Kaho Naa… Pyaar Hai

4.5
Kaho Na... Pyaar Hai
「Kaho Na… Pyaar Hai」

 2000年1月14日公開の「Kaho Naa… Pyaar Hai(言ってよ…愛してるって)」は、20世紀と21世紀のロマンス映画をつなぐ重要な作品のひとつで、2000年の大ヒット作の一本である。21世紀の次世代スーパースターとなったリティク・ローシャンのデビュー作であり、また2000年代前半に勢いのあったアミーシャー・パテールもこの作品でデビューした。2022年7月23日に改めて見直した。

 監督はリティク・ローシャンの父親ラーケーシュ・ローシャン。音楽監督は叔父のラージェーシュ・ローシャンであり、ローシャン一族のホームプロダクトである。主演のリティク・ローシャンとアミーシャー・パテールの他に、アヌパム・ケール、ダリープ・ターヒル、モホニーシュ・ベヘル、アーシーシュ・ヴィディヤールティー、サティーシュ・シャー、ファリーダー・ジャラール、タンナーズ・イーラーニー、ヴラジェーシュ・ヒールジー、ジョニー・リーヴァルなどが出演している。

 リティクはデビュー作からいきなりダブルロールを演じている。

 舞台はムンバイー。シャクティ・マリク(ダリープ・ターヒル)の経営するカーディーラーで働き、シンガーを目指す青年ローヒト(リティク・ローシャン)は、大富豪ヴィシャール・サクセーナー(アヌパム・ケール)の娘ソニア(アミーシャー・パテール)と出会い、恋に落ちる。だが、ヴィシャールは娘が、どこの馬の骨とも知れないローヒトと付き合うのを快く思っておらず、親友のシャクティに指示してローヒトをクビにさせる。ローヒトはソニアと結婚するために経済的自立を目指し、友人たちの助けを借りてコンサートを開く。だが、ステージに立つ直前にローヒトは、シャクティとディリープ・カダム警部補(モホニーシュ・ベヘル)とサティーシュ・シンデー警部補(アーシーシュ・ヴィディヤールティー)が共謀して警視総監を暗殺するところを目撃してしまう。ローヒトはカダム警部補とシンデー警部補の追われ、バイクで逃走し、橋から落ちて水没してしまう。

 ローヒトの死によりソニアはショックを受ける。気を紛らわすため、親戚ニーター(タンナーズ・イーラーニー)の住むニュージーランドを訪れる。そこでソニアは、ローヒトと瓜二つのラージ・チョープラー(リティク・ローシャン)と出会う。ラージはソニアを見初めるが、ソニアが彼の顔を見るとローヒトを思い出すため、彼を避ける。ソニアはそのままインドに帰ろうとするが、ラージは彼女を追って同じ飛行機に乗り込む。ラージがインドを訪れるのは初めてだった。

 ムンバイーの空港に着いたラージはいきなりシンデー警部補から撃たれる。ラージはソニアと逃亡する中で、ローヒトは事故死ではなく殺されたのだということを直感する。ローヒトの死以来、弟のアミトは言葉を発しなくなってしまっていたが、ラージが現れたことで彼はローヒトの死の秘密を語り出す。アミトは、ローヒトが警察官に追われ撃たれていたのを見ていた。ラージは、その警察官をおびき出すため、ローヒトの死により中止になったコンサートを再開する。会場には、ヴィシャールの他、シャクティ、シンデー警部補、カダム警部補もやって来た。

 コンサート会場でラージは、ローヒトの死は事故死ではなく殺人だと明かす。ラージは撃たれるが、防弾チョッキを着ていたため無事だった。シャクティ、シンデー警部補、カダム警部補はソニアを誘拐してラージをおびき出すが、ラージはソニアを救い出す。そこへヴィシャールも現れるが、実は彼もシャクティたちと一緒にローヒト殺害をしたことが明らかになり、逮捕される。ラージとソニアは結婚する。

