1994年11月4日公開の「Andaz Apna Apna(それぞれのスタイル)」は、公開時はまあまあの興行成績だったものの、後に見直しが進み、今ではヒンディー語映画史においてベスト・コメディー映画にランクインすることもあるカルト的人気を獲得するに至った、数奇な作品だ。2024年12月10日に鑑賞し、このレビューを書いている。
監督はラージクマール・サントーシー。デビュー作のアクション映画「Ghayal」(1990年)を当てたことで当時注目の新進気鋭監督であった。ただ、趣向をガラリと変え、コメディー映画に挑戦した。サルマーン・カーンとアーミル・カーン。実は2024年現在、この二人が共演した映画はこれが最初で最後になる。ヒロインはカリシュマー・カプールとラヴィーナー・タンダン。この映画の撮影時には二人ともまだデビューしたばかりであり、初々しい演技を見せている。
他には、パレーシュ・ラーワル、シャクティ・カプール、ヴィージュー・コーテー、シェヘザード・カーン、ジャーヴェード・カーン・アムローヒー、ティークー・タルサーニヤーなどが出演している。また、ゴーヴィンダーとジューヒー・チャーウラーが特別出演している。
ロンドン在住の大富豪ラーム・ゴーパール・バジャージ(パレーシュ・ラーワル)の一人娘ラヴィーナー(ラヴィーナー・タンダン)が、秘書のカリシュマー(カリシュマー・カプール)を連れて花婿探しのためにインドにやって来た。床屋の息子アマル(アーミル・カーン)と仕立屋の息子プレーム(サルマーン・カーン)は逆玉の輿を狙い、親の店を勝手に売り払って資金を作り、ラヴィーナーが滞在するタミル・ナードゥ州ウダガマンダラム(ウーティー)へ向かった。道中で彼らは一緒になり仲良くなるが、目的が一緒だと知るとお互いを出し抜こうとしながらも協力できるところは協力し合う。
アマルはラヴィーナーに棒で叩かれて記憶喪失になった振りをし、彼女の家に滞在することになる。記憶が戻ると彼はナワーブの息子を名乗り出す。一方、プレームはアマルを治療する医者の振りをしてラヴィーナーの家に入り込み、いつの間にか住み込むようになる。一緒に過ごしている内にアマルとラヴィーナー、プレームとカリシュマーは恋仲になる。ラヴィーナーの心を勝ち取ったアマルは勝ち誇るが、実はラヴィーナーとカリシュマーは入れ替わっており、本当はラヴィーナーが秘書のカリシュマーで、カリシュマーが大富豪の娘ラヴィーナーであった。今度はプレームが勝ち誇るが、このときまでにアマルはカリシュマー(ラヴィーナー・タンダン)のことが好きになっており、彼女と結婚することを決める。もちろん、プレームはラヴィーナー(カリシュマー・カプール)との結婚を希望する。
ラームがロンドンからインドにやって来た。ラームは娘たちが伴侶に決めたアマルとプレームを人目見て正体を見破り、追い払う。そこでアマルとプレームは、仲間になったアーナンド・アケーラー(ジャーヴェード)に協力を得てラームの誘拐を計画する。アケーラーが誘拐したラームをアマルとプレームが救い出すことでラームの信任を得るという作戦だった。
ところが、別にラームの誘拐を狙う者がいた。ラームの双子の弟シャーム、通称テージャー(パレーシュ・ラーワル)であった。ラームが資産をダイヤモンドに変えてインドに降り立ったことを知っており、ラームを誘拐してそれを手に入れようとしていた。ラームの側近ロバート(ヴィージュー・コーテー)とヴィノード・バッラー(シェヘザード・カーン)はテージャーに内通しており、ラーム誘拐を実行した。まずはアケーラーがラームを誘拐するが、すぐにアケーラーは気絶させられ、ロバートとバッラーがラームを連れていってしまった。テージャーはラームを幽閉し、ラームになりすまそうとする。
アマルとプレームはラームが誘拐されたと聞いてほくそ笑むが、身代金の額が10倍の500万ルピーになっているのを知って不審に感じる。どちらにしろ500万ルピーもの金は持っていなかったため、7000ルピーだけ持って落ち合い場所まで行き、ラームを連れてくる。そのラームは実はテージャーであった。テージャーはラームの家に入るとダイヤモンドを探し出す。
ラヴィーナーとカリシュマーからラームの様子を聞いたアマルとプレームはラームを尾行し、幽閉された本物のラームを見つける。だが、実はこのときまでにラームはテージャーを牢屋に閉じこめて脱出することに成功していた。アマルとプレームは倒れていたテージャーを救い出したつもりだったが、ラームともども閉じこめられてしまう。だが、ロバートとバッラーに、閉じこめられているのはテージャーだと信じ込ませ、牢屋から出る。
テージャーは金庫の鍵を見つけ、ダイヤモンドを手にしていた。だが、ロバートがテージャーの頭に石をぶつけて気絶させ、アマルとプレームはダイヤモンドを奪還する。一方、ラームはラヴィーナーとカリシュマーと再会するが、そこへテージャーの借金取りクライムマスター・ゴーゴー(シャクティ・カプール)が現れ、三人を誘拐してしまう。ゴーゴーはラームをテージャーだと勘違いしていた。ゴーゴーは三人を人質に取り、アマルとプレームにダイヤモンドを持って来るように指示する。二人はすぐに救出に向かうが、ゴーゴーに捕まってしまう。その場には、テージャー、ロバート、バッラーもいた。アマルとプレームは首尾良く混乱を創り出し、ラヴィーナーとカリシュマーを救い出した上に、警察を呼んで、テージャーやゴーゴーたちの逮捕に協力した。ラームも二人を認め、プレームとラヴィーナー、アマルとカリシュマーの結婚を認める。
