Main Tera Hero

2.5
Main Tera Hero
「Main Tera Hero」

 今後「SOTY世代」という言葉ができてもおかしくない。日本でも公開された「Student of the Year」(2012年)は、大御所監督カラン・ジョーハルが久々にメガホンを取った割には凡庸な学園恋愛映画だった。しかしながら、この映画でデビューした3人の俳優――スィッダールト・マロートラー、ヴァルン・ダワン、アーリヤー・バット――は現在若手俳優の中で最もホットなスターとなっており、カランの見る目は正しかったと言える。もしくは彼のプロモーション能力のすごさであろうか。アーリヤーは本格デビュー後から2年も経っていないにも関わらず既に4本の映画で主演しており、「Highway」(2014年)などの演技力も高く評価されていて、ヒロイン女優の中では一番勢いがある(一般教養の面で多少弱いところが露呈しているようだが・・・)。スィッダールトも2014年は「Hasee Toh Phasee」(2014年)や「Ek Villain」(2014年)と引っ張りだこだ。そしてヴァルン・ダワンも負けず劣らず人気を集めており、着々とキャリアを積んでいる。2014年4月4日に公開された「Main Tera Hero」は、ヴァルンの第2作である。

 ヴァルンは、「コメディーの帝王」と称されるデーヴィッド・ダワン監督の息子であり、「Main Tera Hero」は初めて親子がタッグを組んだ作品だ。題名は「僕は君のヒーロー」を意味する。テルグ語映画「Kandireega」(2011年)のリメイクで、ヴァルンと共演するのは2人のヒロイン、イリアナ・デクルーズとナルギス・ファクリー。共にヒンディー語映画界ではデビューから2~3年以内の若手女優である。その他のキャストとして、アルノーダイ・スィン、アヌパム・ケール、その弟ラージュー・ケール、ラージパール・ヤーダヴ、サウラブ・シュクラー、エヴェリン・シャルマーなどが出演している。また、サルマーン・カーンが声優を務めている。音楽はサージド・ワージド。

 ウーティー在住のシュリーナート・プラサード、愛称スィーヌー(ヴァルン・ダワン)は、成績不振で大学を留年となり、バンガロールの大学に転校する。そこでスナイナー(イリアナ・デクルーズ)という美女と出会い、一目惚れするが、彼女は悪徳警官アンガド・ネーギー(アルノーダイ・スィン)に目を付けられていた。アンガドはあの手この手を使ってスィーヌーをスナイナーから引き離そうとするが、逆にスィーヌーとスナイナーは相思相愛の仲になってしまう。しかもスィーヌーの方が一枚上手で、アンガドは相棒のピーター(ラージパール・ヤーダヴ)を銃で撃って怪我させた罪で停職処分となってしまう。

 しかし、スィーヌーを見初めた女がもう一人いた。それは、バンコクを拠点にアンダーワールドを支配するヴィクラーント・スィンガール(アヌパム・ケール)の娘、アーイシャー(ナルギス・ファクリー)であった。アーイシャーは何としてでもスィーヌーと結婚しようとする。アンガドの協力によりスナイナーは誘拐され、バンコクに連れ去られてしまう。もちろん、アンガドは協力の報酬にスナイナーをもらう約束をしていた。

 アンガドから事情を知ったスィーヌーは単身バンコクへ飛び、ヴィクラーントの邸宅に殴り込む。しかしいきなり暴力で解決はしなかった。スィーヌーは、アーイシャーと結婚することを承諾する。そして結婚式までに10日の猶予をもらい、その間に何とかしてスナイナーと逃げ出す計画を立てようとする。だが、ヴィクラーントのパートナー、バッリ(サウラブ・シュクラー)はスィーヌーの行動を疑いの目で見ていた。

