Tiger Zinda Hai

3.5
Tiger Zinda Hai
「Tiger Zinda Hai」

 サルマーン・カーン主演の大ヒット映画「Ek Tha Tiger」(2012年)は、インドの対外諜報機関RAWのエージェント、タイガーが主人公のスパイ映画であった。日本でも「タイガー 伝説のスパイ」の邦題と共に公開された。この映画では、パーキスターンの対外諜報機関ISIがライバルとして登場し、タイガーはそのエージェントの1人、ゾーヤー(カトリーナ・カイフ)と恋に落ちる。結末でタイガーとゾーヤーは共に逃げ出し、行方不明となる。その続編、「Tiger Zinda Hai(タイガーは生きている)」は、2017年12月22日公開の続編で、ストーリー上もつながりを持っている。

 前作の監督はカビール・カーンであったが、「Tiger Zinda Hai」の監督はアリー・アッバース・ザファルにバトンタッチしている。ザファル監督は「Sultan」(2016年)などの監督である。主演は前作から引き続きサルマーン・カーンとカトリーナ・カイフが務める。他に、前作と同じくギリーシュ・カルナードがタイガーの上官シェノイ、ガーヴィー・チャハールがISIのアブラールを演じている。その他は新たなキャストとなり、パレーシュ・ラーワル、クムド・ミシュラー、アンガド・ベーディー、サール・ユスーフ、そしてイラン人俳優サッジャード・デーラーファルーズが悪役で出演している。

 「Tiger Zinda Hai」は、イラクのティクリートで2014年にインド人看護婦46名がISISに人質となり、後に解放された事件をベースとしているが、ほとんどがフィクションである。

 「Ek Tha Tiger」から8年後、ISISをモデルとしたイスラーム教原理主義武装集団ISCがティクリートに侵攻した。ISCの首領アブー・ウスマーン(サッジャード・デーラーファルーズ)が怪我をしたことから、ISCは病院を占拠し、25名のインド人看護婦と15名のパーキスターン人看護婦を人質にした。米軍はアブー・ウスマーンと人質もろとも病院を空爆しようとしていたが、インド政府は1週間だけ猶予を得ることに成功する。RAWは、行方不明となっていたタイガーを見つけ出し、看護婦救出作戦を任せる。

 タイガーは、RAWのエージェントであるスナイパーのアザーン、ハッカーのラーケーシュ、爆弾処理専門家ナミトをチームとして呼び集め、ISC支配地域に潜入する。そこでISCに労働者を斡旋する仕事をするフィルドース(パレーシュ・ラーワル)とも出会うが、彼もRAWのエージェントであった。パーキスターン人看護婦も囚われていたことから、タイガーの妻ゾーヤー(カトリーナ・カイフ)と他のISIエージェントも作戦に加わる。彼らは協力して作戦を実行し、看護婦を救出すると同時に、アブー・ウスマーンの暗殺を狙う。ところが、病院はISCの拠点となっており、厳重な警戒態勢が敷かれていた。

 空爆のタイムリミットが迫る中、病院に怪我人として搬送された4人のRAWエージェントがどのように看護婦を脱出させるかが見物のアクション映画だ。スパイ映画と言っても派手なドンパチ満載なのはインド娯楽映画の常であり、サルマーン・カーンはもちろんのこと、カトリーナ・カイフも獅子奮迅のアクションを繰り広げる。ハリウッドのスタント・コーディネーター、トム・ストラザーズを起用しているだけあり、アクションシーンは迫力がある。

 だが、「Tiger」シリーズが重視しているのは、印パの親善である。「Ek Tha Tiger」でもRAWとISIが手を組むシーンがあったが、「Tiger Zinda Hai」では公式にこの敵対機関が共同で作戦を実施する。それは共通の目的のためだった。

 また、イスラーム教徒のRAWエージェントが、作戦終了後にインドの旗を掲げたいと語る場面がある。インドのイスラーム教徒は、多数派であるヒンドゥー教徒の抑圧にさらされており、イスラーム教徒であるだけでテロリストと同一視されることもある。だが、イスラーム教徒も愛国心を持っており、インドの国民の一人なのだということが主張されていた。作戦成功後、救出した看護婦たちを乗せたバスに印パ両国の旗がはためくのは感動的かつレアなシーンだ。

 また、ISCの首領アブー・ウスマーンも、知的なテロリストとして描写されていた。彼は在印シリア大使の息子で、インド在住経験もあり、米国での大学時代はガーリブとイクバールという南アジアの偉大な詩人たちについて研究をしたインテリである。だが、911事件によって人生は一変し、グアンタナモ収容所に収監され、米国に復讐を誓うようになった。このような背景からも、一方的にイスラーム教徒を悪役として描写しないような配慮がうかがわれた。

 ちなみに、タイガーが雪の上にゾーヤーの顔を描くシーンがあるが、この絵はサルマーン・カーンが自分で描いたものらしい。サルマーン・カーンとカトリーナ・カイフが過去に付き合っており、前作「Ek Tha Tiger」の頃には既に別れていたが、友人関係は続いているようである。今回の共演にも支障はなかったようだ。

 「Tiger Zinda Hai」は、2012年の「Ek Tha Tiger」の続編であり、前作から8年後の世界が舞台だ。2014年にイラクで起こったインド人看護婦人質事件から着想を得ているが、ほぼ娯楽方向にエネルギーを注ぎ込んだアクション映画である。ただ、印パ親善やイスラーム教徒への配慮が感じられ、単なるアクション映画に終わらない魅力がある。