Singham Again

2.5
Singham Again
「Singham Again」

 2024年11月1日公開の「Singham Again」は、ローヒト・シェッティー監督の「コップ・ユニバース」の第5作となる作品である。コップ・ユニバースは「Singham」(2011年)から始まり、「Singham Returns」(2014年)、「Simmba」(2018年)、「Sooryavanshi」(2021年)と続いてきた。「Singham」タイトルの作品ではアジャイ・デーヴガン演じるスィンガムが主役であるが、「Simmba」ではランヴィール・スィン演じるシンバが、「Sooryavanshi」ではアクシャイ・クマール演じるスーリヤヴァンシーが主役であった。ただ、「ユニバース」を冠している通り、相互にカメオ出演があり、全体でひとつの世界を構成している。ちなみに、コップ・ユニバースの主人公は全員警察官である。

 「Singham Again」の監督はもちろんローヒト・シェッティー。アジャイ・デーヴガンがプロデューサーと主演を務め、ランヴィール・スィンとアクシャイ・クマールの特別出演があるのは織り込み済みであるが、それ以外にもキャスティングにサプライズがある。

 まず、メインヒロインはカリーナー・カプールであるが、女性警官「レディー・スィンガム」としてディーピカー・パードゥコーンが出演し、彼女もメインヒロインと呼んでいい存在感を放っている。この二人が共演するのは「Main Aurr Mrs Khanna」(2009年)以来だ。また、ディーピカーはカリーナーの従弟ランビール・カプールと付き合っていたことがあり、多少の因縁がある。また、スィンガムを慕う若い警察官サティヤ役をタイガー・シュロフが演じる。悪役はジャッキー・シュロフとアルジュン・カプールである。ジャッキーとタイガーの父子共演は「Baaghi 3」(2020年)以来であるが、彼らがスクリーンを共有する場面はない。

 他に、ラヴィ・キシャン、シュエーター・ティワーリー、ダヤーナンド・シェッティーなどが出演しているが、本当のサプライズはエンドロールの途中で一瞬登場するサルマーン・カーンだ。「Dabangg」(2010年/邦題:ダバング 大胆不敵)で彼が演じたチュルブル・パーンデーイ役で出演していた。既に「Dabangg」シリーズは3作まで続いており、別のシリーズなのだが、もしかしたら今後はコップ・ユニバースと合流するのかもしれない。「Singham Again」だけでも大スターが勢揃いなのだが、サルマーンまで一緒になったら、ますますすごいことになりそうだ。

 バージーラーオ・スィンガム警視(アジャイ・デーヴガン)はジャンムー&カシュミール準州に赴任となり、前作の悪役オマル・ハフィーズ(ジャッキー・シュロフ)を逮捕する。オマルは、「炎の嵐」がやって来ると警告する。一方、ラージ・ジャイシャンカル内務大臣(ラヴィ・キシャン)はスィンガム警視を「シヴァ・スクワッド」の隊長に任命する。

 2年後。スィンガム警視はスリランカから麻薬を密輸していた船に乗り込んで乗組員を逮捕する。だが、彼らは「デンジャー・ランカー」と呼ばれるマフィアの手下であった。彼らは「レディー・スィンガム」を自称するシャクティ・シェッティー警視(ディーピカー・パードゥコーン)が署長を務めるマドゥライ警察署に収容されていたが、デンジャー・ランカーの襲撃を受け、乗組員たちは連れ出されてしまう。

 一方、スィンガム警視の妻アヴニー(カリーナー・カプール)は文化省のために「ラーマーヤナ」の番組制作を指揮していた。仕事の過程でタミル・ナードゥ州ラーメーシュワラムへ行くことになるが、そこで部下の裏切りに遭い、デンジャー・ランカーに誘拐されてしまう。スィンガム警視の忠実な部下ダヤー警部(ダヤーナンド・シェッティー)が必死に守り、スィンガム警視を慕うサティヤ・バリ警部(タイガー・シュロフ)に一度は助け出されるが、デンジャー・ランカーの襲撃を受け、アヴニーは負傷し、連れ出されてしまう。

 デンジャー・ランカーはスィンガム警視に連絡をし、オマル・ハフィーズの孫ズバイルであることを明かす。そして、アヴニーを返してほしければ、父親の仇であるスーリヤヴァンシー警視(アクシャイ・クマール)を連れて潜伏先のスリランカまで来るように言う。スィンガム警視はまず偵察のためにシンバ警部(ランヴィール・スィン)をスリランカに送る。だが、密かにスィンガム警視もスリランカに上陸していた。

 シンバ警部はズバイルに捕まり、アジトに連れて行かれる。そこでアヴニーと出会い、彼女の無事を確認する。シンバ警部は大暴れをして逃げ出す。そこへスィンガム警視も駆けつけるが捕まってしまう。作戦失敗と判断したジャイシャンカル内務大臣はオマルをスリランカに移送し始めた。だが、そこへシャクティ警視とサティヤ警部が駆けつけ、スィンガム警視とシンバ警部も反撃を始める。さらに、スーリヤヴァンシー警視も飛び入る。ズバイルは逃げ出すが、スィンガム警視に追いつかれる。スィンガム警視は彼をインドに移送しようとするが、彼が反撃しようとしたため、彼を殺した。

