2008年8月15日、独立記念日に「Bachna Ae Haseeno」(2008年)と同時に公開されたのが、アミターブ・バッチャン、サルマーン・カーン、プリヤンカー・チョープラー主演の「God Tussi Great Ho(神様、あんたは偉い)」である。つい数年前までは、この顔ぶれはそのままヒットを意味したが、時代は変わるもので、今では「Bachna Ae Haseeno」の裏映画的な扱いである。「God Tussi Great Ho」は、ハリウッド映画「ブルース・オールマイティ」(2003年)のリメイクになる。
監督:ルーミー・ジャーフリー
制作:アフザル・カーン
音楽:サージド・ワージド
歌詞:ジャリース・シェールワーニー、シャッビール・アハマド、デーヴェーン・シュクラー
振付:ボスコ・マーティス、シーザー・ゴンサルヴェス、ガネーシュ・アーチャーリヤ
出演:アミターブ・バッチャン、サルマーン・カーン、プリヤンカー・チョープラー、ソハイル・カーン、アヌパム・ケール、ラージパール・ヤーダヴ、ビーナー・カーク、ダリープ・ターヒル
備考:PVRアヌパム4で鑑賞。
TV局に務めるアルン・プラジャーパティ、通称AP(サルマーン・カーン)は、何をやってもうまくいかないアンラッキーボーイだった。不幸なことが起こるたびに彼は神様を呪っていた。APは、同じ局に務める美女アーリヤー・カプール(プリヤンカー・チョープラー)に恋していたが、何もできずにいた。APの父親(アヌパム・ケール)は、息子がTV局という下らない場所で働いているのが気にくわず、毎日文句を言ってばかりいた。APの妹マドゥは結婚適齢期を迎えていたが、顔にアザがあるため、なかなか花婿を見つけられないでいた。母親(ビーナー・カーク)はそれでも毎日神様に祈ることを忘れなかった。 ある日、TV局にアーリヤーの大学時代の同級生ラーケーシュ・シャルマー、通称ロッキー(ソハイル・カーン)が転職して来る。ロッキーは他人をからかうのが大好きな迷惑男であった。ロッキーは、APがアーリヤーに恋しているのを知ると、彼の恋路を邪魔し出す。APはますますフラストレーションを募らせて行った。 最近仕事でいい結果を残せていなかったAPは、アーリヤーと共に新番組「Jhoot Bole Kauwa Kaate(嘘を言う者はカラスに噛まれる)」を立ち上げ、起死回生を狙う。この番組は、政治家を嘘発見器付き椅子に座らせ、いろいろな質問をするというものだった。APは、母親からもらったターウィーズ(お守り)を首にかけ、番組の発表会に臨むが、大事なところでロッキーに邪魔され、手柄を全て横取りされてしまう。怒ったボス(ダリープ・ターヒル)はAPをクビにする。全てに絶望したAPは、ターウィーズを空に向かって、つまり神様に向かって投げつける。そのターウィーズは神様のところまで届く。 翌朝、無職のAPのところに何者かから求人の電話がかかって来る。APは半信半疑ながら待ち合わせ場所のハイアットホテル1801号室へ行く。だが、そこで待っていたのは神様(アミターブ・バッチャン)であった。神様は、「俺が神様になったらあんたよりもうまく世界を運営してみせる」と豪語するAPに、10日間だけ神様の力を与える。ただし、神様であることを誰にも知られてはならないという条件付きであった。 神様になったAPはまずは神様の力を試して遊ぶが、だんだん個人的な目的のために力を使い始める。ロッキーに仕返しをし、アーリヤーを口説き落とし、妹を町一番の美人に変身させ、口うるさい父親から声を奪い、メイドを宝くじの一等当選者にする。だが、日にちはどんどん過ぎてしまい、最後の日になる。神様に、世界のためにまだ何の仕事もしていないと叱られたAPは面倒になって、世界中の全ての人の願いを一度に叶えてしまう。 翌日、普通の人間に戻ったAPは、世界がメチャクチャになっているのに気付く。学校では受験生が皆満点を取って大混乱が起き、刑務所では服役者が皆釈放され、近所の駄目男(ラージパール・ヤーダヴ)がマドゥと結婚し、職場の雑用係が手に入れたばかりのスクーターで交通事故を起こし、アーリヤーの家の前の路地に住み、日頃から犬になりたいと口にしていた乞食が犬になってしまった。さらに困ったことに、アーリヤーが突然ロッキーと結婚式を挙げようとする。APはロッキーの願いまで叶えてしまったのだった。APは式場に駆けつけて何とか止めようとするが、アーリヤーは決意を翻そうとしなかった。そこへ刑務所から釈放された犯罪者たちが押しかけ、アーリヤーは流れ弾に当たって死んでしまう。 APが神様に向かって叫ぶと、彼は神様のところへ呼ばれる。APは、神様の仕事がいかに大変かということ、皆の願いをただ叶えるだけでは世界はうまくいかないこと、全ての人は必要なもののみを与えられているということを悟り、神様に謝る。そして、アーリヤーを助けるように頼む。神様は、10日前の状態に全て戻すことのみ可能だと言う。APはそれを承諾する。 全ては10日前に戻った。APは、「Jhoot Bole Kauwa Khate」の第1回撮影に駆けつけ、ホストを務めるロッキーに「まずはお前が嘘発見器椅子に座って質問に答えろ」と挑戦する。嘘発見器のおかげで、ロッキーが今までAPに対してしてきた悪事がばれてしまう。それを見たアーリヤーは、今度はAPを椅子に座らせる。アーリヤーは、「あなたは私のことを愛してる?」と質問する。APは「いや」と答える。すると嘘発見器は「嘘」を示す。こうしてAPとアーリヤーは結ばれたのだった。
