Ta Ra Rum Pum

3.5

 残念ながらここのところヒンディー語映画は低迷している。2007年公開作品中、ヒットを記録したのは、「Guru」(2007年)と「Namastey London」(2007年)のみである。元々、クリケット・ワールドカップ開催期間中、国民の関心は映画よりも断然クリケットに向くため、この時期に大作は投入されない傾向にある。だが、それを差し引いても、ヒンディー語映画は低迷の時期を迎えていると言っていいだろう。だが、ここに来てその低迷を解消するだけのパワーを持った作品が公開された。ヒンディー語映画界最大の映画コングロマリット、ヤシュラージ・フィルムスが送るカーレース映画「Ta Ra Rum Pum」である。インド人初のF1ドライバー、ナーラーヤン・カールティケーヤを思い起こさせる映画だ。公開初日の今日(2007年4月27日)、映画館へ観に行った。

監督:スィッダールト・アーナンド
制作:アーディティヤ・チョープラー
音楽:ヴィシャール・シェーカル
作詞:ジャーヴェード・アクタル
振付:ヴァイバヴィー・マーチャント
出演:サイフ・アリー・カーン、ラーニー・ムカルジー、ジャーヴェード・ジャーフリー、アンジェリーナ・インドラーニー、アリー・ハージー、ヴィクター・バナルジー、バラト・ダボールカル、ラヴィ・コーテー、スジョイ・ゴーシュ
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 舞台はニューヨーク。ラージヴィール・スィン(サイフ・アリー・カーン)は、レーサーを夢見つつ、レースチームのタイヤ交換手として働いていた。ある日偶然、落ち目のレーシングチーム「スピーディング・サドルズ」のマネージャー、ハリー(ジャーヴェード・ジャーファリー)に見出され、レーサーとして雇われる。また、同じ日に彼はピアニストのラーディカー・シェーカル・ラーイ・バナルジー(ラーニー・ムカルジー)に出会い、一目惚れする。ラージヴィールは名前を「RV」に変え、レースデビューを果たす。RVはデビュー戦で優勝したのを皮切りに連戦連勝。ラーディカーとも結婚し、2人の子供をもうける。長女の名前はプリヤー(アンジェリーナ・インドラーニー)、通称プリンセス。長男の名前はランヴィール(アリー・ハージー)、通称チャンプ。四人はマンハッタンの豪邸に住んでいた。RVは人生の絶頂期にあった。

 ところが、RVの人生に突如として不幸が訪れる。RVはライバルのラスティーの乱暴な走行によって大事故に遭ってしまい、1年間の静養を余儀なくされる。復活したRVであったが、事故の恐怖が脳裏に焼きつき、昔のような切れのある走行ができない。10戦10敗を喫した後、RVはチームから解雇される。しかも彼の後釜に座ったのはラスティーであった。親友ハリーとも喧嘩別れしてしまう。RVはすぐに他のチームに就職できると楽観視していたが、どのチームも彼を雇おうとはしなかった。

 RVは職を失っただけではなかった。家も自動車も家具も全てをローンで買っていたため、急に収入を失うということは、全てを失うということだった。RVの持ち物は全て差し押さえられ、競売に掛けられ、家も追い出された。彼らはボロアパートに住むことになる。だが、子供たちに真実を伝えられなかったRVとラーディカーは、これは貧乏生活を送るリアリティーショー番組だと説明する。貧乏でもなるべく長く幸せに過ごせた家族が勝者となるのだ。プリンセスもチャンプも両親の言葉を信じ、「幸せな貧乏生活」を始める。子供たちを必死で楽しませようとするRVとラーディカーであったが、一番の問題は学費であった。子供たちを同じ学校に通わせるために、1ヶ月以内に何とか学費を稼がなければならなかった。

