Rock On!!

4.5

 ヒンディー語映画音楽ほど普及はしていないが、インドにもロック文化があり、ロックバンドがあり、地域ごとに特色のあるロック音楽を創造している。ロック文化がもっとも盛んなのは西ベンガル州の州都コルカタだが、デリー発のバンドでも、パリクラマーやインディアン・オーシャンのように全国的に有名なバンドがある。

 「Dil Chahta Hai」(2001年)や「Don」(2006年)の監督として有名なファルハーン・アクタルは、実は相当なロック好きのようで、今度はロックを題材にした映画をプロデュースした。それだけではない。彼は映画の主演を務め、しかも歌まで歌ってマルチタレント振りを披露している。題名はズバリ「Rock On!!」。今年の期待作の1本である。2008年8月29日に公開された。

監督:アビシェーク・カプール
制作:リテーシュ・スィドワーニー、ファルハーン・アクタル
音楽:シャンカル・エヘサーン・ロイ
歌詞:ジャーヴェード・アクタル
振付:レモ
衣装:ニハーリカー・カーン
出演:ファルハーン・アクタル(新人)、プラーチー・デーサーイー(新人)、アルジュン・ラームパール、プーラブ・コーリー、ルーク・ケニー、コーエル・プリー、シャーハーナー・ゴースワーミー、ニコレット・バード
備考:PVRアヌパム4で鑑賞。

 アーディティヤ・シュロフ(ファルハーン・アクタル)は投資銀行の管理職で、金銭的には何不自由ない生活をしていた。しかし、妻のサークシー(プラーチー・デーサーイー)は、アーディティヤが常に人生に満足していないと感じていた。夫婦仲もいいとは言えなかった。だが、サークシーは妊娠していることを知り、夫の誕生日にサプライズ・パーティーを開いて、そこで妊娠のことを伝えようと計画する。

 誕生日プレゼントを友人のデーヴィカー(コーエル・プリー)と買っているとき、サークシーは偶然夫の旧友ケーダール・ザーヴェーリー、通称KD(プーラブ・コーリー)と出会う。だが、帰宅した夫にKDのことを聞いても、アーディティヤは「知らない」と答えるだけだった。だが、サークシーは倉庫を掃除しているときに夫の昔の写真を見つけ、アーディティヤがかつてKDらとバンドをしていたことを知る。サークシーは、サプライズ・パーティーにバンド仲間を招くことを思い付く。

 サークシーに頼まれたKDは、かつてのバンド仲間と久し振りに連絡を取る。キーボードのロブ・ナンシー(ルーク・ケニー)は二つ返事でパーティーへの出席を承諾するが、ギタリストのジョー・マスカレナス(アルジュン・ラームパール)は違った。ジョーはアーディティヤに会うのをためらっており、妻のデビー(シャーハーナー・ゴースワーミー)はKDとロブを歓待しなかった。だが、ジョーとデビーの息子のアンディーは、彼らのバンド「マジック」の大ファンであった。

 マジックは、10年前にアーディティヤ、ジョー、KD、ロブの四人で始めたロックバンドだった。アーディティヤがメインボーカルを務め、ジョーがギター、KDがドラム、ロブがキーボードであった。四人は音楽に人生を賭けており、メジャーデビューを夢見ていた。マジックはコンペティションで優勝し、アルバムを出すチャンスを与えられるが、音楽会社が彼らの音楽に介入し、それがアーディティヤとジョーの間に亀裂を生んだ。やがてジョーが乱闘を起こしてバンドを飛び出してしまった。それ以来、マジックは解散し、四人は別々の人生を歩むことになったのだった。

 サプライズ・パーティーにジョーは来なかったが、KDとロブは出席し、アーディティヤと久し振りに会う。だが、アーディティヤは二人との再会を楽しんでいなかった。彼にとってマジックは消し去りたい思い出だった。アーディティヤはサークシーの行動に怒りを表す。それにショックを受けたサークシーは実家に帰ってしまう。

 ジョー、KD、ロブの三人は、久し振りにスタジオを訪れ、セッションを始める。そこへアーディティヤもやって来て、四人は音楽によって再び絆を確認する。スタジオは酷い状態になっていたため、アーディティヤは自宅をスタジオとして使うことにする。実家から帰って来たサークシーは、マジックが復活したことを喜ぶ。四人はもう一度ステージに立つ夢を見始めた。ちょうどコンペティションが行われようとしていた。

 だが、2つの障害があった。ひとつはロブの病気であった。ロブは脳腫瘍を患っており、いつ死んでもおかしくない状況だった。だが、ロブは人生最後の思い出として、マジックとして演奏したいと強く願っていた。他の三人は、ロブのためにも出演を強行することを決める。

 しかし、ジョーの妻デビーはさらに大きな障壁であった。デビーは過去のいざこざを引きずっており、夫がマジックに参加することに反対だった。しかも、クルーズでの演奏の仕事がもらえたところだった。経済的に困っていたデビーは、夫を無理矢理クルーズに連れて行こうとした。

