Game

2.5

 2011年2月末からクリケット・ワールドカップが開催されている影響で、ヒンディー語映画界は自粛モードに入っており、ここ1ヶ月間まともな新作は公開されなかった。だが、そのワールドカップも4月2日の決勝戦でもって終了するため、今週から映画公開が始まった。本日(2011年4月1日)公開のヒンディー語映画は主に2本。「Game」と「F.A.L.T.U.」(2011年)である。どちらも新人監督の作品になるが、前者はスリラー、後者はコメディーで作りは全く逆だ。

 「Game」の監督はアビナイ・デーオ。「Dil Chahta Hai」(2001年)、「Don」(2006年)、「Rock On!!」(2008年)などでコンビを組んでいるリテーシュ・スィドワーニーとファルハーン・アクタルがプロデュースしている。主演はアビシェーク・バッチャン他。マルチヒロイン型映画だが、最近「Tanu Weds Manu」(2011年)が当たって絶好調のカンガナー・ラーナーウトがメインヒロインと言える。

監督:アビナイ・デーオ(新人)
制作:リテーシュ・スィドワーニー、ファルハーン・アクタル
音楽:シャンカル・エヘサーン・ロイ
歌詞:ジャーヴェード・アクタル
振付:ヴァイバヴィー・マーチャント、シヤーマク・ダーヴァル
衣装:ジャイマル・オベドラ
出演:アビシェーク・バッチャン、カンガナー・ラーナーウト、アヌパム・ケール、ボーマン・イーラーニー、シャハーナー・ゴースワーミー、ガウハル・カーン、ジミー・シェールギル、サラ・ジェーン・ディアス(新人)
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 世界各地に住み全く接点のない四人――トルコのイスタンブール在住カジノ・オーナー、ニール・メーナン(アビシェーク・バッチャン)、タイのバンコク在住政治家で新政党を立ち上げ次期首相を狙うOPラムゼイ(ボーマン・イーラーニー)、インドのムンバイー在住スーパースター、ヴィクラム・カプール(ジミー・シェールギル)、英国のロンドン在住犯罪ジャーナリスト、ティシャー・カンナー(シャハーナー・ゴースワーミー)――のもとに、世界的大富豪カビール・マロートラー(アヌパム・ケール)から手紙が届き、彼らはギリシアのサモスに招待される。四人はそれぞれ問題を抱えており、それを解決するためにサモスへ行くことを決意する。

 サモスの孤島に位置するカビールの豪邸にやって来た四人をカビールの秘書サマラー・シュロフ(ガウハル・カーン)が迎える。カビールは四人を前に、一人の女性の話を始める。

 その女性の名前はマーヤー(サラ・ジェーン・ディアス)。マーヤーは幼くして人身売買の餌食となり、バンコクの孤児院に送られた。その孤児院は当時ラムゼイが経営していたが、その実態は売春宿であった。マーヤーは幼少時からその過酷な環境の中で育つ。だが、遂にマーヤーは逃亡に成功し、流れ流れてイスタンブールのカジノでダンサーをして生計を立てるようになる。そのカジノのオーナーがニールであった。だが、ニールの裏の顔は麻薬のブローカーであった。マーヤーもその片棒を担ぐようになる。その後マーヤーはムンバイーに戻るが、夜道を歩いているときに交通事故に遭う。彼女を牽いたのがヴィクラムであった。ヴィクラムは事故を隠蔽しようとし、マーヤーを埋めようとする。だがこのときマーヤーはまだ生きていた。ヴィクラムもそれに気付いていたが、そのまま生き埋めにしてしまった。

 カビールが明かしたところによると、マーヤーは彼の娘であった。マーヤーはカビールの元恋人の子であったが、彼の子供を身ごもっていたことは3年前に初めて分かった。そのときから、マーヤーの人生を狂わした人間に復讐しようと計画を練っていたのだった。また、マーヤーは双子であった。マーヤーの姉妹、つまりカビールのもう一人の娘こそがティシャーであることもカビールは明かす。だが、ティシャーはカビールを父親として受け容れようとはしなかった。また、ラムゼイ、ヴィクラム、ニールも罠にはめられたことを怒るが、絶海の孤島にあるカビールの邸宅から逃げることは不可能であった。翌日、ロンドンに拠点を置く国際監視機関からエージェントがやって来ることになっていた。四人はそれぞれ不安な夜を過ごす。

