Jawaani Jaaneman

4.5

 結婚を忌避し独身貴族を謳歌する主人公が美女と出会い恋に落ち、人生で初めて結婚を考えるようになる。そんな筋書きのロマンス映画は掃いて捨てるほどヒンディー語で作られてきた。だが、2020年1月31日公開の「Jawaani Jaaneman(愛しき青春)」は、そんなありきたりのスタートをするものの、意外な方向に進む感動映画である。アルゼンチン映画「Igualita a mí」(2010年)のリメイクとされている。

 監督は「Filmistaan」(2014年)などのニティン・カッカル。主演はサイフ・アリー・カーンと新人アラーヤー・F。アラーヤーはプージャー・ベーディーの娘およびカビール・ベーディーの孫娘である。他に、チャンキー・パーンデーイ、タブー、クブラー・サイト、クムド・ミシュラー、ファリーダー・ジャラールなどが出演している。

 舞台はロンドン。ジャスヴィンダル・スィン、通称ジャッスィー(サイフ・アリー・カーン)は独身貴族を謳歌する女好きの中年男性だった。兄のディンプティー(クムド・ミシュラー)と共に不動産ブローカーを営んでいた。

 ジャッスィーはある日、バーでティア(アラーヤー・F)という若い女性から話しかけられ、家に連れ込む。ところが、アムステルダム在住のティアはロンドンに自分の父親を探しに来ており、ジャッスィーは1/3の確率で父親だと言う。DNAテストをした結果、ティアはジャッスィーの娘であることが確定する。しかも、ティアは妊娠していた。ティアの元ボーイフレンド、ローハンとの間にできた子供のようだった。

 突然、父親になり、しかももうすぐ祖父になるということで、ジャッスィーは混乱する。一度はティアを家から追い出すが、ティアはジャッスィーのすぐ近くの家でB&Bを見つけ、住み始める。また、ティアの母親アナンニャ(タブー)は現在、瞑想キャンプに参加しており、連絡が取れなかった。ティアはローハンにも妊娠のことを伝えていなかった。ジャッスィーはとうとう根負けして彼女を家に住まわせることにする。すぐにジャッスィーの両親や兄にもティアのことが知れてしまう。

 ところで、ジャッスィーはディンプティーと共に、自分の住む地域一帯をデベロッパーに売却して大きな利益を得ようとしていた。住民のほとんどはそれに賛同していたが、マッリカーという老婆だけは断固として拒否していた。だが、マッリカーはティアのことをとても気に入っていた。ジャッスィーはティアを通じてマッリカーを説得する。マッリカーはティアの話を聞いてようやく首を縦に振るが、ひとつ条件があった。それは家の前に植えてある木を残すということだった。ジャッスィーは約束をする。

 しかし、デベロッパーはそんな木を残すことに興味を持っていなかった。木を残す前提で開発計画が進んでいないことを知ったティアは、アムステルダムから駆けつけていた母親アナンニャやローハンと共にロンドンを立ち去ろうとする。だが、家族を持つことの意義を知ったジャッスィーは、空になった家を見て考え直し、デベロッパーに計画の練り直しを突き付けて、ティアを追う。そして、彼女を引き留めようとする。そのときティアは産気づき、病院に運ばれる。ティアは元気な女の子を産む。

 父親が娘に恋する物語、と端的に表現してしまうと、近親相姦を想起し、語弊があるかもしれない。だが、「Jawaani Jaaneman」は正に父親がピュアに娘に恋をする物語であった。

 導入部では、サイフ・アリー・カーン演じる主人公ジャッスィーがやたらと若作りし、年齢の話題をされるのを嫌がる様子が描かれる。撮影時サイフは50歳手前であるが、40歳の独身男性を演じていた。そろそろ白髪が目立つ年齢になったが、美容院に通っては髪を染めて若さを保とうとしていた。そして、夜な夜なバーで女性をナンパしていた。結婚したり家族を持ったりすることなど、微塵も考えておらず、自由を謳歌していたのである。

 ところが、ある日突然、21歳の女性ティアが現れ、自分の娘であることが分かる。しかも追い打ちを掛けるように、彼女は妊娠していた。つまり、一夜にしてジャッスィーは父親となり、しかも祖父となろうとしていたのである。ここがこの映画の肝である。

 当然、ジャッスィーは困惑し、ティアを受け入れようとしない。だが、やがては現実を直視し、彼女を家に滞在させて、突然始まった娘との家族生活をするようになる。さらに、ティアの母親、つまりジャッスィーがかつて身体を重ねて妊娠させてしまった相手であるアナンニャも家に転がり込んで来る。ティアの相手であるローハンも一緒だった。ジャッスィーの独身貴族の生活は一変してしまった。

 だが、変わったのは生活だけではなかった。彼の価値観もガラリと変わる。ジャッスィーは、まだまだ駆け出しの不動産ブローカーであった。何としてでも自分の住む地域の再開発計画を軌道に乗せて名前を稼ぎたかった。目的のためなら細かいことや感情的なことは犠牲にできる人間だった。しかし、ティアと共に過ごす内に、彼は人間の感情を理解するようになる。そして、家族と暮らすということがどれほど価値のあることかを実感する。

 覚醒したジャッスィーは立ち去ろうとするティアに対し、「愛している」と言う。父親としての「愛している」も含まれているが、それ以上に、恋人としての「愛している」が強かった。誕生から今まで存在を知らず、21歳になった今、目の前に現れた美しい女性、そして彼に人生の新たな価値観を教えてくれた女性に対しての愛の告白であった。これが変な方向に受け止められたとしたら失敗だっただろうが、それまで丁寧に二人の心情や関係の変化が描かれてきたため、ピュアに受け止めることができた。

 主演のサイフ・アリー・カーンはこれまでもプレイボーイ役を演じることが多く、「Jawaani Jaaneman」で演じたジャッスィーもそのイメージ通りの役だった。だが、それは導入部のみで、娘のティアと出会ってからは、生活の激変に翻弄される情けない男を面白おかしく演じていた。

 それ以上に良かったのは新人のアラーヤー・Fである。当初は生まれて初めて出会った父親から冷たい言葉の数々を浴びせ掛けられるのだが、それでも常にポジティブに生きようとする、自立した女性像を表現できていた。父親のジャッスィーよりも大人びていたくらいだ。アラーヤーの起用があったからこそ、「Jawaani Jaaneman」は成立したと言っても過言ではないくらいだ。また楽しみな女優が登場したものである。

 「Jawaani Jaaneman」は、ある日突然、父親になり、同時に祖父にもなるという数奇な転機に直面してしまった独身貴族男性を主人公にした、心温まるコメディー映画だ。興行的には振るわなかったようだが、コロナ禍も一因と推測され、とても正当な結果とは思えない。むしろ、ヒットしなくてはならない傑作だ。新人アラーヤー・Fにも注目したい。