1947: Earth (Canada)

4.5
1947: Earth
「1947: Earth」

 「1947: Earth」は、インド系カナダ人映画監督ディーパー・メヘターによる「エレメント3部作」の第2作である。「Fire」(1996年)と「Water」(2007年)の間に作られた。プレミア上映は1998年9月16日、トロント国際映画祭であり、インドでは1999年9月10日に劇場一般公開された。インドでのタイトルは「1947: Earth」だが、国外でのタイトルは単に「Earth」になっている。パーキスターン人文学者バープスィー・スィドワーの小説「Ice Candy Man」(1988年)を原作としている。この小説は後に「Cracking India」に改題された。

 「Earth」という題名だけでは内容がよく分からないが、インドで「1947: Earth」といわれれば、パーティションを主題にした映画であることが一発で分かる。1947年にインドとパーキスターンは分離独立し、多くの難民が生まれ、宗教暴動によって多くの人々が殺された。

 音楽監督はARレヘマーン、作詞はジャーヴェード・アクタル。主演はアーミル・カーン、ナンディター・ダース、そして新人のラーフル・カンナーである。他に、シャバーナー・アーズミー、キトゥー・ギドワーニー、アーリフ・ザカーリヤー、クルブーシャン・カルバンダー、パヴァン・マロートラー、グルシャン・グローヴァー、ラグビール・ヤーダヴ、ボビー・スィン、ナヴテージ・スィン・ジョーハル、マイア・セートナーなどが出演している。

 1947年3月、8歳の少女レニー(マイア・セートナー)は、父親ルスタム・セートナー(アーリフ・ザカーリヤー)、母親バンティー(キトゥー・ギドワーニー)、子守のシャーンター(ナンディター・ダース)、そして使用人のハリ(ラグビール・ヤーダヴ)やイマームッディーン(クルブーシャン・カルバンダー)などと共にラホールに住んでいた。レニーの家族は裕福なパールスィーで、彼女の家では宗教関係なく多様な人々が働いていた。さらに、レニーはシャーンターに連れられて公園に行くと、アイスキャンディー売りのディルナワーズ(アーミル・カーン)やマッサージ師のハサン(ラーフル・カンナー)などにかわいがられていた。

 世間は印パ分離独立の話題で持ちきりだった。レニーの仲間たちは皆、何があってもお互いに助け合おうと話し合っていた。だが、国境線が引かれ、ラホールがパーキスターン領になることが分かると、途端に政情が不安定になった。インド領のグルダースプルからイスラーム教徒難民を乗せてラホールにやって来た列車にはディルナワーズの妹たちが乗っていたが、彼女たちは到着前にインド領で皆殺しにされていた。

 ディルナワーズはシャーンターに惚れており、彼女に結婚を申し込む。だが、シャーンターはハサンとできていた。ハサンからプロポーズされたシャーンターはそれを受け入れ、彼と肉体関係になるが、その様子をディルナワーズはのぞき見ていた。

 翌日、ハサンの遺体が発見される。そしてイスラーム教徒の暴徒がセートナー家になだれ込んでくる。その中にはディルナワーズもいた。バンティーは「家にヒンドゥー教徒はいない」と言ってシャーンターをかばうが、ディルナワーズはレニーからシャーンターの居場所を聞き出す。シャーンターは暴徒に引き出され連れて行かれる。

 その後、レニーはインドに流れ着いたが、シャーンターとは二度と会うことはなかった。

 宗教の分け隔てなく共存していたラホールの住民たちが、印パ分離独立を境として急速に宗教によって分断され、集団暴力にかき立てられていく様子が克明に描き出されている。さらに、この極限状態の中で人間の欲望が丸裸になり、親しかった人々に対しても個人的に残酷な仕打ちを行えるようになってしまう様子が浮き彫りにされている。

 「1947: Earth」でユニークなのは、パールスィーの視点からパーティションが語られていることだ。通常、パーティションは、ヒンドゥー教徒イスラーム教徒、もしくはスィク教徒の視点から描写されることが多い。だが、この映画ではあえてパールスィーを語りの主体にしている。パールスィーはインド社会の中では極めて少数派であるため、中立的な立場を保ちながら極力目立たないように暮らし、時の支配者に巧みに取り入ることで富を築き上げてきた。「1947: Earth」に登場するセートナー家はパールスィーであったが、英国人とも親しく接しており、使用人を雇うほど裕福な暮らしをしていて、他のインド人とは一線を画していた。印パ分離独立やそれに伴う暴動も彼らにとってはどこか他人事だった。

 非常に優れていたのは、8歳の少女レニーの視点から語られた物語だったことだ。「1947: Earth」は、女性作家の原作を女性映画監督が映画化した作品だが、この少女の視点には、女性にしか描けないものが含まれていたように感じる。

