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2024年12月5日公開のテルグ語映画「Pushpa 2: The Rule」は、大ヒットした「Pushpa: The Rise」(2021年/邦題:プシュパ 覚醒)の続編である。前作では、紅木(レッド・サンダルウッド)の密輸に労働者として関わっていたプシュパーがシンジケートのリーダーにのし上がるまでを描いた。ストーリー上のつながりがあり、前作を鑑賞済みであることを前提にストーリーが展開するため、「Pushpa 2」を楽しむために前作の鑑賞は必須だ。
監督はスクマール。音楽はデーヴィー・シュリー・プラサード。主演はアッル・アルジュン、ヒロインはラシュミカー・マンダーナー。キャストのほとんどは前作と共通である。ファハド・ファースィル、ジャガディーシュ・プラタープ・バンダーリー、ジャガパティ・バーブー、スニール、アナスーヤ・バーラドワージ、ラーオ・ラメーシュ、ダナンジャヤ、シャンムク、タラク・ポンナッパー、アジャイ、シュリーテージ、パヴァニー・カラナム、サウラブ・サチデーヴァ、アーンチャル・ムンジャル、アーディティヤ・メーナン、アードゥカラム・ナレーンなどが出演している。また、シュリーリーラーが「Kissik」にアイテムガール出演している。
インド旅行中の2024年12月29日にデリーのコンノートプレイスにあるPVRリヴォリで鑑賞した。「Pushpa 2」はテルグ語版に加えてヒンディー語版、タミル語版、カンナダ語版、マラヤーラム語版、ベンガル語版も公開されたが、鑑賞したのはヒンディー語版であった。ヒンディー語版でアッル・アルジュンの声を担当したのはシュレーヤス・タールパデーである。また、鑑賞したのは3Dバージョンだった。チケット代は390ルピーで、その内150ルピーは食券になっており、飲食物の購入に使用できた。
前作でプシュパー・ラージ(アッル・アルジュン)から屈辱を受けたバンワル・スィン・シェーカーワト警視(ファハド・ファースィル)は、紅木の違法伐採現場に潜入し労働者たちを逮捕する。だが、プシュパーはシェーカーワト警視の留守中に警察署を訪れ、その場にいた警察官たちを買収して、悠々と労働者たちを救い出す。プシュパーの名前はデリーまで届くことになった。 プシュパーは、妻シュリーヴァッリ(ラシュミカー・マンダーナー)に頼まれ、アーンドラ・プラデーシュ州のナラスィンハ・レッディー州首相(アードゥカラム・ナレーン)に会いに行く。彼は州首相と一緒に写真に写りたかっただけだったが、州首相は密輸業者と同じフレームに収まることを拒否した。プシュパーは、懇意にしている州議会議員ブーミレッディー・スィッダッパ・ナーイドゥ(ラーオ・ラメーシュ)を州首相にすることを決め、中央で大臣をするコガタム・ヴィーラ・プラタープ・レッディー(ジャガパティ・バーブー)と交渉する。そして、大臣に50億ルピーの賄賂を送ることを約束する。 プシュパーは資金作りのため、モルディブで国際的なバイヤーのハミード(サウラブ・サチデーヴァ)と会って商談をまとめ、2,000トンの紅木を500億ルピーで売ることを決める。しかしながら、シンジケート内部ではリーダーをプシュパーからマンガラム・シュリーヌ(スニール)に変えようとする動きが起こっていた。スィッダッパ議員はプシュパーとシェーカーワト警視の仲直りを演出しようとする。プシュパーはいったんシェーカーワト警視に謝罪するが、すぐに引き返し、シェーカーワト警視に挑戦をする。彼はこれから2,000トンの紅木をチェンナイに運ぶと宣言し、もし一部でも押収したら自分はシンジケートを止めて労働者に戻ると約束する。シェーカーワト警視、シュリーヌ、そして彼の妻ダクシャヤニー(アナスーヤ・バーラドワージ)は何としてでも紅木の密輸を止めようとする。 シェーカーワト警視はアーンドラ・プラデーシュ州とタミル・ナードゥ州の州境を完全に封鎖する。プシュパーは、水量の減った川を輸送路にしてトラックを走らせるが、それを察知したシェーカーワト警視によって阻止される。