Dining with the Kapoors

3.0
Dining with the Kapoors
「Dining with the Kapoors」

 カプール家は「ヒンディー語映画界のファーストファミリー」と呼ばれている。ヒンディー語映画黎明期の大スター、プリトヴィーラージ・カプールから始まり、ラージ・カプール、シャシ・カプール、ランディール・カプール、リシ・カプール、カリシュマー・カプール、カリーナー・カプール、ランディール・カプールなど、各時代を代表する大スターたちを輩出してきた。まさにヒンディー語映画の歴史そのものといっても過言ではない家族である。

 2025年11月21日からNetflixで配信開始された「Dining with the Kapoors」は、カプール家の第2世代であり、ヒンディー語映画の発展に決定的な役割を果たした大監督・大俳優ラージ・カプールの生誕100周年を祝い、カプール家のメンバーが集合して食事をするというコンセプトのドキュメンタリー的な作品である。ラージ・カプールの誕生日は1924年12月14日なので、おそらく1年前に撮影されたものが編集されて今配信されているのだと思われる。日本語字幕付きで、邦題は「カプール家のダイニングルーム」になっている。

 この集まりを企画したのはアルマーン・ジャイン。ラージ・カプールの娘リーマーは実業家マノージ・ジャインと結婚したが、その二人の間に生まれたのがアルマーンである。彼は「Lekar Hum Deewana Dil」(2014年)で俳優デビューしたが売れず、現在はムンバイーで「The Junglee Kitchen」という配達専門の飲食業ビジネスに従事している。カプール家に代々伝わるレシピを再現したインド料理の数々を提供しているということで、かなり興味がある。アルマーンはカプール家のメンバーを招待し、自らキッチンに立って料理を作り、彼らをもてなした。

 もちろん、カプール家のメンバーはそれぞれ忙しく、全員が集まれたわけではない。だが、そうそうたるメンバーといっていい。最長老はラージ・カプールの長男ランディール・カプールだ。カプール家の第3世代である。そして、彼の妹でありアルマーンの母親であるリーマーも後から参加している。

 ランディールには2人の娘がおり、長女がカリシュマー、次女がカリーナーである。このカプール姉妹は、1990年代から2000年代にかけてヒンディー語映画界をリードした。特にカリーナーは「3 Idiots」(2009年/邦題:きっと、うまくいく)のヒロインとして日本人にも知られている。今回は二人ともこのミーティングに参加しており、安定した仲の良さを見せていた。

 カリーナーの夫がサイフ・アリー・カーンだ。1990年代から活躍している男優だが、「Vikram Vedha」(2022年/邦題:ヴィクラムとヴェーダ)や「Devara Part 1」(2024年/邦題:デーヴァラ)などによってようやく最近になって日本人にも名が知れ渡るようになった。カプール家はヒンディー語映画界の「ロイヤルファミリー」扱いだが、サイフはパタウディー王家の御曹司であり、正真正銘の王族である。彼も参加していたが、カプール家の集いということで、いってみればアウェイであり、多少居心地悪そうにしていたのが印象的だった。

 ランディールの弟リシ・カプールは2020年に亡くなっている。その息子ランビール・カプールは現在第一線で活躍する大スターの一人であり、「Brahmastra Part One: Shiva」(2022年/邦題:ブラフマーストラ)などに出演している。ランビールはさすがにスターのオーラをまとっており、個性派ぞろいのカプール家の中でもひときわ輝きながら陽気に場を盛り上げていた。ただ、彼の妻アーリヤー・バットは所用のため出席できなかったようである。

 集まった中でおそらくもっとも若いメンバーはナヴィヤー・ナヴェーリー・ナンダーだ。ランディールの妹リトゥは実業家ラジャン・ナンダーと結婚し、二人の間に生まれたのがニキル・ナンダーである。ニキルはアミターブ・バッチャンの娘シュエーターと結婚し、二人の間に生まれたのがナヴィヤーになる。カプール家とバッチャン家の血を引くサラブレッドだ。彼女の弟アガスティヤ・ナンダーは「The Archies」(2023年)で俳優デビューしている。

 他にも、アルマーンの弟で「Hello Charlie」(2021年)などに出演のアーダル・ジャイン、リシの妻かつランビールの母ニートゥー、ランビールの姉リッディマー、ラージの弟シャシの息子クナル・カプールなどが参加していた。また、この食事会とは別に、カプール家の個々のメンバーにインタビューした映像も使われており、そこではさらに多くのメンバーが顔を出している。

 「Dining with the Kapoors」では、カプール家がいかに食いしん坊なのかが繰り返し語られていたが、それとは別に感傷的に語られていたのが、ラージ・カプールの自宅デーオナール・コテージである。ムンバイーのチェンブール地区にあり、カプール家の各メンバーはここで過ごした楽しい思い出を共有している。デーオナール・コテージは何らかの事情で売却を余儀なくされたらしく、現在はカプール家の手を離れているらしい。だが、アルマーンは食事の後に「スモール・サプライズ」としてデーオナール・コテージの模型を用意し披露した。

 「Dining with the Kapoors」は、個性的なカプール家のメンバーが集まって食事をしながら、亡きラージ・カプールの思い出などを思い思いに語り合う様子を撮った映像が中心であり、はっきりいって「山なし落ちなし意味なし」の映像作品である。ただ、先述の通り、カプール家は「ヒンディー語映画界のロイヤルファミリー」同然であり、その内部に入り込んで彼らのおしゃべりに入り込むことができるのは、インド人にとって決してつまらない体験ではないと思われる。アルマーン・ジャインが腕によりを掛けて作った料理の数々もどれもおいしそうで、グルメ方面の需要もあるかもしれない。特に残るものはないが、ヒンディー語映画ファンなら楽しめる作品である。