が花開いた。バラー・イマームバーラーやルーミー・ダルワーザーなど、ナワーブと呼ばれた封建領主の建てた壮大な建築物が今でも残っており、ラクナウーがロケ地になると必ず映し出される。1857年のインド大反乱でも震源地のひとつとなった。また、不可触民の支持を受けた大衆社会党(BSP)政権時代に不可触民政治家を記念する巨大な広場も建造され、ロケ地にも選ばれるようになった。ラクナウーが舞台の映画はたくさんあるが、ラクナウーの昔ながらの宮廷文化をもっとも感じるのは「Gulabo Sitabo」(2020年)だ。

 ガンジス河の代名詞ヴァーラーナスィー(Varanasi)は、ヒンドゥー教最大の聖地であり、また観光名所でもあるが、映画メーカーに人気のロケ地でもある。どこを撮っても絵になる街だから当然のことだ。ヴァーラーナスィーが舞台の魅力的な映画は数多くあるが、「Banaras」(2006年)、「Raanjhanaa」(2013年)「Masaan」(2015年)、「Mukti Bhawan」(2017年/邦題:ガンジスに還る)、「Mohalla Assi」(2018年)などが挙げられる。

 インドを代表する観光名所タージマハルを擁するのがアーグラー(Agra)である。ただ、どちらかというと外国人監督がインドを舞台にして撮った映画にタージマハルがよく出て来る傾向にあり、インド人監督の映画にタージマハルが登場するのは必要がある場合のみだ。タージマハルを造ったシャージャハーンの映画「Taj Mahal: An Eternal Love Story」(2005年)にタージマハルが登場するのは当然として、たとえば「Nil Battey Sannata」(2016年)はタージマハル対岸にある村が舞台の映画であった。

 他にも、カーンプル(Kanpur)イラーハーバード(Allahabad)メーラト(Meerut)バレーリー(Bareilly)などがヒンディー語映画の舞台になりやすい都市である。特定の都市ではなく、ウッタル・プラデーシュ州の架空の町が舞台という映画もよく作られる。たとえば「Dabangg」(2010年/邦題:ダバング 大胆不敵)の舞台はウッタル・プラデーシュ州の架空の町ラールガンジだった。

Varanasi
ヴァーラーナスィー ©travelwayoflife

Bihar

 ビハール州。州都はパトナー(Patna)。州公用語はヒンディー語。ブッダが悟りを開いたボードガヤー(Bodhgaya)や世界初の全寮制大学といわれるナーランダー僧院など、仏教に所縁の深い土地が多く、かつてはマウリヤ朝やグプタ朝の首都も置かれた地域だったが、独立後はインド最貧州に転落し、政治の混乱から治安の悪化や教育の遅れなどが深刻化した。

 ヒンディー語映画の重要な市場でもあるが、近年はヒンディー語映画界が都会や海外の方を向いた映画作りをしているため、ビハール州の観客の好みに合わなくなっており、代わってビハール州西部やウッタル・プラデーシュ州東部で話されるボージプリー方言の映画が人気となった。

 ビハール州の中では州都のパトナーがヒンディー語映画の舞台になりやすい。「The Legend of Michael Mishra」(2016年)、「Super 30」(2019年)、「Jabariya Jodi」(2019年)などが思い付く。素手で山を切り開いたマウンテンマンが主人公の伝記映画「Manjhi: The Mountain Man」(2015年)はガヤー(Gaya)近くの村が舞台である。また、「Half Girlfriend」(2017年)ではビハール州の架空の町スィムラーオが登場したが、これはおそらくドゥムラーオン(Dumraon)をモデルにしている。

Bodhgaya
ボードガヤー ©Matt Stabile

Jharkhand

 ジャールカンド州。州都はラーンチー(Ranchi)。州公用語はヒンディー語。ビハール州から分離した州で、多くの部族が住んでいる。また、ターター鉄鋼の企業都市であるジャムシェードプル(Jamshedpur)もあり、産業が盛んである。

