Maine Pyaar Kyun Kiya

3.5
Maine Pyaar Kyun Kiya
「Maine Pyaar Kyun Kiya」

 昨夜から両耳が締め付けられる感覚がし、今日になって目まいがするようになった。立ちくらみは時々あるが、目まいを覚えたことは今まであまりなかったので、頭の中で洗濯機が回っているような感覚はちょっと面白かった。多分夏ばてか何かだと思う。家で安静にしていようと思ったが、今日も映画を観たくなり、老骨に鞭打ってPVRプリヤーまで出掛けた。さすがにバイクには乗っていかず、オートリクシャーで行った。今日観た映画は、2005年7月15日に公開されたヒンディー語映画「Maine Pyaar Kyun Kiya」である。

 監督は「コメディーの帝王」、デーヴィッド・ダワン、音楽はヒメーシュ・レーシャミヤー。キャストは、サルマーン・カーン、ソハイル・カーン、スシュミター・セーン、カトリーナ・カイフ、アルシャド・ワールスィー、イーシャー・コッピカル、ラージパール・ヤーダヴ、ビーナー・カークなど。アルバーズ・カーンが特別出演。つまり、この映画には、ソハイル・カーン、サルマーン・カーン、アルバーズ・カーンの三兄弟が同時出演している上に、ソハイル・カーンがプロデューサーも務めている。

 「Maine Pyaar Kyun Kiya」とは、「オレ、どうして恋なんてしちゃったんだろう」という意味。サルマーン・カーンの出世作「Maine Pyar Kiya」(1989年)をもじったものであろう。

 接骨医のサミール(サルマーン・カーン)は、ナンパした女の子を本気にさせないため、自分は既婚者であると皆に告げていた。だが、彼はソニア(カトリーナ・カイフ)に本気で恋をしてしまい、「今の妻とは離婚するから結婚してくれ」とプロポーズをする。喜ぶソニアだったが、その前に彼女は一度サミールの妻と会って話をしたいと頼んだ。しかしサミールに妻などいない。困ったサミールは、病院の受付をしている看護婦のナイナー(スシュミター・セーン)に、1日だけ妻になってほしいと頼む。実はナイナーはサミールのことを密かに愛していた。サミールの頼みにがっかりしながらも、彼女はその通りにする。

 しかし、事はサミールの思っていた通りには進まなかった。一番の原因は、ソニアの隣に引っ越してきた、お調子者の男ピャーレー(ソハイル・カーン)であった。ピャーレーはソニアに一目惚れしてしまい、サミールの計画を何かと邪魔していた。そのおかげでだんだん話がこんがらがってきて、サミールとナイナーの間には2人の子供がいて、ナイナーにはボーイフレンドがいて、しかもそのボーイフレンドにもガールフレンドがいることになってしまい、収拾がつかなくなってくる。しかし何とかごまかしたサミールは、親友のヴィッキー(アルシャド・ワールスィー)の助けを借りて、映画撮影用の裁判所で離婚裁判の茶番劇を行う。あと少しのところで離婚が成立するところだったが、そこに乗り込んできたサミールの母親(ビーナー・カーク)が、「息子が結婚していることも知らなかったし、ましてや離婚なんて許さない」と大見得を切ったため、失敗に終わる。

 サミールとナイナーは母親の前で結婚式を上げ、一緒に暮らすようになる。サミールはナイナーに対し、悪い嫁を演じるよう命令し、彼女もその通りにする。母親はナイナーのひどい仕打ちに心を痛め、息子の離婚を認める。

 やっとサミールとソニアは結婚することになった。一方、サミールに散々利用されたナイナーはカナダへ発つことを決める。その前に彼女はソニアに会い、サミールは実は結婚などしていなかったことを明かす。

 サミールとソニアの結婚式の日。神父の前でソニアは「私はこの人を夫とは認めません」と宣言する。驚いたサミールに対し、彼を本当に愛しているのはナイナーであることを告げる。本当の愛を悟ったサミールは、ナイナーに会うために空港へ向かう。サミールはナイナーと何とかよりを戻し、改めて結婚することにする。また、ピャーレーはどさくさに紛れてソニアと結婚することができた。

