Mithya

2.5

 2008年もはや1ヶ月が過ぎ去った。1月最終週に公開されたコメディー映画「Sunday」(2008年)がそこそこ健闘しそうだが、今年のヒンディー語映画でヒットの評価が与えられている映画はまだない。その代わり、昨年末に公開された「Taare Zameen Par」と「Welcome」が大ヒットとなっており、まだ上映が続いている。本日(2008年2月8日)、2本の新作映画が公開された。「Mithya」と「Super Star」である。今日は前評判の高い「Mithya」を観に行った。

監督:ラジャト・カプール
制作:アリンダム・チャウドリー
音楽:サーガル・デーサーイー
出演:ランヴィール・シャウリー、ネーハー・ドゥーピヤー、ナスィールッディーン・シャー、ヴィナイ・パータク、サウラヴ・シュクラー
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 映画俳優になることを夢見てデリーからムンバイーで出て来たVK(ランヴィール・シャウリー)は、なかなか成功を掴むことができず、苦悶の毎日を送っていた。ある日、彼は偶然ライバルマフィア同士の銃撃戦現場に居合わせてしまう。VKは目撃者として警察署へ行くが、マフィアによってマークされ、やがて拉致されてしまう。VKは海に沈められるところだったが、思わぬ特徴が彼の命を救う。それは、彼の顔が、ライバルマフィアのドン、ラージュー(ランヴィール・シャウリー)にそっくりなことだった。

 ラージューを追い落としてムンバイーの全権を掌握することを望むマフィア(ナスィールッディーン・シャー、ヴィナイ・パータク、サウラヴ・シュクラなど)は、VKを訓練して言動までラージューの真似をさせる。また、マフィアの愛人ソーナム(ネーハー・ドゥーピヤー)はVKの世話をする内に彼と心を通わすようになる。

 決行の日が来た。彼らは予めライバルマフィアに送り込んでいた内偵の力を借りてラージューを暗殺し、VKをラージューの代わりにする。ラージューの部下たちや家族はドンが入れ替わったことに気付かなかった。だが、VKは次第に演技力の限界を感じ始める。

 そんなとき、VKは事故で高所から落ち、頭を強く打って記憶喪失になってしまう。次第に記憶が戻って来たが、VKは自分のことをラージューと思い込むようになる。VKを送り込んだマフィアは、VKから連絡がないことに焦り始め、頻繁にVKを呼び出す。だが、VKは自分のマフィアに裏切り者がいると考え、彼を殺してしまう。VKを送り込んだマフィアは怒って、ラージューの死体を掘り起こし、ライバルマフィアへ送りつける。既にラージューは死に、現在ラージューを演じているのはただの俳優であることが分かると、ラージューの部下たちはVKをリンチして放り出す。VKは何が何だか分からないままムンバイーの街を放浪する。

 ソーナムはVKを見つけ出し、彼に本当のことを話す。だが、VKはなかなかその話を信じることができなかった。彼にはソーナムの名前も記憶になかった。ソーナムも敢えて彼に自分の名前を教えない。

 VKは最後にラージューの子供たちと会ってムンバイーを去ろうとする。だが、ライバルマフィアたちはVKがラージューの子供を誘拐したと考え、報復に出る。VKを送り込んだマフィアも、ソーナムの裏切りを知って彼女を探し始める。VKとソーナムは一緒にいるところをマフィアに見つけられるが、その内の一人を殺し、逃げ出す。だが、最後には捕まり、2人とも殺されてしまう。しかし、死ぬ直前、VKはソーナムの名前を思い出し、彼女の名前を叫んで絶命する。

 マフィアのドンをそっくりさんと入れ替えるというプロットは、言うまでもなく大ヒット娯楽映画「Don」(1978/2006)を想起させるが、入れ替わってからは主人公は本当に記憶喪失となってしまい、そこから異なる展開を見せる。しかし、それが必ずしも映画を面白くしていたわけではなく、そこそこの映画にまとまっていただけであった。ラジャト・カプール、ランヴィール・シャウリー、ナスィールッディーン・シャーなど、才能ある顔ぶれが揃っているだけに、どうしても最高の作品を求めてしまう。その期待には残念ながら応えることができないだろう。

 この映画の最大の見所は、偽者のドンが記憶喪失をきっかけにして自分を本物だと勘違いするという、アイデンティティーの混乱だろう。俳優VKとしての自分と、マフィアのドン、ラージューとしての自分のどちらを本当の自分として受け入れたらいいのか分からなくなる苦悩が映画の核だ。VKにはソーナムという恋人がおり、ラージューにはかわいい子供たちがいる。ソーナムから真実を聞かされても、彼はどうしても子供たちを手放すことができない。それが結局命取りとなり、最後にVKもソーナムも殺されてしまう。インド映画には珍しいアンハッピーエンドの作品である。しかし、最後にソーナムの名前を思い出したことで、ラブストーリーとしてはかろうじて後味が悪くならないようにされていた。だが、その展開は容易に予想できたものであり、むしろそのような陳腐な形で終わってしまったことを残念に思った。

 面白かったのは、全体的にダークな展開ながら、コメディーのスパイスが散りばめられていたことである。大爆笑とはいかないまでも、かみ殺した笑いを漏らしたくなるようなブラックジョークが多く、悲劇と喜劇のバランスが保たれていた。それはこの映画の成功した点だと言える。

 主演のランヴィール・シャウリーは演技力のある男優だが、マフィアのドンのようなシリアスな役向きではない。それでも、実際のマフィアのドンとしての登場シーンは少なく、VKがなりすますラージューのシーンばかりだったので、何とか演技力でカバーできていたと思う。ナスィールッディーン・シャーは案外出番が限られていたが、要所要所で渋い演技を見せていた。むしろヴィナイ・パータクの見事なマフィア振りの方が目立ち、彼の演技の幅の広さを思い知らされた。

 ヒロインのネーハー・ドゥーピヤーは、2002年のミス・インディアだが、女優としては伸び悩んでいる。「Mithya」の中の彼女は頑張った部類に入るが、彼女のキャリアのターニングポイントとなるだけのインパクトはない。まだ下積みの時代が続きそうだ。一度思い切って完全な娯楽路線に走った方がいいのではないかと感じる。

 「Mithya」は、監督や俳優に才能ある名前が見られるが、内容は高い期待には応えられない程度のものである。無理に観る必要はない。