Talaash

4.0

 本日鑑賞した「Talaash」は2012年11月30日に公開された。主演はアーミル・カーン。彼が出演する映画は「Dhobi Ghat」(2011年)以来およそ2年振りとなる。カリーナー・カプールとラーニー・ムカルジーと言う2000年代を代表する女優がヒロインを務めていることも注目される。監督は「Honeymoon Travels Pvt. Ltd.」(2007年)のリーマー・カーグティー。明るい雰囲気のオムニバス形式映画だった前作とは打って変わって、ムンバイーの夜を舞台とした暗鬱としたサスペンス劇である。

監督:リーマー・カーグティー
制作:リテーシュ・スィドワーニー、アーミル・カーン、ファルハーン・アクタル
音楽:ラーム・サンパト
歌詞:ジャーヴェード・アクタル
振付:カエサル・ゴンザルベス
衣装:ルシー・シャルマー、マノーシー・ナート
出演:アーミル・カーン、カリーナー・カプール、ラーニー・ムカルジー、ナワーズッディーン・スィッディーキー、ヴィヴァーン・バテーナー、パリヴァー・プラナティ、ラージクマール・ラーオ、ジニート・ラト、スハース・アーフージャー、シェールナーズ・パテール、スブラト・ダッター、アディティ・ヴァースデーヴなど
備考:DTスター・プロミナード・ヴァサントクンジで鑑賞。

 ムンバイー警察のスルジャン・シェーカーワト警部補(アーミル・カーン)には妻ローシュニー(ラーニー・ムカルジー)との間にカラン(ジニート・ラト)という息子がいた。だが、水難事故によってカランは死んでしまい、以来そのショックからスルジャンは不眠症に悩まされていた。

 スルジャンはとある不可解な事件を担当することになった。人気映画スター、アルマーン・カプール(ヴィヴァーン・バテーナー)の事故である。アルマーン・カプールは深夜まで続いた撮影の後、普段とは違って自分で自動車を運転し、なぜか自宅の方向とは全く異なる場所で海に突っ込んで水死した。海岸沿いの道路の何もない場所で急にハンドルを切って海に飛び出しており、動機や原因は全く謎であった。ただ、事件当日、アルマーン・カプールは200万ルピーをホテル・リドのレセプションに届けており、それが事件の鍵を握っていると思われた。

 事件の難解さとカランを失った悲しみに悩むスルジャンはある晩ロージーと名乗る売春婦(カリーナー・カプール)と出会う。ロージーから得られた情報により、シャシ(スブラト・ダッター)というポン引きが事件に関与している疑いが浮上する。だが、シャシは既に殺された後だった。

 しかしながら、重要な情報を提供してくれたことから、スルジャンは夜な夜なロージーと会うようになる。ロージーは彼を自分だけの秘密の場所へ連れて行く。そこは静かな海岸だった。ロージーは、どこでも見つからないとき、自分はここにいるとスルジャンに告げる。

 一方、ローシュニーは近所に住む奇妙な女性フレニー(シェールナーズ・パテール)の家に入り浸っていた。彼女は霊能力を持っており、カランの魂と交信することができた。ローシュニーは彼女を通してカランと会話をし、心の平安を得ていた。だが、スルジャンはそれを迷信だと決めつけており、フレニーを嫌っていた。ある日スルジャンはローシュニーがフレニーの家にいるのを見つけ、彼女と大喧嘩をする。ローシュニーは家を飛び出し、友人の家に転がり込む。スルジャンが毎晩家に帰って来なかったため、ローシュニーは、スルジャンは他の女と浮気しているのではないかと疑っていた。

 ローシュニーと喧嘩した後、スルジャンはロージーに会いに来ていた。ロージーは、友達のマッリカー(アディティ・ヴァースデーヴ)を救うようにお願いする。マッリカーは元売春婦で、死んだシャシの愛人であった。シャシの死後、売春宿に連れ戻され、暴行を受けていた。スルジャンはマッリカーを救い出す。すると、マッリカーは、シャシの子分だったタイムール(ナワーズッディーン・スィッディーキー)が怪しいとタレコミをする。

