Ek Villain Returns

4.0
Ek Villain Returns

 2014年のヒット作「Ek Villain」はサイコパス殺人鬼を巡るサイコスリラー映画であった。ラストでサイコパスのラーケーシュ(リテーシュ・デーシュムク)は自動車に轢かれて死んだはずだが、2022年7月29日公開の続編「Ek Villain Returns」では、ラーケーシュがまだ生きていることになっている。そのため、単純な続編ではなく、前作を緩く引き継いだ作品になっている。また、今回殺人鬼となるのはラーケーシュではなく、ジョン・アブラハム演じるバイラヴである。

 監督は前作に引き続きモーヒト・スーリー。プロデューサーはエークター・カプールなど。キャストは、ジョン・アブラハム、アルジュン・カプール、ディシャー・パータニー、ターラー・スターリヤー、JDチャクラヴァルティー、カリシュマー・シャルマー、エレナ・ロクサナ・マリア・フェルナンデス、シャード・ランダーワーなど。また、リテーシュ・デーシュムクとバードシャーが特別出演している。

 舞台はムンバイー。大富豪の御曹司ガウタム・メヘラー(アルジュン・カプール)は、恋人スィヤー(カリシュマー・シャルマー)の結婚式で大暴れして去って行く。駆け出しのシンガー、アールヴィー・マロートラー(ターラー・スターリヤー)は、ガウタムが大暴れする様子を撮影した動画を編集して人気になる。ガウタムはアールヴィーに復讐するため、彼女に接近し、彼女のライバルであるキラン(エレナ・ロクサナ・マリア・フェルナンデス)を巧みに追い落とす。そして恋に落ちたところで彼女を裏切り、去って行く。

 だが、その3ヶ月後、ガウタムはアールヴィーと再会する。ガウタムはスィヤーの夫と仲間に暴行を受けて倒れるが、それを助けたのがアールヴィーだった。ガウタムはアールヴィーに恋したことに気付くが、アールヴィーは彼の元を去って行く。

 アールヴィーは自宅で友人たちとパーティーをしていたが、そこへマスクをした男が押し入り、女性たちを惨殺する。アールヴィーは殺され、ニュースになる。事件の担当となったアーディティヤ・ラートール警視(シャード・ランダーワー)はガウタムを犯人だと考え、彼を追う。だが、連続殺人犯の心理に詳しいVKガネーシャン(JDチャクラヴァルティー)は、別に真犯人がいると考え、独自に捜査をする。

 実は、アールヴィーの自宅に押し入ったのは、バイラヴ・プローヒト(ジョン・アブラハム)という男だった。バイラヴは動物園で働く傍ら、配車サービス運転手をしていた。バイラヴは、衣料品店で販売員をするラスィカー(ディシャー・パータニー)と出会い、恋に落ちる。だが、ラスィカーはバイラヴを便利な男として利用するだけだった。しかも、彼女は職場の上司と不倫関係にあった。バイラヴは彼女を殺すが、彼女に対する愛は残っており、以後、彼女の幻を見るようになる。そして、バイラヴはラスィカーから高評価をもらうため、恋人を裏切る女性たちを次々に襲い始めた。バイラヴは、アールヴィーがガウタムを捨てるところを見ていたため、彼女を襲ったのだった。

 バイラヴとガウタムは一度相まみえるが、そのときはガウタムが負け、バイラヴを取り逃がしてしまう。ガウタムはガネーシャン警視からバイラヴが動物園にいることを知り、そこへ向かう。だが、入れ違いでバイラヴがガネーシャン警視の家を訪れ、彼を殺す。実はアールヴィーは生きており、動物園の地下に幽閉されていた。再びバイラヴとガウタムは対峙するが、このときは警察が来たため、対決は起こらなかった。バイラヴの上司ケーシャヴが連続殺人犯ということになり、事件は一件落着となる。だが、ガウタムはバイラヴを追い続け、再び動物園で対決する。そして、バイラヴに対し、ラスィカーは死んだことを伝える。それを知ったバイラヴは崩れ落ち、虎に自らを捧げる。また、ガウタムは生きていたアールヴィーと再会する。

