Luka Chuppi

3.5

 インドではまだまだ男女の間の垣根が高く、未婚の男女に対する制約も厳しい。結婚前の男女が同棲することは社会がなかなか許さない。それでも、ヒンディー語映画は同棲の問題を扱い続けている。最も早い例は「Salaam Namaste」(2005年)であったが、その後も男女が同棲する様子は複数の映画で描写されて来た。

 2019年3月1日公開のヒンディー語映画「Luka Chuppi(かくれんぼ)」の主題はドンピシャで同棲である。監督はマラーティー語映画を撮って来たラクシュマン・ウテーカル。ヒンディー語映画の監督は初である。プロデューサーは、テーマ中心の映画作りに特徴のあるディネーシュ・ヴィジャーン。主演はカールティク・アーリヤンとクリティ・サノン。他に、アパールシャクティ・クラーナー、パンカジ・トリパーティー、ヴィナイ・パータク、アビナヴ・シュクラーなどが出演している。

 舞台はマトゥラー。グッドゥー・シュクラー(カールティク・アーリヤン)は地元ケーブルTV局のレポーターでちょっとした有名人だった。カメラマンのアッバース(アパールシャクティ・クラーナー)は親友であった。

 折しも、映画スターのナズィーム・カーン(アビナヴ・シュクラー)が恋人と同棲をしているとの報道が世間を騒がせていた。保守的な文化守護党の党首ヴィシュヌ・トリヴェーディー(ヴィナイ・パータク)は断固として同棲を認めない政策を掲げ、いちゃついている未婚の男女を見つけるとしょっ引いていた。

 ヴィシュヌの娘ラシュミー(クリティ・サノン)はデリーの大学でジャーナリズムを修め、マトゥラーに帰って来た。インターンのため、ラシュミーはグッドゥーのTV局で働くことになった。2人は一緒に働く内に恋仲となった。グッドゥーは彼女にプロポーズするが、ラシュミーは結婚する前に同棲することを提案する。アッバースのアイデアで、グワーリヤルに取材に行くついでに同棲を試すことになる。

 2人はグワーリヤルで家を借りて住み始めたが、近所のおばさんから猜疑の目で見られたため、部屋の中に花婿花嫁姿の写真を飾り、既婚であることを強調する。だが、グッドゥーの親戚であるバーブーラール(パンカジ・トリパーティー)に見つかってしまい、家族を呼ばれてしまう。2人は内緒で結婚したことになってしまう。ヴィシュヌは世間体のために披露宴だけでも開く。

 こうして一応夫婦となったグッドゥーとラシュミーであったが、結婚の儀式をしていなかったのが気になっていた。そこで寺院へ行って僧侶に儀式だけでもしてもらおうとするが、また家族に見つかり失敗する。そこで今度は集団結婚の中に紛れ込んで結婚をしようとするが、そこでもヴィシュヌに見つかってしまう。

 言い逃れができなくなったグッドゥーとラシュミーは、自分たちはまだ結婚していないこと、同棲をしていただけであることを明かす。ヴィシュヌは憤るが、若者の味方をした方が得票につながると言われて考え直し、一転して2人の結婚を応援するようになる。

 6ヶ月後、州議会選挙でヴィシュヌは、ナズィーム・カーンの支援を受けて選挙活動を行う。

 非正規の結婚として駆け落ち結婚があり、インドのロマンス映画でもよく、両親などから結婚を認められない若い男女の駆け落ち結婚が題材になる。だが、「Luka Chuppi」を観ると、駆け落ち結婚よりも同棲の方が社会的にさらに認められていない行為のようである。駆け落ち結婚は、駆け落ちとは言え、結婚の一形態である。だから、究極的には家族の問題だ。それに対し同棲は結婚でもない。未婚の男女が結婚せずに一緒に住むことは、伝統と文化の破壊であり、文明そのものの危機につながる。そんなインドの保守的な価値観がコメディータッチで描写された、ディネーシュ・ヴィジャーンらしい映画だった。

 さらに話を面白くするために、いくつかの工夫がなされていた。ひとつは、主人公ラシュミーの父親が、同棲に断固として反対する保守的な政治家という設定だったことだ。ラシュミー自身はデリーで教育を受けたこともあってリベラルな考えを持っており、最初に同棲を持ちかけたのも彼女だった。だが、父親が絶対に自分たちの同棲を認めないこともよく理解していたた。しかも、グッドゥーはTVレポーターをしており、地元で顔が売れていた。そこで、グワーリヤルに出張で取材に行く仕事があるのをいいことに、当地で同棲することになったのだった。

 主な舞台となっているマトゥラーはクリシュナ伝説の中心地であり、ヒンドゥー教の重要な聖地のひとつだ。クリシュナは、人妻のラーダーと恋愛を繰り広げたことで知られるが、宗教聖地ということもあって、保守的な土地柄でもある。この矛盾もうまく活用されていた。そしてグッドゥーとラシュミーが同棲生活を始めたのはグワーリヤルだが、こちらも観光地ではあるが、マトゥラーと比べて保守的な価値観が薄い訳でもない。若い2人はアパートの一室に住み始めるが、早速近所の噂になり、同棲ではないかと疑われる。

 結局、2人のことは両方の家族にばれてしまうのだが、同棲していたという事実を隠し通したため、2人は隠れて結婚したということになってしまった。そこから新たなトラブルが生まれる。一応、形ばかりの披露宴は開いたのだが、ヒンドゥー教の結婚の儀式の本体であるマンガルペーラー(新郎新婦が火の回りを回る儀式)が行われていなかった。そこでグッドゥーとラシュミーは内緒でその儀式を済まそうとするのだが、邪魔が入ってうまく行かない。同棲をした男女がなかなか正式な結婚ができなくなるというコメディーになっていた。

 総じて見てみれば、「Luka Chuppi」は同棲を支持する内容になっていた。結婚する前に相手がどんな人かを知るのは大切であり、そのひとつの手段として同棲も選択肢に入れるべきというメッセージが発信されていた。それをどう受け止めるかはインド人次第である。

 主演のカールティク・アーリヤンとクリティ・サノンは新世代のスター俳優だ。この2人の共演は初だが、スクリーン上の相性は良好だった。クリティのスタイルが非常にいいので、相手役はモダンでスマートな男性でないと釣り合わない。カールティクは、細身ではあるが、ハンサムな顔立ちで、いい位置にいる男優だ。スター性もある。

 脇役にはコミックロールに定評のある個性的な俳優たちが起用されている。パンカジ・トリパーティー、ヴィナイ・パータク、アパールシャクティ・クラーナーなど、単品でも面白い俳優たちが勢揃いしてドタバタ劇を繰り広げるから、面白くないはずがない。

 「Luka Chuppi」は、同棲を主題にしたラブコメ映画である。特に、家族に内緒で同棲をする前半はスリルがあり、とてもグリップ力がある。後半までそのグリップ力が続けば申し分なかった。新世代のスター、カールティク・アーリヤンとクリティ・サノンの初共演にも注目したい。プロデューサーのディネーシュ・ヴィジャーンの作風がよく出た、テーマ中心の映画であった。