
2025年12月12日公開の「Kis Kisko Pyaar Karoon 2」は、その題名が示す通り、「Kis Kisko Pyaar Karoon」(2019年)の続編である。前作はインドを代表するコメディアン、カピル・シャルマー演じる主人公がひょんなことから3人の女性と結婚することになってしまうという多重婚コメディー映画だった。今回もそのコンセプトは変わらないばかりかパワーアップしており、続投のカピル・シャルマー演じる主人公が最終的に5人の女性と結婚することになる。しかも、それぞれ宗教が違うというオマケ付きである。ただ、ストーリーには前作からの連続性はない。
前作の監督はアッバース=マスターンだったが、今回彼らはプロデューサーに回り、代わりにメガホンを取ることになったのがアヌカルプ・ゴースワーミーである。彼は「Kis Kisko Pyaar Karoon」の脚本を書いた人物であり、カピル・シャルマーのコメディー番組でクリエィティブ・ディレクターを務めてきた。いわばシャルマーの相棒である。
主演カピル・シャルマーの相手役を務めるヒロインは、「Loveyatri」(2018年)のヒーラー・ワリーナー(旧ワリーナー・フサイン)、「Jaat」(2025年)のアーイシャー・カーン、「Dil Dosti Aur Dogs」(2025年)のトリダー・チャウダリー、「Silence 2: The Night Owl Bar Shootout」(2024年)のパールル・グラーティーである。ヒンディー語映画界では全員まだそれほど名の知られていない女優たちばかりである。
他に、マンジョート・スィン、スシャーント・スィン、ヴィピン・シャルマー、アキレーンドラ・ミシュラー、スミター・ジャイカル、スプリヤー・シュクラー、ジャミー・リーヴァル、トゥルプティ・カームカル、ジミー・モーゼス、ヤシュパール・シャルマー、アスラーニー、アニル・チャランジートなどが出演している。また、カピル・シャルマーの妻で、ウェブドラマ「Four More Shots Please!」(2019年~)などに出演のスタンドアップ・コメディアン、ギニー・チャトラトが「5人目の妻」役として友情(愛情?)出演している。
また、2025年10月20日に亡くなったアスラーニーにとってこの作品は遺作のひとつである。
今回、カピル・シャルマー演じるキャラクターはどんどん改宗し、そのたびにモーハンからメヘムード、メヘムードからマイケル、マイケルからマンジートと改名していく。しかもメヘムードという名前のキャラがもう一人いるため、非常に紛らわしい。以下のあらすじでは特別な場合を除きカピルの役名をモーハンで通すことにする。
マディヤ・プラデーシュ州ボーパール在住のヒンドゥー教徒実業家モーハン・シャルマー(カピル・シャルマー)は、イスラーム教徒の恋人サーニヤー(ヒーラー・ワリーナー)と結婚しようとするが、それぞれの家族は異宗教間結婚に絶対反対で、事あるごとに妨害されてうまくいかない。モーハンの父親BK(アキレーンドラ・ミシュラー)は彼をミーラー(トリダー・チャウダリー)とアレンジド・マリッジさせようとするし、サーニヤーの父親ミルザー(ヴィピン・シャルマー)は彼女をメヘムード(アニル・チャランジート)とアレンジド・マリッジさせようとする。
そこでモーハンはミルザーに直談判し、イスラーム教に改宗するからサーニヤーとの結婚を認めてくれと頼む。こうしてモーハンは改宗しメヘムードを名乗る。ミルザーは彼が本気であることに感銘を受け、メヘムードとの結婚を中止して娘をモーハンと結婚させる。ところが、ミルザーはモーハンが改宗しメヘムードになったことを娘に伝えていなかった。サーニヤーは式場から逃亡しており、代わりにモーハンと結婚したのはサーニヤーの従妹ルーヒー(アーイシャー・カーン)だった。ルーヒーは既に離婚を2回しており、今度離婚したら自殺すると脅す。仕方なくモーハンは彼女との結婚を受け入れる。
その夜、モーハンは頭部を殴打されて気を失う。目を覚ますと、父親の決めた結婚相手ミーラーとの結婚が済んでいた。やはりミーラーも自殺をほのめかしたため、モーハンは彼女を妻として受け入れる。
そこへサーニヤーから電話がある。サーニヤーはゴア州に逃げており、キリスト教に改宗していた。ゴアの教会で集団結婚式が行われようとしており、そこで結婚しようと提案する。既にモーハンの名前をマイケルとして登録していた。モーハンは、親友ハルビール・スィン、通称ハビー(マンジョート・スィン)とゴア州に向かおうとするが、話がこんがらがり、ハネムーンと勘違いしたルーヒーとミーラーも付いてくることになってしまう。モーハンはハビーに厳命し、何とかルーヒーとミーラーを引き合わせないようにするが、二人は出会って意気投合してしまう。ただ、夫を共有していることには気付かなかった。
モーハンはルーヒーとミーラーの目を盗んで教会へ向かいサーニヤーと合流しようとするが見つからなかった。代わりに彼は、許嫁から婚約を破棄されて気を失っていたジェニー(パールル・グラーティー)と結婚することになってしまう。ルーヒーはミルザーの家に住み、ミーラーはモーハンの家に住んでいた。モーハンはボーパールに家を一軒買い、そこにジェニーを住まわせた。そして、3つの家を転々とする重婚生活を送り始める。
