Freddy

3.0
Freddy
「Freddy」

 つい最近、男性産婦人科医が主人公の映画「Doctor G」(2022年)が話題になったが、2022年12月2日からDisney+ Hotstarで配信開始された「Freddy」は歯科医師が主人公の映画だ。ただ、歯医者の仕事が物語の中心になっているわけではなく、復讐劇をベースにしたスリラー映画である。

 監督はシャシャーンカ・ゴーシュ。つい最近、Netflixオリジナル映画「Plan A Plan B」(2022年)を送り出したばかりで、OTTリリースが続く。主演はカールティク・アーリヤン。「Bhool Bhulaiyaa 2」(2022年)を当てており、現在もっとも勢いのある俳優である。ヒロインは「Jawaani Jaaneman」(2020年)でデビューしたアラーヤー・F。他に、カラン・A・パンディト、サッジャード・デーラフルーズ、マイルナー・S・ダラールなどが出演している。

 舞台はムンバイー。33歳の歯科医師フレディー・ジンワーラー(カールティク・アーリヤン)は独身で、模型飛行機を作るのが趣味で、ハーディーという亀と暮らしていた。母親は有名なチェリストだったが、不倫が原因で父親に殺され、父親も自殺するという不幸な過去を背負っていた。叔母のパルシス(マイルナー・S・ダラール)からは結婚を急かされていた。

 友人の結婚式でフレディーはカーイナーズ・イーラーニー(アラーヤー・F)という美女と出会い、恋に落ちる。だが、カーイナーズは既婚で、ルスタム(サッジャード・デーラフルーズ)という夫がいた。カーイナーズがフレディーのクリニックを患者として訪れ、彼女と会話をしたことで、ますます彼はカーイナーズにのめり込む。フレディーはカルテからカーイナーズの住所を知り、彼女の家の前まで行く。そこでフレディーはカーイナーズがルスタムから暴行を受けている様子を目にする。フレディーはカーイナーズとデートを重ね接近した後、彼女にルスタムを殺すことを提案する。ある雨の晩、フレディーはジョギングに出掛けたルスタムをひき殺す。

 しばらくカルジャトのファームハウスに滞在していたフレディーはムンバイーに戻り、カーイナーズに会いに行く。ところがカーイナーズは恋人のレイモンド(カラン・A・パンディト)と一緒にいた。カーイナーズはフレディーを使って夫を殺させ、ルスタムが経営していたレストラン「ライト・オブ・ペルシア」を乗っ取ったのだった。

 屈辱を受けたフレディーは、カーイナーズに謝罪を求めるが、レイモンドに殴られて追い返される。そこでフレディーはカーイナーズとレイモンドに対して復讐を始める。アレルギーを持っていたカーイナーズは肌荒れを起こし、レイモンドが運転する自動車のブレーキが突然利かなくなって事故を起こし、レストランの悪評も出回った。カーイナーズとレイモンドはフレディーの仕業だと気付き、彼の家に押し入ってハーディーを奪い、スープにして食べてしまう。それを知ったフレディーは彼らに対して本気で復讐に乗り出す。

 フレディーは警察に、ルスタムを殺したのはカーイナーズとレイモンドだと通報する。そして彼らをカルジャトのファームハウスに呼び出す。カーイナーズとレイモンドはフレディーを殺すつもりでファームハウスを訪れるが、フレディーのスタンガンによって意識を失い、目が覚めたときには捕縛されていた。フレディーは彼らの全ての歯を麻酔なしで抜き、生き埋めにする。

 一方、警察はルスタムをひき逃げした犯人はカーイナーズとレイモンドだと断定する。

 まず、この映画に登場する大半の人物が、フレディーやカーイナーズを含め、パールスィー(参照)である。ヒンディー語映画製作の本拠地であるムンバイーはインドの他の地域に比べてパールスィーの人口が比較的多く、ムンバイーという街の特色になっている。それ故にヒンディー語映画でも時々パールスィーのキャラが中心の映画が作られる。「Being Cyrus」(2006年)や「Ferrari Ki Sawaari」(2012年)が代表例だ。また、「Freddy」に関しては、実際にパールスィーの俳優を起用しているのが特徴的だ。例えばヒロインのアラーヤー・Fは本名をアラーヤー・イブラヒム・ファーニチャーワーラーというが、パールスィーの血筋が入っている。それでも、「Freddy」を観る限り、これらの登場人物がパールスィーである必然性は感じなかった。

 主人公のフレディーは成功した歯科医師で、地域の人々からも尊敬されていた。だが、根暗かつオタクな性格であり、女性からもてなかった。30歳過ぎても独身で、周囲の人々からはゲイだと疑われ始めた。そんなフレディーが一目惚れした相手がカーイナーズであった。カーイナーズは既婚だったが、それより大きな問題を抱えていた。カーイナーズは、自分の目的を達成するためならどんな手段でも採る恐ろしい女性だったのである。フレディーはカーイナーズの罠にはまり、彼女との結婚を夢見て、夫のルスタムをひき殺してしまう。その後フレディーは、カーイナーズにはレイモンドという恋人がおり、いいように利用されただけだったことを知る。

 ここまではサスペンスドラマなどによくある展開だ。これ以降は復讐劇になる。ただ、フレディーの復讐は2段階に分かれていた。第1段階では彼は自分を騙して本気にさせたことについて復讐をしていた。だが、第2段階は、カーイナーズとレイモンドに殺された亀のための復讐だった。フレディーは亀のハーディーを何よりの親友と考え、可愛がってきたのだった。カーイナーズとレイモンドは、フレディーへの仕返しの一環でハーディーを奪い、スープにして食べてしまった。

 フレディーは一貫してカーイナーズとレイモンドに謝罪を求めていた。おそらく第1段階の時点では彼らが素直に謝ればそれで済んでいたことだろう。だが、ハーディーが殺された後の第2段階の復讐では、おそらく彼らが謝ったとしてもフレディーは許していなかったと思われる。カーイナーズとレイモンドは、謝罪に訪れたと見せ掛けてフレディーを殺そうとしたのだが、それがなくてもおそらくフレディーは彼らをスタンガンで気絶させて捕まえていたことだろう。

 フレディーが復讐の総仕上げとしてカーイナーズとレイモンドに採った手段は、歯科医師らしく、麻酔なしで歯を全部引っこ抜くというものだった。そして歯が一本もなくなった後、彼らは穴に放り込まれ、生き埋めにされる。

 カーイナーズの裏切りが発覚した中盤以降、フレディーと、カーイナーズとレイモンドの間で幼稚な復讐合戦が繰り広げられ、映画の雰囲気が浮き足立っている時間帯があった。緻密な脚本に見えて穴が多く、映画で描かれている展開に完璧な論理性を求めることができない。しかしながら、カールティク・アーリヤンとアラーヤー・Fの演技が素晴らしく、この二人の激突が映画を楽しくさせている。特にまだ出演作が少ないアラーヤー・Fに大きな可能性を感じた。

 「Freddy」は、歯科医師が復讐の鬼になるスリラー映画である。しかしながら、最初から観客に全ての手の内が明かされてしまっているので、物語にサスペンス性はない。最終的な復讐の方法はいかにも歯科医師といった感じのもので、インパクト大だ。あとはカールティク・アーリヤンとアラーヤー・Fの優れた演技が、平凡な脚本のこの映画を救っている。