Gour Hari Dastaan

3.5

 英領インド時代にインド独立のために戦ったフリーダムファイターたちの伝記映画は数多く作られているが、2015年8月14日公開の「Gour Hari Dastaan(ゴウル・ハリ・ダースの物語)」は、インド独立後に「フリーダムファイター」としての認証を政府から手に入れるために戦い続けた元フリーダムファイターの伝記映画という特殊な映画である。

 監督は「Red Alert」(2010年)などのアナント・マハーデーヴァン。主演はヴィナイ・パータク。他に、コーンコナー・セーンシャルマー、ランヴィール・シャウリー、タニシュター・チャタルジー、ヴィクラム・ゴーカレー、ヴィピン・シャルマー、ラジト・カプール、サウラブ・シュクラー、ネーハー・ペーンドセー、アスラーニー、ムルリー・シャルマー、ディーパク・サトスレーなどが出演している。

 2002年のムンバイー。オリッサ州出身で、1975年にムンバイーに移り住んだゴウル・ハリ・ダース(ヴィナイ・パータク)は、政府から「フリーダムファイター」としての証明書を手に入れるために何十年も奮闘していた。1945年に彼は独立運動に関与して刑務所に入っていたとのことだった。妻のラクシュミー(コーンコナー・セーンシャルマー)は夫を支えていたが、周囲の人々は彼のことを狂人と考えるようになっており、ゴウルの息子アーローク(ディーパク・サトスレー)は父親の行動に呆れて米国に留学してしまう。

 大衆紙ミッドデーの記者ラージーヴ(ランヴィール・シャウリー)は、ゴウル・ハリ・ダースの記事を新聞に掲載しようとするが、上司は関心を示さなかった。だが、ラージーヴは同僚のアニター(タニシュター・チャタルジー)と共にゴウルの話を聞き、彼を支援しようとする。

 ラージーヴとアニターは、ゴウルを連れてオリッサ州のバーラーソールにある刑務所を訪れる。そこで所長から、同じく所長だった祖父の手記を渡される。そこには、ゴウルが刑務所に入っていた証拠が記されていた。彼らはその手記を持って州首相(ヴィクラム・ゴーカレー)に直談判する。メディアでも大きく報道されたことで政府も動かざるを得なくなり、ゴウルにフリーダムファイターとしての証明書が発行され、年金ももらえるようになる。

 インドでは、英領時代に独立運動に関わった人々は「フリーダムファイター」と呼ばれ、恩給支給や列車運賃無料など、様々な特典が得られる制度となっている。だが、不正の温床にもなっており、全く独立運動と関わっていない人に「フリーダムファイター」の称号が与えられる一方で、実際に独立運動に関わった人が役所でたらい回しにされてその恩恵に預かれないという状況になっている。

 「Gour Hari Dastaan」の主人公ゴウル・ハリ・ダースは、まだ英国の統治下にあった少年時代にインド国旗を掲げて逮捕され、刑務所で90日間過ごした。それを持って自身をフリーダムファイターと称し、その証明書を求めて政府に申請を出していた。

 また、回想では、ガウル少年が学校の屋根にインド国旗を掲げ、それを下ろそうとした英国人教師が屋根から落ちて、おそらく死亡したシーンも映し出されていた。ただ、ゴウル少年は、英国人教師を殺害した罪に問われたわけではなさそうである。

 日本人の感覚からすると、国旗を掲揚して逮捕されただけの人物を独立活動家とするのは行き過ぎのようにも感じる。だが、インドでは、英領時代に政治活動をして刑務所に入った人物はフリーダムファイターに定義されるようで、ゴウルはその資格を持っていた。

 ゴウルがなかなか証明書をもらえなかったのは、インドの官僚主義の欠陥からである。偽のフリーダムファイターが増えてしまったことも障害となった。ゴウルは、英領時代の方が良かったともつぶやいている。だが、ジャーナリストのラージーヴの協力もあって動かぬ証拠を見つけ出し、メディアの力でプレッシャーを掛けたこともあって、ようやくゴウルは州首相から直々に証明書を手渡される。時は2007年になっており、申請を始めてから32年の月日が過ぎていた。

 映画を通して、祖国のために戦った人々に尊敬を払わない国家や社会、そして一般市民を搾取しようとする官僚システムなどが批判されていた。映画の最後では、ゴウルはインド政府の汚職に対するデモ活動の群衆の中に入って行くが、それが映画のメッセージを補強していた。2007年という時代から考えると、直接的には巨額の汚職事件が次々に明るみに出た国民会議派政権への批判となる。

 主演のヴィナイ・パータクは、ヒンディー語映画界の実力派俳優の一人で、コミックロールを得意とするが、今回のゴウルのような、人の良さそうなおじさん役が一番似合っている。脇役にもコーンコナー・セーンシャルマー、ランヴィール・シャウリー、タニシュター・チャタルジーなど、演技派俳優が揃っており、豪華なキャスト陣となっている。

 「Gour Hari Dastaan」は、「フリーダムファイター」の証明書を得るためにインドの硬直した官僚主義に静かに、しかも忍耐強く向き合い続けてきた元フリーダムファイターの伝記映画である。もちろん実話に基づいており、ゴウル・ハリ・ダース自身が映画の最後に登場している。その静かな佇まいには、非暴力主義で独立を勝ち取ったマハートマー・ガーンディーの影を見ることができる。地味ではあるがしっかりした映画である。