 まず、レニーは片足が不自由だった。映画の中ではなぜ彼女がそのような身体的障害を抱えているのか語られないし、レニー自身も劣等感を抱いているわけではなさそうだった。むしろフォーカスされていたのは、子守のシャーンターとの愛憎関係である。シャーンターは20代くらいの美しいヒンドゥー教徒女性であり、近所の低所得者層独身男性たちの間ではマドンナ的な存在であった。もちろん、レニーはシャーンターのことが大好きだった。だが、レニーは次第に残酷な真実に気付き始める。

 彼女は自分を人気者だと考えていた。どこへ行っても、ディルナワーズやハサンといった年上の男性たちにかわいがられていたため、その内の誰とでも望めば結婚できるとすら思い込んでいた。だが、レニーは常にシャーンターと一緒にいた。そして周囲の男性たちは、シャーンターと一緒にいたいからレニーに優しくしていたのだった。幼い頃のレニーはまだ男性たちのそういう下心に気付かなかったが、ちょうど8-9歳になり、第二次性徴期の始まりを迎えたことで、そういう世の中のことがうっすらと理解できるようになってきたのである。

 まずはディルナワーズがシャーンターにプロポーズするが、シャーンターはそれを断る。横でそれを聞いていたレニーは「私が結婚してあげる」と声を上げるが、ディルナワーズには冗談だと思われたのか無視される。次にシャーンターはハサンからプロポーズされる。シャーンターはそれを受け入れ、二人は情事にふける。それをレニーはじっと見ていた。結局、レニーはシャーンターから男性たちとの逢い引きのために利用されていただけだった。

 レニーのシャーンターに対する報復は残酷だった。ヒンドゥー教徒を探してディルナワーズ率いるイスラーム教徒の暴徒がセートナー家に押し入ったとき、レニーはディルナワーズにシャーンターの居場所を教えてしまうのである。おかげでシャーンターは見つかり、引きずり出されて連れて行かれてしまう。

 ここで注目すべきは、シャーンターのこの受難は宗教とは全く関係なかったことだ。ディルナワーズは、ハサンへの嫉妬とシャーンターから裏切られたという怒りに駆られてハサンを殺しシャーンターを誘拐した。レニーはシャーンターへの嫉妬から彼女を暴徒に引き渡した。確かに1947年には宗教暴動が起こったが、その混乱にかこつけて私欲を満たそうとする者も必ずいたのである。

 ディーパー・メヘター監督が題名に「Earth(土)」を選んだのは、決して単にエレメント3部作を意識したからではない。これは後にそう呼ばれるようになっただけで、そこにはもっと深い意味を見出すべきだ。パーティションは国土が分割される出来事だった。そして、生まれ育った土地を強制的に追い出される者が多く出た事件だった。そしてインド亜大陸の大地は難民たちの血で赤く染まった。これらの意味を込めて「Earth」と呼んでいるのだろう。

 また、今回はメインの話題ではなかったが、幼児婚の問題にも触れられていた。レニーの遊び友達だったパップーは、レニーと同年齢くらいだったが、年配の男性と結婚させられていた。ただ、この結婚によってパップーの一家はキリスト教徒に改宗し、とりあえずヒンドゥー教徒に対する暴動を逃れることができていた。幼児婚の問題はメヘター監督の次作「Water」で大々的に取り上げられることになる。

 アーミル・カーンが演じたディルナワーズは、いってみればアンチヒーローである。好きな女性に振られ、その腹いせにその女性の許嫁を殺害し、その女性を誘拐する。政情不安の中で汚い欲望を露わにする悪い人間だ。だが、演じるのは難しい。それゆえにアーミルはスター俳優の一般的チョイスから大きく外れたこの役を引き受けたのだろう。

 ディルナワーズの恋敵ハサンを演じたラーフル・カンナーは、往年の名優ヴィノード・カンナーの長男であり、人気俳優アクシャイ・カンナーの兄である。アクシャイから1年遅れてのデビューになったが、名監督ディーパー・メヘターの作品でのデビューという果報を得た。ただ、さすがにアーミルには気迫で負けていた。

 シャーンター役を演じたナンディター・ダースはインドを代表する名女優である。セートナー家で子守として働く下層の女性ながら、周囲の男性たちから羨望の眼差しで見られるという役回りを自然に演じることができていた。ラーフルとの濡れ場も難なくこなしている。

 映画の大半はデリーで撮影された。オールドデリーの市街地や、プラーナー・キラーやメヘラウリーなどの史跡でロケが行われたはずである。

 「1947: Earth」は、数あるパーティション映画の中でも文句なく筆頭に数えられるほどの名作だ。当時の世相を描き出すと同時に、人間の渦巻く欲望にも果敢にメスを入れている。女性ならではの視点が感じられる映画でもあった。アーミル・カーンやナンディター・ダースの演技も素晴らしい。必見の映画である。


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