 ジャールカンド州は一般的な観光客がわざわざ訪れるような場所ではなく、知名度は低めなのだが、意外にヒンディー語映画の舞台となっている州である。ダンバード(Dhanbad)のギャング抗争を描いた「Gangs of Wasseypur」(2012年)、アングロインディアン(白人の血が入ったインド人)が多く住むマクルスキーガンジ(McCluskiegunj)が舞台の「A Death in the Gunj」(2016年)、ラーンチー出身のクリケット選手の伝記映画「M.S. Dhoni: The Untold Story」(2016年)、ジャムシェードプルが舞台の「Dil Bechara」(2020年)など、結構ある。

Jamshedpur
ジャムシェードプル ©Shahbaz26

West Bengal

 西ベンガル州。州都はコルカタ(Kolkata)。州公用語はベンガル語。「東ベンガル州」は存在しない。敢えていうならばバングラデシュがそれに当たる。英領時代にいち早く英国の支配を受けることになったベンガル地方は初のノーベル文学賞受賞アジア人ラビンドラナート・タゴールなど数々の教養人を生んだ土地であり、ベンガル人は文芸に秀でたイメージを持たれている。また、武力革命でもってインド独立を目指したスバーシュ・チャンドラ・ボースの故郷でもあり、左翼勢力が強い土地柄でもある。祭祀としてはドゥルガープージャー(参照)が有名である。

 ヒンディー語映画に西ベンガル州が登場する際、その舞台となるのは州都のコルカタか北部の山間にある避暑地ダージリン(Darjeeling)がほとんどである。コルカタが舞台の映画としては「Kahaani」(2012年/邦題:女神は二度微笑む)が代表であり、ダージリンが舞台の映画としては「Barfi!」(2012年/邦題:バルフィ! 人生に唄えば)が代表である。

Kolkata
コルカタ ©Biswarup Ganguly

Sikkim

 スィッキム州。州都はガントク(Gangtok)。州公用語は英語、ネパール語、スィッキム語、レプチャ語。チベット文化圏にあり、チベット仏教が信仰されている。元々は独立王国だったが、1975年にインドに併合された。その歴史的背景からスィッキム人は特別扱いされており、インド政府に税金を納めていない。「Yaariyan」(2014年)、「Pahuna」(2017年)、「Qarib Qarib Single」(2017年)、「Darbaan」(2020年)などの映画ではスィッキム州が出て来たし、中印国境紛争を巡る「Paltan」(2018年)でもスィッキム領内の国境地帯が舞台となっていたが、通常のヒンディー語映画でスィッキム州が登場することは滅多にない。

Gangtok
ガントク ©kalyan3

Assam

 アッサム州。州都はディースプル(Dispur)だが、最大都市はグワーハーティー(Guwahati)。州公用語はアッサミー語。バングラデシュの北東に位置する7州は「セブンシスターズ」と呼ばれるが、アッサム州はその中でも中心的な州である。13世紀から600年間栄えたアーホーム王国の支配下にあった地域で、セブンシスターズの中では州内にヒンドゥー教徒が多い。州内にはブラフマプトラ河が悠々と流れ、流域には肥沃な穀倉地帯が広がっている。アッサム茶の産地としても有名で、石油も産出する。一角サイが生息するカジランガ国立公園も観光地として人気である。

 ロケ地として非常に潜在力のある州なのだが、ヒンディー語映画ではプレゼンスは低い。「Aisa Yeh Jahaan」(2015年)で出て来たくらいである。

Assam
アッサム州 ©SRaheja

Arunachal Pradesh

 アルナーチャル・プラデーシュ州。州都はイタナガル(Itanagar)。セブンシスターズのひとつ。州公用語は英語。国境を接する中国が領有を主張していることから、度々人民解放軍の侵入を受けている。ラダック準州やスィッキム州と同様にチベット文化圏に入り、チベット仏教が信仰されている。タワン(Tawang)はチベット仏教の聖地のひとつである。ヒンディー語映画とは無縁の州である。

Nagaland

 ナガランド州。州都はコヒマ(Kohima)。セブンシスターズのひとつ。州公用語は英語。かつては首狩族が住んでいた密林地帯であった。ヒンディー語映画とはほとんど縁のない土地だ。ドキュメンタリー映画「Kho Ki Pa Lu」(2018年/邦題:あまねき旋律)はナガランド州の少数民族の民謡に焦点を当てている。