シェーカーワト警視は大量の紅木の押収に成功し、得意になってメディアに披露する。ところがシュリーヌは、それが紅木ではなく別の材木であると見抜く。プシュパーは本物の紅木を牛車にしてアーンドラ・プラデーシュ州外に持ち出すことに成功していた。シェーカーワト警視はラーメーシュワラムまで紅木を追っていく。だが、タッチの差で紅木はスリランカに運ばれていってしまった。シェーカーワト警視は大量の偽紅木を抱えてしまい、彼の失態が明るみに出るのは時間の問題だった。 2,000トンの紅木の売却に成功したプシュパーは大金を手にし、それを元手に買収を行って、宣言通りスィッダッパを州首相にしてしまう。プシュパーはスィッダッパ州首相を自宅に招待し、家族と一緒に写真を撮る。カーリー女神祭にてシュリーヴァッリの妊娠が分かる。プシュパーはカーリー女神に扮して踊りを踊り、生まれてくる子供が女の子であることを祈った。だが、この祭りでプシュパーの姪にあたるカーヴェーリー(パヴァニー・カラナム)が、突然現れたチンピラ、コガタム・バッガー・レッディー(タラク・ポンナッパー)から嫌がらせを受ける。プシュパーは公衆の面前でバッガーを打ちのめす。だが、実はバッガーはヴィーラ大臣の甥であった。後にバッガーはカーヴェーリーを誘拐し、身代金を要求する。 それを聞いたプシュパーは身代金を持って単身バッガーのアジトを訪れる。プシュパは手足を縛られ、リンチを受ける。だが、その状態でもプシュパーはめっぽう強く、バッガーの手下たちを次々に殺戮していく。最後にはバッガーの父親コガタム・スッバ・レッディー(アーディティヤ・メーナン)の前でバッガーを殺し、スッバも殺す。 カーヴェーリーの父親モッレティ・モーハン・ラージ(アジャイ)は彼女を結婚させることにし、異母弟のプシュパーも招待する。モーハンはプシュパーを嫌っていたが、一連の事件を通して彼に敬意を表するようになっていた。プシュパーは結婚式場に姿を現し、モーハンと仲直りする。だが、その式場で爆弾が爆発する。
驚くべきことに「Pushpa 2」は日本の横浜港から始まる。プシュパは支払いが滞っている日本の取引相手から代金を徴収するため、レッドサンダルウッドを積んだコンテナの中に40日間潜伏し、日本まで密航して上陸した。そして、そこに現れた日本のヤクザたちと対峙する。なんとその40日間でプシュパは日本語をマスターしていた。日本語でのやり取りがあった後、プシュパとヤクザたちとの間で戦いが始まる。
ただ、この日本のシーンはストーリー本編とはあまり関係がなく、日本向けのサービスだと感じた。おそらく「RRR」(2022年/邦題:RRR)の日本での成功を横目で見て、「Pushpa」シリーズも日本で売りこもうとしているのだと思われる。ラジニカーント映画では若干このような日本人ファン向けのサービスが見られたのだが、テルグ語映画界までが日本にあからさまな形で秋波を送ってくれる時代が到来するとは隔世の感がある。もしかしたらアッル・アルジュンも「Pushpa 2」の日本公開時に日本に招待してほしいと思っているのかもしれない。もっとも、前作の冒頭でも日本が出て来たため、そういうお約束にしているだけという可能性も否定できない。
「Pushpa 2」の副題が「The Rule(支配)」になっていることからも分かるように、今作では紅木の密輸を牛耳るプシュパーが、州首相の交代まで口だしできるほどの権力を持つようになったことが描き出される。率先してプシュパーを執拗に追い落とそうとするのは、前作でプシュパから裸にされて屈辱を受けたシェーカーワト警視であるが、彼にしてもプシュパーの前ではまるで赤子のようである。何をやってもプシュパーにはまんまと出し抜かれてしまう。もはやプシュパーの支配権を脅かす相手は誰もいないように見えた。
