Jo Jeeta Wohi Sikandar

4.0
Jo Jeeta Wohi Sikandar

 21世紀のヒンディー語映画界においてスポーツ映画は既にジャンルとして確立しており、様々なスポーツを題材にした映画が作られている。このトレンドの先駆者となったのが、クリケット時代劇「Lagaan」(2001年/邦題:ラガーン~クリケット風雲録)であった。しかしながら、「Lagaan」以前にスポーツ映画が全く作られなかったかというとそういうわけでもない。1990年代を代表するスポーツ映画が、1992年5月22日公開の「Jo Jeeta Wohi Sikandar」(勝てば官軍)である。アーミル・カーンの初期の主演作としても知られた作品だ。2022年11月2日に鑑賞した。

 プロデューサーはナスィール・フサイン、監督はマンスール・カーン、主演はアーミル・カーン。マンスール監督はナスィールの息子であり、マンスール監督とアーミルは従兄弟になる。つまり、アーミル・カーンの血族によって作られたホームプロダクション映画である。さらに、アーミル・カーンの弟ファイサル・カーンがカメオ出演し、アーミル・カーンの甥で後に俳優デビューするイムラーン・カーンが子役で出演している。

 ヒロインはアーイシャー・ジュルカーとプージャー・ベーディー。他に、ディーパク・ティジョーリー、マーミク・スィン、クルブーシャン・カルバンダー、アーディティヤ・ラキヤー、アスラーニーなどが出演している。音楽監督はジャティン・ラリトであるが、この二人もカメオ出演している。また、後に「Taare Zameen Par」(2007年)などを撮るアモール・グプテーもチョイ役で出演している。

 デヘラードゥーンには多くの学校があった。大富豪の息子たちが通う名門校ラージプート校、良家の令嬢が通う女子校クイーンズ校、上位の学校であるエグゼビア校などなどである。一方、地元の子供たちが通うモデル校は底辺に位置づけられていた。

 デヘラードゥーンの学校では毎年スポーツや文化の対抗戦が行われており、ラージプート校が常勝校として知られていた。花形なのはスポーツ対抗戦の最後に行われる自転車レースである。ラージプート校のシェーカル・マロートラー(ディーパク・ティジョーリー)は自転車レースで2年連続優勝を果たしており、人気者だった。シェーカルのライバルは、モデル校のラタン(マーミク・スィン)であったが、シェーカルに僅差で敗れていた。ラタンの父親ラームラール(クルブーシャン・カルバンダー)はモデル校出身で、かつて自転車レースでラージプート校を打ち負かして優勝し、地元の英雄になっていた。現在ではモデル校のコーチとして指導をしてながら、町中でカフェを経営していた。ラームラールは、次こそはラタンが優勝すると信じていた。

 ラタンの弟サンジャイ(アーミル・カーン)は、優等生の兄とは違って出来損ないだった。兄ばかりを可愛がる父親に不満も抱いていた。近所に住むメカニックの娘アンジャリ(アーイシャー・ジュルカー)はサンジャイに想いを寄せていたが、サンジャイはそれに気付いていなかった。

 あるとき、クイーン校にデーヴィカー(プージャー・ベーディー)という派手な女の子が転校してきて注目を浴びる。早速シェーカルはデーヴィカーを口説く。だが、シェーカルに反感を抱いていたサンジャイは、シェーカルに復讐をするため、出身校を偽ってデーヴィカーに近付き、彼女をシェーカルから奪う。次第にサンジャイはデーヴィカーに本当に恋するようになるが、結局サンジャイがモデル校生であることがばれ、デーヴィカーに振られてしまう。

 ラタンは自転車の練習中にシェーカル率いるラージプート校の学生たちに襲われ、崖から落ちて大怪我を負う。今度こそ優勝をと考えていたラームラールは失望するが、サンジャイは兄の代わりに自分が自転車レースに出ると決意し、アンジャリの協力を得て猛特訓する。アンジャリの献身的な振る舞いを見てサンジャイは彼女への愛に気付く。

 対抗戦でラージプート校とモデル校はトップ争いをし、最後の自転車レースの結果で勝敗が決まることになった。ラタンの代わりに出場したサンジャイはシェーカルと死闘を繰り広げ、最終的にシェーカルを破って優勝する。そしてモデル校の総合優勝を呼び込む。