Nagaland
ナガランド州 ©Dhrubazaanphotography

Manipur

 マニプル州。州都はインパール(Imphal)。セブンシスターズのひとつ。州公用語はメイテイ語。周辺の州にはキリスト教徒が多いが、マニプル州にはヒンドゥー教の王国があった関係でヒンドゥー教徒が一定数いる。ミャンマーと国境を接しており、メインランドのインド人にとっては辺境の州だ。ただ、英領時代にはインパール占領を目指して日本軍とインド国民軍(INA)が進軍したこともあって、歴史には名を刻んでいる土地だ。INAを指揮したスバーシュ・チャンドラ・ボースの映画ではこの土地が登場する機会がある。また、マニプル州出身の女性ボクサー、メリー・コムは全国的な知名度のあるスポーツ選手で、伝記映画「Mary Kom」(2014年)が作られている。

Imphal
インパール ©Dirklaureyssens

Mizoram

 ミゾラム州。州都はアイゾール(Aizawl)。セブンシスターズのひとつ。州公用語はミゾ語、英語、ヒンディー語。ミャンマーと国境を接しており、南アジア文化圏というよりも東南アジア文化圏に含めて捉えた方がいい。最果ての州であり、ヒンディー語映画でミゾラム州やミゾラム人が出て来ることは滅多にない。

Aizawl
アイゾール ©R london

Tripura

 トリプラー州。州都はアガルタラー(Agartala)。セブンシスターズのひとつ。ベンガル地方に隣接しており、州公用語には土着のコクバラ語に加えてベンガル語と英語が指定されている。いまいち個性に乏しく、トリプラー州がヒンディー語映画に登場する機会はほとんどない。

Agartala
アガルタラー ©Mr Nimai Debbarma

Meghalaya

 メーガーラヤ州。州都はシロン(Shillong)。セブンシスターズのひとつ。州公用語は英語。ベンガル湾から吹き込む湿った風がぶつかる丘陵地帯に広がる州で、世界有数の多雨地域として知られる。女系の部族が支配的で、社会の中で女性の力が強い。ヒンディー語映画メーカーにとっては僻地であり、滅多に映画には登場しないが、「Rock On 2」(2016年)では珍しくシロンが舞台になっていた。

Meghalaya
メーガーラヤ州 ©Joli

Rajasthan

 ラージャスターン州。州都はジャイプル(Jaipur)。州公用語はヒンディー語。砂漠の州であり、ラージプートと呼ばれる中世封建領主が建設した巨大な城塞や豪華な宮殿が点在し、数々の伝承や民俗文化の伝わる魅惑的な土地である。いかにもインドといった感じのエキゾチックな映画を作りたい国内外の映画メーカーにとっては第一候補の目的地だ。

 ジョードプル(Jodhpur)のメヘラーンガル城塞、ウダイプル(Udaipur)のレイクパレス、ジャイサルメール(Jaisalmer)のジャイサルメール城塞、そして州都ジャイプルのハワーマハルやシティーパレスなど、それぞれの都市が個性を競うように魅力的な名所を抱えている。南アジア随一の聖者廟の門前町アジメール(Ajmer)もよく映画に出て来る。壺を頭に乗せて踊るチャリー・ダンスやカトプトリーと呼ばれる人形劇など、民俗芸能にも事欠かない。とにかく多様な魅力のある州である。

 ラージャスターン州が舞台のヒンディー語映画は星の数ほどあるが、「Paheli」(2005年)と「Padmaavat」(2018年/邦題:パドマーワト 女神の誕生)を代表として挙げておく。

Jaisalmer
ジャイサルメール ©Antoine Taveneaux

Madhya Pradesh

 マディヤ・プラデーシュ州。州都はボーパール(Bhopal)。州公用語はヒンディー語。広大な州であり、それぞれの地域が異なった種類の映画で取り上げられる傾向にある。

 北部、ラージャスターン州とウッタル・プラデーシュ州との州境に広がるチャンバル谷は強盗が跋扈する土地であり、西部劇的な映画をインドで作ろうとした際によく舞台として選ばれる。「Paan Singh Tomar」(2012年)や「Revolver Rani」(2014年)が代表例である。グワーリヤル(Gwalior)もフォトジェニックな街である。

