War 2

3.5
War 2
「War 2」

 「War」(2019年/邦題:WAR ウォー!!)は、インド最大の映画コングロマリットであるヤシュラージ・フィルムスのYRFスパイ・ユニバース第3作に位置づけられる作品である。ヤシュラージ・フィルムスは元々、「Ek Tha Tiger」(2012年/邦題:タイガー 伝説のスパイ)、「Tiger Zinda Hai」(2017年/邦題:タイガー 蘇る伝説のスパイ)と、インドの対外諜報機関RAWの元エージェント、タイガーを主人公にしたスパイ映画を送り出していたのだが、「War」においてRAWを裏切った元エージェントのカビールを登場させ、さらにRAWエージェントのパターンが主人公の「Pathaan」(2023年/邦題:PATHAAN パターン)を作り、この時点で「YRFスパイ・ユニバース」を打ち出した。よって、「Ek Tha Tiger」、「Tiger Zinda Hai」、「War」の3作品は、正確にいえば、後付けでユニバースに組み込まれた作品である。その後、「Tiger 3」(2023年/邦題:タイガー 裏切りのスパイ)が公開されたわけだが、この映画の最後にカビールが登場し、「War」の続編「War 2」の製作が公表された。この「War 2」は、2025年8月14日、インド独立記念日週に満を持しての公開となった。

 「War」の監督はスィッダールト・アーナンドだったが、「War 2」では「Brahmastra Part One: Shiva」(2022年/邦題:ブラフマーストラ)のアヤーン・ムカルジーに交代した。同時に、音楽監督もヴィシャール=シェーカルからプリータムに変更された。

 「War」でカビール役を演じたリティク・ローシャンはそのまま続投で主演である。最大の話題は、「RRR」(2022年/邦題:RRR)で日本でも一躍有名になったテルグ語映画界のスーパースター、NTRジュニアが共演していることだ。NTRジュニアにとってこれがヒンディー語映画デビュー作となり、リティクの共演ももちろん初となる。ヒロインはキヤーラー・アードヴァーニーである。

 前作では、カビールを慕う後輩エージェント、カーリド役でタイガー・シュロフが起用されていたが、前作で死んでおり、今回は写真のみでの登場となる。同じく前作のヒロインであるヴァーニー・カプールも死んでおり、やはり記憶映像のみでの出演だ。カーリドの母親役を演じたソーニー・ラーズダーンは一瞬だけ出演している。RAWの上官スニール・ルートラー大佐を演じたアーシュトーシュ・ラーナーもそのまま続投。他に、アニル・カプール、アルン・バドーラー、KCシャンカル、アリスター・メヘターなどが出演している。また、次回作「Alpha」を予告するエンドクレジット後での特別映像でボビー・デーオールが顔を出しており、彼が悪役になることが予想される。

 オリジナルはヒンディー語版であり、NTRジュニアも自分でヒンディー語のセリフをしゃべっているが、同時にテルグ語とタミル語の吹替版も公開された。鑑賞したのはヒンディー語オリジナル版である。

 カビール(リティク・ローシャン)は、かつての上官スニール・ルートラー大佐(アーシュトーシュ・ラーナー)から密命を受け、世界を支配しようとする秘密結社カリーへの潜入を試みる任務を遂行していた。カビールは賞金稼ぎとして暗殺などの仕事を請け負い、カリーの注目を集め、とうとうカリーとの接触に成功する。カリーはカビールを仲間に誘うが、忠誠の証明としてルートラー大佐の殺害を命じた。カビールはカリーから信頼を得るため、恩師であるルートラー大佐を殺す。

 ルートラー大佐が殺されたことで、新たにRAWの長官に就いたのがヴィクラーント・カウル大佐(アニル・カプール)だった。カウル大佐はカビールを捕まえるため、チームにヴィクラム・チェーラパティ(NTRジュニア)とルートラー大佐の娘カーヴィヤー(キヤーラー・アードヴァーニー)を入れる。カビールは、元恋人ナイナー(ヴァーニー・カプール)の娘ルーヒー(アリスター・メヘター)の養育していた。ヴィクラムはルーヒーの存在に目を付け、彼女を見張ってカビールが現れるのを待つ。カビールはまずカーヴィヤーの攻撃を受け、次にヴィクラムから執拗に追われるが逃げ切る。カビールはルーヒーをカーリド(タイガー・シュロフ)の母親ナフィーサー(ソーニー・ラーズダーン)に預ける。

 カビールはカリーのインド代表ガウタム・グラーティー(KCシャンカル)と会い、彼からインド中央政府で大臣を務めるヴィラースラーオ・サーラング(ヴァルン・バドーラー)の家族の暗殺を命じられる。任務遂行前にカビールはヴィクラムと密会し、カリー撲滅作戦に従事中であることを明かして、パートナーシップを結ぶ。カビールは飛行機で移動中のサーラングの家族を空中で襲撃するが、作戦を実行しているように見せかけてヴィクラムと協力して作戦を妨害する。だが、実はヴィクラムはカリーの一員だった。ヴィクラムはカビールの目の前でサーラング大臣の家族を殺す。そしてカビールにパラシュートを渡しつつ飛行機から突き落とす。カビールは、ヴィクラムがかつての親友ラグであることを悟る。ラグは、両親の死後にストリートチルドレンとなったカビールに路上での生き方を教えた師匠であった。彼らは一緒に少年院に入ったが、カビールだけがルートラー大佐に見出され、兵士として採用された。ラグはそのまま行方をくらましたのだった。

