U-Turn

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U-Turn
「U-Turn」

 2023年4月28日からZee5で配信開始された「U-Turn」は、同名のカンナダ語映画(2016年)の公式リメイクである。パワン・クマール監督のカンナダ語オリジナル「U-Turn」は、カンナダ語映画としては大きな成功を収め、他言語でのリメイクも多数作られてきている。インド諸語ではマラヤーラム語、テルグ語、タミル語、ベンガル語、外国語ではシンハラ語とフィリピン語でリメイクが作られた。ヒンディー語版「U-Turn」は実に7言語目のリメイクになる。

 ヒンディー語版の監督はアーリフ・カーン。過去に短編映画やTVドラマを撮っているが、長編映画はこれが初である。主演は近年急速に人気上昇中のアラーヤーF。「Jawaani Jaaneman」(2020年)でデビューし、「Freddy」(2022年)、「Always Pyaar with DJ Mohabbat」(2023年)と、優れた演技力を見せてきている。俳優カビール・ベーディーの孫娘かつ女優プージャー・ベーディーの娘で、「F」はプージャーの夫の名字「ファーニチャーワーラー」の略である。

 他に、プリヤーンシュ・ペーンユリ、アーシム・グラーティー、マヌ・リシ、ラージェーシュ・シャルマーなどが出演している。今までカンナダ語版「U-Turn」などは鑑賞しておらず、ヒンディー語版で初めてこの物語に触れた。

 チャンディーガル在住ジャーナリスト見習い、ラーディカー・バクシー(アラーヤーF)は、Uターン禁止のNTPCフライオーバーで違法にUターンする人々を取材して回っていた。なぜなら中央分離帯に置かれた石を勝手に動かしてUターンし、それを元に戻さなかったために、その石にぶつかる事故が多発していたからである。実はラーディカーの弟ラーガヴも同様の事故で命を落としていた。

 あるときディーパクという警察官が不審な死を遂げる。一見すると自殺に見えたが、サクセーナー署長(ラージェーシュ・シャルマー)は部下のアルジュン・スィナー(プリヤーンシュ・ペーンユリ)に詳しく捜査させる。ディーパクが死んだ夜、妻子は家にいなかったが、ラーディカーが来ていた。ラーディカーは事情聴取のために警察署に呼ばれ尋問を受ける。ラーディカーはディーパクのインタビューをしに行っていただけだと答える。なぜならディーパクはNTPCフライオーバーで違法なUターンをしていたからだ。ラーディカーの手元からは同じような人物のリストが書かれたメモ帳が出て来た。しかし、調べて見ると、そのメモ帳に書かれていた人物は皆、不審な自殺をしていた。

 アルジュンはラーディカーを連れて、NTPCフライオーバーでもっとも最近Uターンをした弁護士スィッダーント・サチデーヴァの家に行く。スィッダーントと話をし、アルジュンとラーディカーが帰ろうとしたところ、スィッダーントは上階から飛び降りて死ぬ。とりあえずラーディカーが犯人である疑いは晴れる。

 その後もラーディカーは2人の男性がNTPCフライオーバーでUターンしたのを発見する。アルジュンは2人を逮捕して警察署の牢屋に拘束する。これなら安全かと思われたが、2人は死んでしまう。迷信深い警察官インダルジート・スィン・ディッローン(マヌ・リシ)は、亡霊の仕業だと主張する。サクセーナー署長はこの不祥事に激怒し、アルジュンを停職処分にする。また、ラーディカーは死んだ弟ラーガヴの亡霊がこの連続殺人の裏にいるのではないかと疑うが、考え直す。

 ラーディカーとアルジュンは事件の真相を追究し、NPTCフライオーバーの事故で死んだスニーター・スィンに行き着く。その夫はインダルジートだった。インダルジートはラーディカーを拉致し、フェナカリディンという薬物を投与しようとする。この薬物には幻覚作用があり、服用した者を恐怖に陥れ、自殺に追い込む。インダルジートは事故で妻子を失った恨みを晴らすため、NTPCフライオーバーで違法Uターンをした者にこの薬物を密かに投与して殺していたのだった。ラーディカーは何とか逃げ出すが、インダルジートは追いかけてくる。すると、インダルジートに幻覚症状が現れた。実はラーディカーは予めインダルジートが真犯人であることを察知しており、彼が彼女に飲ませようとしたフェナカリディン入りのチャーイを彼のチャーイと交換していたのだった。インダルジートは妻子の幻覚を見ながら屋上から落下し絶命する。