 目まいが吹っ飛ぶほど面白いコメディー映画だった。ストーリーに特に目新しい部分はなく、キャラクター設定も甘かったが、インドのラブコメはかくあるべし、という、教科書のような作品であった。主演はサルマーン・カーンだが、この映画で最も注目すべきは、コメディーの才能を開花させたソハイル・カーンと、新たな大スター誕生を予感させてくれるカトリーナ・カイフである。

 ソハイル・カーンはサルマーン・カーンの兄で、俳優の他に監督、制作、脚本なども務めるオールランド・プレイヤーである。俳優の彼は、肉体派アクション映画を最も得意とすると考えられてきたが、この映画によりコメディーの才能もあることが証明された。現在のヒンディー語映画界で最も勢いのあるコメディアンといえば、この映画にも出演しているラージパール・ヤーダヴだが、彼に匹敵するほどのコメディアン振りを発揮していた。デーヴィッド・ダワン監督は、コメディーの似合わない俳優にコメディー役をさせることで有名であり、前作「Mujhse Shaadi Karogi」(2004年)ではアクシャイ・クマールのコメディーの才能を開発した。

 だが、僕が最も嬉しかったのは、カトリーナ・カイフの華々しい本格デビューである。カトリーナ・カイフは「Boom」(2003年)でデビューし、「Sarkar」(2005年)で落ち着いた演技を見せていたが、この「Maine Pyaar Kyun Kiya」において遂にトップ女優にのし上がる準備を整えたと言っていい。カトリーナ・カイフは、英国人の母とインド人(カシュミール人)の父とのハーフである。ロンドン生まれロンドン育ちで、他の多くの女優と同様にモデルからヒンディー語映画にデビューした。どちらかというと美人系の顔立ちだが、笑うととてもかわいい。何より本当に楽しそうに踊ったり演技をするところがいい。しかもスシュミター・セーンよりも身長が高いのに(スシュミターは177cm、カトリーナは180cm)、スシュミターほど身長の高さを感じさせない柔和さを持っている。まだ20歳かそこらなので、どんどん成長していくだろう。アイシュワリヤーの次の世代を代表する「ヒンディー語映画界の女神」になることは確実だ。これから贔屓にしていきたい女優である。

 サルマーン・カーンはコメディーもお手の物なので、無難に役をこなしていた。相変わらず踊りは堅く、筋肉を見せびらかす傾向にあるが・・・。スシュミター・セーンの演技もさすがだった。イーシャー・コッピカルも友情出演していたが、あくまで友情出演であり、特筆すべきことはなかった。それにしても、イーシャーも170cmあって大柄な体格をしているため、スシュミター、イーシャー、カトリーナが揃うと、ヒンディー語映画界巨人女3人衆という感じだった。他にシルパー・シェッティー、タッブー、ラーラー・ダッターなどが背が高い印象がある。アルシャド・ワールスィーはいつもと同じような役、ラージパール・ヤーダヴは今回は比較的影が薄かった。サミールの母親役で登場したビーナー・カークは今回がデビュー作らしいが、強烈な印象を残した。

 コメディー映画なのでいくつもお笑いシーンがあるのだが、僕が一番プッシュしたいシーンは、サミールとピャーレー、つまりサルマーンとソハイルが、香港映画のようなカンフー風のアクションをして船上で戦うシーン。香港映画の真似というよりもパロディーであるが、その白けた雰囲気が逆に大爆笑を誘った。セリフ回しも面白いものが多く、例えば「MTVやチャンネルVの時代には、女の子は命を捧げるんじゃなくて、命を奪うんだ」、「一度壊れてしまった夫婦関係は、歯磨き粉のチューブから出てしまった歯磨き粉が二度とチューブに戻らないように、もう修復不可能なんだ」などなど。

 映画の中で最も盛り上がるナンバーは「Just Chill」であろう。サルマーン・カーン、ソハイル・カーン、カトリーナ・カイフが踊るアップテンポのダンスナンバーだ。「Dil Di Nazar」もよい。「Ye Ladki」はモルディヴでロケされており、個人的には思い入れが強い。

 「Maine Pyaar Kyun Kiya」は、何も考えなくても楽しめる映画であり、良質のコメディー映画である。特にカトリーナ・カイフに注目していただきたい。