 その後、精神病院でラーケーシュ(リテーシュ・デーシュムク)が、満身創痍のバイラヴに接近する。

 ガウタムとアールヴィー、バイラヴとラスィカーという2軸で物語が進む上に、時間軸が「現在」「6ヶ月前」「3ヶ月前」と3種類あって、それらが交錯するため、筋を追うのには多少苦労する。しかし、頻繁な時間移動が収まり、ラストへ向かって一気に加速し始める後半では、バイラヴとラスィカーの狂気に満ちたエピソードがじっくり、ねっとりと描写され、映画を最高潮まで盛り上げる。モーヒト・スーリー監督が得意とする狂おしいロマンスの形が極限まで磨き上げられており、スクリーンから目を離せなかった。また、ディシャー・パータニーの妖艶な演技を引き出せていたのもポイントが高い。ディシャーはヒンディー語映画界において今一番セクシーな女優である。

 題名通り、どの登場人物も完全な善玉ではなく、多かれ少なかれ道徳にもとることをしていた。そんな悪の祭典の中で、ガウタムは悪玉から善玉気味の登場人物へと移行する。彼はアールヴィーへの愛を貫き、彼女を殺した相手を地の果てまで追い続ける。結果的にアールヴィーは生きており、二人のゴールインが示唆される。

 だが、真犯人であるバイラヴのキャラが突出していた。バイラヴは本来、内向的で真面目な男であった。だが、ラスィカーを狂おしいくらいに愛し、そして愛ゆえに彼女を殺してしまう。殺した後も彼はラスィカーの幻影を見続ける。「死ぬよりも殺せ」をモットーとしていた彼女の幻に高評価を付けてもらうため、彼は恋人を裏切った女性を探し出しては殺すようになった。

 この「高評価」というのは、いかにも現代的な要素である。バイラヴは「Uber」的な配車サービスの運転手をしており、乗客から高評価を付けてもらおうと頑張っていた。ラスィカーの幻を見るようになってからは、彼女が残酷な手口で女性を殺害するのに対し高評価を付けると思い込むようになり、それが連続殺人の動機になる。完全な精神異常者であるが、その裏に狂おしい片思いがあり、怖さよりも同情を誘うのが巧い点だ。

 ジョン・アブラハム、アルジュン・カプール、ディシャー・パータニー、そしてターラー・スターリヤーの4人がそれぞれ持ち味を発揮していた。ジョンは、肉体の披露や力技の発揮もしていたが、それ以上に内面の表現を重視した演技をしていた。一時期かなり太ってしまったアルジュンは、この映画ではかなり身体を絞っており、演技にも重みがあった。ディシャーはきっとこの映画でもっとも観客の目を引く存在だろう。インド映画としてはかなり大胆なラブシーンにも挑戦しているが、それがなくてもとにかく彼女の妖艶さが最大限発散されていた。ターラーについては、物語の冒頭で殺されてしまい、後に生きていることが分かっても基本的には幽閉されていたので、出番は少なかったが、それでも他の3人に負けていなかった。

 前作「Ek Villain」は音楽の良さでも知られた映画であった。前作のヒット曲「Galliyan」が今回も使われていたが、これはファンサービスであろう。「Ek Villain Returns」の音楽もいい曲が多く、「Naa Tere Bin」や「Dil」などが耳に残った。

 「Ek Villain Returns」は、2014年のヒット作「Ek Villain」の続編であり、前作と同じく連続殺人犯が主題になっている。キャストはガラリと変わっているが、監督は変わらず、前作に勝るとも劣らない狂おしさのあるサイコスリラー映画に仕上がっている。グロテスクなシーンは意外に少ないが、ディシャー・パータニーが果敢に挑んだエロティックなシーンはいくつかある。ラストは十分に3作目を示唆するものであった。興行的には前作ほどのヒットとはいかなかったが、十分高く評価されていい映画である。