Gangaajal

3.5

 プラカーシュ・ジャー監督はインドの政治や社会を題材に硬派な映画作りをすることで知られる監督であり、2003年8月29日公開のヒンディー語映画「Gangaajal」は彼の代表作の一本である。題名は「ガンジス河の聖水」を意味する。ガンジス河はインドでもっとも聖なる河と考えられており、その水はあらゆる罪を洗い流すとされる。だが、映画の中でこの言葉は、悪者への私刑として浴びせかけられる酸に転用されている。

 主演はアジャイ・デーヴガン。他にグレイシー・スィン、モーハン・アーガーシェー、ムケーシュ・ティワーリー、アキレーンドラ・ミシュラー、モーハン・ジョーシー、ヤシュパール・シャルマー、アユーブ・カーン、アヌープ・ソーニー、ダヤー・シャンカル・パーンデーイ、チェータン・パンディトなどが出演している。また、マーンニャターがアイテムナンバー「Alhad Mast Jawani Bemisaal」にアイテムガール出演している。

 アミト・クマール警視(アジャイ・デーヴガン)はビハール州テージプルの警察署に赴任する。テージプルは、サードゥ・ヤーダヴ(モーハン・ジョーシー)とその息子スンダル・ヤーダヴ(ヤシュパール・シャルマー)によって牛耳られており、治安が悪かった。また、警察の士気も低く、サードゥやスンダルと通じていたり、汚職に手を染めていたりする警官ばかりだった。アミト警視は赴任早々、部下たちを叱咤し、治安回復に努める。

 バッチャー・ヤーダヴ警部補(ムケーシュ・ティワーリー)はサードゥに弟子扱いされる警官だったが、アミト警視に不正がばれ、停職処分となったことをきっかけに心を入れ替え、一転してアミト警視の忠実な部下となる。スンダルはアプールヴァーという女性を誘拐していたが、スンダルの逮捕にバッチャー警部補は貢献する。スンダルは証拠不十分で釈放され、バッチャー警部補はサードゥやスンダルに命を狙われるようになる。

 アミト警視は、町中で暴行をしていたサードゥとスンダルの手下を署まで連れてくるが、アミト警視が留守の間に、バッチャー警部補ら警官は彼らの目に酸を入れて潰す。彼らは酸を「ガンガージャル(ガンジス河の聖水)」と呼んだ。この行動はメディアなどから人権侵害として糾弾されるが、サードゥやスンダルの横暴に耐えかねていた住民たちは警察の行動を支持する。テージプルでは酸を使った攻撃が相次ぐようになる。

 サードゥは内相やヴァルマー警視長(モーハン・アーガーシェー)に掛け合い、アミト警視やバッチャー警部補を停職処分とさせる。バッチャーはサードゥの手下に殺されてしまう。アミトはスンダルを捕まえるが、またも釈放される。スンダルは、アプールヴァーの結婚式に乱入するが、アプールヴァーは自殺してしまう。そこへサードゥも駆けつけるが、怒った群衆がサードゥとスンダルに酸を掛けようとする。アミトはそれを止めるが、二人は逃げ出す。彼らはアミトと戦っている内に針に刺さって死んでしまう。

 1970年代のビハール州では、政治家と悪党が結託したことで、「ジャングル政治」と呼ばれるほど治安が悪化していた。警察が犯罪者を捕まえても、上からの圧力が掛かり、すぐに釈放されてしまう。犯罪者は自身の免疫性を自覚し、ますます幅を利かせるようになる。そんな負の連鎖が起こり、人々の安全を脅かしていた。そんなとき、治安維持のために一部の警察官が非公式に行ったのが、逮捕した犯罪者の目を酸で潰す行為である。1979-80年にビハール州のバーガルプルで発生したバーガルプル盲目事件のことだ。人権活動家などは非難の声を上げたが、治安の悪化に困窮していた一般市民は拍手喝采をした。

 「Gangaajal」は、その実在の事件を題材にした、プラカーシュ・ジャー監督らしい映画である。ただ、酸で犯罪者の目を潰す行為は、主人公の警察官僚アミトが行うわけではない。アミトは実直な警察官で、赴任したテージプルの治安回復のために全力を尽くしてはいたが、必ず法に則った方法を採ろうとしていた。それを行ったのは、彼の部下である警察官たちである。そして、その極端な私刑は民衆に広まり、次々と悪党たちの目が酸で潰されるようになる。

 世に悪党がはこびり、法律を無視あるいは濫用して悪事を働くようになったとき、警察や民衆は、その悪に対抗するときに、どこまで法律を遵守しなければならないのだろうか。悪党が世にはこびるということは法律が無力化されたということであり、その事態に立ち向かおうとする者も法律を無視することが許されるという解釈も成り立つ。「Gangaajal」は、そんな難しい問題を観客に突き付ける作品であった。

 アミトは最後まで悪役のサードゥとスンダルに法の裁きを受けさせようと努力する。だが、最終的には彼らは乱闘の中で死んでしまい、それは実現しない。映画は問題を提起するだけ提起しておいて、明確な答えを提示せずに終わってしまっていた。

 主演のアジャイ・デーヴガンは、実直な警察官を真摯に演じていた。彼が演説をするシーンもいくつかあるが、非常にパワフルな演技だった。ヒロインのグレイシー・スィンはほとんど出番がなかった。バッチャーを演じたムケーシュ・ティワーリーが好演していたし、悪役のヤシュパール・シャルマーも良かった。

 「Gangaajal」は、硬派な社会映画が得意なプラカーシュ・ジャー監督が、正義のありかたについてインド国民に問い直した作品である。編集に雑な点が見られたのだが、ストーリーは一本筋が通っていて、引き込まれるものがある。アジャイ・デーヴガンの演技も大きな見所である。