だが、一方で「Pushpa 2」では前作に引き続いてプシュパーの抱える劣等感にも焦点が当てられていた。彼は妾の子供であり、血筋にコンプレックスを抱いていた。プシュパーの血統に正統性がないことを事あるごとにあげつらっていたのが異母兄のモーハンである。最強に見えたプシュパーにも、血筋という弱みがあった。彼は生まれてくる子供が女の子であることを願ったが、その理由も血筋だった。もし男の子が生まれたら、プシュパーは息子に与えるべき家柄がなかった。女の子ならば別の家に嫁いでいくため、そこで家柄を得ることができる。だが、そんな彼の劣等感をよく理解し、心の支えになっていたのが妻のシュリーヴァッリであった。確かにプシュパーは妾の子供かもしれないが、プシュパーは自分自身の力でシンジケートのボスにのし上がり、人々から慕われていた。家柄しかない人間よりもよほど立派であった。それは前作でプシュパーがシェーカーワト警視に放った言葉でもあったのだが、今作ではこの点ではプシュパーは弱気になっており、シュリーヴァッリの支援を必要としていた。
「Pushpa 2」は、モーハンとプシュパの和解を結末としている。モーハンの娘カーヴェーリーが誘拐され、プシュパは彼女を命がけで救い出した。それがモーハンの心変わりを促し、プシュパを家族の一員として認め、カーヴェーリーの結婚式に彼を招待することにしたのだった。
プシュパの劣等感とも無関係ではないが、「Pushpa 2」では女性に関するモチーフが目立った。まずは妻シュリーヴァッリの強さだ。泣く子も黙るプシュパを完全に尻に敷いており、性的な主導権も握っている。プシュパの劣等感を誰よりもよく理解し、彼を侮辱しようとするモーハンに敢然と立ち向かうこともできた。前作ではプレゼンスが弱かったシュリーヴァッリは今作でようやく本領を発揮した。生まれてくる子供は女の子がいいという願望も、インドでは珍しいものだ。通常、インド人は男児を望む。だが、プシュパは女の子を望んだ。
映画の大きな佳境である女神祭では、プシュパは顔に化粧をし女性の格好をして鬼気迫る踊りを踊る。ヒンディー語版では「Kaali Mahaa Kaali」という曲名で、カーリー女神の祭りになっていたが、オリジナルのテルグ語版では「Gango Renuka Thalli (Jathara)」となっており、アーンドラ・プラデーシュ州ティルパティで行われる女神祭のようである。ガンガンマー女神は、地元の女性に性的暴行を加えて回っていた男性を殺した。それを祝う祭りである。女性の安全や女神の崇拝という点で完全に女性モチーフである。前作は「有害な男性性」批判を受けることになったが、その反動で「Pushpa 2」では女性を持ち上げるような内容に軌道修正したのかもしれない。
アクションシーンやダンスシーンにはとても金が掛かっていて、大スクリーンで3D版を観たこともあって、非常に迫力があった。特に最後のアクションシーンは壮絶だった。手足を縛られてもプシュパーは蛇のように自由自在に動き回り、敵を次々に倒していく。その鬼気迫る映像には圧倒されっぱなしだった。ちなみに前作ではプシュパーは目隠しされ手を縛られながらも圧倒的な強さを誇っていた。自由を奪われながらも猛然と戦うシーンは「Pushpa」シリーズの伝統となっていくのだろうか。
前作の「The Rise」で一気に汎インドスターにのし上がったアッル・アルジュンだが、この「The Rule」で本当にインド全土を支配する大スターになったといえる。演技力、ダンス力、スターとしてのオーラ、全てが揃っており、しかもキャリアの絶頂期にある。既にテルグ語映画の枠を超えたスターだ。ラシュミカー・マンダーナーもアルジュンとの相性抜群であり、見せ場も多くて良かった。敵役シェーカーワト警視を演じたファハド・ファースィルのコミカルな憎々しさはプシュパーのふてぶてしさと対照的で相乗効果を演出していた。
「Pushpa 2: The Rule」は、前作を遥かに超えるスケールでレッドサンダルウッドの密輸王プシュパのヒーロー振りを描きだした娯楽超大作である。2024年の最大のヒット作になっているが、それだけのパワーはある作品だ。日本のファン向けのサービスがあるのも見逃せない。映画の最後では「Pusha 3: The Rampage(大暴れ)」のアナウンスもされていた。久々にインドの映画館で3D版を観たからであろうか、それとも作品そのものにそれだけの力があるのか、鑑賞後もずっと酔いと余韻が残るような、そんな中毒性のある映画で、前作から是非観てほしい作品だ。