 東部には森林地帯が広がっており、森林が舞台の映画のロケ地になることが多い。たとえば「Sherni」(2021年)のロケがマディヤ・プラデーシュ州で行われた。

 西部にはウッジャイン(Ujjain)マヘーシュワル(Maheshwar)などのヒンドゥー教聖地があり、ロケ地にも時々選ばれる。たとえば「Padman」(2018年/邦題:パッドマン 5億人の女性を救った男)はマヘーシュワルで撮影されている。

 そして州都のボーパールもヒンディー語映画の舞台になりやすく、「Raajneeti」(2010年)や「Panga」(2020年)などの舞台になっている。

Maheshwar
マヘーシュワル ©Imarpitdave

Chhattisgarh

 チャッティースガル州。州都はラーイプル(Raipur)。州公用語はヒンディー語の方言であるチャッティースガリー語。多数の部族が住む州であり、特に南部のバスタル(Bastar)地方はトライバル文化の宝庫である。ただ、極左勢力であるナクサライトが盛んな州でもあり、警察とナクサライトの衝突が繰り返されている。ヒンディー語映画では、ナクサライト関連の文脈で登場することが多い。「Lekar Hum Deewana Dil」(2014年)や「Newton」(2017年)が代表例である。ナクサライトの文脈以外でチャッティースガル州が登場する映画というと、「Chaman Bahaar」(2020年)ぐらいしかない。

Chitrakote Fall
チトラコート滝 ©Shaswat Nimesh

Odisha

 オリシャー州。元々はオリッサ(Orissa)州といった。州都はブバネーシュワル(Bhubaneswar)。州公用語はオリヤー語。ベンガル湾に面したプリー(Puri)にあるジャガンナート寺院や、コーナールク(Konark)にある太陽寺院などが観光地として有名である。また、内陸部には多数の部族が住んでいる。一方で、サイクロンの襲来を受けやすい土地柄でもあり、頻繁に災害に見舞われているイメージがある。ヒンディー語映画界ではほとんど無視されている州で、オリッサ州が舞台のヒンディー語映画といえば、「Budhia Singh: Born to Run」(2016年)くらいしか思い付かない。

Jagannath Puri
ジャガンナート寺院 ©Tapan1706

Gujarat

 グジャラート州。州都はガーンディーナガル(Gandhinagar)だが、最大都市はアハマダーバード(Ahmedabad)。州公用語はグジャラーティー語。グジャラート人は商売上手というイメージがあり、グジャラート州も産業振興に力を入れている。厳格なジャイナ教の影響が色濃い土地で、インドを代表する禁酒州である。州内には有名なインダス文明遺跡が複数残っている。文化面ではナヴラートリ祭のガルバー&ダンディヤーがグジャラート州を代表している。西部のカッチ地方は独自の風俗が残る土地で、ロケ地として人気である。カッチ地方の主都はブジ(Bhuj)である。「Jal」(2014年)や「Bhuj: The Pride of India」(2021年)などの映画がある。2002年のグジャラート暴動を題材にした映画もいくつか作られている。

Kutch People
カッチ地方の人々

Dadra & Nagar Haveli and Daman & Diu

 ダードラー&ナガル・ハヴェーリーとダマン&ディーウ準州。主都はダマン(Daman)。後述するゴア州と同じく、元々ポルトガル領だったため、その名残から周辺地域とは切り出されて別の行政単位となっている。ダードラー、ナガル・ハヴェーリー、ダマン、ディーウの4つの飛び地から構成されている。公用語はグジャラーティー語と英語。禁酒州のグジャラート州に囲まれたディーウ(Diu)では飲酒ができるため、酒好きのグジャラート人にとってはパラダイスのような場所である。ヒンディー語映画でこれらの州が登場することは滅多にないが、「Laxmii」(2020年)ではダマンが、「Hello Charlie」(2021年)ではディーウが舞台になっていた。

