Kaithi (Tamil)

4.0

 新型コロナウイルス感染拡大により新作映画の公開が制限される中、2021年に劇場一般公開のインド映画は4本となった。「Mission Mangal」(2019年/邦題:ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画)、「Jallikattu」(2019年/邦題:ジャッリカットゥ 牛の怒り)、「Darbar」(2020年/邦題:ダルバール 復讐人)、そして「囚人ディリ」の邦題と共に2021年11月19日公開の「Kaithi」である。インド本国では2019年10月25日に公開されている。2021年の日本公開インド映画の全ては、コロナ禍前の2019年から2020年第1四半期の映画ということになる。言語別で見ると、順にヒンディー語、マラヤーラム語、タミル語、タミル語となる。

 「Kaithi」の監督はローケーシュ・カナガラージ。主演はカールティ。他に、ナーラーイン、アルジュン・ダース、ハリーシュ・ウッタマン、ジョージ・マリヤンなどが出演している。全員タミル語映画界で活躍する俳優たちであり、ヒンディー語映画界では全く聞かない名前である。

 ちなみに、題名の「Kaithi」とは、ヒンディー語の「Qaidi」と同じ単語のはずである。意味は「囚人」となる。以下、途中までのあらすじである。

 タミル・ナードゥ州警察のビジョイ警部補(ナーラーイン)が率いる特捜部は複数の麻薬密売人を逮捕し、900kgのコカインを押収する。マフィアのボス、アダイカラム(ハリーシュ・ウッタマン)も消息不明となっていた。そこでアダイカラムの弟アンブ(アルジュン・ダース)は警察に復讐し、コカインを取り戻そうとする。

 アンブは警察内部の内通者を使って、警察署長の退任パーティーに出席した警察官たちを薬物を使って昏睡させる。だが、ビジョイだけは飲食をしなかったため助かった。ビジョイ警部補は、出所したばかりの囚人ディリ(カールティ)にトラックを運転させ、警察官たちを病院に送り届けようとする。また、アンブたちは押収したコカインが保管されたティルチーの警察署を襲撃する。ティルチー警察署には、転勤して来たばかりの老警察官ナポレオン(ジョージ・マリヤン)と、飲酒運転をして捕まった大学生数人しかいなかった。だが、ビジョイの指示に従って防備を固めていたため、しばらく持ちこたえていた。

 ところで、ディリは10年間刑務所に入っていた。ディリは妻を亡くしており、娘のアマダは孤児院にいた。ディリはアマダと顔を合わせたことがなく、彼女に会うために孤児院を目指していたのだが、ビジョイの命を守ることを約束する。実はディリは一騎当千の戦士であった。昏睡した警察官たちを乗せたトラックは、アンブの部下たちの襲撃を何度も受けるが、ディリはほとんど一人で彼らを撃退する。

 ディリはまず、警察官たちを病院に送り届け、次にティルチーを目指すが、内通者のせいで情報がアンブたちに漏れており、行く先々で待ち伏せに遭う。果たしてディリはビジョイを守り通し、娘と会うことができるだろうか。

 大量のコカインを巡ってマフィアと警察の間で繰り広げられる一晩の攻防を、複数の視点から同時進行的に描いたダークなアクション映画であった。上映時間は2時間半に渡るが、歌と踊りで気張らしするシーンは皆無であり、マフィアの大軍が襲い掛かるシーンがリズムをもって繰り返され、緊迫感を煽る。コカインを押収したビジョイ警部補が負傷して戦力にならない中、たまたまトラックの運転手を任された囚人ディリが獅子奮迅の戦いをし、ビジョイの任務を代わりに遂行する。その点では、「ダイ・ハード」シリーズに似た、巻き込まれ型のアクション映画とも言える。

 映画はいくつかの場面に分けられる。メインとなるのは、ディリの運転するトラックを中心とした場面だ。酒に混入された薬物を摂取したことにより昏睡状態に陥った警察官たちを病院に送り届けるため、ディリはトラックを運転して夜道を疾走する。ビジョイはコカインの大量押収や警察官の失態を秘密にするため、敢えてハイウェイを通らず、裏道で病院に向かわせる。だが、警察官に内通者がおり、昏睡した振りをしてトラックに乗っていた。彼がマフィアと逐一連絡を取るため、居場所が知れてしまい、道中で何度も待ち伏せに遭う。疾走するトラックの周辺で戦いが繰り広げられる様子は、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015年)を思わせる。

 その一方で、ティルチー警察署では籠城戦となる。作りが古く頑丈なティルチー警察署の地下には、押収したコカインが保管されており、マフィアはそれを取り戻すために襲撃を仕掛ける。しかも、勤務していた警察官は逃げ出してしまい、中に残っていたのは、転勤して来たばかりの老いた警察官ナポレオンと、飲酒運転で捕まった大学生のみだった。彼らは力を合わせてマフィアの襲撃に備える。また、最初は頼りなく見えたナポレオンが、警察官としての誇りを取り戻して、勇敢に戦うようになる姿も見所となる。

 それに加えて、孤児院で未知の訪問者を待つ、ディリの娘アマダのシーンが差し挟まれ、愛おしさを喚起する。アマダは、翌日誰かが訪問して来ると知らされていたが、誰かは分からなかった。期待に胸を膨らませ、夜になっても寝つくことができず、面会の時間が来るのをひたすら待ち続ける。一度は我慢しきれなくなり、訪問者に電話を掛けるが、そのときディリはトラックを運転してマフィアたちから逃げているところで、まともに応答することができなかった。

 主にこれら3つの場面がバランス良く配置され、疾走するスリルと、籠城戦の絶望感と、未知の面会者への希望が交互に繰り返される。実はトラックは常に走っている訳ではなく、急いでいる割には途中で何度も止まってしまっていた。それが多少の停滞感を生んでしまっていたように感じたが、それ以外はよく練られた構成だった。

 エンディングでは全ては解決されておらず、続編を匂わす終わり方であった。実際、ローケーシュ・カナガラージ監督は続編の製作を発表している。また、前日譚の映画化の計画もあるようである。興行的にも10億ルピーを超えるヒットとなり、ヒンディー語映画のリメイクもアジャイ・デーヴガン主演で決定している。

 2019年のヒット作の一本「Kaithi」は、警察がマフィアから押収した大量のコカインを巡る一晩のスリリングな攻防に集中して作られたダークなアクション映画である。一般的なインド娯楽映画のフォーマットから逸脱した作りで、歌や踊りもないが、その分、緊張感あふれる場面が断続的に続き、スクリーンから目が離せない。独自の世界観の創出に成功しており、長期的なシリーズ化も十分狙える作品である。