Annaatthe (Tamil)

3.5
Annaatthe

 2021年11月4日公開の「Annaatthe(兄貴)」は、タミル語映画界のスーパースター、ラジニーカーント主演の娯楽映画である。撮影は新型コロナウイルスのパンデミック下で小康状態の期間を縫って行われ、公開日程も影響を受けたが、2021年のディーワーリー祭に合わせて公開に漕ぎ着けた。

 監督はシヴァ。主演のラジニーカーントの他には、キールティ・スレーシュ、ナヤンターラー、クシュブー、ミーナー、ジャガパティ・バーブー、プラカーシュ・ラージ、スーリー、アビマンニュ・スィンなどが出演している。

 キャスティングで特筆すべきは、「Muthu」(1995/邦題:ムトゥ 踊るマハラジャ)でラジニーカーントと共演した女優ミーナーが久しぶりに彼とスクリーンを共にしていることである。ミーナーの出演自体も10年振りになる。また、クシュブーも1980年代から90年代にかけてラジニーカーントとよく共演していた女優だった。また、悪役としてヒンディー語映画界で活躍するアビマンニュ・スィンが起用されている。

 鑑賞したのはヒンディー語吹替版である。11月4日にはタミル語版のみが公開されたはずだが、その後、Netflixでの配信時には多言語展開となり、その中にヒンディー語吹替版も含まれていた。ダンスシーンの歌詞もきちんとヒンディー語になっていたため、単純な吹替ではない。

 スーラコタイ村のカーライヤン、通称アンナーテー(ラジニーカーント)は村人たちから畏怖される存在だった。アンナーテーの両親は早くに亡くなっており、年の離れた妹タンガー・ミーナークシー(キールティ・スレーシュ)を育て上げた。この兄妹の絆は非常に固かった。また、アンナーテーは女性弁護士のパッタマル(ナヤンターラー)と恋に落ちる。

 アンナーテーは妹の結婚相手を探していた。だが、アンナーテーがあまりに妹思いだったため、彼の過剰な干渉を嫌がって名乗り上げる者がいなかった。そんな中、アンナーテーとライバル関係にあったナッタドゥライ(プラカーシュ・ラージ)が彼と仲直りし、タンガーの結婚相手として息子を提案した。アンナーテーはそれを受け入れる。しかし、結婚式の日、タンガーは姿を消す。彼女は恋人のアルヴィンドと逃げようとしていた。アンナーテーはタンガーをわざと逃がす。

 その後、タンガーがコルカタにいるとの噂を聞きつけ、アンナーテーは彼女の様子を見に行く。だが、タンガーはトラブルに巻き込まれ、貧しい生活を余儀なくされていた。兄を裏切って駆け落ち結婚してしまったため、兄にも頼れずにいた。そこでアンナーテーは影ながら彼女を助けることにする。まずはタンガーをパッタマルと一緒に住まわせ、彼女がなぜそのような境遇に置かれたのかを探り出す。

 タンガーの結婚相手アルヴィンドはコルカタの裕福な家庭に生まれ育ち、二人は会社を興すが、コルカタを支配する実業家マノージ・パーレーカル(アビマンニュ・スィン)に目を付けられ、破滅させられたのだった。そこでアンナーテーはマノージに復讐を開始する。アンナーテーの圧倒的な強さの前にマノージは打ちのめされるが、彼は死ぬ直前に腹違いの兄ウドバウ・パーレーカル(ジャガパティ・バーブー)に助けを求める。ウドバウは弟の敵を自分の敵とし、アンナーテーの捜索を始める。

 アンナーテーはウドバウの部下を撃退するが、ウドバウはタンガーを狙っていた。そこでアンナーテーはドゥルガー・プージャーに参加していたタンガーの救出に向かい、彼女に襲い掛かる悪漢たちを密かに倒していく。そして最後にウドバウを殺し、やっとタンガーの前に姿を現す。

 軸となるストーリーは、妹思いの主人公アンナーテーが、妹とその夫を破滅に追い込んだ実業家マノージとその腹違いの兄ウドバウに復讐するもので、基本的にはダークなアクション映画であった。しかし、伝統的なマサーラー映画のフォーマットに則り、その軸にいろいろな遊び要素が追加されていた。特に、アンナーテーの故郷スーラコタイ村での顛末は、アンナーテーの人となりや、兄と妹の絆を説明する重要な役割は果たしていたものの、説明という役割を超える時間と労力を費やしていた。後半の復讐劇だけではダークになり過ぎていたかもしれないが、この前半の明るいシーンがあったからこそ、バランスが保てていたと感じた。

 相変わらずラジニーカーント演じるアンナーテーはどこから見ても最強の男である。戦えば無敵で、頭脳は明晰、そしてお茶目なところもあるという正真正銘のヒーローである。いつものラジニーカーントといったところだ。今回は、ロマンスは控えめな代わりに妹に対する強い愛情が強調されており、彼女を影ながら助けるお助けマンに徹していた。ラジニーカーント映画によくあるのだが、彼をかっこよく演出することに命が懸けられていた。特にダンスバーでの彼の怒りの表現が独創的であった。

 何人もの女優が登場していたが、メインヒロイン扱いなのはアンナーテーの妹タンガーである。だが、タンガーは兄に相談せずに恋人と駆け落ちしたり、コルカタでトラブルに巻き込まれても兄に頼らなかったりと、論理的に納得できない行動が多く、感情移入が難しい。後半は単なる不幸なヒロインに成り下がってしまっていた。タンガーよりは自立した女性を体現していた弁護士パッタマルは「レディー・スーパースター」の異名を持つナヤンターラーが演じていた。しかし、彼女の出番も限定的だった。

 ラジニーカーントと過去に共演した女優であるクシュブーとミーナーが前半に突然登場するのはほとんどオマージュに近い。しかも、2人ともアンナーテーの昔の結婚相手候補で、既婚となった今でも彼との結婚を熱望しているという訳の分からない設定だった。二人ともすっかりおばさんになっており、時の流れを強く感じさせるが、女優がおばさんになっても未だにヒーローを演じ続けているラジニーカーントの凄さが強調される形になっていた。

 悪役の方は三段構えだった。まずはプラカーシュ・ラージ演じるナッタドゥライ。だが、彼はすぐにアンナーテーに恭順する。次に登場するのはコルカタの実業家マノージ。そしてマノージが撃破されたことで真打ちとして登場するのが、マノージの兄ウドバウである。

 タミル・ナードゥ州から飛び出てコルカタへ移り、タミル人にとっての「アウェイ」が舞台になる後半は個人的には興味深かった。タミル語映画は、あまりにタミル至上主義を掲げるあまり、それ以外の土地をネガティブに描く習性がある。この「Annaathe」でも、西ベンガル州は決して好意的に描かれていなかった。取りようによっては、タミル人がベンガル人男性と駆け落ち結婚したことで不幸になったというメッセージにも取れる。また、アンナーテーがベンガル人から「マドラースィー」呼ばわりされるシーンもあった。チェンナイの旧名マドラスから派生した言葉で、通常はそこに差別的な感情は含まれないが、言い方によっては「田舎者」ぐらいのニュアンスが含まれることがある。

 「Annaatthe」は、タミル語映画界のスーパースター、ラジニーカーントの主演作である。興行的には大ヒットとして記録されているが、古風なプロットなどが原因で評論家からは酷評された。しかし、ラジニーカーント映画としてのお約束はきちんと守って作っており、彼のファンにとっては溜まらない作品であろう。楽しく鑑賞することができた。