 カビールはグラーティー暗殺に向かうが、ヴィクラムが現れ、自らグラーティーを殺す。カビールは脱出するが、ヴィクラムはグラーティー暗殺の罪をカビールになすりつける。カビールはカーヴィヤーと密会し、彼女に事情を説明する。カーヴィヤーはサーラング大臣に連絡するが、実はサーラング大臣はカリーの仲間で、カビールとカーヴィヤーは刺客に襲われる。二人を助けたのがカウル大佐であった。カウル大佐は生前にルートラー大佐とカリー撲滅について相談していた仲であった。

 カリーの狙いはインド首相だった。インド首相はサーラング大臣と共にダボスを訪問中で、首相の警護をヴィクラムが任されていた。首相の命が危ないと悟った彼らはダボスへ飛ぶ。カビールはサーラング大臣を暗殺し、ヴィクラムも負傷させる。ヴィクラムはカリーからグラーティーの後継者に目されていたが、サーラング大臣をみすみす殺されてしまったことで信用を失う。ヴィクラムは24時間だけ猶予をもらい、カビールを呼び出す。カビールは罠だと知っていながらヴィクラムの誘いに乗る。

 カビールとヴィクラムは氷の洞窟で対決する。一方、インド首相はダボスから飛行機で出立しようとしていたが、ヴィクラムの手下から攻撃を受ける。カウル大佐とカーヴィヤーが首相を死守し、脱出する。カビールは死闘の末ヴィクラムを倒す。インドに戻ったカウル大佐は、カビールが全ての黒幕であること、また、ヴィクラムが死んだことを報道陣に公表する。

 ところがヴィクラムは生きており、カビールと共に世界中を飛び回ってカリーのメンバーを殺して回っていた。

 まず、明らかに日本を意識した作品であった。映画はいきなり鎌倉から始まる。とはいっても我々日本人の目からしたらちっとも鎌倉ではないのだが、鎌倉ということにしておこう。雪山の頂上にある中国風の屋敷でヤクザと思われる親分が75歳の誕生日パーティーを開いている。そこへカビールが乱入し、ヤクザの親分を暗殺するのである。カビールに襲い掛かる暴徒たちは侍だったり忍者だったりする。一昔前のハリウッドのアクション映画みたいだ。しかも、リティク・ローシャンが日本語をしゃべる。「Pushpa 2: The Rule」(2024年)の冒頭でもアッル・アルジュンが日本語をしゃべっていたのを思い出した。日本のモチーフはこれだけかと思ったら、なんと最後にも出て来る。それは「金継ぎ」である。なぜかインドのインテリ層の間では「日本哲学」が人気で、壊れた器を金でつなぎ新たな価値を与える「金継ぎ」の技術も意外によく知られている。「Pathaan」でも金継ぎについて触れられていた。こうして、「War 2」は日本で始まり日本で終わる作品になっており、日本に対して強烈な秋波が送られているのである。

 前作「War」も世界各地が舞台になったスケールの大きなアクション映画だったが、いきなり日本から物語が始まることからも分かるとおり、この「War 2」も前作を上回る規模で世界のあちこちに舞台が移動する。オランダのアムステルダム、スペインのサラマンカ、UAEのアブダビなど、世界を転々としながらストーリーが展開していく。アクションシーンもバラエティーに富んでおり、殺陣もあれば空中戦もあり、古都でのカーチェイスもあればモーターボートによる海上チェイスもある。どこかで見たようなアクションシーンがないではなかったが、「War」の続編に期待していたものはそつなく揃えられていたといっていいだろう。

 物語の軸になるのは、リティク・ローシャン演じるカビールと、NTRジュニア演じるヴィクラム/ラグの友情と敵対である。こう聞くと、インド映画ファンなら思い浮かぶ映画があるだろう。そう、「RRR」である。「RRR」では、ラーム・チャラン演じるラーマとNTRジュニア演じるビームの友情と敵対が描かれた。この構造が「War 2」にそっくりそのまま移植されていたといっていい。アクションシーンは派手であるほど映えるが、あくまで飾りだ。だが、主人公二人の人間関係は物語の軸であり、それがここまでそっくりだと、観客に既視感を与えてしまうことは否めない。

 リティクとNTRジュニアの共演はそれだけで注目されるのだが、どちらも各映画界で屈指のダンサーとして知られており、やはり彼らが一緒に踊るところがもっとも楽しみにされていた。もちろん、ダンスで共演するナンバーは用意されており、それが「Janaabe-Aali」になる。カビールとヴィクラムがパートナーシップを結んだ瞬間に始まるダンスであり、両者一歩も引かずに超絶ダンスを繰り出す。ただ、前作の「Jai Jai Shivshankar」で踊りのうまいタイガー・シュロフと似たような友情ダンスを踊っていたので、ここでも焼き直し感は否めない。

 また、リティクとNTRジュニアのケミストリーが最高だったかと問われれば答えに窮する。やはり、大スターの共演というのは、どちらの顔も立てなければならないので、ストーリーの組み立てやキャラの設定は難しい。どちらかといえばNTRジュニアの方がヒンディー語映画の雰囲気になじめていない感じがした。ヴィクラムを最後に殺さなかったのも、テルグ人への配慮であろう。

 「War 2」は、リティク・ローシャンとタイガー・シュロフが共演したスパイアクション映画「War」の続編であり、前作を上回るスケールのアクション大作に仕上がっている。また、NTRジュニアがヒンディー語映画デビューし、リティクとダンス合戦を繰り広げるなど、話題性もたっぷりだ。まずまずの興行収入は上げているが、製作費が高かったために黒字にはなっていないようで、ヒットとは評価されていない。期待通りではあった。だが、期待以上のものはなかった。そんな映画であった。