
2026年9月25日からPrime Videoで配信開始された「Don’t Be Shy!」は、「Kuch Kuch Hota Hai」(1998年)、「Jaane Tu… Ya Jaane Na」(2008年)、「Student of the Year」(2012年/邦題:スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!)などを想起させる青春ラブコメ映画である。ただし、女性視点の物語という点で大きく異なっており、そういう意味では「Aisha」(2010年)などに近い。インド映画は男性視点が支配的だが、時々現れる少女漫画的なインド映画の一例である。
プロデューサーはアーリヤー・バットと姉のシャーヒーン・バット。アーリヤーは「RRR」(2022年/邦題:RRR)などに出演したことで日本でも知られている女優だ。実は彼女にはシャーヒーンという姉がおり、「Son of Sardaar」(2012年)のライターを務めたりしていたが、あまり表立った活動はしていない。ここに来てこの二人が共同でプロデュースしたのがこの「Don’t Be Shy!」になる。
監督はシュリーティ・ムカルジー。「Yeh Jawaani Hai Deewani」(2013年/邦題:若さは向こう見ず)や「Brahmastra Part One: Shiva」(2022年/邦題:ブラフマーストラ)で助監督を務めた経験があるが、映画監督は本作が初である。音楽監督はラーム・サンパト。
主要キャストは新人が起用されている。アールシ・バジャージ、アンシュ・ドゥッガル、ビアンカ・アローラー、ピーユーシュ・カーティーである。また、クナール・ロイ・カプール、アヌラーグ・バス、ネーハー・ドゥーピヤーといったベテラン勢が脇を固めている。さらに、本編では使われていないプロモーション曲「Re Bawri」にアーリヤー・バットがアイテムガール出演し、新人4人を従えて踊りを踊っている。
日本のAmazon Primeでも日本語字幕付きで配信されており、邦題は「ドント・ビー・シャイ」になっている。
ムンバイーのXVC大学に通う大学生シャームリー・ダース、通称シャイ(アールシ・バジャージ)は、ジュンジュヌー財閥の御曹司マヤンク(ピーユーシュ・カーティー)と付き合っており、彼と結婚して悠々自適な生活を送ることを夢見ていた。シャイの父親ジョイ(アヌラーグ・バス)は小さなサーリー店を営んでいる何の変哲もない小市民で、母親は小説家になるのを夢見ながら特に何もしていなかった。シャイは、売れっ子作家ナンディニー・ヴァルマー(ネーハー・ドゥーピヤー)が著した自己啓発書「Be the Perfect Woman」に触発され、「レディー」になるべく毎日摂生し、大学ではリーダーを務めていた。
シャイは、マヤンクが彼の誕生日パーティーで彼女との結婚を発表すると期待していた。だが、マヤンクが発表したのは、ジュンジュヌー財閥の後継者にはならず歌手になるというものだった。シャイはマヤンクに夢を追うのは辞めろと言い、マヤンクはシャイに絶交を言い渡す。その後、シャイはショックで1週間ほど大学に出られなかった。
イガトプリーでインターカレッジ文化祭が開催され、シャイはリーダーとしてその準備をしてきたが、マヤンクと破局し、大学を長欠している間に、リーダーは転校生のターラー(ビアンカ・アローラー)になっていた。しかも、ターラーはマヤンクの新しい恋人になっていた。シャイは文化祭に参加するが、そこでターラーの邪魔ばかりしていた。だが、逆にシャイは失敗して皆の笑い物になってしまう。それでもターラーはシャイを気遣っていた。実はターラーはナンディニーの娘であることも分かる。ターラーは、日常生活の細部にまで口出しするナンディニーの教育に抑圧されており、その反動で「レベル」というオーディションに出場したいと考えていた。また、この文化祭の期間中にシャイは幼馴染みのドゥルヴ(アンシュ・ドゥッガル)と接近する。
誕生日パーティー前からマヤンクがターラーを口説いていたことを知ったシャイは報復のために彼のプロテインシェイクに麻薬を混ぜる。だが、その麻薬は誤って参加者全員に渡ってしまい、学生たちは酔っ払って食べ物を投げ合い、文化祭を台無しにしてしまう。
文化祭は終了し、学生たちはムンバイーに戻った。引率教員のミスターQ(クナール・ロイ・カプール)が責任を負わされ免職になり、リーダーのターラーは皆から責められた。それを見たシャイは、自分が麻薬を混ぜた張本人だと明かす。シャイは停学処分になる。
