Race 2

3.0
Race 2
「Race 2」

 最近ヒンディー語映画界では猫も杓子も続編の様相となっており、2013年も多くの続編映画が公開される。2013年1月25日より公開されている「Race 2」も、2008年に公開された大ヒット・スリラー映画「Race」の続編である。監督は前作と同様にアッバース・マスターン。前作からストーリーのつながりがあり、前作が終わった時点から話が始まる。よって、登場人物の何人かも前作と共通している。

監督:アッバース・マスターン
制作:ラメーシュ・S・タウラーニー、ロニー・スクリューワーラー、スィッダールト・ロイ・カプール
音楽:プリータム、アーティフ・アスラム
歌詞:マユール・プーリー、プラシャーント・インゴーレー、ヨー・ヨー・ハニー・スィン
出演:サイフ・アリー・カーン、ディーピカー・パードゥコーン、ジョン・アブラハム、ジャクリーン・フェルナンデス、アニル・カプール、アミーシャー・パテール、ラージェーシュ・カッタル、アーディティヤ・パンチョーリー、ビパーシャー・バス(特別出演)
備考:DTスター・プロミナード・ヴァサントクンジで鑑賞。

 前作で100万ドルの保険金を手に入れたランヴィール・スィン(サイフ・アリー・カーン)と恋人ソニア(ビパーシャー・バス)はキプロス島でバカンスを楽しんでいた。ところが、ランヴィール・スィンが自動車から降りたときに、暗殺者によって自動車を爆破され、乗っていたソニアは死んでしまう。ランヴィールは暗殺者を追跡して殺す。彼の持っていた携帯電話から、トルコのカジノ王ヴィクラム・ターパル(ラージェーシュ・カッタル)の名前が浮上する。さらに調べた結果、ソニア暗殺の張本人は、ストリートファイターから大富豪にのし上がったアルマーン・マリク(ジョン・アブラハム)であることが分かる。アルマーン・マリクは腹違いの妹エレーナ(ディーピカー・パードゥコーン)と共に財閥を築き上げていた。また、アルマーンにはオミーシャー(ジャクリーン・フェルナンデス)という恋人がいた。ランヴィールはヴィクラムとアルマーンへの復讐を計画し始める。

 ランヴィールはまず旧知の探偵ロバート・デコスタ、通称RD(アニル・カプール)の助けを借りて、アルマーンに近付く。RDにはチェリー(アミーシャー・パテール)という新しい秘書がいた。ランヴィールはアルマーンに、ヴィクラムがトルコに持つ5つのカジノを安価で手に入れるプランを伝える。何よりも金が好きなアルマーンはそれに乗る。ランヴィールは、最近何者かにユーロ原盤が盗まれたというニュースを利用してヴィクラムを騙し、彼の所有するカジノをアルマーンにまんまと買収させる。

 この一件でアルマーンはランヴィールを信用したと思いきや、裏で彼の身辺調査を進めていた。ランヴィールがソニアの恋人であることが分かると、自分の恋人オミーシャーをソニアの妹タニヤということにして、ランヴィールに接近させる。彼女はアルマーンを暗殺するために彼の恋人の振りをしていると明かす。だが、ランヴィールは以前にタニヤの写真を見たことがあり、彼女がタニヤでないことを知っていた。しかし、表面上は騙されている振りをする。また、エレーナはランヴィールを気に入り、彼の部屋に押しかけて一夜を共にする。

 ランヴィールはアルマーンを破滅させるため、危険なプランに誘う。それはトリノの聖骸布を盗み出すという大胆なものだった。アルマーンはランヴィールの意図を知りながらも、それを逆手に取って大儲けすることを画策し、その誘いに乗る。その資金としてアルマーンはゴッドファーザー・アンザ(アーディティヤ・パンチョーリー)から大金を借りることにする。アンザはストリートファイター時代からアルマーンを可愛がっていた。現在アンザの下にはタイフーンというストリートファイターがおり、それに勝ったら金を貸すと約束する。アルマーンはタイフーンとストリートファイトをし、見事勝利する。

 一方、イタリアではランヴィールがRDの助けを借りてトリノの聖骸布を盗み出していた。そして聖骸布の偽物をバイヤーに売り渡し、多額の証券を手にする。ところが、その成功を祝う場でアルマーンはランヴィールを毒殺する。そしてアルマーンは、ランヴィールがイタリアの空港に隠していた本物の聖骸布を手にする。

 アルマーン、エレーナ、オミーシャーは自家用ジェット機でトルコへ帰途に就いていた。だが、元々アルマーンはエレーナを殺そうとしており、飛行機の中でエレーナに銃口を向ける。しかしそこへ死んだはずのランヴィールが突入して来る。実はランヴィールとエレーナは裏で通じており、毒殺による死も演技であった。アルマーンとランヴィールは機中で決闘するが、その中で飛行機がダメージを受け、墜落寸前となる。アルマーンとオミーシャーは聖骸布と証券を持ってパラシュートで脱出するが、ランヴィールとエレーナも事前に脱出の準備をしており、無事に生き延びる。

 アルマーンとオミーシャーはアンザに聖骸布を渡す。ところがこれも偽物であった。しかもアルマーンが持っていた証券も偽物であった。ランヴィールに騙されたアルマーンはアンザに借金を返すことができず、彼の所有物は全て取り上げられてしまった。しかも恋人のオミーシャーもアンザのものになってしまった。