 チャンディーガルで不審な自殺が相次ぐ。彼らの共通点は、NTPCフライオーバーで違法なUターンをしたことだった。警察は他殺を視野に入れて捜査を始めるが、観客にはあらゆる可能性が提示され、それぞれがストーリー進行と共に潰されていく。その過程が非常にスリリングであった。

 まず浮上するのは主人公ラーディカーが犯人であるという可能性である。報道会社でインターンをするラーディカーは、NTPCフライオーバーの事故で弟を亡くしており、このフライオーバーで違法なUターンをする人物に取材をして回っていた。彼女が取材の対象とした人々が次々に不審な死を遂げており、まず彼女が怪しまれるのは当然である。だが、「U-Turn」はそんな単純な筋書きの映画ではない。もちろんラーディカーはシロである。

 序盤から何度も示唆されるのは、亡霊による殺人の可能性だ。亡霊が犯人だとすれば、この映画はホラー映画ということになる。ホラー映画の要素は存分に盛りこまれているものの、やはりこれも単なるひっかけに過ぎなかったことが終盤に判明する。

 ホラー映画ではないとしたら、犯人は人間、つまり登場人物の誰かということになる。一時的に疑いの目が差し向けられるのは、ラーディカーと親しい仲になっていた同僚、アーディティヤである。謎を解くキーとなる「スニーター・スィン」という人物の名前が浮上した際、アーディティヤは不審な行動を取る。だが、これすらも噛ませ犬に過ぎなかった。

 真犯人はインダルジートであった。インダルジート役を演じたマヌ・リシは、どちらかといえばコメディー映画によく登場する俳優で、いかにもお人好しな外見をしたおじさん俳優だ。この「U-Turn」でも、殺人現場を見ると嘔吐するという警察らしくないキャラを演じており、誰も彼が真犯人だとは考えない。この映画の脚本は、そのポイントを突いて来たのである。

 インダルジートは、NTPCフライオーバーで違法にUターンした者が引き起こした事故のせいで妻と子供を亡くしていた。それ以来、彼はNTPCフライオーバーで違法Uターンをする者を罰し続けていた。長らく鑑識部にいたことで、化学物質に精通しており、フェナカリディンという架空の薬物を使って人を殺す手法を思い付いた。この薬物を摂取した者は数時間後に幻覚を見始め、やがて恐怖に駆られて自殺してしまう。ラーディカーは、NTPCフライオーバーで違法Uターンしたバイクのナンバーを、その場に常にいる浮浪者を使って集めており、交通局のハリーを通じてナンバーから名前や住所を割り出していた。このハリーも実はインダルジートの弟で、彼の一味だった。

 ラーディカーはインダルジートに殺されそうになるが、彼女も機転を利かせて事前にインダルジートにフェナカリディンを飲ませ返しており、結果的に死んだのはインダルジートであった。これで一件落着になったかに思われる。アルジュンはラーディカーに何かを言おうとするが、アーディティヤが来たことでその場を立ち去る。おそらくアルジュンは彼女に好意を寄せていたが、アーディティヤに遠慮したのだろう。だが、実はアーディティヤにもこの事件と深いつながりがあった。

 アーディティヤは、ラーディカーがスニーター・スィンという名前を出したときに反応し、彼女の死が報じられた新聞記事を燃やしていた。映画の最後ではその謎もきれいに解明される。実はスニーターの事故死のきっかけを作った違法Uターンをしたのはアーディティヤだったのだ。さらに、バイクで走行していたアーディティヤに電話をし、彼のUターンのきっかけを作ったのはラーディカー自身であったことも判明する。何重にも伏線が張り巡らされた優れたスリラー映画であった。

 主演アラーヤーFは、またも素晴らしい演技をし、今一番注目の若手女優に躍り出ている。何か物言いたげな表情はサーニヤー・マロートラーにも通じるものがあるが、アラーヤーには不思議な色気もあり、まだ開発されていない潜在的な才能がいくつもあるようにも感じられる。今後も注目していきたい女優である。

 「U-Turn」は、最近勢いのあるカンナダ語映画の傑作をヒンディー語でリメイクした作品である。先の読めない展開がスリリングで、現在飛ぶ鳥を落とす勢いの主演アラーヤーFや、意外にも非常に重要な役を演じるマヌ・リシなど、俳優の起用法にも工夫や話題性がある。カンナダ語オリジナルの脚本が優れていたことが勝因の大部分を占めるかもしれないが、ヒンディー語版も決して劣っていないのではないかと感じる。絶賛されて然るべき作品である。