Munna Bhai M.B.B.S.

4.5
Munna Bhai M.B.B.S.
「Munna Bhai M.B.B.S.」

 サンジャイ・ダットというと、僕は悪役顔のマッチョなアクション男優というイメージが強いが、彼は一方でコンスタントにコメディー映画にも出演している。2004年1月2日から公開された「Munna Bhai M.B.B.S.」も、サンジャイ・ダット主演のコメディー映画である。今日はチャーナキャー・シネマでこの映画を鑑賞した。

 「Munna Bhai M.B.B.S.」とは「ムンナー兄貴、医学部に入る」みたいな意味。「M.B.B.S.」とは「Bachelor of Medicine & Bachelor of Surgery」の略である(頭文字の順番が違うような気がするが)。つまり、医学部と訳していいだろう。監督はラージクマール・ヒラーニー。主演はサンジャイ・ダットと彼の実の父親スニール・ダット(17年ぶりの銀幕カムバックらしい)、そして「Lagaan」(2001年)でデビューしたグレイシー・スィン、ジミー・シェールギル、ボーマン・イーラーニー、アルシャド・ワールスィーなどである。

 ムンナー(サンジャイ・ダット)は、ムンバイーのドービーガート近くで、子分のサーキット(アルシャド・ワールスィー)などを従えてマフィアのボスをしていたが、田舎に住む父親ハリ・プラサード・シャルマー(スニール・ダット)には医者をやっていると嘘をついていた。普段は人を誘拐して金を巻き上げたりしていたが、父親が田舎からムンバイーを訪れるときだけは、子分たちを使ってアジトを病院に見せかけ、医者になった振りをしていた。

 今回も父親がムンナーの元を訪れて来た。ハリ・プラサードは偶然旧知の医者アスターナー(ボーマン・イーラーニー)に出会う。アスターナーにはチンキー(グレイシー・スィン)という娘がおり、ハリ・プラサードはムンナーとチンキーのお見合いを決める。しかしアスターナーはムンナーが医者ではなくゴロツキであることを知り、チンキーを見合いに呼ばず、ムンナーとその両親を見合いの席で侮辱して家から追い出す。ムンナーが医者でないことを知った父親は怒り、村へ帰ってしまう。全てがばれてしまったムンナーは傷心したが、アスターナーを見返すため、そしてチンキーと結婚するため、本当に医者になることを決意する。ムンナーは、ある医者を脅して入学試験を代わりに受けさせ、トップの成績でムンバイーの医学大学に入学する。ところが不幸なことに、その医大の学長は、あのアスターナーであった。アスターナーの方針は、ずばり「患者と心を通い合わせるな」であった。患者の病気を治療するためには、患者をただのモノと捉えなければいけない、というのが彼の持論であった。

 ムンナーは医大でスマン(これもグレイシー・スィン)という女医に出会う。スマンはアスターナーの娘チンキーだったが、彼には正体を隠しながら、新入生のムンナーを助ける。ムンナーは未だ見ぬチンキーに恋焦がれながらも、スマンに惚れていく。ムンナーは患者と抱き合って心を通い合わせることが一番重要だと考えていた。ムンナーのやり方は、医学部の教授たちの反発を招くが、病院のスタッフからは次第に支持されるようになる。ムンナーの影響で、大学病院には笑顔が溢れるようになった。ムンナーはズルをして1学期のテストもトップでパスした。しかしアスターナーはそれが我慢ならなかった。

 アスターナーはとうとうムンナーの退学を決める。しかし病院のスタッフや医学生たちはアスターナーに抗議し、ムンナーをこのまま大学に留まらせるように懇願する。そこでアスターナーは、次の日自らムンナーの試験を実施し、全ての問題に正解したら、彼の在学を認めると宣言する。ムンナーは、既に味方となっていた医学部の教授たちを抱きこんで、答えの暗記に走るが、ちょうどその夜、ムンナーが面倒を見ていた癌患者のザヒール(ジミー・シェールギル)が死亡し、彼はテストどころではなくなる。次の日、彼はザヒールを救えなかった悲しみからテストを途中で放棄して、去っていく。

 しかし、家に帰ったムンナーを迎えたのは、彼の両親だった。スマンは彼の両親に全てを打ち明けた。ムンナーは医者にはなれなかったが、多くの人々の心を癒し、多くの人々に愛されていた。父親はそれを誇りに思い、ムンナーを抱きしめる。そしてスマンは自分こそがチンキーであることを打ち明け、ムンナーとの結婚を承諾する。こうしてムンナーはチンキーと結婚するのだった。