 ところが翌朝、一発の銃声が響く。カビールの書斎からのようであった。扉は中から固く閉ざされていた。真っ先に駆けつけたのはニールとサマラーであった。ニールは扉を破ろうとするが、サマラーは扉の横のガラスを割って内側から鍵を開けた。中へ入ってみるとカビールは机に突っ伏して死んでいた。拳銃自殺のようであった。国際監視機関からはシヤー・アグニホートリー(カンガナー・ラーナーウト)らオフィサーがやって来て、事件の捜査を始める。シヤーはカビールの死は自殺ではなく他殺の可能性もあることを疑っていたが、確たる証拠はなかった。ニール、ラムゼイ、ヴィクラム、ティシャー、サマラーらの取り調べを行ったが、それでも手掛かりは得られなかった。仕方なくニール、ラムゼイ、ヴィクラム、ティシャーを帰すことになった。だが、シヤーは4人それぞれに監視を付けた。特にニールの監視を重視した。

 しばらくシヤーはロンドンの本部オフィスから遠隔操作でイスタンブールのニールの監視をしていた。ところがニールは監視をかいくぐって姿をくらます。その頃バンコクではラムゼイが選挙に出馬をしようとしていた。そのときラムゼイの邸宅に侵入し、監視カメラを設置する男がいた。それはなんとニールであった。ニールはラムゼイに電話をし、ラムゼイの過去の秘密が記された「ファイル」を持っていると脅す。ラムゼイは焦って腹心を呼びつけ、自分が過去に行っていた売春斡旋業の隠蔽作業のことなどを問いただす。ところがその場面はニールが設置した監視カメラを通して世界中で放映されてしまっていた。それを知ったラムゼイは心臓発作を起こして憤死する。

 シヤーはこの事件を見てニールの仕業だと直感し、今度はヴィクラムに接触するはずだと考え、ムンバイーへ直行する。ちょうどヴィクラムはメイクアップ・ドレッサーの殺人事件の渦中にいた。シヤーの読み通りニールはムンバイーに来ており、ヴィクラムを待ち伏せして瀕死の状態にし、マーヤーを殺したことを警察に自白させていた。警察に自白した後、ヴィクラムはリストカットして自殺する。

 ニールはマーヤーのためにこれらのことをしていた。実はマーヤーはニールの恋人であった。しかし、命を狙われる危険な仕事をしていたニールは、マーヤーを安全な場所に移すためにムンバイーに送ったのだった。だが、マーヤーはそこで交通事故に遭って死んでしまった。今回の事件で彼女の出生から死までの出来事を全て知ってしまったニールは、カビールに代ってラムゼイとヴィクラムに復讐したのだった。また、実はニールは国際監視機関の覆面エージェントだった。そのことをシヤーはずっと知らずにニールを追いかけていたが、ニール自身から明かされ、その後は共にカビールの死について捜査を開始する。

 そのとき、ティシャーが自殺未遂をしたというニュースが入って来る。シヤーが駆けつけ事情を聞くと、ティシャーは自殺などしていないと言う。誰かがティシャーの命を狙っていた。シヤーはティシャーの育ての親に、世間にはティシャーが死んだと公表するように助言する。

 ニールとシヤーは、カビールの財産を狙った犯行だと考え、カビールの弟イクバールを疑う。しかしイクバールは癌に冒されており、インドの病院で寝たきり状態であった。イクバールが黒幕ではあり得なかった。また、イクバールの娘がいたが、彼女も既に死去していると伝えられた。しかしニールはイクバールの娘がまだ生きているという証拠を掴み、それがサマラーであると考える。サモスに飛んだニールとシヤーはサマラーと対面し、カビール殺害の手口を言い当てる。シヤーはサマラーを逮捕しようとするが、どこからか銃弾が飛んできてシヤーは負傷する。それを撃ったのはカビールとうり二つの人物であった。彼こそがカビールの双子の弟イクバール・マロートラー(アヌパム・ケール)であった。しかしニールは隙を見て逆にイクバールを撃ち殺す。こうして、イクバールが死に、サマラーが逮捕されたことで、事件は一件落着となる。

