Tennis Buddies

4.0

 インドではクリケットの人気が度を超しており、それ以外のスポーツの正常な発展が阻害されているほどだが、それでもいくつかのスポーツでは国際的なプレーヤーも登場している。硬式テニスはそのひとつで、男子ではマヘーシュ・ブーパティとリーンダー・パエス、女子ではサーニヤー・ミルザーなどの選手が有名である。しかしながら、今までテニスを題材にした映画は作られてこなかった。

 2019年3月29日公開のヒンディー語映画「Tennis Buddies」は、「インド初のテニス映画」を謳った作品である。監督は「Ankur Arora Murder Case」(2013年)のソハイル・ターターリー。インド子供映画協会(CFSI)製作の映画で、子役俳優が中心にキャスティングされている。主演はダクシャター・パテール。本当のテニス選手である。キャストの中で有名なのはランヴィール・シャウリーとディヴィヤー・ダッターで、他に悪役としてビクラムジート・カンワルパールが出演している。

 ハリヤーナー州ファリーダーバード在住のアヌシュカー(ダクシャター・パテール)は、元テニス選手だった父親ディリープ・スィン(ランヴィール・シャウリー)の指導の下、テニスでチャンピオンを目指していた。ディリープは、インド代表になれる力を持ちながら、怪我と政治的な敗北のために大した実績も出せずに引退せざるを得なかった過去を持っており、自分の果たせなかった夢を娘に託していた。妻のジャヤー(ディヴィヤー・ダッター)は夫と娘のテニス三昧な生活を陰で支えていた。

 アヌシュカーはファリーダーバード・ジムカーナーでテニスの練習をしていたが、同じコートにはアルジュン、ドゥルヴ、アトゥル、アルヴィンドが遊び半分でテニスをしていた。クラブの幹事カーンダー(ビクラムジート・カンワルパール)はディリープを目の敵にしており、アヌシュカーに協力的ではなかった。

 デリー首都圏地域でクラブ対抗のテニス大会が開催され、今年からチームには女子1名も必ずエントリーしなければならなくなった。カーンダーはトゥインクルという女の子を連れてくるが、テニスはほぼ素人だった。キャプテンのアルヴィンドはトゥインクルに熱心にテニスを教えるが、アルジュン、ドゥルヴ、アトゥルの三人はアヌシュカーを引き入れようとする。ディリープはクラブ対抗大会を重視していなかったが、先の大会で思ったような成績を取れなかったアヌシュカーは、父親に内緒でクラブ対抗大会に出場を決める。

 アヌシュカーは学校を休んで三人と大会のための練習をしていたが、それが父親にばれてしまう。父親は怒ってムンバイーに出張に行ってしまい、試合も観ないと言う。また、アルヴィンドは知らない間にアヌシュカーが加入していることを知って拒絶反応を示すが、アヌシュカーと試合をして負けたことや、トゥインクルが試合出場を諦めてしまったことなどから、渋々彼女を受け入れる。アヌシュカーはアルヴィンドに代わってキャプテンになる。

 クラブ対抗大会でファリーダーバードのクラブは順調に勝ち上がる。決勝戦でアヌシュカーの対戦相手となったのは、今まで勝てたことがないリーマーであった。だが、アヌシュカーはリーマーと互角の戦いを繰り広げる。途中、捻挫をしてピンチを迎えるが、会場で密かに観戦していたディリープが飛び出てきて応急処置をし、アヌシュカーにも精気が戻る。アヌシュカーはリーマーを僅差で破り、チームを優勝に導いた他、優秀選手賞も受賞した。

 映画は、現在のシーンと過去のシーンを往き来しながら進行していく。現在のシーンは、クラブ対抗大会の決勝戦であり、アヌシュカーは強敵リーマーと対戦している。その試合の端々で回想シーンが差し挟まれ、今までの経緯が語られる構造になっている。

 本当のテニス選手を起用して撮った作品なだけあって、試合のシーンがリアルである。そのスポーツには疎い俳優を起用してスポーツ映画を作るときは、短いカットを小刻みにつないだり代役を活用したりして、映像のマジックでスポーツをプレイしているように見せるものだが、「Tennis Buddies」ではそんな小細工を弄する必要はなく、リアルなテニスのラリーをストレートに、かつたっぷりと盛り込んでいた。この映画の一番の強みはこの点にあった。

 逆に、本当のテニス選手を起用するということは、普通は演技の素人を起用するということでもあり、演技面で心配が出て来る。だが、主演のダクシャター・パテールの演技に問題はなく、逆に10代らしいフレッシュさがあって、とても好感が持てた。ダクシャターのような最適の人材を起用できたことがこの映画の大きな勝因となっている。

 内容は、いってみればスポ根モノの範疇に入るものであり、それに父と娘の絆が重ねられていた。父親が自分の叶えられなかった夢を子供に託すという展開は、「Dangal」(2016年)などでも見られたものである。だが、「Tennis Buddies」でユニークだったのは、父親が「本当は男の子が欲しかった」などという泣き言を全く口にしていなかったことだ。ディリープとジャヤーの間にはアヌシュカーしか生まれていない。インドの普通の感覚だと、子供をスポーツ選手にしたいと思っていたら、まずは男の子を欲するはずだ。だが、ディリープは男女関係なく子供をチャンピオンに育て上げると決めているように見えた。親の夢を子供に押しつけることへの批判はあるかもしれないが、ディリープは決して男女差別をしておらず、娘にも自分の夢を託せるだけの資質があると信じていた。その点はとてもリベラルな映画だと感じた。もしくは敢えてその点には踏み込まなかっただけかもしれない。情報放送省下のインド子供映画協会が製作した映画であることも関係していそうだ。

 ダクシャター・パテールのテニスシーンや演技が素晴らしかったのに対し、彼女のチームメイトになるアルジュン、ドゥルヴ、アトゥル、アルヴィンドを演じた子役俳優たちの演技は頼りなかった。おそらくワークショップで演技を学んだ程度の俳優たちであろう。彼らもテニス経験者から選ばれたのかもしれない。

 もちろん、ランヴィール・シャウリー、ディヴィヤー・ダッター、ビクラムジート・カンワルパールなどは安定の演技をしており、子役俳優たちの不安定さを補っていた。

 「Tennis Buddies」は、インド初のテニス映画であり、しかも本物のテニス選手を主演に据えた、かなり本格的なテニス映画である。スターの出演はなく、見た目は地味だが、しっかりと作ってある隠れた名作だ。意外に感動の涙が流れてきてしまう。要チェックの映画である。