 コンペティションの日。アーディティヤ、KD、ロブは来たが、ジョーは現れなかった。遂に出番が来てしまったので、仕方なく三人でステージに立った。だが、アーディティヤは、かつてジョーが作詞作曲した曲を演奏した。それを空港へ向かうタクシーの中でラジオで聞いていたジョーは、クルーズの仕事を捨て、コンペティション会場へ向かう。遂に4人揃ったマジックは、全力で演奏を行う。

 その演奏から2ヶ月後にロブは死んでしまった。だが、マジックの仲間たちは毎週末会って親交を深めていた。KDはアーディティヤと共に音楽会社を立ち上げ、若い才能の発掘と育成をし始めた。デビーも若い頃の夢であったスタイリストになることができた。アーディティヤとサークシーの間には息子が生まれ、KDはサークシーの友人デーヴィカーと結婚した。

 30過ぎの男たちが、10年前に砕け散った夢をもう一度取り戻す感動のストーリー。現代を主要な時間軸としながら、どうしてマジックが解散したのか、なぜアーディティヤとジョーがお互いを避け合っているのかが、間に挿入される過去のフラッシュバックシーンによって徐々に明らかになって行く構成は、ともすると単純になってしまいがちなサクセスストーリー映画にサスペンス的要素を加えており、アーディティヤとサークシーの仲直りや、最後のステージの感動を強めていた。音楽も、通常のヒンディー語映画音楽と違ってライブ演奏の雰囲気に満ちたリアルなバンド音楽になっていて良かった。2008年のヒンディー語映画の中で傑作の一本に数えられることになるだろう。

 気になるバンド解散の理由だが、特に凝ったものではなく、メンバー間の不和である。マジックの曲はほとんどボーカリストのアーディティヤが書いていたが、アルバムリリースが決まった後、ジョーが1曲作り、メンバーたちはそれをアルバムに入れることを決める。だが、音楽会社はジョーの曲が気に入らず、それを勝手に取り除く。そのときジョーは気にしなかった。だが、音楽会社の売り出し方が、アーディティヤ中心で、他の三人はバックバンドのような扱いになってしまった。それが原因でジョーの不満が爆発し、ジョーはバンドを抜けることになったのだった。

 だが、10年後、再びステージに立ったアーディティヤたちは、家庭の事情で来られなかったジョーに捧げるため、ジョーが作詞した曲を最初に演奏し出す。それをラジオで聞いて我慢できなくなったジョーは、ギターを取り出して会場に向かい、メンバーと合流して演奏し出すのである。

 「Rock On!!」は、一度しかない人生の中で夢を追い駆け続けることの大切さを訴えかける映画であった。同時に、バンドや音楽の楽しさもよく出ており、この映画がきっかけでインドの若者の間にバンドブームが起きるかもしれない。

 今回突然俳優・歌手デビューしたファルハーン・アクタルであるが、俳優・歌手としてはそこまで高い評価を受けないのではないかと思う。彼の一番のネックはだみ声である。顔は悪くないのだが、声がアニメの道化役みたいなので、演技をしても歌を歌ってもどこか滑稽な感じになってしまう。今回はアマチュア・ロックバンドのボーカリストという役柄だったので、素人っぽさが出ていてよかったが、シリアスな演技をしたり、バラードを歌うには適していない声である。

 モデルから俳優に転向して以来、あまり成功していなかったアルジュン・ラームパール。「I See You」(2006年)ではプロデューサー業にも進出したが、やはりうまく行かなかった。だが、「Om Shanti Om」(2007年)での悪役できっかけを掴み、この「Rock On!!」でかなりいいオーラを出す男優になった。俳優というのは映画の中では単なる駒に過ぎず、元からよっぽど強力なカリスマ性を放っていない限り、有能な監督にうまく使ってもらわないとなかなか芽が出ないものだ。アルジュン・ラームパールはここに来ていい監督に巡り会えるようになったように思える。「Rock On!!」でもっとも切れ味のある演技をしていた。

 ヒロインのプラーチー・デーサーイーは、まずはテレビ界で活躍し、今回映画デビューした女優。「Rock On!!」では多くの見せ場はなかったが、正統派ヒロインの雰囲気を持った美しい女優で、これからトップへ登り詰めて行くことも可能である。この映画以降、きっとオファーが殺到することだろう。

 ロックバンドが主題の映画なので、音楽は重要だ。音楽監督は、ヒンディー語映画界でもっとも成功しているシャンカル・エヘサーン・ロイのトリオで文句なし。映画の雰囲気にあったライブ感溢れる音楽になっており、「Rock On!!」のサントラCDはオススメできる。歌詞では「Socha Hai」がもっともよい。

 ちなみに昔、同じくバンドをテーマにした「Jhankaar Beats」(2003年)という映画があったが、こちらは音楽がとても弱く、映画としても失敗していた。「Rock On!!」はインド初のバンド映画ではないが、バンド映画の完成形を実現した作品と言える。

 「Rock On!!」は、ヒンディー語映画では珍しいロックバンドを主題にした映画である。普段は映画監督をしているファルハーン・アクタルが主演をし、しかも歌を歌うという、一見すると俺様企画だが、よく考えられた構成になっており、涙なしには観られない。今年の必見映画の一本だ。