 RVはいくつかの職を試した後、タクシードライバーを始める。一方、ラーディカーはホテルでピアノを演奏し、日銭を稼ぐ。どうしても学費を貯めることができなかったRVは、ドライバー仲間に娘が病気だと嘘を付いて寄付を集め、何とか学費を間に合わせる。だが、嘘を付いたことを知ったラーディカーは激怒し、子供たちにリアリティーショーなどないと明かす。だが、実は子供たちも既にそれを知っており、昼食を抜いてお金を貯めていたのだった。しかしそれが裏目に出る。残飯を漁ることを覚えてしまったチャンプは、変な物を食べたために重病に罹ってしまう。手術代のために65,000ルピーという大金が必要だった。

 RVは、かつてのボスにお金を借りに行く。だが、ボスは彼を冷たくあしらう。RVは怒ってその場を去るが、ハリーはRVの味方だった。ハリーは、一緒にレーシングチームを立ち上げて賞金を獲得しようと提案する。こうして急ピッチで新レーシングチーム「ダ・デーシーズ」が立ち上げられる。ピットはドライバー仲間が務めることになった。

 再びRVはレーサーとしてレース場に戻ることができた。RVはライバルのラスティーとの死闘を繰り広げ、最後に彼を同じ様に事故に遭わせ、優勝する。こうして危機を家族と共に切り抜けたRVは、再び元の生活に戻ることができた。

 いい意味でも悪い意味でもハリウッド映画らしい作品。ヒンディー語映画も遂にここまで来たか、と唸らされた一方、途中挿入されるミュージカルシーンや、家族の絆を核とした作品作り以外、インドらしさがほとんどないことに一抹の懸念を感じた。だが、総じて非常に優れた作品。ヒットしておかしくない出来である。

 同じヤシュラージ・フィルムス制作の「Dhoom: 2」(2006年)もハリウッドのアクション映画に比べて十分遜色ない作品であったが、「Ta Ra Rum Pum」もそれ以上に国際舞台に立たせても恥ずかしくない娯楽映画となっていた。間違いなく現代のヒンディー語映画を先導しているのはヤシュラージ・フィルムスである。ハリウッドとの比較という観点で「Ta Ra Rum Pum」の見所は、序盤と終盤の迫力あるカーレースシーンと、後半のミュージカルシーン「Ta Ra Rum Pum」でのCGと実写を融合させたダンスである。カーレースシーンは、ヒンディー語映画でここまでできるかという迫力。映画はほぼ全編に渡ってニューヨークを初めとした米国でロケが行われ、このレースシーンも米国での撮影である。非常に本格的で、クラッシュシーンも一切手抜きなし。スタントは、スティーヴ・ケルソというハリウッドのスタントマンのようだ。ただ、序盤と終盤のカーレースシーンは1日で撮影されたのではないかと言うほど似通っていた。また、「Hum Tum」(2004年)で2Dアニメが挿入されたように、「Ta Ra Rum Pum」ではCGアニメが挿入される。ミュージカル「Ta Ra Rum Pum」で、RV、ラーディカー、プリンセス、チャンプの4人の実写キャラクターと、「タ」「ラ」「パ」「マ」という名前の4匹のCG熊キャラが一緒に踊ったり遊んだりするのである。このCGのレベルと、CGと実写の融合のレベルが非常に高かったので驚いた。ヒンディー語映画で使用されるCGは「う~ん、頑張ってるのは分かるけど、何だかなぁ・・・」というものが多かったのだが、この「Ta Ra Rum Pum」のCGはヒンディー語映画史上最高レベルの出来と言っていい。米国のスタジオの力を借りているかと思ったが、クレジットによると映像効果はインドのターター・エレクシーが担当しているようで、国産と言ってよさそうだ。カーレースという困難なアクションシーンと、CGと実写を融合させて踊らせるという技術を要する斬新なダンスシーンで、「Ta Ra Rum Pum」はハリウッドを射程に捉えたと言っていい。

