Kartavya

3.0
Kartavya
「Kartavya」

 2026年5月15日からNetflixで配信開始された「Kartavya」は、仕事と家庭の両方で、道徳と責務の板挟みになる警察官を主人公にした犯罪ドラマ映画である。題名の「कर्तव्यカルタヴャ」とは「責務」という意味で、しばしば「धर्मダルマ」という似たような意味の言葉と対になる。「ダルマ」の方が出自、カースト、家族関係といった先天的事項から来る「責務」に寄った言葉であるのに対し、「カルタヴャ」の方が職業や地位などの後天的事項から来る「責務」に寄った言葉である。日本語字幕付きで、邦題は「カルタヴィヤ:果たすべきもの」である。

 プロデューサーはガウリー・カーン。監督は「Bhakshak」(2024年)や「Maalik」(2025年)などのプルキト。主演はサイフ・アリー・カーン。他に、ラスィカー・ドゥッガル、サンジャイ・ミシュラー、サウラブ・ドイヴェーディー、ザーキル・フサイン、マニーシュ・チャウダリー、ユドヴィール・アフラーワト、サハルシュ・クマール・シュクラー、スワスティク・バガト、サウラブ・アブロール、スラクシャー・ガイレー、サンジャイ・タネージャー、ドゥルゲーシュ・クマール、アニル・サイニー、ラーディカー・チャウハーン、アヌープ・シャルマーなどが出演している。

 物語の舞台となっている州は、具体的には明示されない。自動車のナンバープレートは「JL」だが、そのような州は実在しない。だが、物語の内容から、それがデリーに近接している州であることが分かる。また、登場人物の方言はハリヤーナー州の方言であるハリヤーンヴィー語だと特定できる。よって、「JL」州はハリヤーナー州をイメージしていることが分かる。

 ジャームリー署のパワン・マリク署長(サイフ・アリー・カーン)は自身の誕生日に、新興宗教の教祖アーナンド・シュリー(サウラブ・ドイヴェーディー)の教団に関わる未成年者失踪事件の取材に訪れたジャーナリスト、リーマー・ダッター(ラーディカー・ドゥッガル)の護衛任務を受ける。だが、護送中にリーマーは2人組の刺客に襲われ射殺される。刺客の内1人は射殺したが、もう1人は取り逃した。上司のケーシャヴ・ダーヒヤー(マニーシュ・チャウダリー)はこの失態に激怒しパワンを停職処分にしようとするが、パワンは1週間の期限をもらい、事件を捜査することになる。

 翌朝パワンが家に帰ると、今度は弟のディーパク(サウラブ・アブロール)が失踪したとの知らせを受ける。同じ大学に通う異なるカーストの女性プリーティ(スラクシャー・ガイレー)と駆け落ちしたとの情報もあった。ディーパクの父親のハリハル(ザーキル・フサイン)はプリーティの父親アマル(ドゥルゲーシュ・クマール)に、もし駆け落ちが本当ならば自らディーパクを殺すと約束する。パワンは、リーマー射殺事件と並行してディーパク探しもしなければならなくなる。

 ディーパクについては、妻のヴァルシャー(ラスィカー・ドゥッガル)が事情を知っていた。駆け落ちは事実であり、ディーパクとプリーティはムナーワルナガルに一緒に潜伏していた。パワンは二人を何とか逃がす算段を考え始める。

 一方、リーマー射殺事件については、アーナンド教団の関与が疑われた。パワンはアーナンド・シュリーに会いに行くが成果はなかった。逆に、ケーシャヴから勝手な行動を戒められた。それでも、リーマーを撃った刺客が16歳の少年ハルパール(ユドヴィール・アフラーワト)であることが分かり、彼の父親ダーモーダル(アニル・サイニー)に会って捜索願を書かせる。ダーモーダルはアーナンド・シュリーの熱心な信者であり、数年前から息子を教祖に預けていた。

 その直後、バスに乗って逃亡しようとしていたハルパールが警察に捕まり、パワンは彼を保護する。やはりケーシャヴが介入しようとしたが、彼と話を付け、ハルパールを州外に逃すこと、被害届にアーナンド・シュリーの名前は出さないことで合意した。パワンは相棒のアショーク(サンジャイ・ミシュラー)にハルパールを託し、州外に送らせる。その一方で、アショークの紹介によりディーパクとプリーティをムナーワルナガルの空き家に移す。時機が来たら彼らもどこかに逃がそうとしていた。

 だが、それ以来ハルパールと連絡が取れなくなっていた。さらに、アーナンド・シュリーの手下ニルマル(サハルシュ・クマール・シュクラー)はパワンが所有しているハルパールの供述書を求め家に押しかけてきた。ニルマルは、既にハルパールは死んでいることを明かす。アショークが裏切ったのだった。パワンはアショークとニルマルを呼び出し、供述書を渡す振りをして彼らを殺す。だが、死ぬ前にアショークは、ディーパクがハリハルに殺されたと言う。アショークが彼らの居場所を漏らしたのだった。パワンはハリハルを人けのない場所に連れて行き、殺す。