Diu
ディーウ

Maharashtra

 マハーラーシュトラ州。州都はムンバイー(Mumbai)。マラーティー語が州公用語だが、州都ムンバイーはヒンディー語映画の拠点となっている。ヒンディー語映画に加えてマラーティー語映画も一定の勢力がある。インド最大の商都を擁し、北インドと南インドの間に位置することから、政治的にも経済的にも非常に重要な州である。また、18世紀から19世紀に掛けてインド全土を席巻したマラーター同盟の発祥の地であり、インド独立運動でも中心的な役割を果たしたため、歴史的なプライドも高い。ムンバイーは港町であり、自由闊達な雰囲気のある都市だ。ただ、デカン高原の綿花農家の自殺や、他州からの出稼ぎ労働者の排斥運動など、深刻な社会問題も多い。テロの格好の標的にもなってきており、2008年の26/11同時多発テロなどがよく映画の題材になる。多くのヒンディー語映画がムンバイーを舞台にし、ムンバイーでロケが行われるが、内陸部の都市プネー(Pune)や山間部の避暑地なども時々ロケ地となる。

Mumbai
ムンバイー ©Vyacheslav Argenberg

Goa

 ゴア州。州都はパナジ(Panaji)。元々ポルトガル領で、かつては本国の首都リスボンを凌ぐ繁栄を謳歌した。地元言語はコーンカニー語だが、ポルトガル語の影響も強い。アラビア海に面し、トロピカルな光景が広がる海岸線にはビーチリゾートが点在しており、長らく欧米人ヒッピーたちのたまり場だった。ムンバイーから近いこともあって、近年はインド人バカンス客にも人気であるし、航空便の関係からロシア人避寒客が殺到するようになった。ヒンディー語映画界もロケ地として好んで利用しており、「Bombay to Goa」(1972年)、「Dil Chahta Hai」(2001年)、「Go Goa Gone」(2013年/邦題:インド・オブ・ザ・デッド)など、ゴアでロケが行われたヒンディー語映画には枚挙に暇がない。

Karntaka

 カルナータカ州。州都はベンガルール(Bengaluru)。カンナダ語映画の本拠地。コスモポリタン都市であるベンガルールがヒンディー語映画の舞台となることは時々あるが、その他の土地が登場することは滅多にない。マンガロール(Mangalore)などの沿岸地域、古都マイソール(Mysore)、独自の文化が残るクールグ(Coorg)地方など、魅力的な地域はたくさんある。残念ながら、ベンガルールを除けば、ヒンディー語映画界にとっては近くて遠い州である。唯一、奇観で有名なハンピ(Hampi)だけは、ヒンディー語映画でも時々ロケ地として使われる。

 ベンガルールは、インドでもっとも欧米的な価値観に染まった街というイメージがあり、例えばLGBTQ映画との相性がいい。「Mango Souffle」(2003年)や「I Am」(2011年)が代表例である。ハンピで撮影されたヒンディー語映画としては「Agni Varsha」(2002年)が印象的だった。

Telangana

 テランガーナ州。州都はハイダラーバード(Hyderabad)。2014年に後述のアーンドラ・プラデーシュ州から分離独立した。この地域はニザームと呼ばれるハイダラーバード藩王国の藩主の支配下に長らく置かれた経緯があり、イスラーム教とヒンドゥー教の共存が独自の文化を醸成した。ハイダラーバードはテルグ語映画の本拠地である。ハイダラーバード郊外にあるラーモージー・フィルムシティーではヒンディー語映画のロケも行われる。ハイダラーバードが舞台のヒンディー語映画は少数ながら存在する。「Bhaggmati」(2005年)や「Bobby Jasoos」(2014年)などである。また、テランガーナ州出身の登山家プールナーの伝記映画「Poorna」(2017年)は実際にテランガーナ州の彼女の生家や巨大な一枚岩ボーンギール(Bhongir)などで撮影されている。

ハイダラーバード ©Rangan Datta Wiki

Andhra Pradesh

 アーンドラ・プラデーシュ州。州都はアマラーヴァティー(Amaravati)。テルグ語の故郷であり、テルグ語映画の最大の市場でもある。ヒンディー語映画でアーンドラ・プラデーシュ州が取り上げられることはほとんどない。ナクサライト問題絡みの「Red Alert」(2010年)や、テルグ語とヒンディー語で同時製作された「Rakht Charitra」(2010年)くらいであろうか。

