2007年はコメディー映画が強かったが、2008年に入ってもコメディー映画の勢いは衰える様子を見せない。2008年1月25日から公開の「Sunday」は、大ヒットコメディー映画「Golmaal」(2006年)の若手映画監督ローヒト・シェッティーの最新作である。
監督:ローヒト・シェッティー
制作:クマール・マンガト
音楽:サンディープ・チャウター、スルール、ダレール・メヘンディー、シバーニー・カシヤプ、ラーガヴ・サーチャル、アマル・モーヒレー
作詞:ファルハード、サージド、カムラン・バリー、ダレール・メヘンディー、ヴィラーグ・ミシュラ、アーディティヤ・ダール
振付:ガネーシュ・アーチャーリヤ
出演:アジャイ・デーヴガン、アーイシャー・ターキヤー、アルシャド・ワールスィー、イルファーン・カーン、アンジャナー・スカーニー、ムケーシュ・ティワーリー、ムラリー・シャルマー、ヴラジェーシュ・ヒルジー、トゥシャール・カプール(特別出演)、イーシャー・デーオール(特別出演)
備考:PVRプリヤーで鑑賞。
デリーでスハースィニー・プラダーンという女性の殺人事件が発生した。警察の必死の捜索にも関わらず、まだ犯人は捕まっていなかった。 声優のセヘル(アーイシャー・ターキヤー)は、最近物忘れがひどいことで悩んでいた。土曜日の夜にセヘルは親友のリトゥ(アンジャナー・スカーニー)と共にディスコへ出掛ける。そこで2人の男に絡まれるが、セヘルの機転で彼らを手玉に取る。 翌朝からセヘルの身辺に異変が置き始める。タクシードライバーのバッルー(アルシャド・ワールスィー)という男から身に覚えのない420ルピーの運賃を請求され、売れない俳優クマール(イルファーン・カーン)からはお化け呼ばわりされる。暴漢たちには命を狙われ、怪しげな男(ムラリー・シャルマー)から異様な忠告を受けるようになる。 一方、セヘルは親が決めたお見合い相手ラージヴィール・ランダーワー警視監(アジャイ・デーヴガン)と出会う。だが、セヘルはラージヴィールのような賄賂を受け取る汚職警官を軽蔑していた。彼女は最初は全く相手にしなかった。 ところが、セヘルの記憶から日曜日の記憶が抜け落ちていることが分かる。ラージヴィールは事件の可能性を感じ取り、調査に乗り出す。いろいろな人の証言により、セヘルが日曜日の未明から取った行動が再構築されて行く。 セヘルは土曜日の深夜から日曜日の未明にかけて、ディスコで絡んで来た2人の男に、媚薬を飲まされていた。それがそもそも日曜日の記憶が抜け落ちている原因だった。だが、彼らが目を離した隙にセヘルはいなくなっており、彼らはその後のことを全く知らなかった。その後、セヘルはバッルーのタクシーに乗り込んでいた。そのタクシーにはクマールも乗っていた。だが、正気を失っていたセヘルは行き先も告げずに街中を走らせた。とうとうバッルーとクマールは怒って彼女を墓場に下ろした。やはり目を離した隙にセヘルがいなくなっていたので、二人は彼女のことをお化けだと考えていた。また、バッルーはタクシーの運賃420ルピーを払ってもらっておらず、いつまでも覚えていた。やはり二人はその後のセヘルの行動を知らなかった。 ラージヴィールはさらに操作を進めることで、一人の若者に行き当たる。彼は友人と共にたまたま墓場の近くを通り掛ったところ、セヘルを見つけ、下心丸出しで車に乗せたのだった。だが、またも二人が目を離した隙にセヘルは消えてしまった。二人は手分けして彼女を探したが、後に友人は死体で発見された。死体からはセヘルが付けていたブレスレットが見つかった。セヘルは殺人の罪を着せられそうになる。だが、ラージヴィールはセヘルのことを信じ、捜査を続ける。 セヘルを執拗に追いかける暴漢を捕まえて取り調べたところ、捜査線上に上がったのは、ある大臣の息子であった。ラージヴィールは彼をディスコにおびき出し、バッルーやクマールの助けを借りて、父親の目の前で捕まえる。息子はスハースィニー・プラダーンの殺人をも自供する。彼はスハースィニーと恋仲だったが、別の男と浮気しているのを見つけ、彼女を殺す。彼女が浮気していたのが、死体で発見された男で、それも彼によって殺されたのだった。 こうして事件は一件落着し、ラージヴィールとセヘルは結婚する。バッルーはタクシー会社を設立し、クマールはボージプリー語映画のスターになった。