 映画の前半と後半で、リティク・ローシャンがダブルロールで演じる瓜二つのローヒトとラージが登場するのがこの映画の最大のミソである。ヒンドゥー教など、インド発祥の宗教では輪廻転生が信じられており、インド映画のストーリーにも輪廻転生が組み込まれることが多い。この「Kaho Naa… Pyaar Hai」でも、一瞬、ラージはローヒトの生まれ変わりか、それともローヒト自身なのかということが疑われるが、現実路線が採られ、ラージとローヒトは単なるそっくりさんであることが分かる。だが、ソニアに恋したラージは、ソニアの元恋人ローヒトの死の真相を解明するために率先して行動し、最終的に彼女の愛を勝ち取る構造になっている。ちなみに、劇中ではローヒト自身の死生観が披露されていたが、そこでは、輪廻転生ではなく、「死んだら星になる」ということが語られていた。この死生観は、インド映画で意外によく目にするものである。

 ローヒトとラージの外見はそっくりであり、音楽の素養があるのも共通していたが、経済力では雲泥の差があった。ローヒトはシンガー志望の貧しい若者だったが、ニュージーランドに住むインド系移民2世のラージは、いきなり飛行機に乗ってインドへ行けるほど裕福であった。ソニアの父親ヴィシャールが娘とローヒトの結婚を快く思わなかったのは、ローヒトとソニアの間に社会的・経済的な格差があったからである。だが、最終的にソニアがラージと結婚したことで、この点は解消された。よって、貧しい若者が金持ちの娘と結婚する逆玉の輿の方向で物語は始まるものの、結局は同じ経済レベルの者同士の結婚に帰着して物語りが終わっている点には留意すべきである。

 単に顔が似ているだけで、死んだ元恋人のそっくりさんを同じように愛することができるのかは、面白い命題になり得た。もしローヒトとラージの性格が正反対だったら、この命題に取り組む作品になり得ただろうが、ローヒトもラージも好青年だったため、ソニアが恋に落ちるのは時間の問題だった。「Kaho Naa… Pyaar Hai」はよく出来たロマンス映画ではあるが、あくまでフィールグッドな娯楽映画に留まっており、深みがある作品とはいえない。

 新人のリティク・ローシャンはとても輝いていた。得意のダンスも既に全力でアピールしていたし、演技も安定していた。ただ、ローヒトとラージの演じ分けには苦戦していたと感じた。有名な話だが、リティクは多指症であり、彼の右手親指は2本ある。このデビュー作ではなるべく彼の右手を映さないように配慮されていた。握手の仕方が変だし、相手の顔や頭を手で触れるシーンも左手を使っているし、ギターを弾くシーンではわざわざ左右逆に抱え、左手で弦を鳴らしていた。ただ、後の彼の主演作ではあまり気にされなくなった。

 アミーシャー・パテールが演じたソニアは、前半は天真爛漫なお馬鹿キャラ、後半は心に傷を抱えた悲劇のヒロインである。リティクがダブルロールに挑戦しながら前半と後半であまり演じ分けをしていないのと対照的に、アミーシャーは同じ役ながら前半と後半でガラリと雰囲気を変えた演技をしている。デビューしたてのアミーシャーには大器の片鱗が覗いている。後に大成しなかったのは残念だ。

 ラージェーシュ・ローシャン作曲の音楽は、1990年代を引きずるような、古風な響きがあるものばかりだ。だが、ストーリーとよくシンクロしており、耳に残るメロディーで、映画を盛り上げるのに多大な貢献をしている。もちろん、リティクのダンスを引き立てる役割も果たしている。

 「Kaho Naa… Pyaar Hai」には早くも携帯電話が登場している。まだこの頃には一部の富裕者しか持てなかったはずで、劇中でもヴィシャールやシャクティといった一部のキャラしか持っていない。また、ラストシーンにおいて黒幕を特定するのに携帯電話が重要な役割を果たしている。ヒンディー語映画と携帯電話の関係を論ずる上で取り上げるべき映画の一本だといえる。

 「Kaho Naa… Pyaar Hai」は、リティク・ローシャンとアミーシャー・パテールのデビュー作であり、2000年の大ヒット作の一本である。1990年代らしい古めかしさと、21世紀を予見する新しい風の両方が感じられる映画であり、世紀の変わり目にふさわしい名作だ。必見の映画である。