ヴィシャーカパトナム ©Av9

Kerala

 ケーララ州。州都はティルヴァナンタプラム(Tiruvanantapuram)。マラヤーラム語映画の本拠地。インド随一の風光明媚な土地で、海岸線から山間部まで、豊かな自然がロケ地として潜在力を有している。コショウなどのスパイスを求めてインドを目指した航海者の終着点であり、古代より香辛料貿易で栄えた。イブン・バトゥータ、マルコ・ポーロ、ヴァスコ・ダ・ガマなど、有名な冒険者たちがケーララ地方を訪れている。世界各国から移民を受け入れてきた歴史を反映し、他の地域に比べてキリスト教徒やイスラーム教徒が多く、イスラエル建国前にはまとまった数のユダヤ教徒も住んでいた。現在は左翼政党の勢力が強い州としても知られている。カラリパヤットゥというインド武術の道場も残っており、映画の題材になることがある。

 比較的面積が小さな州ではあるが、沿岸部から西ガート山脈まで、多様な景色が広がる。ケーララ州を代表する景観は沿岸部のバックウォーター(水郷)地帯だ。観光客にはバックウォーターを舟でのんびりと移動するバックウォーターツアーが人気である。8月の収穫祭オーナムの時期には、「ヴァッラム・カリ」と呼ばれる勇壮なボートレースが各地で開催される。

 南インド4州の中ではヒンディー語映画のロケ地としてもっとも好まれている州かもしれない。「Baaghi」(2016年)などが撮られている。

Kerala
バックウォーター ©thursdaynext

Tamil Nadu

 タミル・ナードゥ州。州都はチェンナイ(Chennai)。タミル語映画の本拠地。タミル・ナードゥ州は反ヒンディー語運動の急先鋒であり、ヒンディー語の普及率がもっとも低い州である。よって、ヒンディー語映画界にとっては精神的に遠い土地だ。ただ、山間部にあるウーティー(Ooty)は人気のロケ地で、ここを舞台にした映画が多数作られている。「Raaz」(2002年)や「Main Tera Hero」(2014年)などが代表である。「Meenakshi Sundareshwar」(2021年)はタミル・ナードゥ州が舞台のヒンディー語映画という変わり種だった。

マドゥライ ©Jorge Royan

Puducherry

 プドゥチェリー準州。主都はプドゥチェリー(Puducherry)。かつてはポンディシェリー(Pondicherry)とかポンディー(Pondy)とも呼んだ。元々フランス領だったため、タミル語と英語に加えてフランス語が公用語になっている。アラビア海とベンガル湾に面した沿岸沿いの4つの港町、プドゥチェリー、カライカル、ヤーナム、マヘで構成されており、全てが飛び地となっている。メインとなるのはタミル・ナードゥ州に囲まれたプドゥチェリーである。ヨーロッパ風の街並みが残っており、異国情緒を出したい場合にヒンディー語映画でもロケ地になることがある。「Jism」(2003年)が代表である。インド映画ではないが、「Life of Pi」(2012年/邦題:ライフ・オブ・パイ 虎と漂流した227日)も部分的にポンディシェリーが舞台になっていた。

プドゥチェリー ©Sanyam Bahga

Lakshadweep

 ラクシャドゥイープ準州。主都はカヴァラッティー(Kavaratti)。マラヤーラム語と英語が公用語。ハネムーン先として人気のモルディブの北に位置し、モルディブと文化圏を共有する。インドでもっともアクセスが困難な場所だが、手つかずの自然が残っている。ヒンディー語映画界ではロケ地として全く未開拓の場所である。「Genius」(2018年)で設定上、部分的にカヴァラッティーが舞台になっていたくらいである。

ラクシャドゥイープ ©Asssagar

Andaman & Nicobar Islands

 アンダマン&ニコバル諸島準州。主都はポートブレア(Port Blair)。アンダマン海に浮かぶ島々から成る。ヒンディー語と英語が公用語になっている。英領時代、政治犯が収容されていた刑務所セルラー・ジェイルが有名である。リゾート地としての潜在性は高く、フォトジェニックな風景にも事欠かないが、ヒンディー語映画で舞台になったりロケ地に選定されることは滅多にない。今後、ロケ地として活用されることを期待したい。

Andaman
ラーダーナガルビーチ