Gurgaon

4.0

 デリーに隣接する都市グルガーオンは、ハリヤーナー州に属するものの、デリーを中心とする首都圏を形成し、近年のデリー発展の担い手となって来た。デリーのベッドタウンというよりも、デリーを補完する新しい都心として急速に開発され、奇抜なデザインの摩天楼が林立する近未来的景観となっている。かつては畑が広がるのどかな農村地帯であったが、デリーの都市拡大に伴って用地が買収され、オフィス街や高層住宅が建設された。この地に広大な土地を所有していた農民たちは一夜にして多額の現金を手にすることになったが、それを有効利用できずに使い果たし、農地も失って、身を持ち崩した者も多かったとされる。

 2016年12月9日にマカオ国際映画祭でプレミア上映され、インドでは2017年8月4日に一般公開された「Gurgaon」は、そんなグルガーオンの急速な発展を背景にしたクライムサスペンス映画である。監督は新人のシャンカル・ラマン。キャストは、アクシャイ・オーベローイ、パンカジ・トリパーティー、ラーギニー・カンナー、シャーリニー・ヴァートサー、アーミル・バシール、シュリーニヴァース・スンダルラージャンなどが出演している。

 グルガーオンの不動産王ケヘリー・スィン(パンカジ・トリパーティー)には、血のつながった息子ニッキー(アクシャイ・オーベローイ)、チントゥーと、養女プリート(ラーギニー・カンナー)がいた。プリートは父親からラッキーマスコットとして可愛がられており、フランスで建築学を修めてインドに帰って来た。一方のニッキーは野心だけは大きくて失敗ばかりしており、ケヘリーから認められずにいた。

 ニッキーはクリケット賭博で負けて1,000万ルピーの借金を作ってしまう。金の工面に困ったニッキーは、妹のプリートを誘拐させて父親から身代金を引き出す作戦に出る。誘拐の実行犯としてジョンティーを雇う。また、弟のチントゥーと、ニッキーの取り巻きであるラージヴィールが誘拐を支援する。

 ジョンティーは首尾良くジョンティーを誘拐するが、移動する途中でトラブルに巻き込まれ、行動を共にしていたラージヴィールとはぐれてしまう。一方、誘拐を知ったケヘリーは弟で警官のブーピー(アーミル・バシール)に助けを求める。ブーピーはジョンティーを捕らえ、そこから芋づる式にニッキーが黒幕であることを突き止める。

 ケヘリーとブーピーはプリートが幽閉されていた部屋に押し入るが、既にプリートは逃げた後で、そこにはニッキーとチントゥーがいた。ニッキーはブーピーの銃を奪って彼を殺す。一方、逃げたプリートはニッキーに連絡をし、合流するが、ニッキーに殺されてしまう。

 プリートが死んだ今、ケヘリーのビジネスはニッキーが担うこととなった。だが、ニッキーは母親カルマー(シャーリニー・ヴァートサー)に殺される。

 基本的にはグルガーオンが都会となった現代を舞台としているが、物語の途中に過去の回想シーンが差し挟まれ、ケヘリーとブーピーの確執や、ケヘリーがプリートを養女にする経緯が語られる。そして、悲しい結末へと突き進む。

 「Gurgaon」に登場する人々は、通常のインド映画でありがちな一面的な描写の仕方をされておらず、善とも悪とも言えない、リアルな人間像となっていた。ニッキーは、ギャンブルで大負けし、妹を誘拐させて父親から身代金を引き出そうとするダメ息子であるが、彼がここまでぐれてしまったのにも理由がある。父親が孤児の女の子プリートを養女にし、実の息子以上に可愛がったため、父親の愛に飢えていたのである。

 その父親にしても、単なる慈善の精神からプリートを養女にした訳ではない。実はケヘリーと妻カルマーの間には一度女の子が生まれていたが、経済的な重荷になるために間引きした過去があった。だが、聖者から女の子が幸運をもたらすと言われ、女の子を養女にしてあやかろうとしたのだった。ケヘリーは自分の事業に息子ではなく娘の名前を付けていた。

 また、ケヘリーはグルガーオンの土地バブルに乗って不動産ビジネスを成功させた人物だった。だが、決して黙って座っていただけでお金が舞い込んだ訳ではない。土地の売却に反対だった父親を殺したのである。それを機に弟のブーピーとは疎遠となっていた。

 プリートにしても、裏のありそうな人物である。自分を拾って育ててくれたケヘリーには恩義を感じており、彼の望む相手と結婚しようとしていた。だが、自分の思うままの人生を歩みたいという願望も持っていた。ニッキーが自分を誘拐させて父親から身代金をかすめ取ろうとしていたことを知ったプリートは、兄を責めるよりも先に、父親から身代金は手に入ったのかと聞く。もしかしたら身代金を山分けしようとしていたのかもしれない。

 結末は、母親が息子を殺すという衝撃的なものだ。ニッキーは血のつながりのない妹プリートを殺したが、母親は、プリートを殺した実の息子ニッキーを銃で撃ち殺す。この最後は、「Mother India」(1957年)を思わすものだが、ニッキーとプリートの関係が複雑であるため、より大きな衝撃でもって幕を閉じる映画となっていた。

 アクシャイ・オーベローイは不思議な演技をしていた。ほとんど無表情だったのである。そういう演技なのか、表情が作れない俳優なのか、判別できなかったが、どんなことが身に起こっても無表情で通す姿にはインパクトがあった。ケヘリー・スィンを演じたパンカジ・トリパーティーは絶妙な演技をしてた。プリートを演じたラーギニー・カンナーは、終盤の演技に光るものがあった。

 グルガーオンの土着の人々はハリヤーンヴィー方言のヒンディー語を話す。その雰囲気を出すため、「Gurgaon」でもハリヤーンヴィー方言の台詞が多用されていた。

 「Gurgaon」は、デリー近郊の都市グルガーオンを舞台に、不動産で一財を成した一家で起こった狂言誘拐を描いたクライムサスペンス映画である。実話に基づく物語とされている。そこに善悪はなく、因果応報に翻弄される人々が描かれる。スターパワーはないが、名作の貫禄がある映画である。