Bade Miyan Chote Miyan (2024)

3.5
Bade Miyan Chote Miyan
「Bade Miyan Chote Miyan」

 「Bade Miyan Chote Miyan(大きな旦那、小さな旦那)」といえば、デーヴィッド・ダワン監督、アミターブ・バッチャンとゴーヴィンダー主演の大ヒットコメディー映画だ。1998年に公開された。それと同じ題名の映画が2024年4月11日、イードゥル・フィトル祭の週に公開された。これは1998年の映画のリメイクではなく、完全に別物のアクション映画である。

 監督は「Sultan」(2016年/邦題:スルタン)や「Tiger Zinda Hai」(2017年/邦題:タイガー 蘇る伝説のスパイ)などのアリー・アッバース・ザファル。ザファル監督はジャッキー・バグナーニーらと共にプロデューサーも務めている。主演はアクシャイ・クマールとタイガー・シュロフ。ヒロインはマーヌシー・チッラル、アラーヤー・F、そして特別出演扱いのソーナークシー・スィナー。悪役をマラヤーラム語映画界のスター俳優プリトヴィーラージ・スクマーランが務めている。他に、ローニト・ロイ、マニーシュ・チャウダリーなどが出演している。

 フィーローズ大尉、通称フレディー(アクシャイ・クマール)とラーケーシュ大尉、通称ロッキー(タイガー・シュロフ)は優れた軍人で、それぞれ「バレー・ミヤーン(大きな旦那)」、「チョーテー・ミヤーン(小さな旦那)」とも呼ばれていた。しかしながら7年前のとある事件をきっかけに除隊となっていた。

 ところでインド軍はインド国土を覆う巨大なバリア「カラン・カヴァチ」を開発した。ところがその兵器を制御するために重要なパッケージが何者かに奪われてしまう。ミシャー大尉(マーヌシー・チッラル)は上官のアーディル・シェーカル・アーザード大佐(ローニト・ロイ)やカラン・シェールギル大将(マニーシュ・チャウダリー)の命を受け、この危機を救うことのできる2人の退役軍人、フレディーとロッキーを探しに出掛ける。油田で働いていたフレディーからの協力は得られなかったが、消防士をしていたロッキーは話に乗り、ミシャー大尉と共にパッケージが運搬されたロンドンへ飛ぶ。

 ミシャー大尉は、ロンドンでIT専門家パルミンダル・バーワー、通称パム(アラーヤー・F)をチームに入れ、ロッキーと共にウォータールー駅地下の金庫に格納されたパッケージを奪い返そうとする。途中で仮面の男たちに捕まり危機に陥るが、フレディーが助っ人に入り事なきを得る。彼らは金庫を開けるが、そこにいたのはロッキーの元許嫁プリヤー・ディークシト大尉(ソーナークシー・スィナー)であった。カラン・カヴァチのコードはプリヤー大尉の脳に埋め込まれていたのだった。だが、これは全て罠だった。フレディー、ロッキー、ミシャー大尉、プリヤー大尉は捕まってしまう。だが、パムは逃げ出すことができた。

 仮面の男の正体は、かつてフレディー、ロッキー、プリヤー大尉の友人だった科学者カビール(プリトヴィーラージ・スクマーラン)であった。カビールはフレディーとロッキーのDNAを使ってクローン兵を作り出したが、アーザード大佐やシェールギル大将に却下され、反旗を翻した。フレディーとロッキーの活躍によりカビールは殺されたが、実はあのとき殺したのはカビールのクローンだった。生き残ったカビールは研究開発を続け、フレディーとロッキーのDNAを悪用して、自己再生する最強のクローン兵を作り上げていたのだった。彼らの目の前には、フレディーとロッキーにそっくりのクローンが現れる。また、カビールは彼らの目の前で、予め捕らえていたアーザード大佐を殺す。彼はアーザード大佐のクローンまで作っていた。

 カビールはプリヤー大尉を連れてインドに戻る。彼はカラン・カヴァチを解除し、中国とパーキスターンにミサイルを撃ち込んで、インドを破滅に追い込む戦争を起こそうとしていた。フレディー、ロッキー、ミシャー大尉は殺されそうになるものの脱出し、インドに戻って彼の野望を阻止しようとする。一時はカラン・カヴァチが解除され、ミサイルも発射されるが、彼らの活躍によりカラン・カヴァチが再起動し、発射されたミサイルをインド国外に出さずに撃墜することができた。カビールは殺されたはずだが、後に彼は目を覚ます。