 一件落着後、チュルブル・パーンデーイ警部補(サルマーン・カーン)もシヴァ・スクワッドに参加することになった。

 アジャイ・デーヴガン、ランヴィール・スィン、アクシャイ・クマール、カリーナー・カプール、ディーピカー・パードゥコーン、タイガー・シュロフとジャッキー・シュロフの親子に加えてサルマーン・カーンまで特別出演させている。彼らを一堂に会させたことだけでも大きな功績であり、それはローヒト・シェッティー監督のような売れっ子監督でしか成し得なかったことだ。だが、これだけのスターを揃えるためには、出演料だけで莫大な金額になったことは想像に難くない。

 これだけのスターたちを揃えてしまうと、それぞれに活躍の場を与えなければならなくなる。さすがにぞんざいな扱いはできない。そうなるとよほどうまく脚本を作り込まないと、スターの都合が優先された映画になってしまう。残念ながら「Singham Again」はそんな映画になってしまっていた。ストーリーを「ラーマーヤナ」とリンクさせる手法もインド映画の世界では使い古された手法であるし、アクションを得意とするシェッティー監督の作品にしてはアクションシーンが物足りなかった。主人公のスィンガム警視が敵に捕まって他のキャラたちに助け出されるという展開も、スィンガム警視が主役の映画らしくなかった。

 唯一新しさを感じたのは、「ラーマーヤナ」を実在する土地や史跡と結びつけて語り直していたことだ。「ラーマーヤナ」関連の史跡を巡る旅行記「In the Footsteps of Rama: Travels with the Ramayana」(2021年)という本を読んだことがあるが、なんとなくこの本を参考にしているのではないかと感じた。ジャナクプルにあるジャーナキー寺院、ナーシク近くにあるパンチャヴァティー、カルナータカ州のハンピー、スリランカのスィーター・アンマン寺院、シーギリヤ、ウナワトゥナなどが「ラーマーヤナ」関連史跡として紹介されていた。だが、その信憑性はとても怪しいもので、信じてはならない。たとえばジャーナキー寺院の建造は1910年であり、これがラーマ王子とスィーター姫の結婚が行われた宮殿であるはずがない。切り立った岩山の上に残るシーギリヤの遺跡にしても5世紀のものであり、これをそのままラーヴァナの宮殿に比定することはできない。

 面白かったのは各キャラを「ラーマーヤナ」のキャラに適合させていたことだ。スィンガム警視はラーマ王子、アヴニーはスィーター姫、ズバイルはラーヴァナ、サティヤ警部はラクシュマナ王子、ダヤー警部はジャターユ、シンバ警部はハヌマーン、シャクティ警視はスグリーヴァ、スーリヤヴァンシー警視はガルーラと対応していた。スィンガム警視、アヴニー、ズバイル、シンバ警部あたりはいいのだが、たとえばシャクティ警視が猿の王スグリーヴァでいいのだろうか。

 中央で政権を握るインド人民党(BJP)への恭順を感じる映画でもあった。たとえば映画の冒頭の舞台はカシュミール地方である。一定の自治を認められていたカシュミール地方は2019年に自治権を剥奪されインド連邦に完全に併合された。「Singham Again」では、それをカシュミール地方の若者にとって良いことであるように見せていた。BJP政権時代の2016年と2019年にインド軍がパーキスターン領に対して行ったサージカル・ストライク(越境攻撃)についても肯定的な言及があった。また、「ラーマーヤナ」を下敷きにしたストーリー全体や、それを歴史的な事実であるかのように見せる見せ方が、ヒンドゥー教至上主義を掲げるBJPの党是にのっとったものである。ちなみに、2024年のマハーラーシュトラ州議会選挙でBJPは圧勝し政権に返り咲いたが、選挙があったのはこの映画の公開後である。

 「ラーマーヤナ」に登場するランカー島が現在のスリランカに比定されていることもあって、映画の最後はスリランカが舞台になっている。ただ、現在のスリランカは親中政権であり、それはつまり隣国インドと距離を取る政策を採っていることになる。「Singham Again」でも現在のスリランカがインドの非友好国であるような表現が見られた。

 「Singham Again」は、ローヒト・シェッティー監督のコップ・ユニバース第5作であり、今までにないほど豪華なキャスト陣と共に作られた豪華アクション映画である。しかしながら、これだけのスターたちをうまくまとめきれておらず、豪華さの割には中身のない作品になってしまっていた。BJPへのあからさまなおもねりも気になるところだ。ただ、今後「Dabangg」シリーズとの合流があるかもしれないということで、これは今までインド映画界にはなかった展開であり、楽しみである。