Ramayana: The Epic

3.0

 インドの二大叙事詩のひとつに数えられ、現在でもインド人に絶大な人気を誇る説話「ラーマーヤナ」は、今まで何度かアニメ化されて来た。初のアニメ「ラーマーヤナ」は日本のNHKとの合作で、日本では「ラーマーヤナ:ラーマ王子伝説」という邦題で1998年に公開された。インド国産のアニメとしては、「ラーマーヤナ」に登場する猿の将軍ハヌマーンを主人公にした「Hanuman」(2005年)がある。アニメ大国日本から来た者の視点から見ると稚拙さが目立った映画ではあったが、インド人には大いに受けてスマッシュヒットとなり、続編「Return of Hanuman」(2007年)も作られた。これらは2Dアニメだったが、3Dアニメも作られるようになり、やはりハヌマーンを主人公に据えた3Dアニメ映画「Bal Hanuman」(2007年)とその続編「Bal Hanuman 2」(2010年)も作られた。

 このように「ラーマーヤナ」はインドのアニメの発展と密接な関係を持ち続けて来ている。既に飽和状態になっているようにも見えるのだが、インド人はよっぽど「ラーマーヤナ」が好きなようで、またひとつ、その叙事詩を題材にした3Dアニメ映画が公開された。2010年10月15日公開の「Ramayana: The Epic」である。今まで公開された3Dアニメ映画の中ではもっとも多額の予算を投じて制作されており(2.0~2.4億ルピーとされる)、予告編で見る限りダントツでクオリティーも高かった。配給は、インド市場を虎視眈々と狙うハリウッドのプロダクション、ワーナー・ブラザースが担当。ちょうどラームリーラーの真っ最中に公開されたこともあり、タイミング的にもバッチリである。今日日本に一時帰国する予定でダシャハラー祭には参加できないため、一足早くこの「Ramayana: The Epic」を観て、悪に対する善の勝利を祝うことにした。

 ちなみに、あらすじは一般的な「ラーマーヤナ」を全く逸脱していなかったため、割愛する。

監督:チェータン・デーサーイー
制作:ディーパー・サーヒー、ニーラジ・ブーカンワーラー
音楽:シャーラング・デーヴ・パンディト
歌詞:ラーメーンドラ・トリパーティー
声の出演:マノージ・バージペーイー、ジューヒー・チャーウラー、アーシュトーシュ・ラーナー、ムケーシュ・リシ、リシャブ・シュクラ
備考:サティヤム・シネプレックス・ネループレイスで鑑賞。

 「ラーマーヤナ」の内容を大まかに映像化した作品だった。フォーカスはラームとハヌマーンが出会って以降になっており、それ以前のストーリーはラクシュマンがハヌマーンに語り聞かせるという形で端折って語られていた。また、救出されたスィーターのアグニパリークシャー(火の中に入って潔白を証明する儀式)や、ラームがアヨーディヤーに戻って以降の話などは省略されていた。非常にコンパクトにまとめられていたが、ラームが14年のヴァンワース(追放刑)を受けるシーン、スィーターが救出に来たはハヌマーンを帰し、ラーム自身が迎えに来るように命じるシーン、そして1年振りのラームとスィーターの再会などのシーンは、分かっていてもホロリとさせられた。

 3Dの映像はかなりのレベルに達している。特に背景やラーヴァンの衣装の描き込みは緻密かつ豪勢で、美しかった。ただ、登場人物の動きや表情にはCG特有の固さが残っており、まだまだ改善の余地があった。

 声はヒンディー語映画俳優が担当している。ラームはマノージ・バージペーイー、スィーターはジューヒー・チャーウラー、ラーヴァンはアーシュトーシュ・ラーナーなどである。特にラーヴァンの人物設定や台詞回しにはかなり気合いが入っており、羅刹王の圧倒的な迫力が十二分に表現されていた。10の頭を持つラーヴァンを、本当に10の頭を持つ姿で描くがどうかは、「ラーマーヤナ」を映像化する作家の悩み所である。どうしても10の頭を持たせると滑稽な姿になってしまうのだ。この「Ramayana: The Epic」では結局ラーヴァンはひとつの頭しか持っていなかった。だが、多重人格的に描かれており、心の中の葛藤の中で10人のラーヴァンが話し合うシーンがいくつかあった。

 インド映画のお約束にのっとって、ダンスシーンも盛り込まれていた。特に大きな見せ場となっていたのは、猿の王国キシュキンダーの登場シーン。猿の群衆がご機嫌なダンスを繰り広げる。

 神話を題材にしたアニメ映画にありがちだが、言語はサンスクリット語をベースとした純ヒンディー語で、ヒンディー語初学者にとっては多少理解が困難になるだろう。だが、発音はクリアなので、美しいヒンディー語を学ぶための教材としてはとてもいい。こういう話し方を実生活でするとからかわれるだけだが、マスターしておくだけでも損はない。

 「Ramayana: The Epic」は、インドのアニメ産業の発展の一段階として記録される映画となるだろう。日本のアニメの視点から見ても、ハリウッドのアニメの視点から見ても、それらに匹敵するレベルにはまだ達していないが、「Hanuman」以来数年でインドもかなりのレベルのアニメが作れるようになったことが見て取れるだろう。