ところでジェニーの兄デーヴィッド・デコスタ(スシャーント・スィン)はゴア州警察の警部だった。デコスタ警部はアントニー神父(アスラーニー)から通報を受け、異なる宗教の女性と重婚したボーパール在住男性を探しに来ていた。ルーヒーの甥リズワーンには重婚していることがばれてしまうが、リズワーンは協力的で、PS5などと引き換えに黙っていた。不道徳な男性から女性を守る活動をするサントーシュ(ジャミー・リーヴァル)とプシュパー(トゥルプティ・カームカル)は、ハビーを重婚者だと勘違いし、彼の動向を追っていた。
そんな中、モーハンはサーニヤーと再会する。だが、なぜか彼女はスィク教徒の家族の一員になっており、スィムランを名乗っていた。モーハンが調べると、彼女はゴア州で誘拐され事故に遭い、記憶を失ってしまっていた。モーハンはマンジートを名乗り、サーニヤーに接近する。サーニヤーはモーハンのことを覚えていなかったが、時間を過ごす内に彼に恋をし、プロポーズする。
一方、とうとうデコスタ警部にモーハンの正体がばれてしまった。デコスタ警部はルーヒー、ミーラー、ジェニーを一ヵ所に呼び出し、彼女たちが同じ男性と結婚していると暴露する。また、BKとミルザーもモーハンの重婚を察知する。モーハンはサーニヤーと結婚しようとしており、父親や妻たちに追われながらも結婚式場にたどり着いて、結婚式を挙げようとする。だが、そこへBKとミルザーがやって来て結婚式を止める。それを見てサーニヤーは記憶を取り戻す。ハビーがモーハンを弁護し、事情を知ったルーヒー、ミーラー、ジェニーも彼が他の女性とも結婚しているとしても愛し続けると宣言する。モーハンは妻たちに祝福されながらサーニヤーと結婚する。同時に、ハビーもお見合い相手のハルリーンと結婚する。
式場で急に気を失ったモーハンは、病院のベッドで目を覚ます。看病していた母親(スプリヤー・シュクラー)から、実は5人目の妻がいると明かされる。それはギニー・チャトラト(本人)あった。モーハンは逃げ出す。
インドでは重婚は基本的に禁止である。ただし、英領時代から宗教ごとに異なる民法が適用されてきており、イスラーム教徒に適用されたムスリム個人法の規定によって、イスラーム教徒男性は4人まで妻を持つことができる。近年、モーディー政権は信教の種類にかかわらず適用される統一民法(UCC)の制定を進めており、たとえイスラーム教徒であっても一律に重婚を禁止する州も出て来ている。ただし、「Kis Kisko Pyaar Karoon 2」の舞台になっているマディヤ・プラデーシュ州では2025年現在、イスラーム教徒の重婚は禁止されていない。
よく観察すると、主人公モーハンはイスラーム教徒に改宗した後、重婚を開始している。よって、実はモーハンの重婚は4人目までは違法ではない可能性が高い。
3人の女性と重婚し、ばれないようにしばらく生活するという「Kis Kisko Pyaar Karoon 2」のストーリーは非現実的だ。しかも、それぞれ宗教が異なる。インド人ならば登場人物の人名、服装、その他の情報から、信仰する宗教を瞬時に把握するが、ここでは年のために一人一人解説していこう。
まず、主人公モーハンはヒンドゥー教徒である。シャルマー姓であるため、ブラーフマン(バラモン)であることも分かる(参照)。この映画ではカーストはあまり問題になっていなかったが、ブラーフマンの家庭は一般的にもっとも結婚相手の宗教に厳しい。モーハンが2番目に結婚したミーラーもヒンドゥー教徒である。次に、モーハンが結婚しようとしていたサーニヤーはイスラーム教徒であり、その従妹でモーハンの第一の妻になったルーヒーも当然イスラーム教徒だ。そしてモーハンが3番目に結婚したジェニーはキリスト教徒である。後にモーハンはサーニヤーと再会するが、彼女は記憶喪失になり、スィク教徒として生きていた。さらに、ゴア州で出会ったタクシー運転手はジャイナ教徒だと言っていた。インドの主要な宗教が網羅されている。足りないのは仏教徒とゾロアスター教徒くらいだ。
一見するとありえないストーリーなのだが、それを抱腹絶倒の脚本でうまく包み込み、カピル・シャルマーの絶妙なコメディーセンスで補強しながら、ばれそうなギリギリのところでばれないというアクロバティックな展開を観客に信じ込ませることに成功している。コメディー映画としては一級品だ。2025年のヒンディー語コメディー映画のベストに数えてもいいかもしれない。
だが、「Kis Kisko Pyaar Karoon 2」の真価は宗教融和のメッセージにある。宗教的少数派への弾圧が強まっていると警鐘を鳴らされることの多くなった現代のインド社会において、他宗教を排除せず、異宗教間結婚を堂々と肯定し、全ての宗教を自分のものとして受け入れるのが真のインド人であるというリベラルな主張を、偶然の悪戯から起こってしまった多重婚を通して楽しく語りかけている。こういう映画があると、インド映画の良心がまだ残っていると感じられ、ホッとする。
「Kis Kisko Pyaar Karoon 2」は、前作から多重婚コメディーのコンセプトを引き継ぎ、さらにパワーアップさせて帰ってきたコメディー映画である。インドでもっとも人気のコメディアン、カピル・シャルマーが主演しているのもポイントが高い。個人的には大笑いして楽しめたのだが、興行的には失敗している。確かにまとめ方に一工夫足りなかったし、結婚目的の改宗や異宗教間結婚を推奨するような内容には、素直に受け止められない人が多かったのではなかろうか。だが、映画に込められた宗教融和のメッセージは現在のインド社会にとって清涼剤のようだ。この映画を評価したい。
