Zila Ghaziabad

2.5
Zila Ghaziabad
「Zila Ghaziabad」

 2013年2月22日公開の「Zila Ghaziabad(ガーズィヤーバード県)」は、首都デリーに隣接するガーズィヤーバードのギャング間抗争を描いたギャング映画である。1990年代からウッタル・プラデーシュ州のガーズィヤーバードでは2つのギャングの間で抗争が起こっていた。その実話に基づいた映画ではあるが、基本的にはフィクション映画である。映画公開当時、インドに滞在していたものの、この映画は現地では鑑賞しなかった。2023年4月12日に鑑賞し、このレビューを書いている。

 監督はアーナンド・クマール。過去に「Delhii Heights」(2007年)や「Jugaad」(2009年)を撮っているが、売れっ子の監督ではない。しかしながらキャストはかなり豪華で、サンジャイ・ダット、ヴィヴェーク・オーベローイ、アルシャド・ワールスィー、パレーシュ・ラーワル、ラヴィ・キシャン、チャーミー・カウル、ミニシャー・ラーンバー、スニール・グローヴァー、チャンドラシュール・スィン、アーシュトーシュ・ラーナー、ザリーナー・ワハーブ、イージャーズ・カーン、ディヴィヤー・ダッターなどが出演している。また、アイテムナンバーも複数あり、シュリヤー・サランが「Chamiya No 1」、ギーター・バスラーが「Baap Ka Maal」でアイテムガール出演している。

 サトビール(ヴィヴェーク・オーベローイ)は大学卒で弁護士資格を持っていたが、デリーなどには行かず、故郷ガーズィヤーバードに住み、子供たちを教えていた。サトビールは村人たちから「マスタージー(先生)」と呼ばれ慕われていた。また、サトビールの兄カラムビール(チャンドラチュール・スィン)は軍人であった。

 「チェアマン」と呼ばれる政治家ブラフマパール(パレーシュ・ラーワル)はガーズィヤーバードの有力者で、警察や、刑務所から釈放されたばかりのギャング、ファウジー(パレーシュ・ラーワル)を掌握していた。チェアマンはサトビールのことをとても気に入っていたが、実の息子ファキーラー(スニール・グローヴァー)は父親から蔑ろにされており、サトビールに嫉妬していた。サトビールはチェアマンの娘スマン(チャーミー・カウル)と恋仲にあったが、それに気付いたファキーラーはサトビールを追い落とすチャンスをうかがっていた。

 また、チェアマンにはラーシド・アリー(ラヴィ・キシャン)という政敵がいた。土地の所有権を巡って争ったばかりで、犬猿の仲だった。

 あるとき、ファウジーの家に暴徒が押し入る事件が起きた。ファキーラーから吹き込まれたファウジーは、サトビールが犯人だと決め付ける。チェアマンはファウジーを制止するが、これがきっかけでファウジーはチェアマンから離れ、ラーシドと手を組む。しばらくサトビールはチェアマンの家に匿われていたが、ファウジーはカラムビールを誘拐し、サトビールをおびき出す。ファウジーによってカラムビールは殺され、続けてチェアマンも殺された。非暴力を信じていたサトビールだったが、度重なる暴力に我慢できなくなり、ラーシドやファウジーと戦うことになる。また、サトビールはスマンと結婚する。

 ガーズィヤーバードでは、サトビールの一派とラーシドとファウジーの一派の間で抗争が繰り広げられていた。この状況を打破するため、警察は荒くれ者のタークル・プリータム・スィン(サンジャイ・ダット)を呼び寄せる。プリータムはサトビールと手を組むが、彼の最終的な目的は、ギャングたちをお互いに争わせて一網打尽にすることだった。

 州議会選挙があり、ラーシドが立候補した。サトビールも弟のオームヴィールを立候補させるが、選挙結果はラーシドの勝ちだった。早速ファウジーはサトビールの家に向けて銃を乱射する。スマンに弾が当たり、彼女は死んでしまう。オームヴィールは仕返しとしてファウジーの恋人カヴィター(ミニシャー・ラーンバー)を誘拐するが、ファウジーに殺される。

 ファウジーは、自分の家を襲撃したのはファキーラーだったことを知る。また、ラーシドとファキーラーが自分をプリータムに売ったことも知る。ファウジーはファキーラーを殺し、次にラーシドも殺す。そしてサトビールと戦う。サトビールはファウジーを倒すが、そこへプリータムがやって来た。サトビールはプリータムに殺されることを覚悟したが、プリータムは彼を逮捕するだけに留めた。