 タイムールは一度警察に尋問を受けたことがあった。そのときシャシが200万ルピーを手に入れたことを知り、何とかそれを手に入れようと躍起になっていた。タイムールはシャシのSIMカードやCDを見つけており、それを使ってアルマーン・カプールの友人サンジャイ・ケージュリーワール(スハース・アーフージャー)を脅していた。タイムールはサンジャイから500万ルピーをせしめようとしていた。タイムールは何とか金を手に入れ、それを愛人のニルマラー(シーバー・チャッダー)に託すものの、自身はサンジャイの刺客によって殺されてしまう。

 ただ、刺客の一人が現行犯逮捕されており、そこからサンジャイの名前が浮上する。サンジャイは3年前の事故を自白する。サンジャイ、アルマーンともう1人ニキルの3人はある晩、シャシの斡旋によってスィムラン(カリーナー・カプール)という売春婦を買う。ところがニキルとスィムランは車から落ち、大怪我を負ってしまう。サンジャイとアルマーンはニキルを連れて行くが、スィムランは見殺しにした。彼女はそのまま死んでしまう。だが、そのことをシャシが知っており、彼らが映った防犯カメラの映像を使って、ゆすりたかりをしていたのだった。今回の200万ルピーも、その金だった。

 スルジャンはスィムランの映像を見て驚く。それは、自分が夜な夜な出会っていた売春婦ロージーであった。スルジャンはサンジャイを連行し走行していた。すると、例の海岸沿いの道に差し掛かり、そこで車内と路上にロージーの姿を見る。咄嗟にハンドルを切るが、スルジャンの運転する車は海に突っ込んでしまう。海底に沈んだスルジャンは、ロージーが泳いで来るのを見る。彼女はスルジャンを車内から救い出す。ロージーは、死んだスィムランの亡霊であった。一方、サンジャイは溺死する。

 一命を取り留めたスルジャンは、ロージーがかつて連れて行ってくれた海岸へ行く。そこの地面を掘り起こすと、スィムランの白骨死体が出て来た。スルジャンはそれを丁重に荼毘に付す。そのお礼であろうか、スルジャンの元にはカランからの手紙が届く。スルジャンはそれを読み、カランが両親の幸せを何よりも望んでいることを知って涙する。

 表面上では、見殺しにされた売春婦スィムラン/ロージーが、亡霊となって見殺しにした男たちに復讐をするというサスペンス・ホラーだが、そのような評価は適切ではないだろう。ホラー映画にカテゴライズするのも正しくない。映画の核心はむしろ、主人公スルジャン・シェーカーワトの心理状態であり、それを追求する心理ドラマとして優れた作品となっていた。「Talaash(捜索)」という題名は、一義的には事件の真相の究明であるが、実際にはスルジャンが安寧と安眠を獲得するまでの道を象徴したものだと考えられる。台詞も研ぎ澄まされており、無駄がなかった。ヒンディー語サスペンス映画の傑作の一本に数えてもいいだろう。

 スルジャンには妻ローシュニーとの間にカランという一人息子がいた。スルジャンとローシュニーは、カランとその友人サマルを連れて湖畔にピクニックに来ていた。ところがスルジャンとローシュニーが居眠りをしている間、カランとサマルはモーターボートに乗って遊び出す。モーターボートは暴走し、カランとサマルは湖に投げ出されてしまう。スルジャンは湖に飛び込んで子供たちを救出しようとするが、助け出せたのはサマルのみであった。カランは遺体すら見つからなかった。

 これがスルジャンとローシュニーにとって大きなトラウマとなっていた。スルジャンはローシュニーを心理カウンセラーのところへ通わせるが、カウンセリングが必要なのはむしろスルジャンの方であった。自分が居眠りしている間に息子を失ったためか、それ以来彼は安眠することができなかった。警察という職業も手伝い、スルジャンは毎晩ムンバイーを徘徊して回っていた。2人目の子供を作ることもせず、スルジャンとローシュニーの仲は冷え切ったものとなっていた。ローシュニーは、あの事故でカランを失っただけでなく、夫すらも失ってしまったと感じていた。

