2002年の「Raaz」以降、ヒンディー語映画界ではホラー映画がジャンルとして確立し、数々のホラー映画が作られて来た。だが、ホラー映画の作りとインド娯楽映画の伝統的フォーマットは相容れない部分が多く、当初、ヒンディー語映画界の映画メーカーたちは試行錯誤をして来た。だが、次第にコツを掴んで来たようで、「Go Goa Gone」(2013年/邦題:インド・オブ・ザ・デッド)以来、コメディー映画の形式にホラー要素を載せる、ホラー・コメディーというジャンルが創出された。
2017年10月20日公開の「Golmaal Again!!!」も、ホラー・コメディーにあたる映画である。「Golmaal」シリーズは、第1作「Golmaal」(2006年)、第2作「Golmaal Returns」(2008年)、第3作「Golmaal 3」(2010年)と続いて来た大人気コメディー映画シリーズである。監督は一貫してローヒト・シェッティーが務めている。
「Golmaal」シリーズの特徴は、作品同士にストーリー上のつながりがない代わりに、登場人物の名前と配役がほぼ共通していることだ。一貫して出演しているのは、アジャイ・デーヴガン(ゴーパール)、アルシャド・ワールスィー(マーダヴ)、トゥシャール・カプール(ラッキー)である。「Golmaal」にはシャルマン・ジョーシーがラクシュマン役で出演していたが、「Golmaal Returns」でシュレーヤス・タルパデーに交替し、「Golmaal 3」ではもう一人のラクシュマンが現れ、クナール・ケームーが演じることになった。紛らわしいので、シュレーヤスが演じるラクシュマンをラクシュマン1、クナールが演じるラクシュマンをラクシュマン2としている。
ヒロインは、「Golmaal」のリーミー・セーン、「Golmaal Returns」のアムリター・アローラー、「Golmaal 3」のカリーナー・カプールと変遷して行っている。「Golmaal Again!!!」のヒロインはパリニーティ・チョープラーである。
その他のキャストは、タブー、ニール・ニティン・ムケーシュ、ジョニー・リーヴァル、プラカーシュ・ラージ、サンジャイ・ミシュラー、ムケーシュ・ティワーリー、ヴラジェーシュ・ヒールジー、ムラリー・シャルマー、サチン・ケーデーカルなどである。また、ナーナー・パーテーカルが特別出演している。
舞台はタミル・ナードゥ州の避暑地ウーティー。ゴーパール(アジャイ・デーヴガン)、ラクシュマン1(シュレーヤス・タルパデー)、マーダヴ(アルシャド・ワールスィー)、ラッキー(トゥシャール・カプール)、ラクシュマン2(クナール・ケームー)の五人は、ジャムナーダースの創立した孤児院で育った。だが、ゴーパールとラクシュマン1のグループと、マーダヴ、ラッキー、ラクシュマン2のグループに分かれ、お互いに争ってばかりだった。ある日、五人は孤児院を去って行く。 五人は地上げ屋をして生計を立てていたが、ジャムナーダースが急死したと聞き、孤児院に戻って来る。そして、孤児院の隣にある邸宅にペイングゲストとして住み始める。だが、五人の前に、かつて彼らが孤児院で可愛がっていたクシー(パリニーティ・チョープラー)の幽霊が現れる。また、図書館の司書アンナ(タブー)には幽霊を見る能力があり、五人を導く。 アンナとクシーの話では、ジャムナーダースもクシーも、ジャムナーダースの甥ニキル(ニール・ニティン・ムケーシュ)に殺されたとのことだった。孤児院は、ニキルの共謀者ヴァース・レッディー(プラカーシュ・ラージ)の名義になっており、彼らは子供たちを追い出して、この土地を開発しようとしていた。事件の後、ニキルはドバイに高飛びしていた。 それを知った五人は力を合わせ、まずはクシーの力も借りてヴァースを怖がらせて自供をさせようと試みた。そこへニキルがやって来たため、今度はニキルにクシーの力を使う。クシーはニキルを殺そうとするが、アンナに止められ、警察の手に委ねる。復讐を果たしたクシーは天国へ昇って行く。
下ネタ満載のコメディー映画「Masti」シリーズの第3作「Great Grand Masti」(2016年)がホラー・コメディーに舵を切ったのとちょうど同じように、従来はコメディー映画の王道を行っていた「Golmaal」シリーズも第4作となるこの「Golmaal Again!!!」でホラー・コメディーで攻めて来た。前作「Golmaal 3」の五人は変わらず、それ以外のものをほとんど全て変えて、相変わらずの馬鹿騒ぎで観客の爆笑を奪おうとする。
登場人物は多いが、善悪が単純明快で、ストーリーも分かりやすく、混乱することは少ない。ローヒト・シェッティーの持ち味である、自動車がバンバンひっくり返るようなド派手なアクションシーンは少なかったが、メインの五人に加えて、ジョニー・リーヴァルやヴラジェーシュ・ヒールジーなどの脇役コメディアン俳優たちがショートコントを代わる代わる繰り広げる。
「Golmaal」シリーズは障害を笑いにするところがある。ゴーパールは指を見ると折りたくなるという変な病気で、単純な笑いとして受け止められるが、ラッキーはシリーズ当初から唖であるし、ラクシュマン1は構音障害を持っている。また、盲目の登場人物が登場することがあり、「Golmaal」ではパレーシュ・ラーワルが、「Golmaal Again!!!」でもサチン・ケーデーカルが盲人役を演じていた。「Golmaal」シリーズに限ったことではないが、インド映画では障害を笑いにする点で人権意識の低さを感じることがある。それが許容できない人には「Golmaal」シリーズは勧められない。
キャストの中では、やはりアジャイ・デーヴガンが断トツのスターパワーを持っているが、それ以外の俳優たちは伸び悩んでいる者ばかりだ。トゥシャール・カプールの主演作はほとんど見なくなったし、クナール・ケームーやシュレーヤス・タルパデーも助演や脇役止まりだ。アルシャド・ワールスィーはいくつか主演作もあるが、やはり助演俳優の方がはまっている。「Golmaal」シリーズは、第一線から脱落した彼らにとって、ヒットを狙える貴重な出演作なのだろう。
今回のヒロイン、パリニーティ・チョープラーは幽霊となったクシー役であった。幽霊と判明するのは中盤であり、それまでなるべく幽霊らしさを醸し出しつつも生身の人間にも見えるキャラを作り出さなくてはならなかった。それが成功していたとは思えない。タブーもヒロイン扱いになるだろうが、一歩引いた演技の仕方をしていた。どちらかというと、今回ヒロインの二人はホラーの要素を受け持っていたと言える。
ナーナー・パーテーカルの特別出演は文脈を逸脱していた。まず、なぜかクシーが取り憑いた人間がナーナー・パーテーカルの台詞をしゃべり出す。ジャムナーダースがナーナー・パーテーカルのファンだったとのことだった。そして、後半で突然ナーナー本人が登場し、数ラインの台詞をしゃべった後、消え去る。一体何だったのか。
「Golmaal Again!!!」は、ローヒト・シェッティー監督の大人気コメディーシリーズの第4作。今回はホラー・コメディーの味付けをしているが、前作で確立した五人のドタバタ劇は健在である。ヒロインはパリニーティ・チョープラーで、ナーナー・パーテーカルの特別出演もある。分かりやすい筋の映画で、単純に楽しめるが、障害を笑いのネタにする「Golmaal」シリーズの悪い癖は抜けておらず、観る人を選ぶだろう。