 米映画「ヤング・ゼネレーション」(1979年)の翻案とされる「Jo Jeeta Wohi Sikandar」は、学園映画とスポーツ映画の掛け合わせだが、このフォーマットはその後のヒンディー語映画に大きな影響を与えたといえる。「Student of the Year」(2012年/邦題:スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!)や「Chhichhore」(2019年/邦題:きっと、またあえる)など、多くの映画で何度も繰り返し使われている。学園映画にもかかわらず授業のシーンはほとんどなく、学生たちは恋愛やスポーツに精を出している様子も、この種の映画のお約束である。

 「Jo Jeeta Wohi Sikandar」が選んだスポーツはロードバイクによる自転車レースであった。当時のインドにおいてロードバイクがここまで普及していたのかは疑問であるが、臨場感のあるカメラワークになっており、手に汗握るロードレースを楽しむことができる。ただ、自転車レースがあるのは序盤と終盤のみであり、実際には完全なスポーツ映画ではない。より重要なのは中盤の部分である。

 今でこそ「3カーン」の一角を占めるスーパースターのアーミル・カーンであるが、「Jo Jeeta Wohi Sikandar」で彼が演じたサンジャイは、優等生の兄ラタンに劣等感を抱く、ヘソの曲がった弟キャラであった。つまり、完全無欠のヒーローではなく、悩みを抱えた生身の人間である。特に、父親の愛情が兄一人に注がれることに大きな不満を抱いていた。しかしながら、兄との仲は良好であり、兄弟間の結束は強固であった。この兄弟愛が「Jo Jeeta Wohi Sikandar」の主軸になっている。

 ヒロインも単純なキャラではなかった。アンジャリはサンジャイに想いを寄せ、サンジャイも同じ気持ちを自分に抱いてくれているものと信じる。だが、サンジャイは名門女子校クイーン校の転校生デーヴィカーにうつつを抜かし、あろうことかアンジャリが欲しがっていたネックレスを、親から預かった金をくすねて購入し、デーヴィカーに贈る。そして、アンジャリはその様子を目撃してしまう。百年の恋も冷めるショックな出来事だとは思うのだが、アンジャリはそれでもサンジャイへの想いを断ち切らず、ひたすら健気に彼に献身し続ける。サンジャイは、デーヴィカーに振られたこともあったが、アンジャリのその献身的なサポートに感動し、彼女を愛するようになる。アンジャリの恋が成就した瞬間だった。素直に拍手を送りたいが、この二人の仲が強調されたエンディングではなかったため、少し中途半端になってしまっていたきらいはあった。

 映画の中では「カレッジ」として各学校が出て来るが、これは「大学」ではなく「高校」である。インドでは州ごとに学校の呼び方が異なるが、高校を「カレッジ」と呼ぶのはムンバイー式である。学校ごとにランクがあり、上下関係があるという描写は興味深い。上位校は全寮制であり、外部から来た富裕層の子女たちが通っていた。一方、地元の子供が通う学校は底辺校に位置づけられ、差別されていた。主人公サンジャイは底辺校のモデル校生だったが、名門女子校クイーン校に通うデーヴィカーと一時的に恋仲にあり、最終的には同じモデル校生で幼馴染みのアンジャリとくっ付くことになる。結果的に身分を超えた恋愛物語にはなっていなかった。

 ジャティン・ラリトによる音楽は、悪くはなかったが、後世まで残る名曲というと、「Pehla Nasha」くらいである。このソングシーンでは全編に渡ってスローモーションが使われ、恋に落ちた喜びが表現されているが、この表現方法は後のヒンディー語映画で多用されるようになる。他にいくつか群舞型の派手なダンスシーンもあったが、特筆すべきものはなかった。どちらかというと自転車レースのアクションシーンに力が注ぎ込まれていた映画であった。

 「Jo Jeeta Wohi Sikandar」は、様々な娯楽要素が詰まったマサーラー映画の作りであるが、敢えて特徴的な要素を取り上げて一言で表現するならば、学園スポーツ映画になるだろう。兄弟愛や献身的な恋愛などを軸にし、若者に訴求力のある素直な物語に仕上がっている。スーパースターの階段を駆け上がっている最中のアーミル・カーンの演技も楽しめる。興行的にもヒットしており、インド人が好きな映画として挙げることの多い作品でもある。今観ても十分に楽しめる映画だ。