 ホロリとする場面がいくつもある上質のコメディー映画。コメディアンとしてのサンジャイ・ダットの才能が遺憾なく発揮されているように感じた。最初から最後まで、抱腹絶倒のギャグがありながら、病院内での人間のドラマや、非情な院長との対立、情に厚いムンナーの行動などが、いい匙加減で調合されており、監督の才能を感じた。監督のラージクマール・ヒラーニーは、元々TVドラマやミュージックビデオの監督だったようで、これが映画監督第一作らしい。

 病院もののドラマや映画は、比較的お涙頂戴的ストーリーを作りやすいので少し差し引いて考えなければならないとは思うが、この映画は笑い涙に加えて、泣き涙も流させてくれる。あらすじで、癌患者の若者ザヒールについて書いたが、他にも12年間植物人間状態で放置されているアーナンドや、失恋して自殺未遂を繰り返す少年、30年間ずっと床掃除を続けてきたお爺さんなど、多くの人々と心と心の付き合いをする内に、ムンナーは大学病院内で人望を集めて行く。ムンナーが来る前の病院は、患者が死にかけているのに、医者は「まだフォームを書いてないから」とか「今は勤務時間外だから」という態度で治療をせずにいるような状態だった。ムンナーはそういう病院の悪い体制を改め、患者と友人になり、患者と心を通わせることによって、病気の治療を心がけた。もちろん、現実世界でこんなにうまく行くはずはないのだが、何だか感動してしまう。

 大学病院の院長を務めるアスターナーも、高圧的な性格ながらいろいろ笑わせてくれる。彼は「笑いセラピー」という独自の理論を実践している。それはつまり、ストレスを感じたり、怒りがこみ上げたりしたときに、無理矢理笑って心を安定させるという方法である。アスターナーはムンナーのせいで何度も怒り狂うが、その度に不気味な笑いをして、それが爆笑を誘っていた。

 サンジャイ・ダットの出演するコメディー映画は、「Ek Aur Ek Gyarah」(2003年)ぐらいしか見たことがないが、あの映画よりはいい演技をしていた。「Munna Bhai M.B.B.S.」では、医学生であるものの、実際はマフィアの役だったので、特に違和感なく見ることができただけなのかもしれないが。ちなみに彼の父親、スニール・ダットも、ムンナーの父親役で出演している。スニール・ダットはかつての人気男優である。

 グレイシー・スィンをスクリーンで見たのは、2001年の「Lagaan」以来だ。同映画でガウリー役を演じる彼女を見たときは、はまり役だと感じたが、あまりにはまっていたため、そのイメージが定着して今後あまりブレイクしないのではないかと予想していた。実際、「Lagaan」以来、彼女の出演する映画は2003年の「Armaan」、「Gangaajal」ぐらいしかなく、この「Munna Bhai M.B.B.S.」が彼女の第4作となる。「Lagaan」の頃に比べて少しふっくらしたように感じるが、今回は女医という知的な役柄で、さらに魅力ある女優に成長しているように思った。しかし、現在の他の女優に比べて、肌の色が黒いのが今後欠点となるだろう。ビパーシャー・バスの黒さはあまり気にならないばかりか、彼女の魅力を一層引き立てているが、グレイシー・スィンの黒さは、「もっと白ければ、もっと魅力的なのに」という、一種の失望感が伴う。

 この映画では、インドの大学に特有の「ラギング」の実態を垣間見ることができる。ラギングとは要するに新入生いじめのようなものであり、特に大学の寮などで行われる。この映画では、新入生は皆パンツ一丁になって、上級生の前で踊らされていた(典型的なラギングである)。しかし筋肉ムキムキのムンナーが踊りだすと、上級生たちは怯えだし、ムンナーの命令に従って今度は上級生たちが裸で踊り出すのだった。もちろん大爆笑である。男子寮ではこのようなラギングが必ず行われるようだが、女子寮でどのようなラギングが行われるかは・・・念ながら今のところ情報がない。

 先にも述べたが、笑いあり、涙ありの傑作映画であり、現在インド人に大いに受けてヒットをしている。サンジャイ・ダットのファンというのが日本人の中にいるとは思えないのだが、「Lagaan」でグレイシー・スィンに心を奪われたなら、見る価値はあるだろう。