Blackboard v/s Whiteboard

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Blackboard v/s Whiteboard
「Blackboard v/s Whiteboard」

 2019年4月12日公開の「Blackboard v/s Whiteboard」は、インドの公立小学校を舞台にした教育テーマの映画である。

 監督はタルン・S・ビシュト。「Dassehra」(2018年)などで助監督を務め、TVドラマ「Aisa Prem Kahan」(2014年)を撮っているが、映画の監督は本作が初となる。キャストは、ラグビール・ヤーダヴ、ダルメーンドラ・スィン、アリスミター・ゴースワーミー、アショーク・サマルト、アキレーンドラ・ミシュラー、パンカジ・ジャー、マヌ・クリシュナなどである。主演格なのはダルメーンドラとアリスミターだが、両者ともほとんど無名の俳優たちであり、むしろラグビールやアショークといった脇役にいい俳優が揃っているという布陣だ。

 特にラグビールの貢献度が高く、彼は映画中で使われた楽曲「School Chalo Tum」や「Lalan Mora」を自分で歌っている。多才な俳優である。

 ジャーンルカンド州ラームガル県ポーチャラー村には公立のジョーパリー・トーラー小学校があったが、児童たちは給食を食べに来ているだけで、教育機関としてほとんど機能していなかった。村の子供たちの多くは他の町にある私立学校に通っていた。ディーナーナート(ラグビール・ヤーダヴ)はジョーパリー・トーラー小学校の教頭だったが、児童たちに質の高い教育を与えることを半ば諦めていた。

 ある日、ジョーパリー・トーラー小学校に新米教師アミト(ダルメーンドラ・スィン)が赴任してくる。アミトは学校の惨状を見て改革に乗り出そうとする。ちょうどそのときNIニュースのTVレポーター、ラシュミー(アリスミター・ゴースワーミー)がやって来る。ラシュミーはポーチャラー村に住み込み、アミトの学校改革を取材し始める。

 ジョーパリー・トーラー小学校は、村長ガジラージ・スィン(アショーク・サマルト)が寄付した土地に建っていた。その義妹プニターはジョーパリー・トーラー小学校の教師でありながら、普段はガジラージが建てた別の私立学校で教えていた。アミトはプニターに電話をし、きちんと出勤するように伝える。それを聞いたガジラージがジョーパリー・トーラー小学校を訪れるが、ラシュミーがいたため、手を出せなかった。ガジラージは州議会選挙への立候補を決めており、選挙があるまで目立った行動をしたくなかったのである。

 アミトはディーナーナートと共に村を巡り、学校に通っていない子供たちに登校を呼びかける。教員の給与や給食の費用などが何ヶ月も振り込まれていなかったため、当局に掛け合って改善させる。アミトの努力によりジョーパリー・トーラー小学校には児童が戻ってきて、ようやくまともな教育が行われ始める。ガジラージの学校に通っていた児童たちも次々にジョーパリー・トーラーに転校した。

 アミトはラシュミーに恋をするようになった。だが、取材期間が終わり、ラシュミーはデリーに帰って行った。ラシュミーはアミトがいかにジョーパリー・トーラー小学校を改革したかを報道すると同時に、ガジラージが妨害していることも伝える。その影響でガジラージは公認を取り消されてしまう。

 その後、ジョーパリー・トーラー小学校で給食を食べた子供たちが集団食中毒になるという事件が起きる。2人の死者も出てしまう。給食に毒を盛った容疑でアミトは逮捕される。ラシュミーは実は弁護士資格も持っていた。その知らせを聞いたラシュミーはアミトの弁護士を買って出る。ガジラージの息の掛かった検察トリパーティー(アキレーンドラ・ミシュラー)はアミトが犯人だと決め付け、死刑を求刑する。だが、ラシュミーは毒を持った真犯人を見つけ出し、彼の無罪を証明する。代わりにガジラージやプニターなどが逮捕される。

 題名「Blackboard v/s Whiteboard」から想像したのは、旧態依然とした教育とICTを活用した新しい教育の対立だ。なぜなら黒板はチョークを使った講義形式の古い授業を連想させ、ホワイトボードはプロジェクターなどを使ったアクティブラーニング的な新しい授業を連想させるからだ。だが、映画を最後まで観てもホワイトボードは出て来ず、それが何を意味していたのか分からなかった。

 この映画がまず訴えていたのは、公立学校の教育が危機的な状態にあるという惨状である。もちろん、インドの全ての公立学校がまずいということはない。たとえば中央政府教育省が運営するケーンドリーヤ・ヴィディヤーラヤ(中央学校)などは名門校として有名だ。だが、この映画で舞台になっていたジャールカンド州はインドの中でも後進の地域であり、同州の村落部にある公立学校では教育が特に遅れていることは想像に難くない。

 公立学校の教育は無料であるが、一般に質は高くない。まず先生が学校に来ない。だから児童生徒も学校に来ない。来るとしても勉強しに来るのではなく、給食を食べに来る。それでも、村には毎日食事を満足に食べられない子供も多く、そういう子供たちに給食を提供してあげられるだけでも学校はありがたい存在だ。舞台となったジョーパリー・トーラー小学校の教頭ディーナーナートはそんな考えをしており、学校を何とかしようという気概に乏しかった。

 そこへ新米教師アミトがやって来て改革に乗り出すわけだが、この辺りの展開はありふれたものだ。本当は、彼がどんな改革をしたのか具体的な描写や段階的な描写があるとよかったのだが、その辺りはソングシーンで誤魔化されていた。分かりやすい悪役が登場し、妨害もあるが、そうこうしている内にいつの間にかアミトが学校改革を成し遂げており、村の英雄になっていた。結局、この映画はインドの教育問題に真剣に向き合い、深く掘り下げた作品ではなく、後半は集団食中毒事件をきっかけに法廷劇へと移り、話題は教育から離れてしまう。なぜかTVレポーターが弁護士も務めるという力技の展開も見られて辟易した。

 裁判では、アミトが児童たちに掃除をさせていたことがひとつの争点になる。インドでは掃除は卑しい仕事であり、子供に「児童労働」をさせて学校の掃除をするとはなんと常識外れな教師なのか、という主張が検察側からなされていた。その理屈でいくと、日本の教師たちは皆最低の教師になってしまう。ただ、インドにも清掃は身の回りを清潔にするという教育の一環だという考え方もあり、正にそういう反論を弁護士ラシュミーがしていた。

 アミト役を演じたダルメーンドラ・スィンは正体不明の俳優だ。主役向けのルックスをしているわけでもなく、過去に実績があるわけでもない。なぜ彼が起用されたのか全く分からない。ヒロイン扱いとなるラシュミー役のアリスミター・ゴースワーミーも初めて見た女優だ。特に弁護士に変身してからの彼女の演技には眼をみはるものがあった。それでも、ラグビール・ヤーダヴ、アショーク・サマルト、アキレーンドラ・ミシュラーといったベテラン俳優陣の演技力が圧倒的であり、全体的なバランスが悪かった。

 「Blackboard v/s Whiteboard」は、インドの公立小学校が抱える問題を取り上げた教育映画の一種だと期待して見始めたのだが、教育に焦点が定まった作品ではなく、キャスティングもチグハグで、期待外れに終わった。実際にジャールカンド州の小学校で撮影されているが、単にロケ地になっただけで、この映画で映し出された状態が事実だと受け止めるのは早計である。よほどのことがなければ観る必要のない映画だ。


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