その後、シャイはターラーが大学を辞めてドバイに引っ越すと知る。ターラーは「レベル」のオーディションも諦めていた。シャイは、なぜかプロポーズしてきたマヤンクを拒絶し、オーディション会場へ向かう。そして、オーディションに乱入してターラーにメッセージを送る。それをテレビで観たターラーは、ドバイへ向かう自動車を降りて会場へ向かう。そして、オーディションを受ける。また、シャイはドゥルヴに告白する。
1年後。シャイは実家のサーリー屋を改革し人気店にしていた。母親は小説を出版し人気作家になっており、ドゥルヴはシェフとして活躍していた。マヤンクはなかなか歌手として認められていなかった。ターラーは「レベル」で3位となり、有名人になっていた。
主人公のシャイは、名前とは裏腹に、夢見がちで自分勝手なキャラだった。財閥の御曹司マヤンクと付き合っており、彼との結婚を夢見ているわりには、彼を振り回し困らせていた。「Don’t Be Shy!」で主に描かれるのは、女性主人公の欲望や妄想だ。そして、マヤンクとの破局直後、恋敵のターラーが突如として現れ、彼女と火花を散らすことになる。もっとも、シャイは意地悪で嫉妬深い性格だったが、恋敵であるはずのターラーはもっと大らかで、あまり「敵役」と見なすことができなかった。むしろ、シャイの幼稚な行動に困惑するくらいである。また、シャイにはドゥルヴという幼馴染みの男性がおり、彼とは思わせぶりな距離があった。シャイはドゥルヴを下に見ていたが、ドゥルヴはシャイの性格をよく知っており、彼女の身勝手な行動を受け止める度量の広さを持っていた。
シャイは周囲の人々をさんざん振り回す。その中にはマヤンクやドゥルヴも含まれていた。「Don’t Be Shy!」に登場する男性キャラは、どこか主体性に欠け、常にシャイの回りをフワフワ漂っていて、地に足が着いていない。これは女性視点のロマンス映画によくある男性キャラ描写であり、日本の少女漫画の特徴ともよく似ている。男性キャラだけではない。脈絡があまりないような事件が矢継ぎ早に続き、その中で人間関係が刻一刻と変わっていく展開も少女漫画と共通している。男性が支配的なインド映画業界ではこのような少女漫画的映画というのは稀なのだが、皆無ではない。特に女性監督や女性脚本家の作品にはこのような特徴が如実に現れることがある。「Don’t Be Shy!」はOTT作品だが、このリリース形態が選ばれたのも、OTT視聴者に女性が多いことと関係あるのかもしれない。
「Don’t Be Shy!」が伝えたかったのは、「自分らしくあるべし」という古典的なメッセージだ。シャイは、自己啓発本に啓発されて、自分を常に大きく見せることに躍起になり、玉の輿によって社会的ステータスを上昇させる野望も持っていた。題名は「恥ずかしがるな!」という意味にも取れるが、「シャイになるな!」とも読める。シャイは、シャイから脱却するために躍起になっていた。だが、さすがにそれには無理があった。そのチグハグさは序盤から事あるごとに描写されていたが、それに気付いていないのはシャイ本人だけだった。周囲の人々にはシャイが空回りしているのがよく分かっていた。それはマヤンクとの破局の原因にもなっていたと考えられる。最終的にシャイは、自分のことをあるがままに受け入れてくれるドゥルヴをパートナーとして選んだのだった。
自分らしく生きる道を見つけたのはシャイだけではなかった。マヤンクは、財閥の御曹司としての順当な道を捨てマイケル・ジャクソンみたいな歌手になろうとしていたし、ターラーは厳格で抑圧的な母親の管理下から脱出し、「レディー」ではなく「レベル」としての道を歩み始める。空手のチャンピオンだったドゥルヴは怪我をきっかけに金メダルは諦めたが、シャイの勧めにより料理という新境地に挑戦する。さらに、シャイの母親は悲願だった作家デビューを果たした。
シャイのエキセントリックなキャラクターがストーリーをグイグイ引っ張るタイプの映画で、過去の名作へのオマージュがさりげなくちりばめられていたりしてインド映画ファンがついニヤリとしてしまう場面もいくつかあったのだが、ストーリー自体に何か目新しいものがあったわけではない。ただ、フレッシュな若手俳優たちが生き生きとした演技をしており、その点で収穫があったといえる。特にシャイ役を演じた主演のアールシ・バジャージは、デビュー作とは思えないほど自信に満ちた演技を見せており、今後が楽しみだ。
「Don’t Be Shy!」は、ヒンディー語映画界に時々現れる少女漫画的なラブコメ映画である。完全に女性視点で物語が進み、男性キャラは女性キャラの恋愛対象という添え物に過ぎない。主人公シャイのキャラが強烈で、映像的な工夫もいくつか見られたが、ストーリーは落ち着くべきところに落ち着いたという印象でサプライズはない。それでも、若い俳優たちが一気にデビューしていてフレッシュさが感じられる。この中から次世代のスターが生まれるのかもしれない。
