インドが誇る二大叙事詩のひとつ「マハーバーラタ」は、10万詩以上から成る世界最長の物語としても知られる。かつて北インドで覇権を握ったクル族の内紛が基軸だが、その中に無数の挿話が入れ子式に差し挟まれている。あまりに長大な物語であるため、「マハーバーラタ」を映像化しようとすると、複数回にわたるTVドラマの形式を採るのが普通だ。実際、1988年から90年にかけてBRチョープラーによってTVドラマ化された「Mahabharat」があり、非常に有名である。その後も2013年から14年にかけてスィッダールト・クマール・ティワーリーが新たにTVドラマ「Mahabharat」を作った。
一方、「マハーバーラタ」に基づく映画となると、全体の映画化よりも、その中に収められた挿話の映画化の方が例が多い。しかも、完全な神話映画ではなく、舞台を現代などに置き換えた翻案が主流だ。例えば「Agni Varsha」(2002年)や「Eklavya: The Royal Guard」(2007年)などが挙げられる。そんな中、2013年12月27日公開の3Dアニメ映画「Mahabharat」は、「マハーバーラタ」本編の映画化である。
監督はアマーン・カーン。どういう人物なのか情報がない。しかしながら、声優が非常に豪華だ。アミターブ・バッチャン、サニー・デーオール、アニル・カプール、アジャイ・デーヴガン、ジャッキー・シュロフ、シャトルガン・スィナー、ヴィディヤー・バーラン、マノージ・バージペーイー、アヌパム・ケール、ディープティー・ナヴァル、ヴラジェーシュ・ヒールジー、パレーシュ・ラーワル、リーマー・ラーグー、アーシュトーシュ・ラーナーなどである。これを実写でやろうとしたらヒンディー語映画界の総力を結集したオールスターキャストになり、とてつもない製作費が掛かったことだろう。今回は声の出演のみということでギャラは抑えられたと考えられるが、それでも3Dアニメ映画としては破格の5億ルピーが費やされた。
さらに面白いのは、各キャラクターの顔が、その声を担当した俳優の顔に似せてあることだ。同様の試みは、ラジニーカーントを3Dアニメ化した「Kochadaiiyaan」(2014年)でも行われたことがある。
ストーリーは、現代のムンバイーにおいて、人間の言葉をしゃべる不思議な鳥が子供たちに「マハーバーラタ」の物語を聞かせるという導入になっており、そこから「マハーバーラタ」の世界に突入する。時間短縮のためであろうが、パーンダヴァ五王子とカウラヴァ百王子の誕生から物語が始まり、かなりハイペースで進行していく。マハーバーラタ戦争はインターミッションを超えた後の終盤になってやっと始まり、パーンダヴァ五王子の勝利によって映画は終了する。
まず、3Dアニメの質はとても残念なものだ。今までインド製3Dアニメ映画というと「Roadside Romeo」(2008年)や「Ramayana: The Epic」(2010年)などがあったが、それらよりも技術的に退化してしまっていると感じた。
また、鳥が子供に語りかけるという導入部が示す通り、基本的に子供向けの映画である。「マハーバーラタ」のあらすじを子供に手っ取り早く教えるためにはいい教材なのかもしれないが、本来「マハーバーラタ」はインド文明が培ってきた知恵や深遠な哲学が込められた物語である。この映画「Mahabharat」にはそういう深みが全くなく、「マハーバーラタ」のエッセンスが微塵も感じられなかった。
キャスティングに関しては一長一短だった。例えばアミターブ・バッチャンのビーシュマ、サニー・デーオールのビーマ、アヌパム・ケールのシャクニなどは適役だと感じたが、ヴィディヤー・バーランの顔をしたドラウパディーは変におばさんぽくて興ざめだったし、シャトルガン・スィナーの声でしゃべるクリシュナは違和感があり過ぎた。しかしながら、3Dアニメのいいところは、実際の年齢とは関係なく、様々な俳優を好きな年齢の見た目で配置できるところだ。老齢のアミターブがクル族の長老ビーシュマを演じるのは年齢通りの配役だったが、同じく老齢のシャトルガンを青年から壮年にあたるクリシュナ役に起用するというのは、確かにミスマッチではあったのだが、3Dアニメならではの可能性を感じさせるものでもあった。
「Mahabharat」は、オールスターキャストの声優陣など、野心を感じさせる企画ではあったが、3Dアニメの質が低く、完全に子供向けのストーリーという点でも失望を誘う。ただ、各キャラが声優の顔に似せてあるのは面白い仕掛けであるし、「マハーバーラタ」のあらすじを手っ取り早く知りたいという目的ならば役に立つ作品だ。