 主人公の警察官パワンが40歳を迎えた日、彼の身には職務上および家庭上で2つの事件が同時に起こり、彼らはそれらを並行して解決していくことになる。

 ひとつは舞台となっているジャームリー県に拠点を置いていると思われる新興宗教団体アーナンド教団に関する事件だ。アーナンド教団では未成年の信者の失踪が相次いでおり、ジャーナリストが嗅ぎ回っていた。その内の一人が著名なジャーナリスト、リーマー・ダッターであったが、彼女はジャームリー県入りした直後に2人組の刺客に襲われ射殺される。彼女の護衛をしていたのがパワンだったため、彼は停職処分寸前となり、何とか汚名を返上しようと事件の捜査に当たる。

 もうひとつはパワンの弟ディーパクの駆け落ちである。大学生のディーパクは、同じ大学に通うプリーティと密かに付き合っており、パワンの誕生日に駆け落ちした。ディーパクとプリーティは異なるカーストに属しており、保守的な両家では二人の結婚が認められそうになかったのである。もしこの物語の舞台がハリヤーナー州だとしたら、「マリク」姓の家系は豪農カーストのジャートに属していると考えられ、社会的には上位となる。一方、プリーティの姓は明らかになっていなかったが、マリク家よりは下のカーストであることは確実である。プリーティはパワンの相棒アショークと同じカーストであることも示唆されていた。パワンの氏姓の頭文字は「Y」であった。北インドで「Y」から始まる氏姓といえば「ヤーダヴ」がすぐに思い付く。酪農カーストであり、北インドでは政治的に力を有しているが、社会的序列ではジャートより下位に位置づけられる。ハリヤーナー州は、インドでもっとも名誉殺人の発生件数の多い州であることからも分かるように、異カースト結婚を認めない風潮がある。ディーパクとプリーティは、発見されるとそれぞれの家族によって殺される恐れがあった。パワンは二人を必死で守ろうとする。

 これら2つのエピソードは全く別々の事件であり、実は相互に関係していたというオチもない。だが、根底で共通していたのは、その解決に当たる中でパワンが「ダルマ」と「カルタヴャ」の板挟みになることである。

 パワンは、リーマーを射殺した犯人の一人ハルパールがまだ16歳の少年であることを知り、彼を保護してからは、彼を守ろうとする。だが、相棒アショークの裏切りにも遭って、ハルパールを守り切ることができなかった。そこで、ハルパールの抹殺に関わった、アショークやアーナンド教団のニルマルに報復するためにエンカウンターを演出する。いわゆる「フェイク・エンカウンター」である。警察官として、フェイク・エンカウンターの演出は間違った行為だ。だが、悪を消すために、アーナンド教団の影響下にある行政や司法といったシステムに頼ることができない。その場合は、仕方なく不正に手を染めなければならない。常に正しく生きることを「ダルマ」とするならば、悪を撲滅するという「カルタヴャ」のために「ダルマ」を曲げたことになる。

 名誉殺人でもパワンは同様の決断をした。父親ハリハルは駆け落ちしたディーパクを自ら惨殺した。それを知ったパワンは父親を「父親失格」として殺す。家族を守るという「ダルマ」を遂行するために家族を殺すという「カルタヴャ」を行わなければならなかった。

 また、2つのエピソードを通して、子供に何を教育すればいいのかという難しい命題にも触れられていた。ハルパールはアーナンド教団で虐待され、刺客として教育された。宗教の名の下に子供が悪い大人にいいように利用され搾取されている。それは明らかに悪なのだが、パワンの息子ハニーについてはもっと複雑だ。パワンは、ハリハルがハニーをパンチャーヤトに連れて行ったことに怒る。ハニーはパンチャーヤトで名誉殺人を当然のことと主張する大人たちに毒され、「指先が癌になったら切り落とすべき」という思想を植え付けられていた。そして、駆け落ちした叔父を殺すことを正しいとまで言い切る。大人たちは、駆け落ちしたディーパクやプリーティを引き合いに出して「最近の若者は・・・」と嘆くが、その大人たちが子供たちの脳裏に毒を注入し、暴力の連鎖が世代を越えて伝わってしまっていた。パワンは弟ディーパクを殺害した父親ハリハルを殺した。ハリハルは悪だったかもしれない。だが、ハリハルを殺したパワンは正義だろうか。いつか成長したハニーから問われるときが来る。パワンはそのときに何と答えればいいのだろうか。

 ハリハルを殺害したパワンの葛藤が解決されていないのと同様に、実はリーマー・ダッター射殺事件も結末に至っても完全解決には程遠い。諸悪の根源であるアーナンド教団は存続しており、リーマーの射殺を命じたと思われる教祖アーナンド・シュリーも健在である。確かにハルパールの供述書が教団や教祖に不利に働くことはあるだろうが、そう簡単には解散や訴追に追い込めないだろう。特に続編のアナウンスはされていなかったが、十分にその可能性はある。

 主人公パワン役を演じるサイフ・アリー・カーンは、Netflixドラマ「Sacred Games」(2018-19年/邦題:聖なるゲーム)を思わせる重厚な演技をしていた。ハリヤーンヴィー語のセリフもお手の物だった。ラスィカー・ドゥッガルにほとんど出番はなかったが、サンジャイ・ミシュラー、マニーシュ・チャウダリー、ザーキル・フサインなど、実力派俳優たちの渋い演技も見どころだった。

 「Kartavya」は、新興宗教団体による未成年者搾取と名誉殺人を同時並行的に追った映画だ。「ダルマ」と「カルタヴャ」の板挟みになる警察官をサイフ・アリー・カーンが熱演していたが、事件が完全解決していない点にはもどかしさを感じた。観て損はない映画だ。