 スルジャンの脳裏には、息子と最後に交わした会話がいつまでも共鳴していた。「ちょっと遊んで来る」と言う息子に対し、「こっちで遊ぼう」「オレも行く」などと言っていれば、カランを救うことができた。そんな妄想が彼を幾度となく悩ませていた。

 そのスルジャンにとって結果的に救いとなったのが、今回のアルマーン・カプール変死事件であった。この事件を通して彼はロージーという3年前に死んだ売春婦の亡霊と出会い、彼女の手助けによって、息子の死を受け容れることができるようになる。息子からの手紙には、自分の死は自分の過ちから来るものだったこと、両親が幸せになることが自分の幸せにつながることなどが、健気な言葉によって綴られていた。

 硬派なサスペンスドラマに、幽霊という非現実的な要素を入れたことで、この映画はともするとバランスを失うところであった。しかし、霊能力を持つフレニーを登場させて幽霊の存在を伏線として匂わしており、決して突拍子もない結末ではなかった。しかしながら、真の問題は、劇中で殺された人々の幽霊についても取り扱わなくては、この映画が提示した世界観からするとおかしいことになるということだ。アルマーン・カプール、シャシ、タイムール、サンジャイなどは無念のまま死んだはずなので、幽霊となってこの世界を彷徨うはずである。そういうところまで考え出すと、やはり幽霊の存在をこのような緻密なシナリオに取り込むのには無理があると言わざるを得ない。

 アーミル・カーン、カリーナー・カプール、ラーニー・ムカルジーと、メインストリーム娯楽映画の第一戦で活躍するスターたちが主演しており、それらの名前だけを見ると豪華な印象を受けるが、彼らは今回かなりシリアスな演技に徹しており、いい意味で派手さが抑えられていた。

 最近急速に台頭しているのがナワーズッディーン・スィッディーキーだ。「Peepli Live」(2010年)や「Gangs of Wasseypur」(2012年)などで名を売った男優であり、国立演劇学校出身の演技派である。「Talaash」ではびっこのタイムールを巧妙に演じていたし、彼の登場シーンにはアーミル・カーンのシーンとは異なった緊張感が溢れていた。タイムールとは中央アジアの英雄ティームールのことで、ティームール自身がびっこであったことから、そう名付けられたのであろう。

 音楽は「Talaash」の最大の弱点だと言える。ラーム・サンパトの作曲であるが、映画の雰囲気には必ずしも合っていなかった。もっと暗さや重厚さを出した音楽の方が良かっただろう。作詞はジャーヴェード・アクタル。彼は、作詞家の著作権保護のために運動をしたこともあって、最近ヒンディー語映画界では干されている。彼が作詞家として起用された背景には、プロデューサーとして彼の息子ファルハーン・アクタル、脚本家として娘ゾーヤー・アクタルの参加が挙げられる。そのような特殊な状況がなければ、ジャーヴェード・アクタル作詞の映画は最近ほとんど存在しない。

 「Talaash」は、アーミル・カーン、カリーナー・カプール、ラーニー・ムカルジーという3人のメインストリーム俳優たちがシリアスな演技に徹したサスペンスドラマ。特にアーミル・カーン演じるスルジャンのトラウマに焦点を当てた心理ドラマとなっている。とは言ってもアーミル・カーン一人の肩にのしかかった作品ではなく、彼は今回キャストの一人として献身的に映画に寄与している。飛ぶ鳥を落とす勢いの演技派男優ナワーズッディーン・スィッディーキーの演技にも注目。インドのサスペンス映画は、優れたものも多いのだが、日本人がわざわざ観る価値があると言えるものは少ない。だが、「Talaash」は観て損はない映画である。