 一方、ランヴィールとエレーナはRD、チェリーと落ち合う。RDもアルマーン側かと思われたが、やはりランヴィールの味方であった。2人は各々エレーナとチェリーを連れ、セスナ機に乗り別々の方向へ飛び立って行く。

 登場人物のそれぞれが陰謀を巡らしており、映画の途中でそれが何度も明かされるのだが、誰が最終的に騙されているのか観客は最後まで分からないという展開のスリラー映画であった。しかし、騙し合いがあまりに高度過ぎて予定調和の罠にはまっており、現実味がなかった。現実味がないということはスリラー映画に重要なハラハラドキドキ感がないということであり、この映画の大きな欠点となっていた。「Race」でも「Race 2」でも、死んだはずのランヴィールが突如登場し、大どんでん返しとなるのだが、どうもこの「Race」シリーズでは、もし今後も続いて行くのなら、それがお約束となりそうだ。

 アッバース・マスターン監督の映画は基本的にチープさが持ち味で、その馬鹿馬鹿しさを楽しむものである。「Race 2」も例に漏れず馬鹿馬鹿しい展開が続く。なぜヴィクラム・ターパルはランヴィールから偽札を全く確認せずに受け取ったのか、なぜ大富豪のアルマーンが借金するためにストリートファイトをしなければならないのか、なぜ飛行機の中で自動車を運転するのか、なぜその自動車が4つのパラシュートだけで宙に浮かぶのか、などなど、細かいところを突っ込んで行くとキリがない。そういうのを笑って見過ごせる人向けのエンターテイメントだ。

 しかし、そんな「Race 2」で一番印象に残ったのは、ディーピカー・パードゥコーンの存在感のなさとアミーシャー・パテールの凋落振りであった。

 ディーピカー・パードゥコーンは、もうすぐ日本でも一般公開される「Om Shanti Om」(2007年)でヒンディー語映画デビューして以来、将来を嘱望されて来た女優なのだが、ここに来て低迷が続いており、同年代のライバル女優たちに差を開けられている。ただいい作品に恵まれていないだけかもしれない。しかし、「Race 2」の彼女からは「Om Shanti Om」の頃の覇気が感じられず、単なる飾りに過ぎなかった。このまま没落することはないと思うが、何か一発大きな花火が欲しいところだ。

 目に手も当てられないのはアミーシャー・パテールである。「Kaho Naa… Pyaar Hai」(2000年)でデビューし、「Gadar: Ek Prem Katha」(2001年)で大きく躍進したはずだが、その後はほとんど鳴かず飛ばずで10年以上が過ぎてしまった。なぜかデリータイムスなどの新聞への露出は多いのだが、「Race 2」の彼女からは、かつてのあの栄光は全く感じられず、無常感を味わった。今回彼女が演じたのは胸が大きいだけの馬鹿女役である。彼女ほどの長いキャリアのある女優が演じるような役ではない。こんな役しかもらえなかったのか、もしかしたらお金払って出演させてもらったのか。そんな邪推をしたくなってしまうほどであった。

 上の2人に比べて健闘していたのがスリランカ人女優ジャクリーン・フェルナンデスである。特にランヴィールとフェンシングで対決するシーンなどはかなり迫力があった。あまりヒンディー語映画ヒロイン向けの顔ではないと前々から思っているのだが、彼女なりの活躍の場を見つけて行けるかもしれない。

 女優陣に比べたら男優陣は適材適所に活き活きと演技をしていた。主演のサイフ・アリー・カーンは「死なない男」をハードボイルドに演じ切っていたし、ジョン・アブラハムも見事な悪役振りであった。アニル・カプールについては、前作2008年の時点とはだいぶ立場が変わっている。彼が出演した「Slumdog Millionaire」(2008年)の世界的な成功のおかげで、国際的な俳優になってしまった。そんな彼が2008年時に出演した映画の続編で前作と同じ色物キャラを演じている姿を見ると、どこか違和感も感じてしまうのだが、さすが演技力はある男優であり、映画の息抜きとなっていた。

 音楽は前作と同じプリータム。前作でテーマ曲的に使われていた「Race Saanson Ki」のサビが本作でも繰り返されており、「Allah Duhai Hai」という曲になっている。豪華なダンスシーンだが、振り付けや衣装が変だ。映画から切り離して完成度が高いダンスシーンはビーチで踊る「Party On My Mind」であろう。他に特筆すべきはサイフ・アリー・カーンとディーピカー・パードゥコーンのベッドシーンに流れる「Be Intehaan」であろうか。パーキスターンの人気歌手アーティフ・アスラムが歌っている。

 映画は、ムンバイー・ロケを除けば、主にトルコで撮影されているようである。トルコはここのところヒンディー語映画の人気ロケ地となっており、「Guru」(2007年)、「Mission Istaanbul」(2008年)、「Game」(2011年)、「Ek Tha Tiger」(2012年)など、数多くのトルコ・ロケ映画が作られている。トルコ政府がロケ地誘致に積極的であるのがそのひとつの要因のようだ。最近トルコ航空のCMもよく見掛ける。

 「Race 2」は、チープな映画作りが魅力のアッバース・マスターン監督らしい娯楽作。騙し騙され誰が最終的に騙されているのか分からないという展開が売りだが、そのどんでん返しの連続に付いて行くのにはかなり思考力を要する。スリラー映画としての完成度は中程度か。今回主な登場人物は生き残っており、さらなる続編が作られる可能性は高い。