「神様は人に必要なものを必要なときに与えてくれている」という心強いメッセージが心地よい娯楽映画だった。サルマーン・カーンとソハイル・カーンの兄弟が繰り広げる息の合ったコメディーシーンも壺にはまっている。不幸な人間が一定期間だけ神様になるという、作りようによってはかなり壮大な物語になりそうな話を、卑近で安っぽいコメディー映画にまとめていたのは、逆にインド映画らしくて微笑ましかった。
映画は、「なぜ神様は全ての人々の願いを叶えてくれないのか」、「なぜ一部の幸せな人のみがさらに幸せになるのか」という多くの人々が抱く疑問に答えていた。各人には最初から必要なものが与えられており、不適切なもの与えられると大きな不幸に陥り、世界の秩序が乱れてしまうのである。つまりは今あるもので満足し、高望みをするな、という教えであった。また、神様は世界を創っただけであり、憎悪や嫉妬のような負の感情が人間によって作られたものだと、人間の批判をしながらも、最後で、アミターブ・バッチャン演じる神様は、人間には与えられたものの中で正しいことをする力があると人間を賞賛し、「人間こそが偉大なのだ」とまとめていた。
映画の面白さの大部分は、主演のサルマーン・カーンやプリヤンカー・チョープラーよりもむしろ、助演に当たるソハイル・カーンのコメディアン振りに依っている。ソハイル・カーンはしばらくアクションヒーローとして売っていたが、デーヴィッド・ダワン監督「Maine Pyaar Kyun Kiya?」(2005年)でコメディアンデビューをし、意外な才能を開花させた。今回もそのときと全く同様のノリの暴走振りで、楽しませてくれた。彼の暴走があるおかげで、神様になったサルマーンの反撃がコメディーとして生きていた。
プレイボーイを演じることの多いサルマーン・カーンは、今回は全くの駄目男を演じていた。お約束の筋肉美披露なども控えられていたが、サルマーン特有のカクカク踊りは変わらなかった。彼は、顔は二枚目で身体もムキムキなのだが、声が一定のボリュームを越えると女々しくなってしまうので、プレイボーイを演じていてもどこか二枚目半の雰囲気を残すことになる。だから、この映画のように実は最初から駄目男を演じた方が役にはまるのである。「Partner」(2007年)以来、話題に乏しかったサルマーンは、この映画で取りあえず時間稼ぎができたと言える。
ヒロインのプリヤンカー・チョープラーも悪くはなかったのだが、いつの間にかオーラがだいぶ失われてしまったように感じた。かつてはポスト・アイシュワリヤー時代を担う女優になると期待されており、確かに「Krrish」(2006年)や「Don」(2006年)の頃は上昇気流に乗っていたが、最近はお世辞にもトップ女優とは言えなくなった。だが、今年はまだ彼女の主演作が数本控えているので、決めつけるのは時期尚早であろう。
売れようと売れまいと、ヒンディー語映画界最高権威の地位をほしいままにしている男優アミターブ・バッチャンは、今年はお化けになったり神様になったり大忙しである。先日は「Bhoothnath」(2008年)でお茶目な幽霊になったかと思ったら、今度はこの「God Tussi Great Ho」で神様役を演じた。アミターブ・バッチャンは「Agni Varsha」(2002年)でもインド神話の最高神格であるインドラ神を演じたが、今回はどちらかというと西洋的な神様である。そういえば「Thoda Pyaar Thoda Magic」(2008年)でもリシ・カプールが西洋的な神様を演じていた。もう、インド的な神様はヒンディー語映画では時代遅れなのだろうか?
音楽はサージド・ワージドだが、調子のいいタイトル曲「God Tussi Great Ho」以外は耳に残るものがない。むしろ、映画中にミュージカルシーンが多すぎるように感じた。もう少しスマートにできたと思う。
題名の「God Tussi Great Ho」の中の「Tussi」とはパンジャービー語で「君」という意味の単語である。だが、映画中にパンジャービー色は全くと言っていいほど存在しない。
「God Tussi Great Ho」は、サルマーン・カーンとソハイル・カーンのコンビが面白いコメディー映画である。安っぽさが逆にいい味を醸し出している。パンチ力はないが、まったりと楽しめる作品だ。