Plan A Plan B

4.0
Plan A Plan B
「Plan A Plan B」

 2022年9月30日からNetflixで配信開始された「Plan A Plan B」は、婚活カウンセラーの女性と離婚弁護士の男性の間の現代的なロマンス映画だ。日本語字幕付きで、邦題は「プランA, プランB」になっている。

 監督はシャシャーンカ・ゴーシュ。「Khoobsurat」(2014年)や「Veere Di Wedding」(2018年)などの監督であり、ロマンス映画を得意としている。主演はリテーシュ・デーシュムクとタマンナー。タマンナーは「Baahubali: The Beginning」(2015年/邦題:バーフバリ 伝説誕生)のヒロインである。南インド映画で成功したが、ムンバイー生まれであり、ヒンディー語は普通にできる。

 他に、プーナム・ディッローン、クシャー・カピラー、ビディター・バーグ、ヘーリー・ヴャースなどが出演している。

 題名の「Plan A」とは「結婚」、「Plan B」とは「離婚」を意味している。

 舞台はムンバイー。心理カウンセラーのニラーリー(タマンナー)は、婚活カウンセラーをしていた母親キラン(プーナム・ディッローン)から事業を引き継ぐ。彼女はシェアオフィスに居を構えるが、彼女のオフィスの目の前には離婚弁護士カウストゥブ・チョーグレー、通称コスティー(リテーシュ・デーシュムク)のオフィスがあった。ニラーリーとコスティーは、会ったその日から犬猿の仲であった。

 ニラーリーにはかつてヴァルンという幼馴染みの恋人がいたが、ある日突然、心臓発作により死んでしまう。彼女はそのトラウマを今でも引きずっており、新たな恋を見つけられずにいた。一方、コスティーは既婚であったが、妻のルンジュン(ビディター・バーグ)とは別居中だった。ルンジュンからは離婚を要求されていたが、コスティーは頑として断り続けていた。

 ある日、オフィスにルンジュンが訪ねてきたことで、ニラーリーはルンジュンと話す機会を得る。そのときニラーリーはルンジュンからコスティーの意外な一面を聞かされる。キランが60歳の誕生日パーティーを開くことになり、コスティーも招待される。踊りが得意なコスティーは、キランと友人たちのダンスを指導し、仲良くなる。コスティーとニラーリーは、少なくとも誕生日パーティーまでは休戦することで合意する。

 接する時間が増えたことで、いつの間にかコスティーとニラーリーの間には恋愛感情が芽生えていた。コスティーはニラーリーにキスをし、彼女を自分の家に連れ込む。だが、コスティーはルンジュンの写真を見て思いとどまる。ニラーリーもまだヴァルンのことを忘れ切れておらず、もっと時間が必要だと返す。

 それ以来、コスティーは行方不明になってしまった。彼との続きを楽しみにしていたニラーリーは、裏切られたと感じ、落ち込む。キランの誕生日パーティーでやっとコスティーは姿を現す。そこで二人は見事に息の合ったダンスを披露する。だが、パーティーにルンジュンがやって来て、コスティーと踊り出す。コスティーは姿を消していた4日間、ルンジュンの住むコルカタへ行っていたのだった。ニラーリーは、コスティーとルンジュンがよりを戻したのだと考える。

 だが、実はコスティーとルンジュンは離婚をしていた。それを知って驚くニラーリーにコスティーはプロポーズをする。

 今年観たヒンディー語ロマンス映画の中で一番良かった。ひねりが利いていながらストレートなラブストーリーであり、素直に主人公二人のゴールインを喜ぶことができる。ダンスの使い方もうまく、OTTリリースの作品ながら、インド映画の鑑である。

 人物設定で既に成功を確定させたような映画だった。ニラーリーは婚活カウンセラーだが、未婚で、しかも死んだ過去の恋人を忘れられずにいた。一方、コスティーは離婚弁護士だが、別居中の妻に未練があり、離婚できずにいた。二人とも実生活と職業がミスマッチで、しかもこの二人のオフィスが隣り合っている。方や幸せのために結婚を後押しし、方や幸せのために離婚を後押しする。何かが起こらずにはいられないシチュエーションである。

 当初は犬猿の仲だった二人だが、いくつかの出来事を経て、恋仲になる。ここでもまたジレンマに陥る。ニラーリーは、不仲になった夫婦にもまだチャンスはあると説いていた立場であり、コスティーの妻ルンジュンに対しても同様のことを語っていた。だが、彼女はコスティーを手に入れるため、彼にルンジュンとの離婚をさせなければならなかった。職業上のポリシーとは反するが、心は彼女にそれを求めた。

 ニラーリーの揺れる気持ちを確定させたのが、クライマックスのダンスシーン「Keh Do Ke」であった。ニラーリーの母親キランの60歳の誕生日パーティーでのペアダンスであったが、ここではっきりと彼女はコスティーを運命の人だと悟る。二人のダンスは本当に息がピッタリ合ったものだった。また、ニラーリーにとってダンスはトラウマとも結び付いていた。映画の中では明確に説明されていなかったものの、おそらく彼女は元恋人のヴァルンとよく踊りを踊っていたものと思われる。だが、ヴァルンが死んでから彼女は踊ることをやめてしまっていた。そんな彼女がコスティーと共に生き生きと踊りを踊った。これは、彼女が過去のトラウマから解放されたことも示している。

 これが歌や踊りの力であるが、このとき二人の間にははっきりとした絆が出来上がっているように見えた。だが、お互い本心は語っておらず、それは単に直感でもあった。実際にはどうなのか、まだ分からなかった。そんな中、ダンス直後、ルンジュンが会場に飛び込んできて、コスティーと踊り出す。ニラーリーはそれを見て、コスティーがルンジュンとよりを戻したと勘違いし、落ち込む。実際には、ルンジュンは前々からコスティーに離婚を要求しており、やっと彼が受理したため、嬉しくなって踊っていただけであった。コスティーはニラーリーに、ルンジュンと離婚して自由の身になったことを明かし、彼女にプロポーズをする。

 人物設定やシチュエーションがあまりに計算され尽くされたものだったため、その結末も計算式通り予想できるものではあった。だが、こういうストレートなラブストーリーほど素直に心に沁みるものだ。

 非常に現代的なモチーフが登場する映画でもあった。例えば、ニラーリーとコスティーはシェアオフィスを利用して仕事をしている。コスティーは寂しくなると、デートアプリ「Tinder」を使って女の子と出会っていた。ニラーリーの友人の子供カビールは、ガジェットを使いこなし、やたらと大人びた発言をする典型的なZ世代の子供で、「時間を無駄にする時間はない」とクールに言い放っていた。

 リテーシュ・デーシュムクは自己ベストといっていい演技と存在感だった。デビュー当初は捉えどころのない俳優だったが、年を取って渋さが出て、いい雰囲気を醸し出せるようになった。タマンナーはすっかり南インド映画女優になったが、ここに来てヒンディー語映画への復帰も狙っているようで、今後何本かヒンディー語映画出演が続く。「Baahubali」の頃と比べると太ったが、依然として美しい女優だ。演技も良かった。

 「Plan A Plan B」は、婚活カウンセラーと離婚弁護士の間の、大人のロマンス映画である。モダンなラブストーリーを得意とするシャシャーンカ・ゴーシュ監督のハンドリングがうまく、ひねりがありながら素直に心に沁みる、今年一番のロマンス映画に仕上がっている。日本語字幕付きなので、日本人でも気軽に楽しめる。必見の映画である。