Kanguva (Tamil)

2.5
Kanguva
「Kanguva」

 2024年11月14日公開のタミル語映画「Kanguva」は、輪廻転生によって1070年と2024年をつなぎ、同時並行的に2つの時代の物語を見せるスタイルのエピック・アクション映画である。2024年の期待作の一本であったが、評論家からは酷評されており、興行成績も期待を下回った。

 監督は「Annaatthe」(2021年)などのシヴァ。主演はスーリヤー。他に、ボビー・デーオール、ディシャー・パータニー、ヨーギー・バーブーなどが出演している。また、「Kaithi」(2019年)などのカールティが特別出演している。

 一時はオリジナルのタミル語版を含め世界38言語でリリースする計画もあったようだが、結局はヒンディー語、テルグ語、マラヤーラム語、カンナダ語などのインド諸語に加え、ロシア語版が公開されたくらいだったようである。鑑賞したのはタミル語版であり、英語字幕を頼りに内容を理解した。

 なお、「Kanguva」には154分の完全版と142分の短縮版があるようで、鑑賞したのは短縮版であった。鑑賞中、序盤で不自然な端折りが多いと感じたが、おそらくそれは短縮版だったからであろう。

 2024年、ロシアの研究所から脳を改造され超能力を植え付けられた少年ゼータが脱走し、ゴアに降り立つ。賞金稼ぎのフランシス(スーリヤー)は相棒のコルト95(ヨーギー・バーブー)と共にゴアで活動をしており、ゼータと出会う。彼らはゼータを引き取るが、別れた元恋人アンジェラ(ディシャー・パータニー)の罠にはまり拘束されてしまう。そこへロシア人傭兵たちが現れゼータを誘拐する。拘束を抜け出したフランシスはゼータを追いかけるが、その中で彼には前世の記憶が思い出されてくる。

 1070年、ローマ軍がインド亜大陸を侵攻する足がかりにしようとペルマーチ島に目を付けた。ローマ軍に買収されたコドゥヴァンはペルマーチ島の王センティーをだまして軍人を抹殺しようとする。だが、センティーの息子カングヴァー(スーリヤー)はそれを阻止し、コドゥヴァンを処刑する。カングヴァーはコドゥヴァンの息子ポルヴァを養子にする。

 コドゥヴァンを使った姦計に失敗したローマ軍は、ペルマーチ島とライバル関係にあるアラティ島と手を結ぶ。ローマ軍とアラティ島の連合軍はペルマーチ島に宣戦布告し、戦争が始まる。だが、直接戦火を交える前にアラティ島の王ウディラン(ボビー・デーオール)の息子たちがカングヴァーを奇襲して抹殺しようとする。カングヴァーはそれを撃退するが、ポルヴァの裏切りに遭って負傷する。ペルマーチ島の島民たちはポルヴァの処刑を求めるが、カングヴァーは彼を守る。ポルヴァは「暗闇の森」に追放となるが、カングヴァーも彼に付き従うことになる。カングヴァーは、アラティ島との戦争が終わったら彼に身を差し出すと誓う。

 ウディランは息子を殺されたことで怒り狂い、自ら指揮を取ってペルマーチ島に攻め込む。カングヴァーは一人でアラティ島の戦士たちに立ち向かい、皆殺しにする。そこでウディランはポルヴァを誘拐させる。カングヴァーはウディランの待つ船に乗り込み、ポルヴァを助けようとする。だが、ポルヴァは自ら命を絶つ。怒ったカングヴァーはウディランを殺す。

 アラティ島ではウディランの葬儀が行われていた。そこへ、ウディランの妾から生まれたラターンガサン(カールティ)が現れ、アラティ島の新たな王となってカングヴァーへの復讐を誓う。

 一方、2024年では、フランシスがゼータを救い出す。その過程で彼は自分がかつてカングヴァーであったこと、ゼータは彼の養子ポルヴァであったことなどを思い出す。ゼータが何者かにさらわれたことを知って不敵な笑みを浮かべたのは、ライアン(カールティ)であった。

 「絶叫映画」と呼んでもいいかもしれない。日本では、観客が絶叫してもいい「絶叫上映」なるものがあったが、この「Kanguva」は観客が叫ぶのではない。映画の中のキャラが誰も彼も常に叫んでいるのである。

 インド映画の定番、いわゆる輪廻転生モノの映画になるが、1070年と2024年、2つの時代を同時並行的に進めていく点には目新しさを感じた。しかも、この映画の終わりではどちらも結末に至らなかった。1070年のストーリーが一応完結した上で2024年のストーリーがあるのかと思ったが、「Kanguva」中で1070年のストーリーは完結しておらず、続編「Kanguva 2」に続いていく。もちろん、2024年のストーリーもまだ続く。つまり、数部構成の映画ながら、2つの時代のストーリーがずっと並行して進んでいくことになりそうだ。

 1070年のストーリーは、「Baahubali」シリーズ(2015年2017年)と「K.G.F」シリーズ(2018年2022年)を混ぜたような雰囲気である。時代劇でありながら世紀末もミックスされている。それにしても11世紀にローマ軍がインドを攻めてくるというこの設定は大丈夫なのだろうか。この時代のローマ帝国といえば東ローマ帝国になるだろうが、既に最盛期を過ぎ、セルジューク朝の圧迫を受けていて、とてもインドまで遠征できる国力はなかったのではないかと思われる。また、1070年のストーリーの舞台となるのは、インド亜大陸のそばに浮かぶという5つの島だ。もちろん、架空の島である。お互いに近接していると思われるのだが、雪の島があったり灼熱の島があったりして、気候学を完全無視している。娯楽映画に対して細かい考証をあげつらってツッコミを入れるのは野暮であろうが、非常に雑然とした印象を受けた。

 2024年のストーリーは、大友克洋監督の「AKIRA」(1988年)を彷彿とさせた。「Kanguva」はどちらかといえば1070年のストーリーに時間が割かれており、おそらく続編でもっと展開されると思われる。日本人として少し期待している。

 ヒンディー語映画の観点からは、ヒンディー語映画俳優ボビー・デーオールが悪役で出演していることが注目される。ボビーは長年くすぶっていて、ほとんど「終わったスター」扱いだったのだが、ウェブドラマ「Aashram」(2020-23年)で再評価されてカムバックし、「Animal」(2023年)の演技が絶賛された。ボビーにとって「Kanguva」はタミル語映画デビュー作になったが、ウディラン役を捨て身ともいえるほどの危機迫る演技で演じており、素晴らしかった。ディシャー・パータニーも本作でタミル語映画デビューしたが、彼女の主な出番は続編に持ち越されそうだ。

 「Kanguva」は、とにかく四六時中叫んでばかりのうるさいエピック・アクション映画である。ストーリーも稚拙であり、興行的に失敗したのもうなずける。続編があるとのことだが、もしかしたら頓挫するかもしれない。ボビー・デーオールにとっては出て損のなかった映画になった。とりあえず無理して観る必要のない映画である。