Qarib Qarib Single

3.5

 ロマンス映画はインド映画の肝であり、黎明期からあらゆる種類の恋愛模様が映画にされて来た。もう既に恋愛に新しいネタはないのではないかと思ってしまうのだが、恋愛の世界は奥深く、今でもまだ新しいプロットが生まれているのには驚きを隠せない。

 2017年11月10日公開の「Qarib Qarib Single(およそ独身)」は、35歳の未亡人が再婚相手を探すという、今までインド映画ではあまりなかった種類の恋愛映画だ。監督はタヌジャー・チャンドラ。作家ヴィクラム・チャンドラの妹で、今まで「Sur: The Melody of Life」(2002年)、「Zindaggi Rocks」(2006年)、「Hope and A Little Sugar」(2008年)など、ユニークな映画を撮って来た人物である。

 主演は、国際的に活躍する演技派男優イルファーン・カーンとマラヤーラム語映画女優パールヴァティー・ティルヴォートゥ。ネーハー・ドゥーピヤーとイーシャー・シャルヴァーニーが特別出演している他、プシュティー・シャクティ、ブリジェーンドラ・カーラー、アマン・シャルマー、ルーク・ケニー、スィッダールト・メーナンなどが出演している。

 ムンバイー在住、35歳未亡人のジャヤー(パールヴァティー・ティルヴォートゥ)は、マッチングサイトを使って再婚相手を探す。そこで出会ったのが、自称詩人の変人ヨーギー(イルファーン・カーン)であった。ジャヤーはヨーギーのエキセントリックな言動に辟易しながらも、なぜかデートをするようになる。

 ヨーギーには過去に3人の恋人がいた。ヨーギーは、彼女たちに会いに行く旅にジャヤーを誘う。二人はまずリシケーシュへ行く。そこにはヨーギーの最初の恋人ラーダー(プシュティー・シャクティ)がいた。ラーダーはヨーギーとジャヤーを歓待する。

 次に二人はデリーへ行き、そこから蒸気機関車フェアリー・クィーン号に乗ってアルワルまで行く。そこにはヨーギーの二人目の恋人アンジャリ(ネーハー・ドゥーピヤー)がいた。ジャヤーが変な薬を飲んで酔っ払ってしまうというアクシデントがあったが、ヨーギーはアンジャリと旧交を温める。

 次に二人は飛行機でガントクまで飛ぶ。そこにはヨーギーの三人目の恋人ガウリー(イーシャー・シャルヴァーニー)がいたが、実はジャヤーの元恋人シドコン(ルーク・ケニー)もいた。ヨーギーはガウリーを遠目から眺め、ジャヤーはシドコンと会う。だが、ヨーギーはガウリーとは会わず、ジャヤーもそのままシドコンと別れていた。ロープウェイで偶然出会った二人は一緒のゴンドラに乗り、会話を交わす。

 主演はイルファーン・カーンとパールヴァティー・ティルヴォートゥの二人だが、女性監督の作品なだけあって、パールヴァティー演じるヒロイン、ジャヤーの視点から主に語られている映画であった。映像で独創的だったのは、ジャヤーがカメラ目線になって独白するシーンが何度も繰り返されていたことである。イルファーン演じるヨーギーから指摘されていたことだが、ジャヤーは思っていることを口に出さない、少し強情な性格だった。だが、その心の声を、カメラ目線の独白でぶちまけていた。また、ジャヤーは未亡人ということで周囲から特殊な目で見られており、何かと我慢をすることが多かった。そんな彼女の環境も、結末の伏線になっていた。

 女性目線の物語によくある特徴だが、女性キャラがリアルであるのに対し、男性キャラがフワフワしている。「Qarib Qarib Single」でも、ヨーギーは捉えどころのないキャラであった。言ってみれば変人だが、キュートなところもあり、たまに気遣ってくれることもある。拒否しようとするのだが、なぜか拒否できない。そしていつの間にかヨーギーはジャヤーの心を勝ち取っていた。

 ヨーギーはトラブルメーカーでもあり、ヨーギーのおかげでジャヤーは様々なトラブルに巻き込まれる。ムンバイーから一緒にデヘラードゥーンへ向かうはずが、ヨーギーは飛行機に乗り遅れ、次の便で来ることになった。その間、ジャヤーはヨーギーを待ち続けることになった。デリーからアルワルへ向かう際も、ヨーギーは列車に乗り遅れてしまう。いつもヨーギーは、勝手な行動をしてジャヤーに迷惑を掛けていた。

 だが、ヨーギーは表裏のない人物であった。ジャヤーはその点だけは認めており、知らない間に感化される。ヨーギーと共にいたことでジャヤーは自分の意見をはっきりと主張できるようになり、自分の中に変化を見出す。それが、最後に彼女がヨーギーを選んだ原因となったことが匂わされていた。

 マッチングサイトなどの出会い系サイトを通しての出会いは、インドでは既に常識となっており、映画でも珍しくなくなっている。だが、そんな現代的な出会い方をした相手が、ヨーギーのような化石みたいな男性だったのはユーモラスな展開だった。また、ジャヤーはウェブサイト作りが趣味で、ヨーギーの詩を集めたウェブサイトを勝手に作ってあげていた。これもヨーギーがジャヤーに惹かれた要因だっただろう。

 ジャヤーはヨーギーに連れられてインド各地を旅行する。ヨーガの里と呼ばれるリシケーシュ、首都デリー、タイガーサファリで有名なアルワル、旧スィッキム王国の都ガントクと、なかなか風光明媚な土地を巡るため、ロードムービーとしての魅力も出ていた。特にデリーからアルワルへ向かうときに二人が利用したフェアリー・クィーン号は、現役の蒸気機関車としては世界最古であり、実際にデリー~アルワル間で運行されている。僕もかつて乗ったことがあり、懐かしかった。

 夫婦や恋人ではない男女が一緒に旅行をする内に心を通わせるというプロットでは、「Chalo Dilli」(2011年)との共通点を感じた。「Chalo Dilli」でヴィナイ・パータクが演じたマヌは、「Qarib Qarib Single」でイルファーンが演じたヨーギーとよく似ていた。

 「Qarib Qarib Single」は、未亡人が再婚相手を探そうと登録したマッチングサイトでマッチしてしまった変人と接する内に次第に彼に惹かれて行く過程を追った、女性目線のロマンス映画である。インド各地を旅行し、実際に現地でロケが行われているため、ロードムービー的な楽しみ方もできる。蒸気機関車フェアリー・クィーン号での旅の様子に少し触れられているのも魅力だ。映画の内容も、いかにも女性受けしそうな展開で、悪くない出来である。