 ヴィクラーントの邸宅にはアンガドとピーターや、スィーヌーの両親までやって来て、スィーヌーとアーイシャーの結婚式まで滞在することになり、より状況が複雑となる。しかし、スィーヌーはアーイシャーがアンガドに惚れそうなことに勘付き、巧みに状況を操作して、この二人をくっつけようとする。アーイシャーは完全にアンガドの虜となり、スィーヌーとではなくアンガドと結婚することを決める。それを聞いたヴィクラーントは、娘の代わりにスナイナーと結婚するようにスィーヌーに勧める。アンガドもアーイシャーとの結婚にまんざらでなく、こうして2組の幸せなカップルが誕生したのだった。

 デーヴィッド・ダワン印の古典的なお気楽ロマンス・コメディー映画だ。俳優には新鮮味があるが、ストーリーは使い古されたネタの使い回しとツギハギ。言葉が分からなくても理解できる種類の単純明快な筋書きで、ヒンディー語映画のことに詳しいとクスッとできるパロディーネタも多々仕込まれていたが、それも今更感が強い。デーヴィッド・ダワン監督のコメディー映画の中ではベストには数えられないだろう。ただ、インドでの興行成績はセミヒットとのことである。こういう映画もまだまだ需要があることに驚くが、インドの観客層は多様であり、何も考えずに楽しめるこういう映画はまだまだ大衆層を中心に支持を集めていることが分かる。

 ストーリーそのものに大したものがないので、焦点はヴァルン・ダワンの真価となる。「Student of the Year」では3人の主演(男2人、女1人)の一角としてある程度の存在感は示せていたが、果たしてシングルヒーロー型の映画ではどうか。男優優位主義の傾向のあるインド映画では、映画の成否は主演男優一人の肩に掛かることが多い。ヴァルンがそれに耐えられるかが、「Main Tera Hero」の最大の見所だったと言えよう。

 「Student of the Year」でヴァルンは大富豪の道楽息子をかなりシリアスに演じていたが、「Main Tera Hero」では一転して、ロマンスに加えてコメディーとアクションの才能を試されることになった。コメディーを得意とする父親が監督であることも手伝って、コメディーシーンはそつなくこなしていたし、元々運動神経は良さそうなので、アクションシーンにもそう苦労していたようには感じなかった。総合的には合格点と言っていいと思うのだが、一生懸命演技しているようなところがあり、余裕を感じない。ヒンディー語もあまりうまくない。言葉で表すのは難しいのだが、微妙な部分で一流になれない予感がして、少し先行きに不安を感じるところがあった。「Hasee Toh Phasee」のスィッダールト・マロートラーと比べると、僕はスィッダールトの方に俳優としての将来性を感じる。

 イリアナ・デクルーズとナルギス・ファクリーの共演は面白い取り合わせであったが、やはり2人とも無理して演技しているような感じがして、窮屈な印象を受けた。特にナルギスは場違いに感じた。「Rockstar」(2011年)と「Madras Cafe」(2013年)で近寄りがたいイメージが付いてしまったので、それを払拭したかったのだろうか。サード・ヒロインとしてエヴェリン・シャルマーも出演していたが、ヴィクラーントの愛人役という一番可哀想な役回りだった。女優をこのように捨て駒にするような起用法も古臭く感じる。

 このお馬鹿な映画の中で唯一面白かったのは、スィーヌーが神像に語り掛けるシーンだ。スィーヌーがぶつくさと神様に勝手なお願いをするのだが、それに対していちいち神様が愚痴っぽく答える。その声がサルマーン・カーンなのである。しかも、ガネーシャ、クリシュナ、イエス・キリストと、場面場面によってスィーヌーが話し掛ける神像は変化して行くのだが、サルマーンが声優を務める声やその口調は全く変わらない。「宗教は違えど、形は違えど、神はひとつ」というインドの宗教哲学の根本をコメディータッチで表していた。

 「Main Tera Hero」は典型的なデーヴィド・ダワン印コメディー映画だ。進化するヒンディー語映画界においてシーラカンスのような存在。昔ながらのドタバタ劇を今でも頑なに作り続けているのは見上げた努力だが、やはり「コメディーの帝王」には、現代に合った質の高いコメディー映画を目指してもらいたいものである。ヴァルン・ダワンは頑張っていたが、自然体を失っているところに少し不安を感じた。