Darbaan

4.5
Darbaan

 2020年12月4日からZee5で配信開始された「Darbaan(門番)」は、ラビンドラナート・タゴールの短編小説「Khokababur Pratyabartan(若旦那の帰還)」(1918年)原作のドラマ映画である。

 監督は過去にマラーティー語映画を撮っているビピン・ナドカルニー。キャストは、シャリーブ・ハーシュミー、シャラド・ケールカル、ラスィカー・ドゥッガル、フローラ・サイニー、ハルシュ・チャーヤー、スニーター・セーングプター、ムケーシュ・ラマーニー、ヴァルン・シャルマーなどである。また、アンヌー・カプールがナレーションを務めている。

 時は1971年、ビハール州のジャリヤー炭鉱。ラーイチャラン(シャリーブ・ハーシュミー)は石炭会社を経営する富豪ナレーン・トリパーティー(ハルシュ・チャーヤー)の家で、御曹司アヌクールの世話係を務めていた。村にはブーリー(ラスィカー・ドゥッガル)という妻がいたが、二人の間には子供がいなかった。炭鉱が国有化されることになり、ナレーンは邸宅を売り払って炭鉱を立ち去ることになる。ラーイチャランは村に戻って農業をして暮らしていた。

 それから20年後、一人の青年がラーイチャランを訪ねてくる。それは成長したアヌクールだった。彼は政府の役人になっており、父親の邸宅を買い戻して住んでいた。また、アヌクールはチャールル(フローラ・サイニー)と結婚しており、スィッダールトという小さな息子がいた。ラーイチャランはスィッダールトの世話係として再び働き始める。しかし、ある嵐の日、ラーイチャランが目を離した隙にスィッダールトは行方不明になってしまう。川に落ちて溺れたと思われたが、人々はラーイチャランが盗んだと噂した。

 村に戻ったラーイチャランは、スィッダールトを失った悲しみに沈んで暮らしていた。そんなとき、ブーリーが妊娠したことを知る。だが、罪悪感に苛まれていたラーイチャランはその知らせにも喜ばなかった。ブーリーは出産時に死に、子供はスィッダールトと名付けられた。ラーイチャランは当初、子育てをしようとしなかったが、スィッダールトが話し始めたのをきっかけに可愛がるようになる。

 ラーイチャランは、まるで主人の子供に仕えるようにスィッダールトを溺愛して育てた。だが、ラーイチャランがアヌクールの息子を盗んだという噂は消えなかった。ある日、ラーイチャランは田畑を売り払い、スィッダールトを連れてガントクへ移住する。しかし、そこでもラーイチャランは罪悪感を振り払うことができなかった。

 スィッダールトが大学に進学する前、ラーイチャランはアヌクールの元を訪れ、自分が彼の息子を盗んだと自白して、スィッダールトを戻す。そしてラーイチャランはヴァーラーナスィーの孤児院で門番として働き出す。

 タゴールが書いた原作は1918年に発表されており、1971年以降が映画の時間軸に設定されている「Darbaan」は、原作の忠実な映画化ではない。だが、自分が仕えていた家の子供を行方不明にさせてしまい、それがトラウマとなった使用人が、罪滅ぼしのために、自らの子供を主人に差し出すという流れは原作通りである。

 もちろん、主人公のラーイチャランが本当にアヌクールの実子スィッダールトを誘拐して自分の子供にしていたという解釈も成り立つ。妻のブーリーが出産するシーンなどは描写されているものの、後にラーイチャランは死んだブーリーの幻影と会話をするようになっており、ブーリーの出産自体が幻のひとつと捉えることもできるだろう。だが、そう解釈するよりも、上で述べたように、自分の実の息子を、主人の子供だと偽って差し出すとした方が、この物語の本質に近いだろう。

 ラーイチャランがその決断をするに至った理由は、単にかつての主人の子供を死なせてしまった罪悪感からだけではない。ラーイチャランの息子スィッダールトはとても聡明な子供に育ち、ガントクで通っていた学校でも優秀な成績を収めていた。校長先生からは大学進学を勧められるが、学も金もないラーイチャランにとって、息子の優秀さが重荷になり始める。また、スィッダールトと一緒にいると、周囲の人々から父親だと信じてもらえず、劣等感も抱くようになる。スィッダールトの未来のためには、自分が父親として育てるよりも、子供がいないアヌクールに育ててもらった方がいいと考えたのだった。子供に対する親の愛情を、敢えて子供を手放すことで表現した作品であった。

 アヌクールの息子スィッダールトの死は不幸な事件だったが、その後、なぜ新たに子供を作らなかったのかについては説明がなかった。ラーイチャランは、スィッダールトの事件があって以来、アヌクールの家には近づいておらず、知らせも受けていなかった。なぜアヌクールに別の子供ができていないことが分かったのか、その情報を少しでも入れれば完璧な物語になったと感じる。

 炭鉱を経営するナレーン、役人になったアヌクール、そしてコンピューターに興味を持つスィッダールトの3世代は、そのままインドの経済発展を象徴している。ナレーンの時代のインドは、ジャワーハルラール・ネルー首相の時代と重なり、植民地経済から脱却するために重工業が推進された。その上で石炭は重要なエネルギー源となり、炭鉱経営は金になるビジネスだった。だが、1966年に首相になったインディラー・ガーンディーは、一連の社会主義政策の中で産業の国有化を断行し、ナレーンの炭鉱ビジネスは終了する。公務員が絶大な権力を持つようになり、もっとも稼げる仕事にもなった。しかし、1991年に経済自由化が行われ、民間企業が活性化した。スィッダールトがどういう職業に就いたのかは映画の中では語られていなかったが、彼が抱いていたコンピューターへの憧れからは容易にITエンジニアになったことが予想される。言わずもがな、2000年代以降のインドの経済発展を支える職業である。

 主役ラーイチャランを演じたシャリーブ・ハーシュミーは、過去に「Filmistaan」(2014年)で主役を演じてはいるものの、ヒンディー語映画界では脇役俳優としての起用がメインである。だが、この「Darbaan」での演技は素晴らしかった。イルファーン・カーン、ナワーズッディーン・スィッディーキー、ラージクマール・ラーオ、パンカジ・トリパーティーなどに並ぶ、一般庶民の風貌をしたいい俳優である。今後の活躍が期待される。

 一部だけではあるが、スィッキム州の州都ガントクでロケが行われた、珍しいヒンディー語映画だった。過去には「Qarib Qarib Single」(2017年)でガントクのシーンが出て来たが、ヒンディー語映画において頻繁にロケ地に選ばれる場所ではない。

 「Darbaan」は、ラビンドラナート・タゴールの短編小説を原作にした、心温まるドラマ映画である。主演シャリーブ・ハーシュミーの演技が素晴らしく、父と子、そして主人と使用人の関係を巡るストーリーも素朴だが味わい深い。1時間半ほどの短い映画だが、OTTリリースの作品の中ではトップクラスの出来である。