Fighter

4.0
Fighter
「Fighter」

 トム・クルーズ主演の米映画「トップガン マーヴェリック」(2022年)はインドでも大ヒットし、ヒンディー語映画界では早速インド版「トップガン」を作ろうとする動きが出始めた。まず公開されたのはカンガナー・ラーナーウト主演の戦闘機映画「Tejas」(2023年)であったが、例によってカンガナーがでしゃばりすぎて失敗した。「Manikarnika: The Queen of Jhansi」(2019年/邦題:マニカルニカ ジャーンシーの女王)辺りまではその路線でうまくいっていたのだが、その後は度が過ぎてきて飽きられてしまい、盛大な空振りを繰り返している。

 それはそうと、インド版「トップガン」の真打ちは何といっても2024年1月25日公開の「Fighter」であった。監督は「Pathaan」(2023年/邦題:PATHAAN パターン)などのスィッダールト・アーナンド。現在アクション映画を撮らせたら彼の右に出る者はいない。しかも、主演はリティク・ローシャン、ヒロインはディーピカー・パードゥコーンだ。どちらも長いことトップスターの座にいるが、この二人の共演はなんと今回が初となる。これだけのビッグネームが揃っている作品が話題にならないはずがない。

 リティクとディーピカーの他には、アニル・カプール、カラン・スィン・グローヴァー、アクシャイ・オーベローイ、スィーラト・マスト、リシャブ・サーニー、サンジーダー・シェーク、アーシュトーシュ・ラーナー、タラト・アズィーズ、シャリーブ・ハーシュミー、チャンドラ・シェーカル・ダッター、ラモン・チブなどが出演している。

 「Fighter」は、2019年のプルワーマー襲撃事件から始まった印パ間の空中紛争が題材になっている。2019年2月14日、ジャンムーからシュリーナガルに向かっていた中央予備警察隊(CRPF)の車列が爆弾を積んだ自爆テロ車両に突っ込まれ、40人の隊員が殺された。パーキスターン政府は関与を否定したものの、同国に拠点を持つイスラーム教過激派テロ組織ジャイシェ・ムハンマド(JeM)が犯行声明を出した。これを受けてインドは、同年2月26日、パーキスターン領に戦闘機を送り、バーラーコートにあるテロリストの拠点を爆撃した。パーキスターンはその報復として翌日27日に戦闘機をインド領に送り、両空軍の間で空中戦が行われた。このとき、インドの戦闘機が撃墜され、パイロットがパーキスターンの捕虜になるという出来事もあった。すぐ後にパイロットはインドに送還された。

 もちろん、「Fighter」は実際に起こった出来事を忠実に再現した映画ではない。あくまで娯楽映画であり、多くはフィクションである。

 ラーケーシュ・ジャイスィン、コードネーム「ロッキー」(アニル・カプール)は、シュリーナガル空軍基地に「エア・ドラゴン」を設立し、全国から優秀なパイロットを集めた。シャムシェール・パターニヤー、コードネーム「パティー」(リティク・ローシャン)やミナル・ラートール、コードネーム「ミニー」(ディーピカー・パードゥコーン)はそうして集められたパイロットだった。

 パティーにはかつて、ナイナー・ジャイスィン、コードネーム「NJ」(スィーラト・マスト)という許嫁がいた。NJはヘリコプターのパイロットだった。パティーはNJと共に作戦を行ったことがあり、そのとき彼のミスでNJの乗ったヘリコプターが撃墜され、彼女を失ってしまった。パティーはそのトラウマからなかなか抜け出せずにいた。後から分かることだが、NJは実はロッキーの妹だった。

 エア・ドラゴンのパイロットたちが訓練を行っている最中、2019年2月14日のプルワーマー襲撃事件が起こる。この自爆テロを監督したのは、アズハル・アクタル(リシャブ・サーニー)という火薬を専門とするテロリストだった。インド首相は、パーキスターン領バーラーコートにあるテロリストの拠点に空爆をすることを決め、エア・ドラゴンが任務を遂行する。空爆は成功し、多くのテロリストが殺されたが、アズハルは生き延びた。

 パーキスターンは報復としてインドに戦闘機を送る。パティーたちは緊急発進するが、深追いしてしまい、パーキスターンの空域に誘い込まれてしまう。パティーの親友サルタージ・ギル、コードネーム「タージ」(カラン・スィン・グローヴァー)とバシール・カーン、コードネーム「バシュ」(アクシャイ・オーベローイ)の乗った戦闘機が撃墜され、彼らは捕虜になってしまう。

 パティーは責任を負わされ、エア・ドラゴンから除名となって、ハイダラーバードに異動となった。ハイダラーバードでパティーは教官として訓練生を訓練する。

 一方、パーキスターンは捕虜の解放を決めるが、バシュは遺体で返され、タージは囚われたままだった。エア・ドラゴンはコマンドーを載せてタージの幽閉された場所に向かい、救出しようとするが、アズハルの反撃を受ける。シュリーナガルに舞い戻っていたパティーは勝手に戦闘機に乗り込んで出撃しようとする。ロッキーも同伴し、パーキスターンへ向かう。そこでアズハルを殺し、パーキスターン空軍のエースパイロット、レッド・ノーズとの戦いにも勝利する。

 空軍基地にバイクで乗り付けるパイロット、反骨精神旺盛なエースパイロット、そして迫力あるドッグファイト。いうまでもなく、明らかに「トップガン」シリーズを意識した作りになっている。むしろ、「トップガン」が偉大すぎて、戦闘機映画を作ろうと思ったらその影響は誰がやっても免れることができない。それ故に、「トップガン」との比較も免れない。

