Khamoshi: The Musical

3.5
Khamoshi: The Musical
「Khamoshi: The Musical」

 サンジャイ・リーラー・バンサーリー監督はその独特の美意識と豪華絢爛な映像美、そして壮大なスケールで知られており、ヒンディー語映画界を代表する映画監督の一人に数えられている。その彼の原点ともいえる作品が1996年8月9日公開の「Khamoshi: The Musical」だ。サンジャイ・リーラー・バンサーリーの監督デビュー作だが、時代を10年先取ったようなスタイリッシュな味付けで、彼の才能の片鱗を十分に感じさせる。どちらかといえば後の「Black」(2005年)や「Guzaarish」(2010年)と同じ路線の映画である。2022年12月13日に鑑賞し、レビューを書いている。

 主演はサルマーン・カーンとマニーシャー・コーイラーラーだが、演技的にずば抜けて優れているのは脇役のナーナー・パーテーカルとスィーマー・ビシュワースの方だ。他に、ヘレン、ヒマーニー・シヴプリー、ラグビール・ヤーダヴなどが出演している。

 舞台はゴア。ジョゼフ・ブラガンザ(ナーナー・パーテーカル)とフラヴィー(スィーマー・ビシュワース)の夫妻は両方とも聾唖者だったが、二人の間に生まれたアニー(マニーシャー・コーイラーラー)とサムは健常児だった。彼らは祖母のマリア(ヘレン)と共に海岸を見下ろす家で幸せに暮らしていた。アニーは音楽の得意なマリアからピアノと歌を習っていた。

 ところが、ある日を境にブラガンザ家に不幸が続く。まずジョゼフが無職になって金に困窮し、アニーが大事にしていたピアノを売却せざるをえなくなる。買い手は彼らの友人であるウィリー(ラグヴィール・ヤーダヴ)だったためひとまず安心だったが、アニーは心を痛める。その直後、マリアが死に、次にサムが高所から落下して死んでしまう。急にブラガンザ家を沈黙が支配するようになる。

 アニーは、ラージ(サルマーン・カーン)という音楽家と出会い、恋に落ちる。また、ラージはアニーの歌声に惚れ込み、彼女のレコードを作って売りたいと言い出す。歌手になるのが夢だったアニーにとっては願ってもないことだった。だが、ラージと結婚すると聾唖者の両親の世話が見られなくなるため、アニーは葛藤していた。ジョゼフはアニーの歌の才能を認め、ウィリーからピアノを買い戻す。

 そうこうしている内にアニーはラージの子供を身籠もってしまう。それを知らないラージはゴアを去り、ジョゼフは娘の軽率な行動に激怒して、彼女を家から追い出す。アニーはラージと合流し、ジョゼフとフラヴィーの不在のまま結婚する。

 アニーは男児を産んだ。彼女は死んだ弟と同じサムと名付ける。ラージとアニーはサムを連れてジョゼフとフラヴィーを訪れる。ジョゼフはやっとラージを受け入れる。

 だが、ラージ、アニー、サムは交通事故に遭い、アニーが意識不明の重体となる。だが、ジョゼフが必死に呼び掛けたことでアニーは目を覚ます。

 題名の「Khamoshi」とは「沈黙」という意味であり、その副題「The Musical」と矛盾するように思われる。だが、この映画のストーリーは歌と沈黙を織り交ぜたものになっており、その題名は正しい。しかも、歌と踊りの入れ方も、インド映画的というよりは米国のミュージカル映画に近かった。

 「沈黙」の部分を象徴しているのがジョゼフとフラヴィーの夫妻だ。彼らは耳が聞こえず、言葉もしゃべれない。結婚し、子供が生まれるが、当初はその子供までが聾唖者であることを恐れていた。だが、長女として生まれたアニーも、長男として生まれたサムも、耳が聞こえる健常な子供であった。ジョゼフは有頂天になって喜ぶ。

 また、ジョゼフの母親マリアには音楽の才能があり、特にアニーに音楽を叩き込む。アニーも抜群のセンスを持っていた。こうして、聾唖者の両親を持ちながら、彼らの家は歌と音楽に満ちあふれていた。

 しかしながら、まずマリアが死に、次にサムも死ぬ。アニーがマリアから音楽を習っていたピアノも経済状況の悪化により売らざるをえなくなる。ブラガンザ家は急に沈黙してしまう。そんな暗雲立ちこめる状況の中でアニーの人生に差し込んだ一筋の光がラージだった。ラージはアニーの歌手デビューをお膳立てし、彼女と恋仲にもなる。再び彼女の人生に音と音楽が戻ってきた。

 だが、アニーは葛藤を抱える。ラージと結婚し、歌手になる夢を叶えようとすると、聾唖者の両親を後に残していくことになる。かといって両親の世話を一生続けていれば、自分の幸せは追求できない。この葛藤がこの映画でもっとも描きたかったことだろう。

 25年以上前の映画であり、映像などの古さは否めない。「ミュージカル」を銘打っているだけあってソングシーンやダンスシーンが多いが、それらのひとつひとつが一曲丸々使われており、現代の視点から見ると冗長に感じる。

 それでも、1990年代にこのような大人のラブストーリーを、新人監督の身でありながら送り出すことができたのには驚嘆する。この種の映画は2000年代になると増えたが、1990年代はまだその土壌が整っていなかった。マニーシャー・コーイラーラーがフィルムフェア批評家主演女優賞を受賞するなど、評論家たちからの評価は高かったが、興行的にはフロップと結論づけられている。時代を先取りすぎた映画だったといえる。

 当時絶頂期にあったマニーシャー・コーイラーラーの美しさはこの世のものと思えないほどで、演技についても申し分ない。彼女の落ち着いた演技と並ぶとサルマーン・カーンの軽さが目立つ。マニーシャー以上に観客の目を引くのがナーナー・パーテーカルとスィーマー・ビシュワースの演技だ。特にナーナーは聾唖者役なのでほとんど台詞をしゃべらないが、身振り手振りだけで見事にキャラクターを作り上げていた。

 「Khamoshi: The Musical」は、天才的映画監督であるサンジャイ・リーラー・バンサーリーのデビュー作にして、時代を10年以上先取ったような先進的な映画だ。マニーシャー・コーイラーラーやナーナー・パーテーカルの演技も素晴らしい。ただし、古さは否めない。特に長ったらしい場面が多かったのが気になった。観て損はない映画である。


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