A Death in the Gunj

3.5
A Death in the Gunj
「A Death in the Gunj」

 ヒンディー語映画界において女優コーンコナー・セーンシャルマーは一目置かれた存在だ。名女優・名監督アパルナー・セーンの娘であり、デビュー当初から「Mr. and Mrs. Iyer」(2002年)や「Page 3」(2005年)など、名作において名演を披露し、評価が高かった。女優から監督に転身した母親と同じ道を歩み、コーンコナーも監督デビューを果たした。彼女の初監督作が、2017年6月2日に一般公開された英語映画「A Death in the Gunj」である。プレミア上映は2016年のトロント映画祭である。

 「A Death in the Gunj」は、コーンコナーの父で作家のムクル・シャルマーが書いた短編小説をベースにしている。映画の舞台はジャールカンド州のマクルスキーガンジである。マクルスキーガンジは、アングロインディアンと呼ばれる、英国人とインド人の血を引く人々が多く住む町として知られていた。現在、マクルスキーガンジのアングロインディアン・コミュニティーはだいぶ縮小したと言われているが、映画の時間軸は1978年から79年に設定されており、この頃にはアングロインディアンがまだ多かったと思われる。

 ムクルとアパルナーはマクルスキーガンジに別荘を持っており、カルカッタからよく通っていたと言う。この短編小説および映画は、彼らがマクルスキーガンジで経験した出来事に基づいて作られている。ちなみに、コーンコナーの生年月は1979年12月であり、この映画の時間軸は彼女が生まれる直前ということになる。

 キャストは、ヴィクラーント・マシー、ランヴィール・シャウリー、カルキ・ケクラン、ティロッタマー・ショーム、グルシャン・デーヴァイヤー、タヌジャー、オーム・プリー、ジム・サルブなどである。ランヴィール・シャウリーはコーンコナーの夫、タヌジャーは女優カージョルの母である。プロデューサー陣の中では「Ishqiya」(2010年)などのアビシェーク・チャウベーの名前が特筆すべきだ。

 物語は、年末年始の休暇を祝うためにマクルスキーガンジの家に集った親戚や友人たちを中心に進行する。とは言っても立て続けに大きな事件が起こる訳でもなく、1週間の間に些細な出来事が続くだけだ。それだけを取り出すと退屈な映画である。だが、一連の事件の中で、主人公シュトゥ(ヴィクラーント・マシー)が精神的に追い詰められて行き、最後には自殺をする。彼の精神状態の変化が、この映画がもっとも提示したかったものだと言える。

 シュトゥはカルカッタで学ぶ大学生だったが、落第し、寮を追い出され、母親に内緒でマクルスキーガンジの叔母(タヌジャー)の家に来ていた。従兄の友人ヴィクラム(ランヴィール・シャウリー)やミミ(カルキ・ケクラン)にはからかわれ、唯一心を通わしていた姪のティナからも嫌われてしまう。しかも、彼はマクルスキーガンジの家でも自分の居場所を感じることができなかった。それらが彼を精神的に追い詰める。

 細かい出来事がいくつも起こるのだが、その中でも大きかったものは2つあった。ひとつは、日本の「こっくりさん」みたいな遊びである。「Parineeta」(2005年)でも同じような遊びが出て来た。「A Death in the Gunj」では、ヴィクラムの提案で霊下ろしが始まり、皆が円になってロウソクを取り囲む。いかにも霊が下りたように感じられたが、実はヴィクラムが仕組んでいた。ヴィクラムは「この中で誰が一番先に死ぬか」という質問をし、その回答がシュトゥだった。シュトゥは怖くなって逃げ出し、皆は大爆笑する。

 もうひとつの事件は、ミミとの淡い恋であった。ミミはヴィクラムに恋をしていたが、彼は最近別の女性と結婚しており、嫉妬心を抱いていた。その嫉妬心を紛らわすために、ミミはシュトゥを誘惑する。ミミとセックスをしたシュトゥはミミに惚れてしまい、彼女をつけ回すようになる。だが、ミミにとってシュトゥは本気の相手ではなかった。それがシュトゥの精神を追い詰める最後の打撃となり、彼は叔父(オーム・プリー)から銃を奪って自らを撃つのである。

 「A Death in the Gunj」は、幽霊が登場するホラー映画のような雰囲気もあったが、結局幽霊はほぼ登場しなかった。唯一、シュトゥが死んだ後、彼の遺体を乗せた車の後部座席に彼の姿があり、これは幽霊だと言えたが、それだけだった。代わりに、シュトゥの精神を蝕む出来事を、超常現象に頼ることなく描き出し、上品なサイコスリラーに仕上げていた。

 言語は基本的に英語だが、ヒンディー語やベンガル語などの台詞も混じる。英語とヒンディー語のミックスだったらヒングリッシュ映画と呼ぶのだが、複数の言語が混じるため、英語映画としか言いようがない。

 娯楽映画の作りではないが、インド映画の伝統に則って歌と踊りのシーンも入る。アングロインディアンの家庭ということもあり、英語の歌もあるし、地域の民謡のような歌も入っていた。一般のインド映画ではあまり描かれることのない分野の多様性にスポットライトが当てられており、エキゾチックな雰囲気が出ていた。

 「A Death in the Gunj」は、名女優コーンコナー・セーンシャルマーが、作家の父親が書いた短編小説に基づいて撮った英語映画である。ホラー映画のようにも見えるが、本質は上品なサイコスリラーであり、ヴィクラーント・マシー演じる主人公の蝕まれて行く精神と、彼の精神を蝕んで行く細かい出来事に焦点が当てられている。インド版「こっくりさん」が見られるのも面白い。