 インド空軍の全面的な協力を得て作られただけあり、本物の戦闘機、ヘリコプター、空軍基地などが使用された。もちろん、ドッグファイトのシーンなど本物の使用が困難な場面ではCGIも適宜使われているが、非常にリアルな映像が最大の売りである。また、インド空軍の軍人だった父親を持つラモン・チブが関わっており、ストーリーの着想時点からリアルな発想にこだわった。

 ただし、2019年に印パ間で起こった一連の事件は真相が分かっていないことが多い。2月14日のプルワーマー襲撃事件はジャイシェ・ムハンマドの犯行ということでいいと思われるが、このテロ事件を防ぐチャンスはあったのではないかともいわれている。諜報機関から事前にかなり確度の高い情報がもたらされていたが、インド当局がそれを無視し、事件発生につながってしまったとされている。2月26日にインド空軍が行ったバーラーコート爆撃の成果についても疑問の声がある。インド側はバーラーコートにあったJeMの拠点を効果的に爆撃し破壊したと主張しているが、パーキスターン側はそれを全面否定している。そもそもインド空軍が爆撃した地点には何もなかった可能性がある。また、翌27日にパーキスターンの空軍機が報復としてインド領に領海侵犯し、インド空軍が緊急発進して応戦したとき、どちらかといえばインド側に被害が出ている。アビナンダン・ヴァルタマーンの操縦するMiG-21が撃墜され、パーキスターン領に着地して捕虜とされてしまったのである。パーキスターンのイムラーン・カーン首相(当時)が3月1日にヴァルタマーンをすぐにインドに返したため事なきを得たが、対応を誤れば全面的な戦争に移行する可能性もあった。また、27日にはインド空軍の軍用ヘリコプターMi-17が同士討ちによって撃墜されるという事件もあった。つまり、2019年にプルワーマー襲撃事件から端を発した印パ間で起こった小競り合いでは、全体的にインド側に分が悪い結果となったのだ。

 「Fighter」では、その辺りの不都合な事実がうまく覆い隠されていた。プルワーマー襲撃事件を予見する情報がもたらされていたことについては触れられていたが、それを当局が無視したような描写はなかった。バーラーコートのテロリスト基地はきちんと存在し、爆撃によって破壊されたことになっていた。インド空軍のパイロットがパーキスターンで捕虜になった出来事はちゃんとストーリーに織り込まれていたが、主人公パティーの規律違反とパーキスターン空軍の狡猾な策略が原因とされていた。結果、インド人の愛国主義を侵害するような内容にはなっていなかった。インド空軍の協力を得て作られた映画なので当然のことではある。

 リティク・ローシャン演じるパティーとディーピカー・パードゥコーン演じるミミーにはそれぞれ背負っているものがあり、それが映画のエモーショナルな部分を演出していた。

 パティーは過去にヘリコプター・パイロットの許嫁を作戦で失っており、そのトラウマを引きずっていた。親友タージがパーキスターンの捕虜になったとき、彼はタージの妻に自分と同じ思いをさせたくなく、タージの救出に命を賭けた。タージを救い出したことで彼はトラウマを克服することができたのだった。

 ミミーは、民間航空会社に勤める父親の反対を押し切ってインド空軍に入隊していた。父親は、インド空軍など女性が働く場所ではないと考えていた。だが、その話を聞いていたパティーが偶然ハイダラーバードの空港で彼女の父親と出会い、ミミーが立派に活躍している様子を伝える。考えを変えた父親は空軍基地まで彼女に会いにきて、今まで彼女を理解してあげられなかったことを謝る。ミミーは家族との和解を演出してくれたパティーに感謝する。

 一時、パティーがハイダラーバードに左遷され、訓練生の教官を務めた時期があった。この辺りは「トップガン マーヴェリック」そのままであったが、意外に短時間で終わってしまった。許嫁と同じコードネームを持つ「NJ」との関係など、もう少し深掘りすると面白かったのではなかろうか。NJをはじめとして女性の訓練生も多く、インド空軍に女性の軍人が増えていることも読み取ることができた。「Gunjan Saxena」(2020年/邦題:グンジャン・サクセナ -夢にはばたいて-)が題材にした時代では女性の軍人が珍しかったし、ミミーも家族の理解が得られていなかったが、時代が変わっていることが分かる。ハイダラーバードはどちらかというとパティーがミミーの両親と出会うための場所として用意されていた。

 戦闘機映画にどのようにダンスシーンを組み込むかはインド映画の腕の見せ所だ。バーラーコート爆撃が成功した後にパーティーナンバー「Sher Khul Gaye」となるが、これはうまく入れ込んでいた。後はパティーとミミーのロマンスを演出するダンスシーン「Bekaar Dil」だが、これは突然場面転換する妄想タイプのダンスシーンであり、取って付けたような印象を受けた。「Fighter」でもっとも人気の曲は「Ishq Jaisa Kuch」であるが、これは本編中では使われず、エンドクレジットで流されていた。どのダンスシーンでもリティク・ローシャンは軽やかにダンスを披露しており、ディーピカー・パードゥコーンとの相性も良かった。特に「Ishq Jaisa Kuch」は、「Pathaan」での「Besharam Rang」と似ており、ディーピカーの妖艶な肢体が前面に押し出されたセクシーな曲だ。

 「Fighter」は、インド版「トップガン」を名乗って恥ずかしくない、インド空軍の全面協力も得て作られた戦闘機映画だ。不明点が多いバーラーコート爆撃など、インド側の主張を既成事実化しようとする意図も感じられるが、基本的には娯楽映画である。リティク・ローシャンとディーピカー・パードゥコーンの初共演でも話題だ。興行的にも成功はしているが、思ったほど伸びなかった。続編の製作も予定されているという。時間が足りなかったのか丁寧さに欠ける部分があり、それらを力技で押し切ってしまった印象は受けるが、観ておくべき作品である。