ヒロインの記憶から抜け落ちた日曜日を徐々に再構築していく過程を追ったスリラー映画。だが、全体的な味付けはコメディーであり、「Golmaal」と同じく、笑いと緊張感が絶妙なバランスを保った作品に仕上がっていた。
スクリーンに映し出される1シーン1シーンに何らかの伏線が隠されており、それが最後で全てつながって解決に至るという筋書きはとても映画らしかった。このような映画はえてして脚本が複雑になりすぎる傾向にあるのだが、展開も分かりやすく、混乱することはなかった。そしてそのスリラー的緊張感を邪魔しない程度に、アルシャド・ワールスィーとイルファーン・カーンのやり取りを中心としたコメディーシーンを挿入しており、コメディー映画としても楽しめる映画になっていた。マサーラームービーの面目躍如といったところであろう。
デリーが舞台になっていたのも面白い。当然、かなりのシーンのロケがデリーで敢行された。クトゥブ・ミーナール、ラール・キラー、フマーユーン廟、ジャーマー・マスジド、チャーンドニー・チョーク、フィーローズ・シャー・コートラー、ウグラセーン・キ・バーオリー、コンノートプレイス、インド門、大統領官邸、プラガティ・マイダーン、スーラジクンド(ハリヤーナー州)などなどが出て来た。近年のデリー・ロケのヒンディー語映画の先駆けは「Lakshya」(2004年)だったように記憶しているが、以後、「Rang De Basanti」(2006年)、「Fanaa」(2006年)、「Salaam-e-Ishq」(2007年)、「Cheeni Kum」(2007年)、「Chak De! India」(2007年)、「Dus Kahaniyaan」(2007年)など、かなりの数の映画の撮影がデリーで行われている。一種の流行と言ってもいいだろう。これからも「Black n White」、「Dev. D」、「Delhi Belly」など、デリー・ロケ映画の公開が続く。ただし、ラーケーシュ・オームプラカーシュ・メヘラー監督の最新作「Delhi-6」(2009年)は、ラージャスターン州にチャーンドニー・チョークのセットを作って撮影するようである。その内「ディリウッド」みたいな言葉ができるかもしれない。
ヒンディー語映画界の萌え系女優アーイシャー・ターキヤーは、今回はただのお飾りのヒロインではなく、主役と言っていい重要な役を自然な演技でこなしていた。若手女優の中ではもっとも柔軟性があり、使いやすい人材なのではないかと思う。「Dor」(2006年)で演じたラージャスターン地方の若い未亡人役の演技が高く評価されているが、彼女が一番得意とするのは今時のインドの都会の女の子だ。「Sunday」では声優という少し特殊な仕事をしていたが、いろいろな声を使い分ける様はキュートだった。
アジャイ・デーヴガン、アルシャド・ワールスィー、イルファーン・カーンらも持ち味を活かした演技をしていた。他に、トゥシャール・カプールが前半のディスコシーン「Manzar」でアイテムボーイ出演し、イーシャー・デーオールが後半のディスコシーン「Kashmakash」でアイテムガール出演する。トゥシャール・カプールがアイテムボーイを気取っているのは珍妙であった。
「Sunday」は完全な娯楽路線映画で、純粋に笑って楽しむためだけに観るといい。しばらく強力なライバルが現れないので、そこそこのヒットを記録するのではないかと思う。