 「Bade Miyan Chote Miyan」は、トルコや英国でのロケがあったりして巨額の予算を掛けて作られているが、興行的には期待外れに終わった作品である。確かにCGに安っぽさを感じる部分があったし、下手にお笑い要素を入れて滑っていたようにも感じられたが、かといって全く面白くない作品でもない。アクションシーンには気合いが入っていたし、世相も反映していた。アクション映画として普通に楽しめる作品だ。期待が大きすぎたために失望も大きくなってしまったといえる。

 この映画の大きな見所のひとつは、新旧のアクション映画スター、アクシャイ・クマールとタイガー・シュロフの初共演だ。さすがに活力や身体のしなやかさはタイガーの方が圧倒的に上だが、アクシャイは敢えて真っ向からタイガーとは戦わず、貫禄で彼をいなしていた。年齢差はあるもののバディー映画の一種ともいえ、彼らの友情は「RRR」(2022年/邦題:RRR)のラーマ・ラージューとコマラム・ビームを思わせるものだった。そういえばアクシャイとタイガーが踊るダンス曲「Mast Malang Jhoom」は、「RRR」にアカデミー賞歌曲賞をもたらした「Naatu Naatu」に似ていた。

 ヒロインのマーヌシー・チッラルも軍人であり、自ら武器を持って戦っていた。マーヌシーは2017年のミス・インディアであり、「Samrat Prithviraj」(2022年)でアクシャイと共演し女優デビューした。確かに美しいが、今のところ女優として抜きん出た個性が感じられず、ヒット作にも恵まれていない。「Bade Miyan Chote Miyan」ではアクションもこなせることがアピールできたが、ブレイクには至らなかった。

 サブヒロインの扱いになるが、アラーヤー・Fも現在売り出し中の女優だ。「Jawaani Jaaneman」(2020年)、「Always Pyaar with DJ Mohabbat」(2023年)、「U-Turn」(2023年)など、ちょっと変わった映画に出演することが多く、演技力の高さは既に知られている。「Bade Miyan Chote Miyan」でもテクニックのいる役を演じていた。オーバーアクティングにならない程度にエキセントリックな女性IT専門家役を演じており、その匙加減が絶妙だった。マーヌシーよりもアラーヤーの演技の方に軍配が上がるだろう。

 ソーナークシー・スィナーは特別出演扱いではあったが、出番は少なくなかった。格からいったらマーヌシーやアラーヤーよりもソーナークシーの方が上である。彼女を起用する必要性はあまり感じなかった。

 ケーララ州を中心に南インドで人気のプリトヴィーラージ・スクマーランが悪役を演じていたが、彼の起用の目的は明確だ。汎インド映画を狙ったもので、「Bade Miyan Chote Miyan」はヒンディー語版と共にテルグ語版、タミル語版、カンナダ語版、マラヤーラム語版も同時公開されている。南インド映画でヒンディー語映画俳優が悪役を演じるケースも増えており、南北の人材交流が進んでいる。「Bade Miyan Chote Miyan」の中でもっとも複雑なキャラは、実はプリトヴィーラージの演じたカビールであり、彼は心情たっぷりに演じ切っていた。

 この映画は、パーキスターンのみならず中国をインドの明確な敵国として名指ししている。悪役カビールは、インドをパーキスターンと中国との二方面戦争に引きずり込んで破滅させようと画策していた。しかも、インドから両国に先制攻撃を仕掛け、国際社会からの制裁も引き出そうとしていた。これは明らかにロシアのウクライナ侵攻に影響を受けたストーリーラインであろう。その一方で、「独立以来インドは自分から他国に戦争を仕掛けたことはない」という言説が強調されていた。

 主人公のフレディーとロッキーに「バレー・ミヤーン」、「チョーテー・ミヤーン」というあだ名が付いたのは、彼らがアフガーニスターンで1998年の映画から「Bade Miyan Chote Miyan」と名付けられた作戦を成功させた上に、死んだと思われていたテロリストを発見して殺してその名を轟かせたからである。この下りは、1999年に起こったインディアン航空ハイジャック事件をイメージしている。

 映画中には「カラン・カヴァチ」と呼ばれる架空の防衛兵器が登場する。これは「カランの鎧」という意味で、「カラン」とは「マハーバーラタ」に登場するカルナのことに違いない。太陽神スーリヤの子であるカルナは生まれたときから鎧を身にまとっており、その鎧はどんな刃物も通さないとされていた。

 「Bade Miyan Chote Miyan」は、1998年公開の同名とは全く別のアクション映画である。大予算型の映画ではあるが、予算が掛かっている部分とケチった部分がはっきりしていて、意外に安っぽさを感じるシーンも散見される。それでもアクション映画として大きな遜色はない。興行的には期待外れだったが、だからといって見逃してしまうのはもったいない作品である。