 基本的なストーリーラインは、外界から遮断された場所に互いに初対面の複数の人間が集められ、そこで殺人事件が起きて、探偵や警察がそれを解決するという、サスペンス物の定番、密室殺人事件であった。また、もっとも疑わしい容疑者だった人物が実は捜査機関のエージェントだったという設定も目新しいものではない。密室殺人事件物の映画は低予算映画にありがちだが、一旦密室から犯人候補たちが解放され、インド、タイ、トルコ、英国でストーリーが進む点は新しさがあり、「Game」は予算をかけた作品になっていた。キャストの顔ぶれもある程度豪華である。しかしながら、脚本や編集は決して成熟したものではなく、スパイアクション映画と密室サスペンス映画を中途半端に融合させたような作りで、真犯人も容易に想像できるものであり、映画としての楽しみには欠けた。また、キャストの個性を生かし切れておらず、出演した俳優にとってもあまりプラスにならない映画であった。

 アビシェーク・バッチャンのキャラクターは、おそらく「Dhoom」シリーズと同じ路線を狙ったものであろう。だが、まずはカジノのオーナーとして、次に麻薬のブローカーとして、最後に国際監視機関のエージェントとして、設定がコロコロ変わる。それだけならまだしも、やたら戦闘に慣れていること以外、特にエージェントであることを匂わすような伏線が張られていないため、真の正体判明の際にも説得力がない。アビシェークとしても演じにくいキャラクターだったと思うし、うまく演じられてもいなかった。

 最大のダウンポイントはカンガナー・ラーナーウトであろう。最近ヴァラエティーに富んだ役を演じるようになり、今年は「Tanu Weds Manu」のヒットで好スタートを切ったのだが、「Game」で大きなスピードプレーカーにぶち当たってしまった印象である。元々精神に異常をきたいしているような役は上手かったのだが、今回のような知的で冷徹な女性の役はあまり似合っていないと感じた。特に台詞回しの点で難点を感じた。彼女のハスキーで多少舌足らずな声は、感情を表に表わさないエージェントには適していない。潜在的な演技力は十分にあるのだが、娯楽映画における演技は別物として考えないと今後さらにつまづくことになるだろう。

 「Game」は、2007年のミス・インディア、サラ・ジェーン・ディアスのデビュー作である。サラは、ストーリーのキーポイントとなるマーヤー役を演じていた。ほとんど回想シーンのみの出演で、出番は少なく、彼女の将来性について評価できる段階ではない。だが、ストーリー中ではマーヤーとティシャーは双子ということになっていた。ティシャーを演じたのはシャハーナー・ゴースワーミーで、当然顔は全く違う。一応「二卵性双生児だから顔が違ってもおかしくない」という言い訳が台詞中にあったが、どうせだったら片方がダブルロールで対応すべきであった。

 ボーマン・イーラーニーやアヌパム・ケールらベテラン俳優陣の演技は全く問題ない。ジミー・シェールギルは最近脇役ばかりになってしまったが、適切な演技をしていた。

 音楽はシャンカル・エヘサーン・ロイ。キャバレー風「Mehki Mehki」がもっとも金がかかった群舞で見物だったことを除けば、特筆すべき曲はなかった。タイトル曲の「It’s Game」も退屈な曲だった。

 言語は基本的にヒンディー語で、補助的に英語が使われていたが、タイのシーンではタイ語が、トルコのシーンではトルコ語が字幕などなしで使われていた。

 「Game」は、ワールドカップに伴う映画空白期間明け映画の第1弾だが、残念ながらクリケット熱を映画に転換できるほどの実力のある映画ではない。