毎年10月頃に九夜に渡って祝われるヒンドゥー教の大祭ナヴラートリ(九夜祭)の時期、インド各地では様々な催し物が行われるが、グジャラート州名物として有名なのがガルバーとダンディヤーである。どちらも群衆が円になって回りながら舞うフォークダンスであり、日本の盆踊りとよく似ている。
現代ではガルバーとダンディヤーは融合してしまっていて、ガルバーといえばダンディヤーもあるし、ダンディヤーといえばガルバーというイメージになっているが、厳密にいえば別々のものだ。どちらも円になって踊る点は共通しているのだが、ガルバーは宗教祭礼の意味合いが強く、ダンディヤーは演武的な意味合いが強いようである。
ナヴラートリは、力の女神であるドゥルガーが、マヒシャースラという強大な悪魔と戦った9日間を祝っていると考えられている。グジャラート州でもナヴラートリは女神の祭りであり、この祭礼全体をガルバーと呼ぶ。元々「ガルバー」とは祭礼に使われる素焼きの壺のことを指す。この祭礼で踊られる踊りもガルバーと呼ばれている。女神の像を中心に置いて、その回りを人々がステップを踏みながら周回しながら踊り、女神の偉大さを称えるのが元来のガルバーである。元々はスローテンポの踊りらしいのだが、現代ではだいぶアップテンポとなり、動きも激しくなっている。旋回を多用したり、身体全体で踏み込むような動きがあったりするのが特徴的だ。
それに対しダンディヤーは、両手に一本ずつ短い竹の棒を持って、相手と打ち鳴らしながら踊るのが特徴的な踊りだ。男女が向かい合い、リズムに合わせてお互いの棒を叩きながら、位置を交替しつつ回転しつつ、パートナーを変えながら踊るのが典型的なダンディヤーとなる。これは、ドゥルガーとマヒシャースラの戦いを模しているとされている。
また、ガルバーとダンディヤーを踊るときは、人々は美しい刺繍の入った伝統衣装を着るのが一般的だ。男性の上着はケーディユー、女性の上着はチョーリー、スカートはチャニヤーまたはガーグラーまたはレヘンガーと呼ばれる。特にケーディユーは、胸の下あたりがスカートのように膨らんでいてユニークな形をしている。ちょうど日本人が盆踊りを踊るときに浴衣を着るのに似ている。
グジャラート州では、ナヴラートリの時期になると、広場にガルバー&ダンディヤーの会場が作られ、近所から着飾った人々が集まってきて踊りを踊る。ガルバー&ダンディヤーの人気は年々高まっており、インド系移民の拡散と共に海外でも行われるようになっている。コンペティションまで行われているという。この辺りの熱狂はよさこい祭りと似ている。
ヒンディー語映画でガルバーといえば、何といっても「Hum Dil De Chuke Sanam」(1999年/邦題:ミモラ)の「Dholi Taro Dhol Baaje」が代表格である。現代のガルバー人気も、元を正せばこの映画のヒットとこの曲の人気から来ているのではないかと推測される。サルマーン・カーンとアイシュワリヤー・ラーイがバックダンサーたちと共に躍動的なガルバーを踊っている。
ガルバーは、グジャラート州を舞台にした映画で登場しやすい。例えば、「Kai Po Che」(2013年)の「Shubhaarambh」、「Goliyon Ki Raasleela Ram-Leela」(2013年)の「Nagada Sang Dhol」、「Raees」(2017年)の「Udi Udi Jaye」、「Rashmi Rocket」(2021年)の「Ghani Cool Chori」など、全てグジャラート州舞台の映画に差し挟まれるガルバー曲である。「Maja Ma」(2022年)はガルバーで始まりガルバーで終わるLGBTQ映画であったが、やはりほぼ全編グジャラート州が舞台である。
グジャラート州が舞台ではなくても、「Gangubai Kathiawadi」(2022年)のように、主人公がグジャラート州出身ということで、ガルバー曲が入ることもある。この映画のガルバー曲「Dholida」は、巷のガルバーでの定番になっているようだ。
一方のダンディヤー曲については、棒を持って踊るだけならば結構数が多く、「Love Love Love」(1989年)の「Disco Dandia」、「Krantiveer」(1994年)の「Jai Ambe Jagadambe Maa」、「Khoobsurat」(1999年)の「Ghoonghat Mein Chand Hoga」、「Dil Hi Dil Mein」(2000年)の「Chand Aaya Hai」、「Aap Mujhe Achche Lagne Lage」(2002年)の「O Re Gori」などが挙げられる。ただ、大半はグジャラート州のダンディヤーとはあまり関係がなさそうだ。「Lagaan」(2001年/邦題:ラガーン)の「Radha Kaise Na Jale」にしても、ダンディヤー曲のイメージがあったのだが、改めて見返してみると、アーミル・カーンとグレーシー・スィンが棒を持って踊るのは一瞬だけであるし、歌詞もラーダーとクリシュナをモチーフとしているため、厳密にいえばグジャラート州のダンディヤーではない。
ひとつのダンスシーンにガルバーとダンディヤーのどちらも出て来るのは、「Bhuj: The Pride of India」(2021年)の「Rammo Rammo」だ。一般的なインド人が持っているガルバーのイメージに一番近いのはこれであろう。
「Satyaprem Ki Katha」(2023年)の「Sun Sajni」にもガルバーとダンディヤーが出て来る。グジャラート州が舞台の映画で、ナヴラートリ祭のダンディヤーがよく再現されている。
ガルバーの先生を主人公にした映画もある。「Loveyatri」(2018年)である。さすがにガルバーが主題なだけあって、この映画には、グジャラート州の典型的なガルバー曲である「Dholida」や、ロンドン橋の前でガルバーを踊る「Chogada」など、ガルバー曲がてんこ盛りで、ガルバー愛がひしひしと感じられる。
最後に、映画とはあまり関係ないが、もうふたつ、ガルバー曲を紹介しておこう。2023年のナヴラートリ期間に合わせ、ナレーンドラ・モーディー首相が自ら作詞をしたガルバー曲「Maadi」と「Garbo」がリリースされた。モーディー首相はグジャラート州出身である。一国の首相が作詞をしたガルバー曲が登場してしまうところがいかにもインドらしい。「Maadi」の作曲はミート・ブロス、歌手はディヴィヤ・クマール、「Garbo」の作曲はタニシュク・バーグチー、歌手はドヴァニー・バーヌシャーリーである。