イスラーム教を信仰するイスラーム教徒(ムスリム)はインドの人口の約14%を占めている。インドの文脈においてしばしば「宗教的マイノリティー」と呼ばれるものの、その数は、約8割を占めるヒンドゥー教徒に次いで第2位であり、決して小さなコミュニティーではない。社会のそのような現実を反映し、インド映画にもイスラーム教徒のキャラがよく登場する。
現代の映画では、単に名前がイスラーム教徒というだけのムスリム・キャラも増えてきたが、少し昔の映画を観ると、いかにもイスラーム教徒といったいでたち(白い帽子、千鳥格子のストール、額に祈り瘤など)をした人がいかにもイスラーム教徒っぽい言動をするというステレオタイプが横行していた。
その中で、イスラーム教徒特有のつぶやきがある。インド映画を見込むと必ず気になってくる事項だと思われるので、ここで解説をしておく。
Masha Allah
ما شاء الله
「マーシャー・アッラー」と読む。ヒンディー語では「माशा अल्लाह」などとつづられる。直訳すれば「神のお望みのままに」というような意味である。主に年下の人に祝福を与えるときに使われるフレーズである。
「Ek Tha Tiger」(2012年/邦題:タイガー 伝説のスパイ)に「Mashallah」という曲があった。
Subhan Allah
سبحان الله
「スブハーン・アッラー」と読む。ヒンディー語では「सुभान अल्लाह」などとつづられる。「神に栄光あれ」という意味である。年上にも年下にも使える便利な祝福な言葉である。
「Fanaa」(2006年)に「Chand Sifarish」という曲があったが、そのコーラスにこのフレーズが使われている。
Alhamdu Lillah
الحمد لله
「アルハムドゥ・リッラー」と読む。ヒンディー語では「अलहमदुलिल्लाह」とつづられる。これも「神に栄光あれ」という意味である。何かうれしいことが起こったときにイスラーム教徒の口から発せられるフレーズである。
「Kurbaan」(2009年)の「Shukran Allah」の冒頭に、「シュクラン・アッラー(神よ感謝します)」というフレーズの後に「アルハムドゥ・リッラー」と歌われている。
Insha Allah
إن شاء الله
「インシャー・アッラー」と読む。ヒンディー語では「इंशा अल्लाह」などとつづられる。直訳すると「神がお望みならば」という意味になる。イスラーム教徒が約束をするときや未来のことを述べるときによく使うフレーズである。
「Welcome」(2007年)に「Inshah Allah」という曲があり、サビで「インシャー・アッラー」が繰り返されていた。
Tauba Tauba
توبہ توبہ
「タウバー・タウバー」と読む。ヒンディー語では「तौबा तौबा」とつづる。直訳すると「誓います、誓います」になる。これは後悔や悔恨を表すイスラーム教徒特有の間投詞であり、両手で両耳の耳たぶに触れる動作を伴うことが多い。日本語でいえば「しまった」「あっちゃー」「くわばらくわばら」が近い。イスラーム教徒の間で、日常生活でよく使われる。イスラーム教徒以外が使っているところはあまり聞いたことがない。
「Bad Newz」(2024年)には「Tauba Tauba」という歌があった。
La Haula Va La Quvvat Illa Billah
لا حول ولا قوة إلا بالله
「ラー・ハウラ・ヴァ・ラー・クッヴァト・イッラー・ビッラー」と読む。その短縮バージョンである「ラー・ハウラ・ヴァ・ラー・クッヴァト」の方がよく使われるかもしれない。ヒンディー語では「ला हौल वला क़ुव्वत (इल्ला बिल्लाह)」などとつづられる。意味は「(アッラー以外に)力も徳もない」になる。これは元々悪魔や呪いを振り払うために口にするフレーズで、信心深いイスラーム教徒が何か困難な状況に陥ったときに口にする。
「Andaz Apna Apna」(1994年)では、このフレーズが頻発するシーンがあった。ここに引用しておく(埋め込みで動画再生はできないため、リンクからYouTubeに飛んで閲覧)。
Astaghfirullah
استغفر الله
「アスタグフィルッラー」と読む。ヒンディー語では「अस्तग़फ़िरुल्लाह」とつづる。意味は「神よお許しください」になる。何か重大な過ちを犯したときにイスラーム教徒の口から出るフレーズである。ヒンディー語映画のセリフの中でこのフレーズを耳にすることは少ないが、ヒンディー語映画界の著名な作曲家兄弟デュオ、サリーム=スライマーンが「Astagfirullah」という歌をリリースしている。
Sallallahu Alaihi Wasallam
صلى الله عليه وسلم
「サッラッラーフ・アライヒ・ワサッラム」と読む。ヒンディー語では「सल्लल्लाहु अलैहि वसल्लम」とつづるはずである。直訳すると、「アッラーが彼(預言者ムハンマド)に祝福と平安をお与えになりますように」という意味である。イスラーム教の創始者ムハンマドの名前を口にするときは、必ずこのフレーズを後に続けなければならない。文字で書かれるときは「SAW」などと略称で書かれることもある。このフレーズを一文字にした「ﷺ」という便利なフォントまで用意されている。
「Rockstar」(2011年)に「Faya Kun」という曲があったが、その途中でこの「サッラッラーフ・アライヒ・ワサッラム」を聞くことができる。
Inna Lillahi Wa Inna Ilayhi Raji’un
انّا للہ و انّا الیہ راجعون
「インナー・リッラーヒ・ワ・インナー・イライヒ・ラージウーン」と読む。ヒンディー語では「इन्ना लिल्लाही व इन्ना इलैही राजिऊन」とつづる。直訳すると、「誠に私たちはアッラーに属し、誠に私たちはアッラーに還ります」という意味である。イスラーム教徒が誰かの訃報を聞いたときに口にするフレーズである。ヒンディー語映画音楽には使いにくいフレーズだが、セリフの中で時々耳にする。
Bismillah Ar-rahman Ar-rahim
بسم الله الرحمن الرحيم
最後になったが、「ビスミッラー・アッラヘマーン・アッラヒーム」については「786」で詳しく説明したので、そちらを参照していただきたい。本来ならばこのフレーズの特性上、一番最初に紹介しなければならないところである。