 「Zila Ghaziabad」が公開された頃には、「Delhi-6」(2009年)や「Dabangg」(2010年/邦題:ダバング 大胆不敵)を筆頭に、デリーや北インドを舞台にした映画が流行しており、ガーズィヤーバードが舞台のこの映画もその潮流の一部だと位置づけられる。また、アヌラーグ・カシヤプ監督渾身の「Gangs of Wasseypur Part 1」(2012年)と「Gangs of Wasseypur Part 2」(2012年)公開直後であり、ギャング映画もホットだった。さらに、前述の「Dabangg」や「Singham」(2011年)など、破天荒な警察官を主人公にした映画も人気だった。「Zila Ghaziabad」は、そんな時代の雰囲気をよく受け止めて作られた映画である。敢えて悪く言えば、当時流行っていた映画の数々を切り貼りして作り上げられた映画だ。

 何となくヴィシャール・バールドワージ監督の作風も感じたのだが、残念ながらアーナンド・クマール監督にはバールドワージ監督ほどの才能はないと見える。人間関係が複雑に絡み合う脚本を分かりやすくかつ深みを持たせて一本の映画にまとめることができていなかった。走り出しは悪くなかったものの、中盤から単純に銃を撃ち合い人がバタバタと死んでいくだけの映画になり、グリップ力を失う。登場人物をどんどん削っていけば、それだけストーリー展開は楽になる。だが、人を殺せば殺すほど、幼稚な映画という印象は強くなる。

 ただ、俳優たちの演技は素晴らしかった。サンジャイ・ダット、アルシャド・ワールスィー、ヴィヴェーク・オーベローイ、ラヴィ・キシャン、パレーシュ・ラーワルなど、個性的な俳優たちが重厚な演技を見せており、とても楽しめた。特に「Munna Bhai M.B.B.S.」(2004年)や「Lage Raho Munna Bhai」(2006年)のゴールデンコンビ、サンジャイとアルシャドが「Zila Ghaziabad」では警察とギャングに分かれて対峙するのが密かな見所だ。

 スターとしての風格からサンジャイが主役のような顔をして映画は終幕するが、実際の主人公はヴィヴェークの演じるサトビールだ。2002年のデビュー当初は急速にスターダムを駆け上がっていたヴィヴェークであるが、アイシュワリヤー・ラーイと付き合ったことで元恋人サルマーン・カーンから目を付けられ、キャリアに大きな停滞を招いた。何度もチャンスは与えられたのだが、いまいち伸び悩んだ俳優である。しかし、決して才能のない俳優ではなかったことがこの「Zila Ghaziabad」を観ても分かる。ヴィヴェークは優男役とギャング役を同時にこなせる器用な俳優だ。この映画では、当初は爽やかな青年教師として「Saathiya」(2002年)的な演技をしていたが、ギャング抗争に巻き込まれたことで、「Company」(2002年)的なギャングスターに一気に変貌した。キャラの変化を難なく移行させられていた。

 男性キャストが重苦しいのに対し、女性キャストにはほとんどスターパワーが感じられない。かつてはそこそこの若手女優の一人だったミニシャー・ラーンバーも何だかよく分からない端役で出演させられているし、サトビールの恋人役スマンを演じたチャーミー・カウルにしても、北インド出身ながらテルグ語映画で女優デビューして以来、南インド映画界をほとんど出ていないため、ヒンディー語映画界では全く無名である。シュリヤー・サランも似た境遇の女優で、北インド出身ながら、南インド映画界をホームグラウンドとしている。今回はアイテムガール出演であった。

 ダンスシーンは多めで、2曲のアイテムナンバーに加えて、サンジャイ・ダット、アルシャド・ワールスィー、ヴィヴェーク・オーベローイそれぞれに見せ場となるダンスシーンが用意されていた。

 「Zila Ghaziabad」は、デリー近郊のガーズィヤーバードを実際に騒がせたギャング抗争を題材にしたギャング映画である。監督はほぼ無名だが、サンジャイ・ダットをはじめ、実力のある男性キャストが揃っている。ヒロインの力不足は否めないが、そもそも男臭い映画なので、スター女優を起用する必要もなかったのだと思われる。中盤以降は単調になるのが残念だが、一定の見所はある作品だ。