 しかし、確かにレースシーンは興奮するし、CGの熊たちとCGの世界で踊るダンスシーンは子供たちを魅了するだろうが、映画の核となっているのは家族の絆であり、人間のドラマである。RVとラーディカーの出会いは退屈であったが、2人の子供たちと貧しい生活を耐え抜かなくならなくなった後半のドラマは感動的だ。しかも、最近流行のリアリティーショーを持ち出すところが面白い。RVとラーディカーは、子供たちに辛い思いをさせまいと、この貧乏生活は「Don’t Worry Be Happy」というリアリティーショー番組の一環だと信じ込ませる。そして両親は事あるごとに子供を楽しませる努力をする。子供たちも最初はそれを信じるが、やがて真実に気付く。そして子供たち同士で昼食を抜き、お金を節約し出す。もちろん昼食を抜いていることは両親には内緒だった。

 後半は、RVのトラウマとの闘いでもあった。事故以来、彼はスピードを出すと、事故の悪夢が脳裏に蘇るようになってしまう。そのためにレースに勝てなくなり、タクシーを運転していてもそれが障害になり出す。だが、チャンプの入院という緊急事態がトラウマ克服のきっかけとなった。勝利以外に彼らには道がなかった。その極限状態の中でRVはかつての感覚を取り戻すのである。

 だが、最後のレースにおいて、RVがライバルのラスティーに対して行った報復措置はインド映画的ではなかった。RVは、かつてラスティーにやられたように、彼のマシンを壁際に追いやって転倒させる。その後、ラスティーのマシンは後続車に激突されて炎上してしまう。ラスティーがどうなったかは全く言及がなかったが、おそらく死んでしまっただろう。このような残酷な復讐はインド映画の終わり方にふさわしくない。もちろん、勧善懲悪アクション映画で、クライマックスでヒーローに悪役が殺されるのは常套手段であるが、「Ta Ra Rum Pum」のような家族向け映画では、悪役が痛い目に遭うことはあっても、殺されるようなことはあまりない。ハリウッド的な展開を追い求めるあまり、「インド映画の良心」を失ってしまったのではないかと不安になった。インドっぽさがほとんどないことも、「Ta Ra Rum Pum」の大きな弱点だ。ハリウッドに対抗するのは悪くないが、ハリウッドと同じ土俵で争おうと思ったら、いかに天下のヤシュラージ・フィルムスと言えど、まだまだ底力不足である。ヒンディー語映画には、インド的要素を失わずに、バランスよくグローバル化して行ってもらいたいと常々願っている。

 新レーシングチーム立ち上げまでの時間が異様に短かったのが大きな突っ込みどころだが、そこはご愛嬌であろう。

 サイフ・アリー・カーンとラーニー・ムカルジーは「Hum Tum」でも共演しており、ヒンディー語映画界のベストスクリーンカップルに数えられそうだ。二人とも既に確立した俳優であり、演技は素晴らしかった。ラーニーの(年甲斐のない)マイクロミニ・ファッションが密かな見所。しかし序盤の彼女のハスキーボイスは耳に痛かった・・・。サイフ・アリー・カーンと脇役ジャーヴェード・ジャーフリーも、「Salaam Namaste」(2005年)で共演している。「Ta Ra Rum Pum」のスィッダールト・アーナンド監督は、「Salaam Namaste」でデビューした映画監督であり、よっぽどジャーヴェード・ジャーフリーが気に入っているようだ。ジャーヴェード・ジャーフリーは、アルシャド・ワールスィー並みに言っていることが聴き取りづらい俳優であるが、従来のコメディー色を抑えたいい演技をしていた。子役のアンジェリーナ・インドラーニーとアリー・ハージーも良かった。

 音楽はヴィシャール・シェーカル。突出した名曲はないが、映画の流れに沿った佳作が多い。映像と合わせて見ると曲の良さが分かる。やはり一番の見所は、CGと実写の融合を成功させた「Ta Ra Rum Pum」であろう。

 「Ta Ra Rum Pum」は、2007年の代表作の一本になれるだけの力を持った映画だ。カーレース映画というのもインド映画では珍しく、目を惹く。ヤシュラージ・フィルムス、サイフ・アリー・カーンとラーニー・ムカルジーの再共演、そしてしばらくヒンディー語映画界に大作不毛期間が続いたことの3つを合わせて考えれば、必見の映画としか言いようがない。