撮影に3年を要した上に、即興で撮った映像をつなげていったような作りで、その雑さは隠せていない。サントーシー監督は後に、きちんと脚本を書いてその通りに撮ったと主張しているが、カリシュマー・カプールは「90年代の映画には脚本がなかった」と語っており、おそらくこの映画のことも指しているのではないかと感じる。「Ghayal」成功後の1991年頃から撮影に入っており、アーミル・カーン、サルマーン・カーン、カリシュマー・カプール、ラヴィーナー・タンダンの四人はまだ若い。躍動感はあるが、その代わりに演技が大げさだ。だが、各シーンに瞬発力があり、コメディー映画としてなんとか成立していた。パッションが前面に出た作品であり、それが映画に活力を与えていて、最終的にカルト的人気の獲得につながったのであろう。
序盤ではラヴィーナー・タンダンが大富豪の娘ラヴィーナー役を演じ、カリシュマー・カプールがその秘書で親友のカリシュマー役を演じる。逆玉の輿を狙うアマルとプレームはラヴィーナーの心を勝ち取ろうとするが、プレームはカリシュマーに惚れられてしまい、彼女とくっ付くことになる。ところが中盤で実はカリシュマーを名乗っていた方が大富豪の娘ラヴィーナーであり、ラヴィーナーを名乗っていた方が秘書のカリシュマーであったことが発覚する。ここでアマルがどう出るかでその後の展開がかなり変わっていたが、サントーシー監督は、彼がすんなりカリシュマーを受け入れる筋書きを選んだ。もう少しひねってもいいのではと思ったが、ここをシンプルにまとめたことで、後半の新たな展開につなげることができた。
後半はラヴィーナーの父親ラームが登場し、プレームとアマルをラヴィーナーとカリシュマーの結婚相手として認めなかったことで、ストーリーが動き出す。翌年大ヒットすることになる「Dilwale Dulhania Le Jayenge」(1995年/邦題:シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦)もそうなのだが、インドではこういう場合、駆け落ち結婚という手段が採られにくい。アマルとプレームも何とかラームに結婚を認めてもらおうとする。だが、その手段はずるいものだった。仲間にラームを誘拐させ彼らが助けることで点数を稼ぐという自作自演であった。
ここに、ラームの双子の弟テージャーと、テージャーに貸した金を取り戻そうとするクライムマスター・ゴーゴーが関わってきて、自作自演のつもりだった誘拐作戦は本当の誘拐になってしまう。テージャーの存在まではよかったが、ゴーゴーは何だかよく分からないキャラで、「Mr. India」(1987年)でアムリーシュ・プリーが演じた悪役モガンボの甥を名乗っていた。どうも当初、アムリーシュがモガンボの弟ゾランボを演じる案もあったようだが、時間の関係でカットされたようだ。だから余計訳が分からなくなっている。
他にも過去のヒット作のパロディーが散見された。アマルが牢屋に入るとき、アーミル・カーンの本格デビュー作「Qayamat Se Qayamat Tak」(1988年)の「Papa Kehte Hain」が流れる。アマルは冗談気味に「プレームの父親が『Sholay』(1975年)を書いた」と語るが、プレームを演じたサルマーン・カーンの父親ジャーヴェード・カーンは本当に「Sholay」の脚本家である。アマルとプレームがコイントスをするシーンがあるが、そこではアーミル主演作「Jo Jeeta Wohi Sikandar」(1992年)が言及される。アマルがジューヒー・チャーウラーに「ジュ・ジュ・ジュ・ジュ・ジューヒー」と呼びかけるが、これはジューヒー主演作「Darr」(1993年)の中でシャールク・カーンが披露した「ク・ク・ク・ク・キラン」のパロディーである。
この映画のコメディー映画としての成功は、多くがセリフの良さから来ている。キャッチーなセリフを何度も繰り返すことで楽しさを倍増させている。特に有名なのが、ヴィージュー・コーテー演じるロバートの口癖「Galti Se Mistake(間違ってミステイク)」だ。このフレーズは後に「Jagga Jasoos」(2017年)の挿入歌の曲名およびサビになった。
「Andaz Apna Apna」は、今でこそカルト的人気を誇るコメディー映画として記憶されているが、冷静に鑑賞してみると雑な部分が目立つ作品だ。それでも、アーミル・カーンとサルマーン・カーンが共演していること、まだ新人だったカリーナー・カプールとラヴィーナー・タンダンの初々しい演技が見られること、そして各シーンに爆笑のネタが仕込まれており、コメディー映画としてはきちんと成立していることなど、見るべきものは多い。観て損はない。